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肺がん

がんの解説

がんの症状から治療法までを、県内病院で診察中の医師が解説します。

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1 肺がんとは

 肺がんとは肺に発生する悪性腫瘍で、とくに気管、気管支、肺胞のなどの上皮細胞由来の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えた細胞や、その集合体のことをいいます。肺がんの中で特に肺からできたものを「原発性肺がん」といい、他臓器から悪性腫瘍が転移してきてできる「転移性肺腫瘍」とは分けて考えます。ここでは原発性肺がんに関する説明をします。

 がんは正常な肺に遺伝子の変異が起こり異常な遺伝子をもった細胞が増殖するものですから、「遺伝子の病気」とも言われています。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら(浸潤といいます)、他の臓器に拡がり(転移といいます)、早期がんから進行がんへとなります。

 最近、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでおり、肺がんの原因遺伝子の解明が進んでいますが、その全貌は明らかとなっていません。

2 肺がんの統計

 日本では2009年の統計で、男性、女性ともにでは全がん死の中で最も多く、男女合計でも肺がんは第1位となっています。罹患率については、男性では胃がん、大腸がんについで第3位で、女性は乳癌、大腸癌、胃癌についで第4位となっています。罹患数と死亡数に大きな差はなく、これは、肺がん罹患者の生存率が低いことと関連しています。

3 肺がんの原因

 肺がんの原因の中でもっとも影響が強いものはタバコです。日本では男性の肺がんの約7割、女性の肺がんの約2割は本人の喫煙が原因と推測されています。肺がんの組織型別では、喫煙による影響が非常に強い種類とそうでない種類がありますが、どの種類でも肺がんの発癌に影響が関与していると考えられています。

 タバコは肺がんの原因になるのみではなく、その煙が口腔~のど~肺とその通り道の臓器に傷害を及ぼし、また消化管やその排泄経路となる血液・肝臓・腎臓・尿路などの臓器にも影響がでているといわれています。タバコは喫煙者自身の臓器だけではなく、一緒に生活している人の発癌の原因ともなり(副流煙)、受動喫煙者は受動喫煙がない者に対し、20~30%程度高くなると推計されています。また、タバコのほかに喫煙以外に肺がんと関連する原因としては、大気汚染やアスベスト、石綿、クロムなどの物質、放射線などがあります。
 遺伝的要因や呼吸器疾患の既往なども肺がんの発生の危険性があると考えられていますが、それらの影響は喫煙によるものよりずっと少なく、これらに関する研究の結果はまだ十分に明らかとなっていません。

4 肺がんの種類と特徴

 肺がんは、その腫瘍学的な特徴や治療方法の違いから「小細胞がん」と肺がんで小細胞肺がんを除いた他の種類を含む「非小細胞がん」の2つの型に大きく分類されて、扱われます。
 非小細胞肺がんには、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型(種類)が含まれます。これらは顕微鏡でみたときのがん細胞の形やどういった性質をもっているかを調べて分類したものです。腺がんは、我が国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めています。扁平上皮がんは次に多く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの15%を占めており、喫煙の関与が強いとされています。そういったことから気管支が肺に入った近くに発生する肺門型と呼ばれるがんの頻度が、腺がんに比べて高くなります。大細胞がんは、一般に増殖が速いものが多く、全体の約10%程度とされます。
 小細胞がんは肺がんの約15%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすい悪性度の高いがんです。しかし、非小細胞肺がんと異なり、抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすいタイプのがんです。

5 症状

 肺がんの初期には症状は乏しいことがほとんどです。このため、外科切除の適応となる早期の肺がんは検診や他の病期を医療機関で観察している最中に発見されることが多いです。特に腺がんに多い肺野型の肺がんは、がんが小さいうちは症状が出にくい傾向があります。がんが浸潤して胸の壁を壊すようになると(胸壁浸潤)、胸痛がでてくるようになります。また、がんが転移すると、その転移先に応じて症状が出ます。たとえば、脳転移により頭痛やめまい・ふらつきや麻痺などの症状がおこることがあり、骨転移による痛みが初発の症状となることもあります。その他にがんが近くの神経に浸潤することで声が枯れたり(嗄声:させい)、腕や肩の運動麻痺や知覚異常があらわれることがあります(腕神経叢麻痺)。頚部の交感神経に障害が加わるとホルネル徴候(縮瞳や眼瞼下垂、発汗低下など)が現れます。

 また、他のがんと同様に肺がんでも、易疲労感、食欲不振、体重減少があらわれることがあります。そのほかに難治性の咳や息切れ、血痰、声のかれ、顔や首のむくみなどが出ることもあります。特に扁平上皮がんや小細胞がんなど肺の中心部にできやすい種類の肺がんでは、早期から咳、痰、血痰などの症状が出現しやすいといわれています。

 以上のように肺がんの症状は、特徴的とはいえない、風邪などの症状と区別がつかないことも多いので、上記の症状が持続する場合などには医療機関の受診をお勧めします。また、近年では、とくに喫煙歴の長い方などではレントゲンよりもCTで検診を行った方が、肺がんの検出に優れているというデータもでています。

6 診断

 咳、痰などの症状がある場合、最初に胸のレントゲン検査をします。レントゲン検査のみでは小さな病変などの性状がはっきりしないことが多いですから、次に胸部のCTスキャンを行い、病変部分やリンパ節の腫脹の程度を確認します。CTスキャンでは、細かいがんの性状をみることができます。さらに他の画像検査(PET検査など)も組み合わせることで病変ががんかどうかを予測することができますが、確定診断は実際の病変部分の組織や細胞を顕微鏡でみて調べることになります。喀痰検査をして、そこにがん細胞がでている場合はそれで確定診断となりますが、痰が出ない場合や、痰の中にがん細胞が検出されない場合には、気管支鏡検査やCTガイド下肺針生検、リンパ節生検などの方法で診断をつけることとなります(各検査については別途記載をご参照ください)。

 これらの方法を用いても診断が困難な場合や画像上肺がんが疑われるものの病変が小さく前述の方法による診断が困難である場合に外科的に組織を採取します。外科的な方法には、胸腔鏡検査、胸を開く方法(開胸)があります。これらは全身麻酔による検査となるため侵襲が大きく体に負担をかけることとなりますが、診断精度は最も高く、さらに手術適応となる癌であった場合にはそのまま根治的な(=治療を兼ねる)切除をできることとなります。胸腔鏡による手術となるか開胸による手術となるかは、がんの進行状況や各施設でのやり方の違いになります。

7 各治療法について

 がんの組織型、病期 (ステージ)などの腫瘍因子と、今までかかった病気や現在の心臓、肺、腎臓や肝臓などの患者本人の臓器の状態、一般的な健康状態 (PS)に基づいて治療の方法を選択します。肺がんの治療法の3本柱は外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法です。

7-1) 外科治療

 肺がんが早期である場合に最も根治性の高い治療として外科治療のエビデンス(証拠)が確立しています。標準の手術方法としては、肺葉切除(右:上葉、中葉、下葉、左:上葉、下葉のうちの病変部の葉を切除すること)とリンパ節の摘出(リンパ節郭清といいます)を行います。がんの進行度合に応じて、二つ以上の葉を取る場合や、片側の肺をすべて切除する場合があります。また、患者さんが高齢の場合や肺葉切除に耐えられない場合、肺葉切除をするほどは大きくとる必要のない非常に早期のがんの場合、部分切除や区域切除といった縮小手術が行われることがあります。

 以前の肺癌の手術は、開胸手術と言って、15-30センチメートル皮膚を切開して、肋骨を切って行う方法が主流でしたが、現在では、肋骨を切らずに3センチメートル程度の皮膚の傷と5ミリメートルから1センチメートル程度の穴を数カ所で行う胸腔鏡手術が普及し、患者さんの体の負担はだいぶ軽減されてきています。しかし、胸腔鏡手術の適応は、病気の進み具合や、施設により違いがありますので、手術の方法については主治医に御確認ください。

7-2) 放射線治療

 X線やほかの高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺すものです。適応となるのは、非小細胞がんの場合は手術できない(手術にからだが耐えられない場合などの)1期から3A期、胸水を認めない3B期、小細胞がんの場合は限局型が対象となります。ただし間質性肺炎などがある場合には、肺炎が悪化してしまうことがあり、照射が難しいこともあります。主な副作用として、放射線をあてたことによる各臓器のやけどで、放射線治療中及び治療の終わりころから症状が強くなる肺臓炎、食道炎、皮膚炎などがあります。

7-3) 化学療法 (抗がん剤)

 化学療法は抗がん剤を注射、点滴、内服による投与を行い、がん細胞を殺すことを目的とした治療法です。外科療法や放射線療法は病変部に対する局所治療であるのに対し、化学療法は 全身治療となります。このため、静脈内または内服によって投与された抗がん剤が、血液の中に入り、全身を循環することで、肺だけでなく、肺の外に拡がったがん細胞にも効果が期待されます。外科治療に化学療法を追加するのは、このように全身にちらばった可能性のあるまだ小さながん細胞に効果を示すことで、治癒の可能性を高めるというものです。ただし、現状の化学療法のみでは、がんを治すことは不可能です。治療成績向上を目指して、新規抗がん剤の開発や、化学療法に関する多くの臨床試験が進められています。
 

 抗がん剤の副作用は、使用する抗がん剤の種類ごとに異なり、またその発症頻度や程度にも個人差があります。自覚的な副作用には、吐き気・嘔吐、食欲不振、口内炎、下痢、便秘、全身倦怠感、末梢神経障害(手足のしびれ)、脱毛などがあります。他覚的な副作用には、白血球減少、貧血、血小板減少、肝機能障害、腎機能障害、心機能障害、肺障害などがあります。その他、予期せぬ重篤な副作用があらわれ、まれに命にかかわることもあります。

 また、肺がんの分子生物学的な研究が進み、がんの増殖には上皮増殖因子受容体(EGFR)や血管上皮成長因子(VEGF)などの関与が明らかになっており、これらの特定の分子を標的とする分子標的治療薬の効果が明らかなものとなっています。分子標的薬は従来の抗がん剤と違いがん細胞への特異性が高く、血液毒性が低いことが特徴です。分子標的薬であるゲフィチニブ(イレッサ(R))やエルロチニブ(タルセバ(R))はEGFRに作用します。EGFR遺伝子に変異がある方(特に非喫煙者で女性の腺癌患者が多い)で、その効果が強いことが示されています。他には、VEGFRに作用するベバシズマブ(アバスチン(R))は従来の抗がん剤に組み合わせて使うことで腺癌の進行例の増殖を抑える効果を高める効果があり、併用されるようになっています。
 

8 病期分類(各病期の治療について)

 細胞・組織学的、または画像上で、肺がんと診断されると、がんの局所の拡がりと全身への拡がりをみるため、さらに詳しい検査を行うことになります。

 全身のがんの拡がりとしては、肺がんの転移先で頻度の高い臓器である脳、肝臓、副腎、骨、肺の他の部分を含めて全身を確認することになります。脳について頭部MRIもしくは頭部CTスキャン検査を行います。腹部臓器については腹部のCTあるいは超音波検査を行います。骨については骨シンチグラフィを行います。肺については通常病変部のCT検査を行うと、両側の肺全体の検査を行うことができます。頭部以外の臓器についてはポジトロンCT(PET:ペット)と呼ばれる放射性同位元素を用いた検査で、がんの診断及び病気の拡がりの診断をまとめてできるため診断や転移の検出に用いられることが多くなってきました。

 肺がんの病期についても非小細胞肺がん、小細胞肺がんにわけて用いられることとなります。各種類についての病期とそれに対応する治療は別途を参照してください。

1)非小細胞肺がん

 がん病巣の拡がりぐあいを腫瘍の大きさや浸潤の度合い、リンパ節転移や遠隔臓器への転移の有無(TNM分類)で病気の進行を(0、) I、II、III、IV期に分類します。I,II期とIIIA期の一部が手術適応となります。

 非小細胞がんが再発、転移した場合は、再発した部位や、それによる症状、初回に行った治療法などを考慮して治療法を選択します。外科治療後に再度手術を行い病変の摘出を行うこともありますし、追加治療として化学療法を行うこともあります。また、骨転移や脳転移に伴う症状緩和には、骨や脳への放射線療法が行われます。患者さん毎に治療を選択していくこととなります。

2)小細胞肺がん

 小細胞肺がんでは、限局型、進展型に大別する方法が主に使われています。小細胞肺がんは、基本的に発育が早いため、ほとんど発見時には進行性である場合が多いため、治療の中心は化学療法で、放射線療法を加えるかどうかを病気の進行度に応じて考慮していくこととなります。小細胞肺がんに対する外科治療の適応はI期のみとなるため、非常に限られた場合のみとなります。

執筆者紹介

大瀧容一(おおたきよういち)

平成18年群馬大学卒業。
平成20年国立がん研究センター東病院外科レジデント。
平成23年より群馬大学医学部附属病院臓器病態外科学 (呼吸器外科) 医員。
平成26年より群馬大学教育研究支援センター助教。
日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医

画像:大瀧先生
大瀧先生

清水公裕(しみずきみひろ)

平成5年群馬大学卒業。
国立がん研究センター・リサーチレジデント、国立がん研究センター東病院・がん専門修練医を経て、平成21年より群馬大学医学部附属病院臓器病態外科学 (呼吸器外科) 講師。
医学博士、研究テーマ「肺癌・縦隔腫瘍に対する胸腔鏡手術、肺癌に対する積極的区域・亜区域切除、遺伝子変異に基づいた肺癌のテーラーメイド治療」
日本外科学会指導医・専門医、日本呼吸器外科学会専門医、日本呼吸器外科学会評議員、日本呼吸器外科学会手術教育部会部員・国際委員会委員、日本臨床腫瘍学会暫定教育医、日本がん治療認定機構暫定教育医・がん治療認定医、肺がんCT検診認定医、臨床研修指導医、群馬県肺がん研究会幹事、群馬内視鏡外科幹事

(更新日:平成26年1月14日)

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