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水試だより45号

更新日:2013年5月1日 印刷ページ表示

【緒言】川場養魚センターから~ぐんまの宝ギンヒカリ~

水産試験場 川場養魚センター長 松岡栄一

松岡センター長 写真

昨年度から3度目の川場養魚センター勤務となりましたので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、この川場養魚センターの歴史は長く、昭和8年10月に設立されて以来約80年の長きにわたり養鱒業界などへの種卵・種苗供給および普及・指導を業務として、本県の水産業にとって極めて重要な役割を担ってきました。試験研究においては、バイオテクノロジー技術開発や渓流域生息魚類(イワナ等)の遺伝的特性の解明、さらに、ギンヒカリの開発に係わる優良種苗の育種などの成果を挙げてきました。平成23年4月の箱島養鱒センターとの統合により人員や予算、機器等を集約し効率化を図っており、冷水性魚類の研究拠点として川場養魚センターの役割は益々高まってきています。これからも県民の皆様にとって有益な成果を挙げていきたいと考えています。

先ず、川場養魚センターで挙げた成果の中で、私が係わってきたブランド魚「ギンヒカリ」についてPRさせていただきます。今や他県においてもバイオテクノロジー技術を利用したマス類のブランド魚がいますが、ギンヒカリは川場養魚センターで選抜育種を繰り返し、10年以上の長い期間をかけて固定化したものです。

ギンヒカリは大型になっても身のしまった良好な肉質を維持しているので、刺身を中心に様々な料理の食材として利用されています。肉質はきめ細かく、舌触りがなめらかで透明感のある上品な味わいを感じることができます。また、動脈硬化の予防に効果があるとされているEPAやDHAの含有率も高く、とてもヘルシーで美味な食材です。

ギンヒカリの生産量は、現在、およそ25トンで、群馬県内の旅館や飲食店などで味わうことができます。より多くの皆様にギンヒカリをご賞味いただき、経済振興の面からも群馬県の宝となって欲しいと考えています。

その他、川場養魚センターの試験研究についていくつか紹介いたします。まず、遊漁者、管理釣り場、養鱒業者から要望がある遊漁を対象とした「引きが強くて姿形の美しい魚」の作出試験を行っています。これにより本県にしかいない新たな系統が固定できれば、ギンヒカリに続く第2の地域ブランド魚の誕生が期待できます。

さらに、遊漁者から人気の高いイワナの放流種苗を育成する技術の開発を試みています。これにより放流効果の高いイワナ種苗が放流されるようになり、イワナ資源の増大から遊漁産業の発展が期待され、また、河川放流後のイワナの再生産にも寄与するものと考えています。これらの取り組みが水産業界のみならず地元観光の振興から地域の発展に繋がっていくものと考え、センター職員一丸となりさらなる成果を上げていく所存です。

【特集】放射性セシウムが群馬県に生息する魚類に与えた影響

 平成23年3月の福島第一原発事故に伴い大量の放射性セシウムが環境中に放出され、群馬県北部の山間地で高濃度に蓄積したことが判明しました。群馬県では食の安全確保のため原発事故直後から、水産物の放射性物質濃度検査を行っています。水産物では養殖魚と天然魚(採捕魚)の検査を行い、一部の天然魚から放射性セシウムの基準値(100 Bq/kg)を超える検体が確認されています。そこで、河川湖沼に生息する天然魚で放射性セシウム汚染が発生し、長期化している要因について、これまでの検査結果と魚類の生理・生態を踏まえて解説します。
 放射性セシウム検査は、ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーにより実施しました。平成23年4月から平成24年12月までの検査結果では天然魚から放射性セシウムの基準値を超える検体が確認され、検出率は約20%でした。このように県内の天然魚で放射性セシウム汚染が確認されましたが、この要因には淡水魚の浸透圧調節機能が関与していると考えられます。
 魚類の体液の浸透圧は海水の約1/3に保たれています。海水魚の場合、海水の浸透圧が体液の約3倍であるので、水分が体表面から流出し、塩類が体内に流入します。そのため、海水魚は多量の海水を飲み、腸から塩類と共に水を吸収し、過剰となった塩類を鰓から能動的に排出します。一方、淡水魚の場合、海水魚とは逆に浸透圧差によって水が体表面から流入し、塩類が体外に流出します。そのため、淡水魚は塩類の不足を補うために鰓から塩類を能動的に取り入れ、腎臓で低張な多量の尿をつくり、過剰となった水分を排出します。つまり、淡水魚は体液の浸透圧調節のために能動的に塩類を取り込み、かつ排出しない仕組みとなっています。セシウムは1価の陽イオンであり、塩類のカリウムと同じアルカリ金属に分類され、化学的にも性状が似ていることからカリウムの代わりに魚体内に吸収されることが分かっています。このようなことから、淡水魚は海水魚と比較して放射性セシウムを能動的に体内に吸収し、長期間保持すると考えられます(図)。

魚類の浸透圧調整機能の画像
魚類の浸透圧調整機能

次に赤城大沼に生息する魚類で放射性セシウム汚染が長期化していますが、その要因には湖水の滞留時間が関与していると考えられます。赤城大沼の湖水量と年間流出量から水収支を計算すると、湖水の平均滞留時間は813日間となります。一方、赤城大沼周辺土壌と同程度の放射性セシウム汚染が確認されている県北東地域の梅田湖における湖水の平均滞留時間は90日間になります。平成23年9月から12月までの赤城大沼と梅田湖におけるワカサギの放射性セシウム濃度を比較すると、赤城大沼では緩やかに減少しましたが、梅田湖では急激に減少しました。集水域が広く湖水の滞留時間の短いダム湖に対して、赤城大沼は集水域が狭く滞留時間が非常に長い閉鎖性の強い天然湖です。そのため、赤城大沼では放射性セシウムが長期間湖内に留まり、このことが魚類に放射性セシウム汚染をもたらしている一端であると考えられます。チェルノブイリ原発事故後、河川や開放湖と比較して閉鎖性の強い湖沼では淡水魚の長期的な放射性セシウム汚染が確認されていることからも、湖水の交換率が放射性セシウムの魚類への蓄積に関与している可能性が高いと考えられます。

福島第一原発事故に起因する放射性セシウムに関連する調査・研究は全国を始め国際的にも注目され、県民・国民からの要望も強く、社会的意義・使命の大きいものであり、継続的な調査によって経過を把握する必要があります。

(水産環境係 鈴木究真)

【水産行政から】温水性魚類を中心とした人工産卵床のつくり方

内水面の漁業協同組合には、漁業法に基づいて漁業権が免許され、排他独占的に漁業を営む権利が与えられると同時に、魚を増やす義務(増殖義務)が課されています。増殖義務の履行には、「種苗放流」、「人工産卵床の造成」、「堰堤やダムなどにより移動が妨げられている滞留魚の汲み上げ放流や汲み下ろし放流」の3つの方法があります。

 このうち、多くの漁協で増殖義務を履行するために行われている方法は「種苗放流」ですが、今回は群馬県内のほとんどの漁協で漁業権対象魚種になっているコイ・フナ、ウグイを中心に人工産卵床のつくり方を説明します。増殖義務を履行したいが種苗が手に入りにくい場合などには、「人工産卵床の造成」による増殖方法を検討してください。

人工産卵床の主な長所と短所

主な長所

  • 放流用種苗経費が不要である。
  • 魚類防疫上、放流による増殖が適さない漁場で有効である。
  • 自然産卵が行われる可能性の低い漁場で有効である。

主な短所

  • 人工産卵床に魚が産卵しない可能性がある。
  • 自然産卵が行われる可能性の高い漁場では、人工産卵床が有効でないばかりか、造成作業により自然産卵が行われた産卵床を破壊する可能性がある。

コイ・フナ、ウグイの人工産卵床のつくり方および留意点

コイ・フナ(図1、2)

  • コイ・フナが産卵する植物などの浮遊物を真似た人工産卵床を作成する。
  • 岸辺近くの流れの緩い水面に人工産卵床を設置する。
  • 産卵後は、人工産卵床を網で覆うなどして他の魚による食害を防止する。

図1、図2(図1:コイ・フナの人工産卵床詳細図、図2:コイフナの人工産卵床設置例)の画像
図1 コイ・フナの人工産卵床詳細図 図2 コイフナの人工産卵床設置例

ウグイ(図3、4)

  • 川底を少し掘り下げ、径が約25cm程~のきれいな礫を「浮き石状態」に敷く。
  • 早瀬が淵に落ち込む「淵頭」の斜面に人工産卵床を造成する。

図3・図4(図3:ウグイの人工産卵床詳細図、図4:ウグイの人工産卵床造成場所)の画像
図3 ウグイの人工産卵床詳細図 図4ウグイの人工産卵床造成場所

人工産卵床のつくる際の注意点

人工産卵床を設置する際に、川や湖の管理者の許可が必要な場合があるので注意してください。人工産卵床の設置について不明な点があれば水産試験場(もしくは蚕糸園芸課水産係)に相談してください。なお、人工産卵床のマニュアルが水産庁のホームページ<外部リンク>に掲載されていますので参照してください。(蚕糸園芸課水産係 松原利光)

【試験研究から】ビン型ふ化器を用いたワカサギ卵のふ化管理

はじめに

ワカサギのふ化管理はビン型ふ化器の開発により、卵管理労力の軽減と増殖効率の上昇が期待できます。群馬県内の導入実績はまだ少ないですが、ビン型ふ化器とシュロ枠による卵管理について比較してみました。

材料および方法

試験1

ワカサギ卵は網走湖産を用い、粘着除去(20%「との粉」溶液を用いてエアレーションにより15分間攪拌)の後、ビン型ふ化器((株)マツイ製、写真)2筒に600万粒と400万粒を収容しました。

写真ビン型ふ化器の画像
写真 ビン型ふ化器

飼育水は井戸水を使用し、注水量はどちらも発眼前が毎分4.8リットル、発眼後が毎分4.5リットルに設定し、ふ化管理中の水温は15.8~16.9度でした。発眼までは毎日、パイセスを用いて卵消毒しました。

 発眼率はグラニュー糖溶液により死卵を除去した(以下「ショ糖分離」)後、発眼卵数と死卵数を計数して求めました。ふ化率は、発眼卵を2リットル容ビーカーに入れ、十分にエアレーションをしながら、恒温槽で管理したものを用いて求めました。ふ化管理中の水温は16.0~16.3度でした。

 また、ワカサギ卵をシュロ枠に付着させた後、5cm四方に4枚切り取り、それぞれ2リットル容ビーカーに入れ、十分にエアレーションをしながら、恒温槽でふ化管理し発眼率とふ化率を求めました。飼育水は井戸水、ふ化管理中の水温は16.0~16.3度で、卵消毒はしませんでした。

試験2

ショ糖分離によるワカサギ卵への影響を調べるため、ショ糖分離した発眼卵(以下「処理卵」)と、しない発眼卵(以下「無処理卵」)のふ化率を調べました。それぞれの発眼卵を恒温槽に設置した2リットル容ビーカーに入れ、エアレーションで卵を十分攪拌しました。ふ化管理中の水温は16.0~16.3度でした。

結果および考察

試験1

ビン型ふ化器の発眼率は600万粒区で40.8%、400万粒区で38.9%、ふ化率は600万粒区で91.0%、400万粒区で83.6%でした。シュロ枠の発眼率は37.4 %、ふ化率は14.6%であり、ビン型ふ化器に600万粒収容したものが、好成績となりました(表1)。

表1 収容方法による発眼率とふ化率
試験区 発眼率(%) ふ化率(%)

ビン型ふ化器

600万粒区 40.8% 91.0%
400万粒区 38.9% 83.6%
シュロ枠 37.4% 14.6%

試験2

ふ化率は処理卵で89.1%、無処理卵で91.8%であり(表2)、ショ糖分離は卵に多少のダメージを与え、ふ化率を低下させると考えられました。

表2 ショ糖分離処理の有無によるふ化率
試験区 ふ化率(%)
処理卵 89.1%
無処理卵 91.8%

まとめ

ビン型ふ化器は卵収容の労力を軽減でき、ふ化成績も良好であることから、積極的に導入して、ワカサギ資源の安定化をさらに目指してはいかがでしょうか。
(生産技術係 小林保博)

平成25年度職員の配置

  • 場長 佐藤敦彦
  • 次長(総務係長) 高山佳一
  • 主席研究員 久下敏宏
  • 総務係 係長 高山佳一(次長兼務)、杉山晃嗣、青柳久仁子、町田紀子
  • 水産環境係 係長 田中英樹、泉庄太郎、鈴木究真、小野関由美
  • 生産技術係 係長 小林保博、星野勝弘、垣田誉志史、狩野淳、鈴木紘子
  • 川場養魚センター センター長 松岡栄一、新井肇、神澤裕平、清水延浩

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