群馬県民リポーターのページ
リポーター番号19 八田信江さん(伊勢崎市)のページ17
◇ のこぎり屋根のアトリエから[3] 版画家・難波多輝子さんの場合(10月18日 桐生市)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
「桐生は京都に似ているんです。地形も空気も」と、京都生まれの難波さんは語った。西の西陣、東の桐生と、織物の産地として並び称されたふたつの街は、流れる時間も似通っているらしい。
無鄰館がある本町1丁目と2丁目界隈は、とりわけ古くからの歴史が生き残っている。桐生天満宮を起点にした400年以上も昔の都市設計が、そのまま残された区割り。織物生産・流通の拠点として、隆盛したことを物語る商家の家並み。奥行きの深い路地に続く漆喰白壁の蔵や、小さな祠のある風景。「古いものに守られているという感じがするのです」。それは難波さんにとって、生まれ育った土地の懐かしさに通じた。
版画家難波多輝子さんのアトリエは、無鄰館が織物工場だったころ、糸の蒸し場として使われたところ。天窓からの明かりに加えて北側に大きな窓があり、白い光があふれている。窓の外はハーブガーデン。ローズマリーやラベンダーがうっそうと茂り、イギリス積みの煉瓦壁には緑色の蔦が這っている。まるで英国コッツウォルズ地方の農家の庭のようだ。「晴れの日だけでなく、雨の日も星のない夜も素敵です」。雨が降るとハーブの匂いがいちだんと強くなる。漆黒の闇で植物が香るのも肌で感じられるという。難波さんの木版画が、すがすがしく温かい色合いなのは、作家が幸せな気分で制作しているからなのだろう。「それに古い建物は想像力を掻き立てるのです。ここで、どういう人が何をしていたのか、と」。そう言って、ハーブの匂いがする白い光の中で彫刻刀に力を込めた。
アトリエには大きな織機が置いてある。「学生時代には、6畳ひとまのアパートを占拠していました」。デザイン科専攻の難波さんは、学生のころ、海外研修よりも織機を買うことを選んだのだと言う。そして卒業すると、テキスタイルの道に進んだ。ウール、木綿、麻などを自分で紡ぎ、染め、織り上げる。地味だが満足度の高い仕事だった。けれど結婚して、「生まれたこどもがアレルギー性の喘息とわかり、糸ぼこりは厳禁。機織ができなくなったのです」。こうして木版に集中。以来、日の目を見ることはなかった織機だが、4年前ここにアトリエを構えると、繊維への思いは再燃した。「桐生には天然染色研究所もあり、草木染めの素晴らしい糸に出会ってしまって」。そんなわけで、コトンコトンと機も織る。
住まいは、かつて織物工場の帳場だった建物と大谷石の蔵を改装し、職住近接。彫刻家丸尾康弘さんとは、夫婦にして同志、そしてライバルだ。
丸尾康弘・難波多輝子 二人展「木版による表現」が、10月15日から23日まで、高崎市の「ギャラリーART G」(TEL.027-328-1041)で開催されている。
【写真(上から)】
柔らかな色合いが印象的な難波さんの木版画
草木染めの糸で手織りをする難波さん
アトリエ全体に明るい光があふれている
上からの光で手元が明るい仕事場
窓の外の景色も幸せな気分にしてくれる
八田信江さんのこれまでのリポート
◇ のこぎり屋根のアトリエから[2] 彫刻家・丸尾康弘さんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ のこぎり屋根のアトリエから[1] 建築家・北川紘一郎さんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ 夢の卵と向き合う建築家たち/女子中学生の職場体験から(2005年8月26日 伊勢崎市)
◇ 七夕茶会「梶の葉に想いをこめて」(2005年7月16日 伊勢崎市)
◇ 「世界遺産ミーティング・イン・伊勢崎」に参加して(2005年7月6日 伊勢崎市)
◇ 「女の自立 男の自立」落合恵子さんの講演より(2005年6月26日 伊勢崎市)
◇ 座して見る花菖蒲も風流/旧秋元別邸で「花菖蒲お座敷鑑賞会」(2005年6月21日 館林市)
◇ 古楽器「クラヴィコード」の音色、ご存知ですか?(2005年5月28日 太田市)
◇ 豪農屋敷で「能に親しむつどい」(2005年5月15日 伊勢崎市)
◇ 心を澄ませて香りを聞く/相川考古館で香遊び(2005年5月5日 伊勢崎市)
◇ 春の花レポート伊勢崎編(2005年4月27日 伊勢崎市)
◇ 明治の洋館、市民の集いの場に(2005年4月23日 伊勢崎市)
◇ 上州の地酒が勢ぞろい、「群馬のお酒フェスタ」(2005年4月22日 伊勢崎市)
◇ 伝統文化、次の世代へ/伊勢崎茶道会が大茶会(2005年4月3日 伊勢崎市)
◇ 揺れる明かりのなかで、夜の茶会(2005年3月26日 桐生市)
◇ 骨董市は現代人のオアシス(2004年6月5日 桐生市)