ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 組織からさがす > 総務部 > 総務課 > 令和3年度答申第10号

本文

令和3年度答申第10号

更新日:2022年3月8日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

 令和3年3月26日付けで処分庁が行った生活保護申請却下処分(以下「本件処分」という。)の取消し又は生活保護申請前に解約した○○○株式会社の好条件の終身医療保険契約(重度障害を理由として保険料の払込みは免除され、入院時の手術費と入院費の医療保険は保障される内容のもの。以下「本件医療保険契約」という。)に加入することができるよう便宜を図ることを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 生活保護申請前において処分庁の職員から保険を解約するよう求められたため、保険の解約が生活保護申請の際の条件であると考え、本件医療保険契約を解約し、生活保護の申請(以下「本件申請」という。)を行ったが却下処分となり、結果として、望んでいない本件医療保険契約の解約により不利益を被った。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 処分庁は、審査請求人から提出のあった本件申請に対して、要否判定を行った結果、境界層措置を受けることで、保護を要しないこととなるとの判断をしている。これは「境界層該当者の取扱いについて」(平成17年9月21日付け社援保発第0921001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「保護課長通知」という。)にのっとり判断をしているものであり、計算方法にも誤りや不正は認められない。境界層該当者である審査請求人に、要否判定を行った結果、境界層該当者である証明書も適切に交付されている。
 保護開始申請に対する却下の処分についても、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第24条に基づき、書面をもって決定の理由を付して行われており、違法性は認められない。
 以上のことから、本件処分には、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。
 なお、審査請求人が求める「生活保護申請前に解約をした保険に加入できるよう便宜を図ること」については、本件処分と関係がないため、意見は述べない。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
 令和4年1月14日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
 令和4年1月20日 調査・審議
 令和4年2月17日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件に係る法令等の規定について

 以下に記載する法令等の内容はいずれも本件申請当時のものである。

(1)境界層措置の制度について

 介護保険における境界層措置とは、介護保険のサービス費用の負担額や保険料を本来適用されるべき基準等により支払うと生活保護を必要とするが、より負担の低い基準等を適用すれば生活保護を必要としなくなる場合に、当該より低い基準を適用すること(以下「境界層措置」という。)をいう。境界層措置を適用することで、世帯につき認定した最低生活費が収入を下回り、自立した生活が可能となると判断されることとなる。

(2)介護保険法に基づく特定入所者介護サービス費の支給について

ア 市町村は、要介護被保険者のうち所得及び資産の状況その他の事情をしん酌して厚生労働省令で定めるものが、指定施設サービス等、指定地域密着型サービス又は指定居宅サービス(以下「特定介護サービス」という。)を受けたときは、当該要介護被保険者(以下「特定入所者」という。)に対し、当該特定介護サービスを行う介護保険施設、指定地域密着型サービス事業者又は指定居宅サービス事業者(以下「特定介護保険施設等」という。)における食事の提供に要した費用及び居住又は滞在(以下「居住等」という。)に要した費用について、特定入所者介護サービス費を支給することとされている(介護保険法(平成9年法律第123号)第51条の3第1項)。
イ 上記アの要介護被保険者のうち所得及び資産の状況その他の事情をしん酌して厚生労働省令で定めるものとして、介護保険法施行規則(平成11年厚生省令第36号。以下「施行規則」という。)第83条の5第1号には、次の者が規定されている。
その属する世帯の世帯主及び全ての世帯員並びにその者の配偶者が特定介護サービスを受ける日の属する年度分の地方税法(昭和25年法律第226号)の規定による市町村民税が課されていない者又は市町村の条例で定めるところにより当該市町村民税が免除された者であり、かつ、当該要介護被保険者及びその者の配偶者が所有する現金、預貯金その他これらに類する資産の合計額として市町村長が認定した額が2,000万円(当該要介護被保険者に配偶者がない場合にあっては、1,000万円)以下であるもの。
ウ 上記アの特定入所者介護サービス費の額は、次の1の額及び2の額の合計額とされている(介護保険法第51条の3第2項)。
1 特定介護保険施設等における食事の提供に要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める費用の額(食費の基準費用額)から、平均的な家計における食費の状況及び特定入所者の所得の状況その他の事情を勘案して厚生労働大臣が定める額(以下「食費の負担限度額」という。)を控除した額
2 特定介護保険施設等における居住等に要する平均的な費用の額及び施設の状況その他の事情を勘案して厚生労働大臣が定める費用の額(居住費の基準費用額)から、特定入所者の所得の状況その他の事情を勘案して厚生労働大臣が定める額(以下「居住費の負担限度額」という。)を控除した額
エ 上記ウ1の食費の負担限度額は、「介護保険法第51条の3第2項第1号及び第61条の3第2項第1号に規定する食費の負担限度額(平成17年厚生労働省告示第413号。以下「食費の負担限度額告示」という。)」において、次のとおり定められている。
 介護保険法第51条の3第2項第1号に規定する食費の負担限度額は、次の表の上欄に掲げる者の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる額とする。
(表略)

オ 上記ウ2の居住費の負担限度額は、「介護保険法第51条の3第2項第2号に規定する居住費の負担限度額及び同法第61条の3第2項第2号に規定する滞在費の負担限度額(平成17年厚生労働省告示第414号。以下「居住費の負担限度額告示」という。)」において、次のとおり定められている。
 介護保険法第51条の3第2項第2号に規定する居住費の負担限度額は、次の表の上欄に掲げる所得の区分及び中欄に掲げる居室等の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる額とする。
(表略)

(3)境界層措置に関する定め

 境界層措置については、国の通知に基づいて、制度の運用が行われている。
ア「境界層措置の運用の詳細について」(平成17年9月21日付け老介初第0921001号厚生労働省老健局介護保険計画課長通知)
 この通知には、以下のことが示されている。
1 境界層措置について
 介護保険制度においては、以下の(ア)から(オ)までに関し、本来適用されるべき基準等を適用すれば生活保護を必要とするが、より負担の低い基準等を適用すれば生活保護を必要としない状態となる者については、当該より低い基準等を適用することとしている。
(ア)介護保険法第69条第1項に規定する給付額減額等の記載
(イ)介護保険法第51条の3第2項第2号に規定する居住費の負担限度額
(ウ)介護保険法第51条の3第2項第1号に規定する食費の負担限度額
(エ)介護保険法第51条第1項の規定による高額介護サービス費に係る負担の上限額
(オ)介護保険法第129条第1項の規定による保険料の負担額
2 具体的な事務処理
 1の(ア)から(オ)までに関し、どの境界層措置を他の境界層措置に優先して適用すべきかについては、(ア)から(オ)の順に適用することが適当である。
イ 保護課長通知
 この通知には、以下のことが示されている。
1 基本的な取扱い
(ア)境界層該当者と境界層該当措置について
 次に掲げる者については、保険者により、次表で定める区分に応じた境界層措置がなされることとされているため、保護を要しないこと。
a (略)
b その属する世帯の世帯主及びすべての世帯員が特定介護サービスを受ける日の属する月において要保護者である者であって、当該特定介護サービスに係る居住費の負担限度額について、多床室を利用する場合には「零円」が適用され、特定入所者介護サービス費を支給されたとすれば、保護を必要としない状態となるもの
c~h(略)
(表略)

2 境界層該当者に対する証明書の交付
 境界層措置は保険者が行うものであるが、福祉事務所長は、保護の申請に応じ、保護開始時の要否判定を行った結果、境界層該当者であることが明らかになった場合又は保護を受けている者が境界層該当者に該当する場合、証明書及び添付書類(以下「証明書等」という。)を境界層該当者に交付するものとし、その際、保険者に対する境界層該当措置の申請に当たっては当該証明書等を添えて提出するよう教示すること。

(4)保護申請却下について

 法第24条第3項から第7項までにおいて保護開始申請に対する保護の実施機関の対応が規定されており、同条第3項は「保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。」と、同条第4項は「前項の書面には、決定の理由を付さなければならない。」と規定している。

3 本件処分の妥当性について

(1)生活保護の要否判断について

ア 生活保護における世帯の取扱いについて
 審査請求人は、本件申請時点において○○○が運営する特別養護老人ホームに入所しており、代理人とは別世帯になっていることから審査請求人の単身世帯での判定となる。
イ 最低生活費の認定について
(ア)介護施設入所者基本生活費等について
 処分庁は、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)別表第1第3章の2(1)により介護施設入所者基本生活費として9,880円を、地区別冬季加算額として1,000円を、同表第2章の3により介護施設入所者加算として9,880円を認定している。
(イ)食費及び居住費について
a 介護保険法第51条の3第1項の適用について
 審査請求人は、市町村民税世帯非課税者であり、かつ、審査請求人の現金、預貯金その他これらに類する資産の合計額は1,000万円以下である。
 そして、審査請求人は、特別養護老人ホームにおいてショートステイをしており、介護保険法第51条の3に規定する特定介護サービスを受けていることから、同項の規定により特定入所者介護サービス費の支給を受けることができる。
b 審査請求人の食費の負担限度額及び居住費の負担限度額について
(a)食費の負担限度額
 審査請求人の食費の負担限度額告示の表四の項に規定する合計額は、○○○円(同項イの額:○○○円、ロの額:○○○円、ハの額:○○○円)と、80万円以下であることから、審査請求人は、食費の負担限度額告示の表四の項に該当し、境界層措置適用前の審査請求人の食費の自己負担額(食費の負担限度額)は1日につき390円である。
(b)居住費の負担限度額
 審査請求人の居住費の負担限度額告示の表二の項イに規定する合計額は、○○○円(同項イ(1)の額:○○○円、(2)の額:○○○円、(3)の額:○○○円)と、80万円以下であることから、審査請求人は、居住費の負担限度額告示の表二の項イに該当する。
 そして、審査請求人は、多床室(特養等)に入居していることから、境界層措置適用前の審査請求人の居住費の自己負担額(居住費の負担限度額)は、同表二の項により1日につき370円である。
c 認定額について
 以上のことから、処分庁は、食費として食費の自己負担限度額である1日につき390円を月額換算した額(1か月を31日とし、31を乗じた額をいう。以下同じ。)である12,090円を、居住費として居住費の自己負担額である1日につき370円を月額換算した額である11,470円を認定している。
(ウ)介護サービス費について
 審査請求人は、市町村民税世帯非課税者であり、かつ、合計所得金額及び課税年金収入額の合計が80万円以下であることから、介護保険法第51条第1項の規定により、介護保険法施行令(平成10年政令第412号。令和3年政令第54号による改正前のものとする。)第22条の2の2第7項に規定する控除額(15,000円)以上の部分については、高額介護サービス費の支給を受けることになる。
 以上のことから、処分庁は、介護サービス費として審査請求人の負担の上限額である15,000円を認定している。
(エ)医療費について
 審査請求人は、市町村民税世帯非課税者であり、かつ、合計所得金額及び課税年金収入額の合計が80万円以下であることから、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)第57条の2の規定により、国民健康保険法施行令(昭和33年政令第362号)第29条の3第4項第6号に規定する高額療養費算定基準額(15,000円)以上の部分については、高額療養費の支給を受けることになる。
 以上のことから、処分庁は、医療費は審査請求人の負担の上限額である15,000円を認定している。
〇最低生活費
 介護施設入所者基本生活費 9,880円(ア)
 地区別冬季加算額 1,000円(ア)
 介護施設入所者加算 9,880円(ア)
 食費 12,090円(イ)
 居住費 11,470円(イ)
 介護サービス費 15,000円(ウ)
 医療費 15,000円(エ)
 合計 74,320円
(オ)上記(ア)から(エ)までの合計額74,320円を最低生活費としたことが認められる。
ウ 収入充当額の認定について
(ア)処分庁は、審査請求人が受給する老齢基礎厚生年金については年間受給額○○○○○円を月割にして○○○○○円を、老齢年金生活者支援給付金については2か月ごとに支給されることから○○○○○円を2分割して○○○○○円を認定している。
(イ)また、処分庁は、収入から控除する額として、介護保険料は年額○○○○○円を月割にして○○○○○円を、国民健康保険料は年間○○○○○円を月割にして○○○○○円を認定している。
〇収入充当額
 老齢基礎厚生年金 ○○○○○円(ア)
 老齢年金生活者支援給付金 ○○○○○円(ア)
 介護保険料控除 ○○○○○円(イ)
 国民健康保険料控除 ○○○○○円(イ)
 合計 ○○○○○円
(ウ)上記(ア)及び(イ)の合計額○○○○○円を収入充当額としたことが認められる。
エ 小括
 上記アからウまでのとおり、本件申請時における審査請求人の最低生活費が収入充当額を上回っており、要保護状態であることが認められる。

(2)境界層措置の適用が適切になされたかどうかについて

ア まず、審査請求人は、介護保険法第69条第1項に規定する給付減額等の記載を受けておらず、このことに係る境界層措置の適用は該当しない。
イ 次に、境界層措置適用前の審査請求人の居住費の自己負担限度額は、居住費の負担限度額告示の表二の項に該当し、1日につき370円となるが、保護課長通知に基づき境界層措置を適用すると、負担の低い基準として同告示の表三の項が適用され、審査請求人の居住費の自己負担額(居住費の負担限度額)は、0円となる。
〇最低生活費
 介護施設入所者基本生活費 9,880円
 地区別冬季加算額 1,000円
 介護施設入所者加算 9,880円
 食費 12,090円
 居住費 0円
 介護サービス費 15,000円
 医療費 15,000円
 合計 62,850円
ウ その結果、審査請求人の最低生活費は11,470円減少し、62,850円となり、収入充当額が最低生活費を超えることとなる。したがって、審査請求人は、境界層該当者である。
エ 以上のことから、処分庁は、本件申請に対して、生活保護の要否判断を行った結果、境界層措置を受けることで、保護を要しないこととなるとの判断をしているものであり、当該判断に違法又は不当な点は認められない。また、境界層該当者である審査請求人に対し、境界層該当証明書が適切に交付されている。
オ 保護申請却下についても、法第24条第3項及び第4項に基づき、書面をもって決定の理由を付して行われており、この点においても違法又は不当な点は認められない。

(3)結論

 よって、本件処分は、処分庁が法令等の規定にのっとり適正に行ったものであり、何ら違法又は不当な点は認められない。

4 上記以外の違法性又は不当性についての検討

 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。
なお、審査請求人が求める本件申請前に解約をした本件医療保険契約については、本件処分と関係がない。

第6 結論

 以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり答申する。

群馬県行政不服審査会答申集ページへ戻る群馬県行政不服審査会ページへ