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リポーター番号19 八田信江さん(伊勢崎市)のページ21


◇ 「絹の国」を記憶する繭倉庫に、シャンソンが流れて(11月6日 富岡市)

シルクカントリー群馬シンポジウム
シンポジウム会場に飾られた糸巻きを模したランプ
シンポジウムの会場
初期のころの写真を展示(東京国立博物館蔵)
フランス人技師ブリューナの一行(片倉工業所蔵)

 フランス積みの赤レンガ壁が美しい旧富岡製糸場で、11月6日、「シルクカントリー群馬シンポジウム」が開れた。養蚕・製糸・織物など群馬の産業と文化の歴史遺産を生かして、地域再生を構想するための企画である。
会場となった東繭倉庫
 会場となった東繭倉庫は、高さ14mの2層構造。104m余りにわたるレンガの壁面に、木骨組の柱と観音開きの鉄製窓が、リズミカルに幾何学模様を描いている。フランスの生糸検査技師ポール・ブリューナ(Paul Brunat)の指揮のもと、明治5年に完成されたという官営富岡製糸場の繭倉庫のひとつだ。中央にはアーケード状に中門が設けられ、とてもエレガントなたたずまい。木骨の間にレンガを積んだハーフティンバー工法によるもので、倉庫とは思えない気品を感じさせる。

 シンポジウムに先だつ記念講演では、建築史家で東京大生産技術研究所教授の藤森照信氏が、「富岡製糸場はハーフティンバーの工場として日本に残る唯一の例」と話された。民家ならヨーロッパに多数見られるが、工場のような大規模建築は世界にもほとんど残っていないとのこと。設計者はブリューナに依頼されたフランス人のE.A.バスチャン(Edmond Alfred Bastien)。当時、横須賀で赤レンガの巨大工場を多数手がけたという。藤森教授は、横須賀やバスチャンの母国フランスに、富岡製糸場の原型を尋ねた話をスライドを使って紹介。今となってはこの建物が、建築物としていかに貴重かつ稀少なものであるかを訴えられた。
天井、梁の造形が美しい
 倉庫は内部もまた勇壮にして優美。天井に渡された角材と通柱が幾何学的に並び、フランス製のガラスをはめたという窓とともに美しい空間を構成している。この倉庫に保管された繭から、良質の生糸が紡がれ、明治の日本は「絹の国」に。シルクは最大の輸出アイテムとなったことが、パネリストによって明らかにされていった。
「絹は誇りをもって良質のものが高い値段で生産されるべき」と東京大名誉教授の石井寛治氏。「群馬の絹は江戸小紋に抜群の生地」と染色作家の藍田正雄氏。絹への熱い思いが語られた。歴史建築の保存運動にも関っている作家の森まゆみさんは、「歴史を掘り起こし、記録する運動を地元の人がしていこう」と提言。藤森教授は「いつもガランとしていた建物に、人を入れたらどうなるか心配したが、人負けしない。立派に受け入れている」と、135年の年月に風格をまとった空間を称えた。日本の近代化をひっそりと支えた繭倉庫は、役目を終えてなお麗しい。

 120人の聴衆を送り出すとき、突如シャンソンが流された。高らかなその歌声は、フランスの香りをさせた明治生まれの建物へのオマージュのようでもあり、建物自身が誇らかに歌っているようでもあった。闇に浮かぶ座繰りランプの灯りは、倉庫が胸に飾るブローチにも見えて。
 その粋な演出にふと思った。ここが倉庫シアターになって、音楽や演劇が鑑賞できたら、どんなにか豊かな気持になれるだろうと。会場には東京国立博物館蔵の古い写真が展示されていたが、ギャラリーとしても魅力ある空間に思われた。世界と交流した「絹の国」の記憶。繭の倉庫には、そんな精神風土が醸す空気が感じられる。


八田信江さんのこれまでのリポート

◇ のこぎり屋根のアトリエから[6] ハーブ研究家・北川やちよさんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ のこぎり屋根のアトリエから[5] 服飾デザイナー・岩田一崇さん、福田康子さんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ のこぎり屋根のアトリエから[4] 画家・児島新太郎さん、造形作家・守亜和由紀さんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ のこぎり屋根のアトリエから[3] 版画家・難波多輝子さんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ のこぎり屋根のアトリエから[2] 彫刻家・丸尾康弘さんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ のこぎり屋根のアトリエから[1] 建築家・北川紘一郎さんの場合(2005年10月18日 桐生市)
◇ 夢の卵と向き合う建築家たち/女子中学生の職場体験から(2005年8月26日 伊勢崎市)
◇ 七夕茶会「梶の葉に想いをこめて」(2005年7月16日 伊勢崎市)
◇ 「世界遺産ミーティング・イン・伊勢崎」に参加して(2005年7月6日 伊勢崎市)
◇ 「女の自立 男の自立」落合恵子さんの講演より(2005年6月26日 伊勢崎市)
◇ 座して見る花菖蒲も風流/旧秋元別邸で「花菖蒲お座敷鑑賞会」(2005年6月21日 館林市)
◇ 古楽器「クラヴィコード」の音色、ご存知ですか?(2005年5月28日 太田市)
◇ 豪農屋敷で「能に親しむつどい」(2005年5月15日 伊勢崎市)
◇ 心を澄ませて香りを聞く/相川考古館で香遊び(2005年5月5日 伊勢崎市)
◇ 春の花レポート伊勢崎編(2005年4月27日 伊勢崎市)
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