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平成29年度答申第2号

更新日:2017年8月8日 印刷ページ表示

1 件名

 平成29年11月10日付け費用返還決定処分についての審査請求

2 処分庁

 前橋市福祉事務所長

3 審査会の結論

 審査請求人の主張には、理由があるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定により処分を取り消すべきである。

4 審査関係人の主張の要旨

(1)審査請求人

 処分庁に対し年金証書等の書類を提出しており、企業年金を収入として認定しなかった落ち度は処分庁にあり、審査請求人に何ら落ち度はない、処分庁の処理誤りに基づく生活保護費の過払金全額の返還を求める本件処分は、信義則に反するとともに、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第63条の適用に当たり考慮すべき事項を考慮しないなど裁量権を逸脱濫用しているほか、過払金が既に費消されて現存利益がないのにもかかわらず行われていることから、違法・不当な処分であり、速やかに取り消されるべきである。

(2)審査庁

 審理員意見書のとおり、棄却すべきである。

5 審理員意見書の要旨

 次のとおり、本件審査請求には理由がないから、棄却されるべきである。

(1)裁量権の逸脱・濫用について

ア 処分庁は、審査請求人に資料を手交して法第63条の適用内容について説明している。また、審査請求人から提出された「債務承認及び分割弁済申出書」において、一括での支払いができない理由として、当該過払金を「生活費のため消費済」という事実を確認しており、全額返還を求めたことについて、判断要素の選択に合理性が欠けていたとまではいうことはできない。
イ 過払いの原因が公的給付の場合は、放置した場合二重の公的給付となり、公平性が大きく損なわれるので、過払金全額の返還を求める必要性は高い。また、処分庁は、返還額の分納措置を講じ、「非保護世帯の自立が著しく阻害される」ことを避ける努力を行っており、判断過程に妥当性を認めることができる。

(2)不当利得法理について

 法第63条は公法上の債務であって、浪費の場合も全額の返還を免れないとされているように、不当利得法理とは異なる原理に基づくものである。

(3)信義則違反について

 企業年金の収入未認定に基づく過払いの現状を是正するものであり、保護の実施における無差別平等の原則(法第2条)にも沿うものである以上、信義則に反するとまでは解されない。

6 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。

  • 平成29年5月9日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
  • 平成29年5月16日 調査・審議
  • 平成29年5月18日 群馬県行政不服審査会から処分庁に対し資料の提出を依頼
  • 平成29年6月1日 処分庁から資料を収受
  • 平成29年6月5日 審査請求人から審理員意見書に対する意見書を収受
  • 平成29年6月27日 調査・審議
  • 平成29年7月31日 調査・審議

7 審査会の判断の理由

(1)審理手続の適正について

 本件審査請求に係る審理手続は適正に行われたものと認められる。

(2)審査会の判断について

ア 法令等の規定について

 法第63条は、被保護者が急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかにその受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならないと規定する。ここで言う「急迫の場合等」は、文字どおり、急迫のため自ら有する資力を最低生活の維持に活用できない場合のみならず、「調査不十分のため資力あるにかかわらず、資力なしとして誤認して保護を決定した場合或いは保護の実施機関が保護の程度の決定を過って、不当に高額の決定をした場合等」(厚生省社会局保護課長小山進次郎著「生活保護法の解釈と運用」)と解される。また、「実施機関の定める額」は、「全額を返還させることが不可能、或いは不適当である場合もあろうから、額の決定を被保護者の状況を知悉しうる保護の実施機関の裁量に委せたもの」(同)と解される。
 費用返還の決定については、「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」(平成24年7月23日社援保発0723第1号。以下「保護課長通知」という。)が判断枠組みを示しており、全額返還を原則としつつ、それによって被保護世帯の自立が著しく阻害されると認められる場合は、一定額を返還金から控除して差し支えないとしている。一定額とは、1 盗難等不可抗力による消失額、2 家屋補修費等の一時的経費、3 慈善的金銭等の収入認定除外額、4 自立更生に必要な経費、5 生活保護脱却時の自立更生に必要な経費のいずれかであって、確実に証明され、又は保護の実施機関が認めるものである。なお、4の自立更生費は、地域住民との均衡を考慮し社会通念上容認される程度と認められた額であって、浪費のほか、贈与等当該世帯以外への給付、保有が認められない物品等の購入及び保護開始前債務の弁済に係るものは含まれないとされている。
 一方、年金を遡及して受給した場合の返還金について、保護課長通知は、自立更生費等を控除することは、定期的に支給される年金の受給額全額が収入認定されることとの公平性を考慮すると、上記と同様の考え方で自立更生費等を控除するのではなく、厳格に対応することが求められるとし、真にやむを得ない理由により控除する費用については、慎重に必要性を検討することとされている。
 また、法第78条の2第1項の規定による費用徴収に係る「生活の維持に支障がない」場合の取扱いについて、保護課長通知は、「被保護者に対して支給された保護金品については、一般的に世帯主等に当該世帯の家計の合理的な運営がゆだねられていることから、支出の節約の努力等によって徴収金に充てる金員について生活を維持しながら被保護者が捻出することは可能であると考えられる。具体的に保護金品と調整する金額については、単身世帯であれば5,000円程度、複数世帯であれば10,000円程度を上限とし、生活保護法による保護の基準別表第1第1章及び第2章に定める加算(中略)の計上されている世帯の加算額相当分、就労収入のある世帯の就労収入に係る控除額(中略)相当分を、上限額に加えて差し支えない」としている。

イ 本件処分の違法性等の有無について

(ア)裁量権の逸脱・濫用について

 上記アに記載のとおり、費用返還決定は、保護の実施機関の裁量に委ねられているが、全くの自由裁量ではなく、法令及び告示の定めはもちろんのこと、処理基準となる厚生労働省発出の諸通知に従うことが要請されている。そして、裁量権の行使に当たっては、「判断が重要な事実を欠き、又は社会通念に照らし著しく合理性を欠くと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる」(最高裁平成18年2月7日第三小法廷判決)とされている。
 保護課長通知において、保護費の全額返還によって被保護世帯の自立が著しく阻害されると認められる場合は、一定額を返還金から控除して差し支えないとされているところ、本件処分を決定する際、返還額から控除する費用について検討するための本件過払金の使途の調査を処分庁が行わなかったことに争いはなく、また、処分庁の提出資料を確認したところ、本件処分によって審査請求人の自立が著しく阻害されないか検討した形跡は認められないため、その判断に重要な事実を欠くものと認められる。したがって、本件処分は、処分時において裁量権の逸脱・濫用があると認められる。
 なお、処分庁は、処分後に審査請求人から提出された「債務承認及び分割弁済申出書」において、本件過払金が「生活費として消費済」という事実を確認し、自立更生の範囲には生活費として費消した保護費は含まれず返還額から控除する余地はないこと、また、分納措置も講じていることから、結果として本件処分に違法、不当な点はない旨主張している。
 法第63条が返還額の決定を実施機関の裁量に委せた趣旨は、法の「最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長すること」という目的に照らし、全額返還させることが不可能、不適当である場合もあろうから、被保護者の状況を知る保護の実施機関の裁量に委せたものと解される。
 処分庁は、過払いの原因が公的給付の場合は、厳格に全額返還を求めるとして、処分後においても審査請求人の自立が著しく阻害されないかについて検討することなく、生活費が自立更生費に当たらないと判断したことのみをもって本件処分の正当性を主張するが、審査請求人は分納の開始後電気料金を滞納していると主張している(このことは、審査請求人は処分庁に連絡している。)ことから、分納措置を講じたとしても、全額返還によって自立が著しく阻害され、法の目的に反した「全額返還させることが不可能或いは不適当」な状態であると考えられる可能性もある。
 また、本件過払金が発生したのは、処分庁の過失によるものであり、審査請求人が保護費の過払いを知らずに生活費として費消した本件では、こうした事情も踏まえて返還額の決定を検討すべきである。
 よって、判断に重要な事実を欠く状態にあることは、処分後においても変わりのないものと認められる。

(イ)その他の違法性等

 法第63条の費用返還義務は、元の処分は有効なものとして、一方において特別に費用返還義務を定めた、不当利得とは異なる原理に基づくものであり、現存利益を超えた返還請求が直ちに違法となるものとは解されない。
 また、本件処分は、企業年金の収入未認定に基づく過払いの現状を是正するものであり、保護の実施における無差別平等の原則(法第2条)にも沿うものである以上、信義則に反するとまでは解されない。

 以上のとおり、審査請求人の主張には、裁量権の逸脱・濫用について理由があると認められるから、処分を取り消すべきである。

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