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令和元年度答申第1号

更新日:2019年5月23日 印刷ページ表示

件名

住宅扶助支給申請却下処分についての審査請求

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由があるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定により処分を取り消すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

(1)審査請求人

  • 処分庁には重大な事実誤認がある。
  • 処分庁は「保護申請時において既に現住所の賃貸借契約が完了し、安定した住居が確保されており、厚生労働省社会援護局長通知第7の4(1)キにある「保護開始時において、安定した住居のない要保護者」に当たるとは認められない」と却下の理由をあげるが、申請時には賃貸借契約は未了であった。
  • 処分庁は保護申請時に審査請求人が「既に不動産会社よりアパートの紹介を受け、契約した」と述べたと主張するが、審査請求人は、そのようなことは述べておらず、不動産仲介業者◯◯氏(以下「仲介業者」という。)の証明書によっても賃貸借契約は生活保護申請後に締結されたことが明言されている。
  • 処分庁は「保護申請の◯日前までは母親世帯にて生活していたことから、仮に現住所の賃貸借契約締結前の状態にあったとしても、居住の実態はいまだ母親宅にあったとみることが妥当である」と主張するが、審査請求人は保護申請時には既に母親宅を出ており、その後も母親宅に戻る予定もなかったことから、居住の実態が母親宅にあったとはいえず、申請時には安定した住居がなかった。
  • 審査請求人は、申請時において所持金が◯◯円であり、初期費用を支払う資力はなく、敷金等を必要としていたことからも住居が確保できているとはいえない状態にあった。
  • 処分庁は保護申請時に住宅が確保されていたか否かについて、仲介業者との契約締結の状況や条件など、客観的資料に基づく検証を行っておらず、平成30年10月23日付け住宅扶助(権利金、敷金等)支給申請却下処分(以下「本件処分」という。)は恣意的な判断に基づいてなされた瑕疵があり、違法不当な処分である。
  • 本件処分の却下理由は、生活保護決定通知書の理由や内容と矛盾し、客観的資料に基づく検証も行わずに判断したものであり、理由附記の要件を充足しているとはいえないため、処分の取消しを免れない。

(2)審査庁

 本件処分を取り消すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 次のとおり、本件審査請求には理由があるから、本件処分は取り消されるべきである。
(1)アパートの賃貸借契約締結の時期について
 審査請求人は、保護申請前に業者から物件の紹介はしてもらったが、契約は保護申請後に行ったと主張し、処分庁は、保護申請時には既にアパートの契約を締結してきていたことを確認していると主張し、両者の言い分は相違している。
 当時の面接記録票では、「本日から入居できるアパートを見つけたと◯◯職員(◯◯で支援を受けた相談員)と来庁」「本日入居となるアパートについては◯◯で契約したといい、家賃3万円で本日から入居するという」という記載はあるが、賃貸借契約書等により事実を確認したという記録は確認できない。
 また、面接時の記録及びその後の預貯金調査においても「手持ち金◯◯円」「預貯金3金融機関で◯◯円」と確認されており、賃貸借契約を締結できる資産があったとは考えにくい。
 さらに、賃貸借契約について、仲介業者から契約の経緯についての証明書が提出されており、契約締結は保護申請後に行われていること、生活保護が受給できなければ斡旋できないことを説明済みであることが記載されており、本件処分の却下理由「保護申請時において既に現住所の賃貸借契約が完了し、安定した住居が確保されており」と矛盾する。
(2)保護申請時に「安定した住居」が確保できていたか否かについて
 審査請求人の主張及び処分庁の扶養義務照会の結果からも審査請求人の母親は、請求人の傷病についての理解はなく、金銭的援助も困難であり、自宅に引き取ることはできないことが確認されており、審査請求人の実家は一時的な帰来先にはなり得たとしても「安定した住居」になるとまではいえない。
 また、入居したアパートについても、仲介業者からの証明にもあるように生活保護を受給できることが前提であることの説明を受けていること、自らは家賃等を支払うだけの資力を有していないことからも安定した住居を確保していたとはいいがたい。
(3)処分庁は、保護申請時に審査請求人が安定した住居を確保していることを前提としており、課長通知にある敷金等を必要とする場合について、ケース診断会議等において総合的に判断されたとはいえない。
(4)したがって、(1)及び(2)により、本件の処分理由に瑕疵が認められ、(3)により、本件処分に係る手続についても瑕疵が認められることから、本件処分は違法であり、取り消されるべきである。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
平成31年4月19日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
平成31年4月26日 調査・審議
令和元年5月20日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

(1)審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

(2)審査会の判断について

ア 本件に係る法令等の規定について

(ア)保護の要件、基準及び程度等
 生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第4条第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と規定するとともに、第2項において、「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるもの」とし、保護の補足性を明らかにする一方、第3項において、「急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない」とする。
 また、法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うもの」とし、その厚生労働大臣の定める基準として「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)が定められるとともに、法定受託事務である保護実施の処理基準(地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の9第1項及び第3項)として「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日社発第123号)、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号。以下「局長通知」という。)、「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保発第34号)その他の通知が厚生労働省から発出されている。
(イ)住宅扶助について
 法第14条において、「住宅扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項(住居、補修その他住宅の維持のために必要なもの)の範囲内において行われる」と規定されている。
 また、局長通知第7の4の(1)のキにおいて、「保護開始時において、安定した住居のない要保護者(保護の実施機関において居宅生活ができると認められる者に限る。)が住宅の確保に際し、敷金等を必要とする場合で、オに定める特別基準額以内の家賃又は間代を必要とする住居を確保するときは、オに定める特別基準額に3を乗じて得た額の範囲内において特別基準の設定があったものとして必要な額を認めて差し支えない」と規定されている。

イ 本件処分の違法性の有無について

(ア)面接時の記録及びその後の預貯金調査において「手持ち金◯◯円」「預貯金3金融機関で◯◯円」と確認されており、当該手持ち金で敷金等を支払うことができないことは明らかであったことが認められる。敷金等の支払いが完了しないかぎり債務不履行による契約解除は当然にあり得ることであるため、契約を締結することがすなわち「安定した住居」があることになるとは解されず、審査請求人には「安定した住居」があったとはいえない状況であったと解するのが妥当である。
(イ)また、審査請求人の主張及び処分庁の扶養義務照会の結果からも、審査請求人の母親は審査請求人の傷病についての理解はなく、金銭的援助も困難であり、母親宅に引き取ることはできないことが確認されており、母親宅は一時的な帰来先にはなり得たとしても「安定した住居」であったとまではいえない状況であったと解するのが妥当である。
(ウ)以上から、審査請求人は局長通知第7の4の(1)のキにいう「安定した住居のない要保護者」に該当する者であったと解されることから、これに反して審査請求人の支給申請を却下した本件却下処分は違法というべきであり、取り消されるべきである。

 以上のとおり、本件審査請求には理由があるから、「第1 審査会の結論」のとおり答申する。

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