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リポーター番号19 八田信江さん(伊勢崎市)のページ16
◇ のこぎり屋根のアトリエから[2] 彫刻家・丸尾康弘さんの場合(10月18日 桐生市)
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「上からの光は、立体作品が美しく見えるのです」と、丸尾さんはのこぎり屋根の工場を仕切ったスペースに、「旅・child」と題した作品を展示して、建物の魅力を語った。
日本の近代化を牽引した織物工場は、今は床と壁だけのガランとした空間なのに、密度の濃い空気に満たされていた。「ここにはものづくりへの思いが集積されている。時間が作り出した力が感じられるのです」。4年前、初めてこの建物を訪れて、丸尾さんは迷うことなく心を決めた。桐生ののこぎり屋根で制作したいと。しかもアトリエだけでなく、生活の場も「無鄰館」の敷地内に移し、家族そろって引越してきたのだった。
彫刻家丸尾康弘さん(49歳)は、熊本県の出身。東京造形大学彫刻科に学び、卒業後もそのまま都会に暮らした。が、東京は情報が多すぎると、理想の創作の地を求めて、群馬県榛名町に移り住んだのは30歳のとき。古い農家を借りて、山の姿を間近に眺め、畑を耕しながら制作に励んだ。朝に夕に表情を変える自然景観、土の恵みを実感できる暮し。そして、世の中の動きが静かなのも気に入っていた。「彫刻は文字どおり、こつこつとした作業の積み重ねです」。辛抱との根気比べを支えてくれる環境は、大切であった。
榛名に移って、丸尾さんの素材は石や金属から木材に変わった。作品もオブジェ主体の現代アートから、人物像へ。なで肩でモジリアーニの絵のような面差し、草木染めみたいな色合いに彩色する作風は、少年時代から絵描きになりたいと思い、モジリアーニに惹(ひ)かれるあまり受験の絵が描けなくなったという丸尾さんの、ひとつの到達点であったのかもしれない。2000年、上毛芸術奨励賞を受賞した。
こうして15年が流れていったある日、陶芸展の会場で北川紘一郎さんと出会う。北川さんはのこぎり屋根を熱っぽく語り、無鄰館の構想を話したという。その情熱は、榛名が気に入っていた丸尾さんを心変わりさせた。なんだか、アルルの黄色い家に芸術家たちのコロニーを夢見て、ゴーギャンをひたすら待ち焦がれたゴッホの話が思い浮かぶ。
丸尾さんのアトリエは森の匂いがする。「楠(くす)の木の香りです。欅(けやき)、桜、栗、いろいろ試したけれど、この匂いがいいんですよね」。吹き抜けの高い天井から北の光が差し込む工房で、「旅・child」は楠の木から生まれた。旅に出るこどもの姿を彫ったもので、宙を遊泳しているようにも見える。丸尾さんのこれまでの人物像は、ほとんどが坐像だった。それらの、透き通るような静けさをたたえた作品とは、少し趣が違っている。「桐生は自由の気風に満ちた街。ここに来て、自分を解放したいという思いが強くなりました」と語る丸尾さん。頭部が写実的なのに体躯(く)が抽象的なのは、未来が未知数であることの表現なのだという。なるほど、見ているとぽっかりと期待感がふくらんでくる。楠の木がムーブメントを起こす不思議。「旅・child」の少年は、きっと、作家自身の心を抱いているのだろう。
【写真(上から)】
のこぎり屋根の一画をアトリエにする丸尾さん
ここに移って少し作風が変化したと語る
のこぎり屋根の上からの光が立体を美しく見せる
楠の木を素材にしている丸尾さんの作品
八田信江さんのこれまでのリポート
◇ のこぎり屋根のアトリエから[1] 建築家・北川紘一郎さんの場合((2005年10月18日 桐生市)
◇ 夢の卵と向き合う建築家たち/女子中学生の職場体験から(2005年8月26日 伊勢崎市)
◇ 七夕茶会「梶の葉に想いをこめて」(2005年7月16日 伊勢崎市)
◇ 「世界遺産ミーティング・イン・伊勢崎」に参加して(2005年7月6日 伊勢崎市)
◇ 「女の自立 男の自立」落合恵子さんの講演より(2005年6月26日 伊勢崎市)
◇ 座して見る花菖蒲も風流/旧秋元別邸で「花菖蒲お座敷鑑賞会」(2005年6月21日 館林市)
◇ 古楽器「クラヴィコード」の音色、ご存知ですか?(2005年5月28日 太田市)
◇ 豪農屋敷で「能に親しむつどい」(2005年5月15日 伊勢崎市)
◇ 心を澄ませて香りを聞く/相川考古館で香遊び(2005年5月5日 伊勢崎市)
◇ 春の花レポート伊勢崎編(2005年4月27日 伊勢崎市)
◇ 明治の洋館、市民の集いの場に(2005年4月23日 伊勢崎市)
◇ 上州の地酒が勢ぞろい、「群馬のお酒フェスタ」(2005年4月22日 伊勢崎市)
◇ 伝統文化、次の世代へ/伊勢崎茶道会が大茶会(2005年4月3日 伊勢崎市)
◇ 揺れる明かりのなかで、夜の茶会(2005年3月26日 桐生市)
◇ 骨董市は現代人のオアシス(2004年6月5日 桐生市)