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リポーター番号19 八田信江さん(伊勢崎市)のページ15
◇ のこぎり屋根のアトリエから[1] 建築家・北川紘一郎さんの場合(10月18日 桐生市)
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北側の屋根に切られた天窓から、柔らかな光が注がれる。その白い日差しを全身に浴びて、丸尾さんの刻んだ少年像は旅立とうとするかのようだった。窓はなく、照明もない、空からの自然光だけで明かるむ空間で、難波さんの版画は草原の輝きを冴え冴えと見せ、児島さんが繊細な筆致で描いた女性像は、動かない空気の中に凛(りん)として佇(たたず)んでいる。
芸術の秋。桐生市本町の「無鄰館」で、ここにアトリエをもつアーティストたちの作品展が開かれた。題して「ムリンナーレ2005」。命名者は館長の北川紘一郎さん(65歳)だ。「思いつきで、ヴェネチアで開催されるビエンナーレをもじったまで」と言うが、作家たちの創作に賭ける熱い思いを表現したかったに違いない。
無鄰館では画家、彫刻家、版画家、建築家、服飾デザイナー、ハーブ研究家などが芸術家集団をつくり、感性の交流を図りながらそれぞれの道に精励している。北川さんが「デザイナーズファクトリー」と称するように、建物はかつて織物の工場だった。江戸時代末期の天保年間に、北川織物として創業し、昭和19年まで稼動していた。スイスの機械を導入し、ドイツ人の技師を招いて、絹織物を量産。シルクレースなど高級織物もこの工場で生産されたという。現在の建物は大正時代に造り替えたもの。3連ののこぎり屋根工場で、織物の色目がよく見えるよう、高い天井の採光窓からは、北側の安定した光が一日中柔らかく差し込む設計だ。
日本有数の繊維産地・桐生では、大正から昭和にかけてこうした織物工場が盛んに建てられた。北川さんによれば、現在でも約240棟ののこぎり屋根があり、数のうえでも一棟一棟の意匠性の面でも、全国に誇れるもの。これらの近代化遺産、桐生の産業遺産を、「街づくりのデザイン要素として活用していきたい」と、北川さんは「のこぎり屋根連絡協議会」の立ち上げに力を尽くしてきた。繊細で緻密な絹織物を生産するために、採光に工夫を凝らしたのこぎり屋根の建物は、アートの創作の場としても評価されているからだ。「桐生はものづくりの街。常にオリジナリティーに富んだデザイン性が求められている。全国から、世界から、アーティストやクリエーターが集まって来る街になれば」と、創作家の集積による街づくりを構想する北川さん。のこぎり屋根の建造物群とこの地に累積するものづくりの精神を牽引力に、「ユネスコの世界遺産登録や研修型文化観光都市への夢を実現したい」と、胸の内に燃えるプランは壮大だ。
工学部機械科出身の北川さんは、都市計画への思い昂(こう)じて30歳で大学に再入学し、建築科に学んだ情熱家。設計事務所勤務を経て北川設計を設立し、自らもここに都市風景研究所・一級建築士事務所の看板を掲げた。桐生特有の産業風景を大事にし、古い街並みに調和しながら未来を見据えた「現代版のこぎり屋根」の建築物も出現させている。
そんな一徹の人の磁力にひかれて、機織の音を記憶するのこぎり屋根の建物には、志を紡ぐ場を求めて、次々にアーティストたちが集まって来ることになる。
【写真(上から)】
3連ののこぎり屋根工場「旧北川織物」のたたずまい
現在はデザイナーズファクトリー「無鄰館」になっている
北側から差し込む明かりがやさしい空間
無鄰館の館長を務める北川紘一郎さん
自らも建築家として「現代版のこぎり屋根」の建物を設計
八田信江さんのこれまでのリポート
◇ 夢の卵と向き合う建築家たち/女子中学生の職場体験から(2005年8月26日 伊勢崎市)
◇ 七夕茶会「梶の葉に想いをこめて」(2005年7月16日 伊勢崎市)
◇ 「世界遺産ミーティング・イン・伊勢崎」に参加して(2005年7月6日 伊勢崎市)
◇ 「女の自立 男の自立」落合恵子さんの講演より(2005年6月26日 伊勢崎市)
◇ 座して見る花菖蒲も風流/旧秋元別邸で「花菖蒲お座敷鑑賞会」(2005年6月21日 館林市)
◇ 古楽器「クラヴィコード」の音色、ご存知ですか?(2005年5月28日 太田市)
◇ 豪農屋敷で「能に親しむつどい」(2005年5月15日 伊勢崎市)
◇ 心を澄ませて香りを聞く/相川考古館で香遊び(2005年5月5日 伊勢崎市)
◇ 春の花レポート伊勢崎編(2005年4月27日 伊勢崎市)
◇ 明治の洋館、市民の集いの場に(2005年4月23日 伊勢崎市)
◇ 上州の地酒が勢ぞろい、「群馬のお酒フェスタ」(2005年4月22日 伊勢崎市)
◇ 伝統文化、次の世代へ/伊勢崎茶道会が大茶会(2005年4月3日 伊勢崎市)
◇ 揺れる明かりのなかで、夜の茶会(2005年3月26日 桐生市)
◇ 骨董市は現代人のオアシス(2004年6月5日 桐生市)