本文
公文書開示審査会答申第177号
「○○医科大学病院の医師が『精神保健指定医』の資格を不正取得したなどとして、今年2度にわたって厚生労働省の指定を取り消された問題があった件に関する情報一切。業務の再開等も含む。また、その件に付随する診療報酬の不正、返還についての情報一切。」の公文書部分開示決定に対する異議申立てに係る答申書
群馬県公文書開示審査会第二部会
第1 審査会の結論
実施機関が行った公文書部分開示決定について、次のとおり判断する。
- 実施機関が行った公文書部分開示決定における非開示部分のうち、本件医師の勤務先医療機関における採用年月日及び常勤、非常勤の別については開示すべきであるが、その他の部分(本件医師の年齢を除く)については非開示が妥当である。
- 本件医師の年齢については、非開示情報該当性について検討を加えた上で、改めて決定すべきである。
- 「○○医科大学病院の指定医申請に関わった指導医の指定医取消しについて」(平成27年度、登録番号500-9)を対象公文書として特定し直した上で、改めて決定すべきである。
第2 諮問事案の概要
1 公文書開示請求
異議申立人(以下「申立人」という。)は、群馬県情報公開条例(以下「条例」という。)第11条の規定に基づき、群馬県知事(以下「実施機関」という。)に対し、平成27年10月11日付けで、「○○医科大学病院の医師が『精神保健指定医』の資格を不正取得したなどとして、今年2度にわたって厚生労働省に指定を取り消された問題があった件に関する情報一切。業務の再開等も含む。また、その件に付随する診療報酬の不正、返還についての情報一切。たとえば、起案、議事録、会議報告書、大学からの文書、大学宛ての文書、プレスリリース、アンケート、チラシ広告およびインターネット上の告知の印刷、設置、配布、新聞や雑誌への広報、広報誌、講師の選定、礼金の有無や金額、交通費や宿泊費や旅費、地方公務員法第38条及び35条に規定される文書およびそれに相当する文書、贈与等報告書、電話またはその他でのメモ、講演、講座の依頼文、配布資料、レジュメ、写真、映像、音声、原稿、電子メール、Fax、参加者数、キャンセル数、申込数、職員側の出席者、その他の出席者、上記の添付文書、上記の関連文書。上記に類する文書等々、とにかく全て。ひろく解釈して特定ください。なお、非開示、部分開示、不存在、存否応答拒否、適用除外については、全てその通知が必要です。請求した情報を全部であれ一部であれ廃棄した場合には、当該情報は廃棄したということを示す情報も全て開示請求の対象に含めます。そして、いかなる決定であれ、当該情報の保存期間および保存期間の変更および保存期間に関する分類等および保存期間に関する分類等の変更等々を示す情報も全て開示請求の対象に含めます。また、事案の移送もお願いいたします。」として開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 実施機関の決定
実施機関は、平成27年10月27日、次に掲げる公文書(以下「本件公文書」という。)を特定し公文書部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、公文書の一部を開示しない理由を別表のとおり付して、申立人に通知した。
- 「○○医科大学病院における『精神保健指定医』資格の不正取得について(平成27年4月16日付け厚生労働省からの事務連絡を含む)」(以下「本件公文書1」という。)
- 「精神保健指定医証の返納について」(以下「本件公文書2」という。)
- 「『精神保健指定医』不正取得に係る対応について」(以下「本件公文書3」という。)
- 「○○医科大学病院に関連する精神保健指定医の指定取消事案を受けた今後の対応について(平成27年5月22日付け厚生労働省からの事務連絡を含む)」(以下「本件公文書4」という。)
- 「○○医科大学病院に関連する精神保健指定医の指定取消事案を受けた今後の対応について(再依頼)(平成27年7月6日、6月17日付け厚生労働省からの事務連絡を含む)」(以下「本件公文書5」という。)
- 「『精神保健指定医』不正取得に係る当該医師への行政処分について」(以下「本件公文書6」という。)
3 異議申立て
申立人は、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定に基づき、平成27年10月30日付けで、本件処分を不服として実施機関に対し異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
4 諮問
実施機関は条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して、平成27年12月10日、本件異議申立て事案(以下「本件事案」という。)の諮問を行った。
第3 本件事案における当事者の主張
1 申立人の主張要旨
(1)異議申立書における主張要旨
ア 公益上の理由による裁量的開示を行うことを求める。
イ 他の自治体と比較して特定された文書が少なすぎる。
(2)意見書における主張要旨
1 対象公文書の特定について
- 緊急措置入院と措置入院のみが精神保健指定医の業務ではない。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「精神保健福祉法」という。)第19条の4の規定によるその他の指定医としての業務は遂行されていたのであるから、当該指定医の業務の対象者に係る医療保護入院に関連する公文書その他対象者に関する公文書等を特定すべきである。
- 他の自治体が「報酬の返還を求めるのは法律上難しい」と判断している。群馬県においても、その判断を示す公文書やその判断に至る経緯を示す公文書等を特定すべきである。
- ○○大から自主返納する旨の文書を収受しているのであれば、対象公文書として特定すべきである。
- 処分を受けた精神保健指定医の判断の当否を検証したことに関する文書のうち、その検証に対する報償費はいくらか、検証に関する情報を記載した公文書が一切特定されていない。群馬県は、行政自らが検証しなかったただ一つの自治体なのである。
- 本件公文書3の「院内倫理委員会等開催状況」によれば、「院長と事務次長で県へ報告」したのであるから、少なくともそれに関する文書があるはずである。
2 個人情報該当性
- 医師の氏名は、医療法(昭和23年法律第205号)第14条の2第1項等により、条例第14条第2号ただし書イに該当する。
- 精神保健指定医の氏名は、いわゆる精神障がい者及び知的障がい者やそう疑われた人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報に当たり、条例第14条第2号ただし書ロに該当する。
- 精神保健指定医は、精神保健福祉法第19条の4第2項により、特別職の公務員に該当する。ゆえに、指定医の氏名は、条例第14条第2号ただし書ハに該当する。
- 精神保健指定医が、精神保健福祉法第27条の規定により、申請、通報又は届出のあった精神障がい者又はその疑いのある者を診察するため、その者の居住する場所へ立ち入る場合には、氏名を記載した指定医証票を携帯し、本人、保護者などの関係人の請求があるときはこれを提示しなければならないとされていることなどを踏まえれば、少なくとも指定医の氏名、勤務先医療機関名は、これを公表しても社会通念上指定医個人の正当な権利利益を侵害するおそれのある情報とは言えない。
- たとえ、本件処分で非開示とした該当医師(以下「本件医師」という。)の氏名を開示することにより、当該医師が群馬県に居住しているという情報が開示されると判断されたとしても、それと同様のことは、他の公務員にも言えることである。しかしながら、他の公務員が群馬県に居住しているという情報が開示されてしまうため条例第14条第2号に該当し不開示とするという処分にはなっていない。
- 公務員の顔写真は、職務遂行情報に関して同様の規定を有する他の自治体では、一般に開示になっている。
- 条例第14条第2号が保護しようとしている情報は、個人の氏名及び職業に関する情報のうち、それを公開すれば、私生活に不当な影響が予想される場合や個人の経歴評価について虚像を生みだすなどの場合を想定している。前代未聞の重大事件を受けて行われた検証及び公的な調査を受けて、それに対応した者が誰であるかという情報は、医療機関の責任者及びそれに準じる者として、その職責を以て対応しているのであり、上記のような場合のおそれも認められないことから、開示することにより、個人の正当な権利利益が害されるおそれがある情報には該当しない。
- 本件医師の指定医としての業務を検証することは、精神保健福祉法第19条の4第2項の規定による判定や診察といった公務である。ゆえに、検証を実施した指定医の氏名は条例第14条第2号ただし書ハに該当する。
- 本件医師が開業予定であるということに係る情報は、開業予定年であれ、開業予定先であれ、開示文書にもある厚生労働省からのプレスリリース等によって氏名が公になっている指定医らのうち、1名が医療法第14条の2第1項等の掲示の閲覧や開示請求への決定等により群馬県内で開業していることを確認すれば特定が可能である。
3 法人等事業情報該当性
- 報道や開示文書に明記されている情報によれば、本件医師の勤務先医療機関が○○大に関連する精神保健指定医の指定取消問題(以下、「指定取消問題」という。)に係る不正に関与していないことは、明々白々であるから、当該勤務先医療機関名を知った人が、当該医療機関自体が指定医の違法取得に加担したと判断することは、社会通念上、起こりえない。
- 本件医師が勤務する医療機関において指定医の資格を違法に取得した医師による加療が行われていたことは、れっきとした事実であり、それが公表されても当該医療機関の正当な権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
- 本件医師の勤務先医療機関については、他の自治体で当該情報に相当する情報が開示されてもなお、処分庁の表明するおそれは惹起されていないことから、実際に記載されている情報を公開しても当該医療機関の正当な利益を害するという特段の事情は認められない。
- 指定医の指定を違法、不当に取得した医師による不適切な医療がなされていたという事実のみによって本件医師の勤務先医療機関の社会的評価や社会的信用度の低下につながる可能性については、その因果関係の証明がなく、仮に予想できるとしてもれっきとした事実であり、評価や信用度が低下しても甘受すべきである。
- 本件対象文書は、医療機関を経営する法人が法律上要請されている責任についての報告書であり、精神保健福祉法によって医療機関に要請されている行動を医療機関がどのように果たしているかを知ることは、医療機関の行動によって影響を受ける市民の当然の権利である。
- 本件の情報は、いずれも全ての検証を終えた過去のものであるから、当該検証において確定した最終的な客観的な情報である。
4 その他の主張
- 指定取消問題の重大性を考えたうえで開示非開示の妥当性を検証するためにも、精神医療の強制がどのようなものなのかを御判断いただきたい。そのうえで、本件文書の公的性質の強大性を考慮して非開示情報該当性を御判断いただきたい。
- 指定取消問題では、その専門性がそもそも存在していなかったのであるから、行政は指定を取り消された医師によって身体拘束されていた期間、当該指定医の勤務先医療機関名をはじめとした職歴情報等を把握し、積極的に公表する責務がある。
2 実施機関の主張要旨
1 公文書の特定について
- 本件請求の内容から、本件公文書を、○○医科大学病院における精神保健指定医資格の不正取得に係るすべての文書と特定した。
- 申立人は、「他の自治体と比較して特定された文書が少なすぎるため、対象文書が原処分で特定し尽くされているとは到底考えられない」。「さらに請求対象文書を特定したうえで、請求した情報は、全て開示するとの決定を求める」と主張している。対象公文書については、自治体によって、該当医師の数や在勤期間、精神保健指定医としての業務の状況に差異があるため、他の自治体と比較して特定された文書が少ないからといって、対象公文書が特定し尽くされていないということにはならないと考える。
2 個人情報該当性
- 本件医師の氏名については、厚生労働省発出の報道提供向け資料では既に公表されているため、条例第14条第2号ただし書イに該当し開示と判断したが、本件公文書に記載されている本件医師の氏名については、開示した場合、本件医師の住所地が群馬県であることが開示されてしまうため、条例第14条第2号に該当し非開示と判断した。
- 住所、印影、生年月日、本人写真、指定番号については、本件医師を識別することができる情報であり、条例第14条第2号に該当すると判断した。
- 勤務先医療機関名、郵便番号、住所、電話番号、院長氏名、当該医療機関における採用年月日、常勤、非常勤の別、勤務先医療機関における処分内容は、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができることとなるため、条例第14条第2号に該当すると判断した。
- 事務次長氏名、検証を行った医師氏名、印影、その勤務先医療機関名は、事務次長、検証医師を識別することができる情報であり、条例第14条第2号に該当すると判断した。
- いずれの非開示部分も公にするという法令等の規定はなく、慣行としても公にする情報ではないため、条例第14条第2号ただし書イに該当しないと判断した。
- 本件医師は既に精神保健指定医の資格を取り消され、精神保健指定医としての業務を行っておらず、開示された場合の本件医師への権利利益の侵害の程度が甚だしく、そうまでして開示する特段の公益上の理由は認められないため、条例第14条第2号ただし書ロに該当しないと判断した。
- いずれの非開示部分の個人も公務員等が含まれていないため、条例第14条第2号ただし書ハに該当しないと判断した。
- 本件医師については、精神保健指定医として措置入院に係る診察等、公務にあたる職務を依頼した事実はないため、公務員等には含まれないと判断した。
- 本件医師の今後の開業予定年、開業予定先は、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができるものに当たる。たとえ、特定の個人を識別することができなかったとしても、個人の権利利益を侵害するおそれがある情報であり、条例第14条第2号に該当すると判断した。
3 法人等事業情報該当性
- 本件公文書に記載されている勤務先医療機関名、勤務先医療機関の郵便番号、住所、電話番号、院長氏名、印影は法人等に関する情報であって、公にすることにより風評等、当該医療機関の正当な利益を害するおそれがある情報であり、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため公にすることが必要であると認められる情報ではないため、条例第14条第3号イに該当すると判断した。
- 指定取消問題における本件医師の勤務先医療機関の瑕疵はなく、当該医療機関の権利利益が著しく害されることから、条例第14条第3号ただし書に該当しないと判断した。
4 その他の主張
申立人は、本件非開示部分は条例第16条に該当し、公益上の理由による裁量的開示を行うことを求めると主張している。しかし、本件医師は既に精神保健指定医の資格を取り消され、精神保健指定医としての業務を行っておらず、開示された場合の本件医師及びその勤務先医療機関への権利利益の侵害の程度が甚だしく、そうまでして開示する特段の公益上の理由は認められないと判断した。
第4 争点
1 争点1(本件公文書の特定について)
本件請求に対する公文書の特定が妥当であるか。
2 争点2(非開示情報該当性について)
本件処分で非開示とされた部分が、条例第14条第2号又は同条第3号イに該当するか。
第5 審査会の判断
審査会は、本件事案について審査した結果、次のとおり判断する。
1 争点1(本件公文書の特定について)
(1)本件公文書について
本件公文書は、指定取消問題に関して、実施機関が精神保健関係業務を所管する中で作成又は取得した文書であるが、その内容は次のとおりである。
- 本件公文書1は、指定取消問題の内容を実施機関でまとめたものであり、当該文書には、平成27年4月16日付け厚生労働省社会、援護局障害保健福祉部精神、障害保健課精神医療係の事務連絡が添付されている。
- 本件公文書2は、指定取消問題を受けて、本件医師から返納された精神保健指定医証を、厚生労働省に進達することについて伺った起案文書である。
- 本件公文書3は、本件医師の勤務先医療機関から提出された本件医師に係る指定医業務についての検証結果の報告書を、実施機関で供覧した文書である。
- 本件公文書4は、本件医師が関与した指定医業務に関する調査結果を、厚生労働省に報告することについて伺った起案文書であり、当該文書には平成27年5月22日付け厚生労働省社会、援護局障害保健福祉部精神、障害保健課の事務連絡が添付されている。
- 本件公文書5は、指定取消問題に関して平成27年6月に追加で処分された医師が関与した指定医業務に関する調査結果を、厚生労働省に報告することについて伺った起案文書であり、当該文書には平成27年7月6日付け厚生労働省社会、援護局障害保健福祉部精神、障害保健課の事務連絡及び同年6月17日付け同課精神医療係の事務連絡が添付されている。
- 本件公文書6は、本件医師に対して医師法(昭和23年法律第201号)に基づく行政処分がなされたことを受けて、本件医師の勤務先医療機関から報告された内容を実施機関で供覧した文書である。
(2)本件公文書の特定についての妥当性の判断に当たって
本件請求は、特定の病院に関連する精神保健指定医の指定の取消しに関しての一切の文書を求める趣旨であるところ、申立人は異議申立書において「特定された文書が少なすぎるため、対象文書が原処分で特定し尽くされているとは到底考えられない」と主張しているため、実施機関が行った本件公文書の特定についての妥当性を検討する。なお、当該妥当性の検討に当たっては、申立人が意見書で公文書の存在を主張している内容に沿って、実施機関がそれに該当する公文書を保有しているか否かという観点を中心に判断するものとする。
(3)診療報酬の不正や返還に関する公文書について
本件請求の「開示を請求する公文書の内容又は件名」の欄には、「診療報酬の不正、返還についての情報一切」という記述がある。そのため、指定取消問題に係る診療報酬の不正請求やそれに伴う返還について記された公文書を実施機関が保有しているか否か検討する。
実施機関は、診療報酬の不正請求に対する対応は、都道府県でなく国の権限に属する事務であり、指定取消問題に係る診療報酬の不正や返還に関する公文書を作成も取得もしていないと説明する。
健康保険法(大正11年法律第70号)第73条は、保険診療等の質的向上及び適正化を図ることを目的として、保険医療機関等は療養の給付に関し、保険医等は健康保険の診療等に関し、厚生労働大臣の指導を受けなければならないとされている。また、保険医療機関等の診療内容又は診療報酬の請求について、不正又は著しい不当が疑われる場合等において、的確に事実関係を把握するために、健康保険法第78条では、厚生労働大臣に監査等の権限が付与されている。本件請求は、診療報酬の不正や返還についての文書の開示を求めているものと認められるが、健康保険法に基づく保険医療機関等に対する診療報酬請求の適正性の確認は、前述のとおり国の権限に属する事務とされているものである。
一方、実施機関における本件処分の担当課である障害政策課では、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第58条に基づき自立支援医療費(精神通院医療)を支給するなど、定期的に診療報酬の請求額の支払をしており、当該支払に関する過払い分の過誤調整も行っているところである。そのため、健康保険法に基づく権限の行使以外に診療報酬の不正や返還について検討することは一切無いのか実施機関に確認したところ、自立支援医療(精神通院医療)における受給資格の有無の確認は通常行っているが、精神保健指定医の資格の有無のように、無資格の医療従事者であるか否かを公費の支出者としての立場から確認することは、通常行っていない旨の説明があった。
この点について、自立支援医療(精神通院医療)における支給認定は実施機関が行うものであるため、診療報酬請求における当該認定の有無を実施機関自身が確認することは当然であるが、健康保険法に基づく指導や監査の権限が国に属するものであり、当該指導等が医療従事者の資格の確認も含めて保険医療機関全体の診療内容及び診療報酬請求の適正性の確認を行うものであることを踏まえると、実施機関において本件事案に係る診療報酬の不正や返還に関する公文書を作成も取得もしていないとする実施機関の説明に特段不自然な点は認められない。
なお、実施機関では、厚生労働省から指定取消問題に係る診療報酬の不正や返還についての連絡は一切受けていないということである。
(4)精神保健指定医の報酬等の返還について
申立人は、「神奈川県、横浜市が『報酬の返還を求めるのは法律上難しい』と判断している。群馬県においても、その判断を示す公文書やその判断に至る経緯を示す公文書等を特定すべき」と主張している。そこで、当該公文書が実施機関における事務処理において作成、取得されるものであるか検討する。
精神保健指定医の報酬等については、精神保健指定医の報酬及び費用弁償等に関する条例(昭和25年条例第59号)で定められており、同条例に基づいて、精神保健指定医に対して報酬等の支払をしている。そこで、本件医師に対する同条例に基づく報酬等の支払実績の有無を実施機関に確認したところ、実施機関は「精神科救急業務報告」というリストを作成し、そのリストに報酬等の支払対象となった業務に従事した医師を記載していることから、そのリストを確認すれば本件医師に対する報酬等の支払実績の有無が判明するところ、実施機関において当該リストを確認したが、本件医師を確認できる記載は認められなかったとの説明であった。
そして、当審査会も当該リストの記載を確認したが、本件医師を確認できる記載は認められなかった。
実施機関の説明及び当審査会の調査によれば、同条例に基づく本件医師への支払実績を確認できないところ、支払実績が認められない以上報酬の返還等の検討を行わないのは当然であるから、報酬返還等の検討を行っていないため判断経緯等を記載した文書は存在しない旨の実施機関の説明に不合理な点は認められない。
(5)本件医師に係る医療保護入院の入院届その他の本件医師について記載のある公文書について
申立人は、「指定医としての業務は遂行されていたのであるから、当該指定医の業務の対象者に係る医療保護入院に関連する公文書」を特定すべきと主張している。
ところで、精神保健福祉法第33条第7項は、精神科病院の管理者に対して、医療保護入院に係る患者の症状等を都道府県知事に報告させることを規定しているところ、本件公文書から本件医師が過去に精神保健指定医として医療保護入院に関与したことが確認できることから、実施機関は本件公文書のほかに本件医師について記載のある公文書を保有しているものと考える。そこで、本件医師に係る医療保護入院の入院届その他の本件医師について記載のある公文書であって本件公文書を除くもの(以下、「医療保護入院の入院届等」という。)を本件請求に対する対象公文書として特定すべきか検討する。
本件請求における「開示を請求する公文書の内容又は件名」の欄には、「○○医科大学病院の医師が『精神保健指定医』の資格を不正取得したなどとして指定を取り消された問題があった件に関する情報一切。」とある。そのため、本件請求では指定取消問題に直接の関連性を有する公文書の開示を求めているものと解するのが一般的であると認められる。
ところで、本件事案において実施機関が特定したものは、指定取消問題について厚生労働省からの事務連絡等をまとめたものや、精神保健指定医証の返納について伺った起案文書、本件医師の勤務先医療機関からの検証結果の報告書等であり、いずれも指定取消問題が発覚した後に作成又は取得された文書であって、指定取消問題に直接の関連性を有する公文書であると認められる。
一方、指定取消問題に伴う事務処理において、本件公文書の記載内容からは医療保護入院の入院届等を用いた形跡は認められないことから、事務処理上の観点から、これらの文書が指定取消問題に直接の関連性を有するものと認めることはできないが、例えば、指定取消の原因となった事実の記載が認められるものであれば、直接の関連性を有するものとして特定すべきであると考える。これについて、本件において指定取消の原因となったのは、本件医師が○○医科大学病院勤務当時に資格を不正に取得したことが原因であることから、医療保護入院の入院届等はいずれも指定取消の原因となった事実が記載されているということはない。
さらに、本件請求の「指定を取り消された問題があった件に関する情報」という文言から、本件医師に関連する一切の文書を特定すべきものと判断するためには、当該文書を特定するために、より明確な請求内容の記載が求められるものと解する。
したがって、医療保護入院の入院届等は本件請求の対象とならないとした実施機関の判断は、不当なものではない。
(6)検証に対する報償費について
申立人は「処分を受けた精神保健指定医の判断の当否を検証したことに関する文書のうち、その検証に対する報償費はいくらか、検証に関する情報を記載した公文書が一切特定されていない」と主張する。しかし、実施機関として独自に検証を行っていないこと、それから、本件医師の勤務先医療機関における検証についても、実施機関が当該医療機関に対して当該検証の報酬を支払うような関係とも認められない状況を踏まえると、実施機関が当該医療機関から検証に要した費用等の報告を受けることは想定し難いものであることから、本件公文書以外に検証に関する情報を記載した公文書を作成又は取得していないという実施機関の説明に特段不合理な点は認められない。
(7)本件医師への行政処分について
本件公文書6には、本件医師が医師法第7条第2項に基づく行政処分を受けたことが記されている。医師法第7条第11項は、「厚生労働大臣は、第2項の規定による医業の停止の命令をしようとするときは、都道府県知事に対し、当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行うことを求め、当該弁明の聴取をもつて、厚生労働大臣による弁明の機会の付与に代えることができる。」と規定している。そこで、指定取消問題に係る医師法に基づく行政処分について、実施機関の関与の有無を確認したところ、実施機関は、指定取消問題に関して医師法第7条第11項に基づく弁明の聴取を厚生労働大臣から求められた事実はないと説明する。これについて、医師法第7条第11項の規定からは、都道府県知事による弁明の聴取が必須のものではないことが認められる。また、指定取消問題では、精神保健指定医の指定取消という行政処分が、医師法に基づく行政処分とは別に行われているものであることや、一つの問題事案で多数の者が同時に行政処分を受けているものであることなどを踏まえると、厚生労働大臣が都道府県知事に対して当該事案の弁明の聴取を求めずに、自ら聴取したとしてもおかしくはない。
それから、実施機関は、弁明の聴取の求め以外にも、当該内容について何の連絡も受けていないと説明する。これについて、実施機関が所管する事務において、当該内容を承知しておくべき特段の必要性も認められないことから、当該説明についても不合理な点は認められない。
そのため、当該公文書を保有していないという実施機関の説明に特段不合理な点は認められない。
(8)その他の文書について
申立人は、「『院内倫理委員会等開催状況』によれば、『院長と事務次長で県へ報告』したのであるから、少なくともそれに関する文書があるはず」と主張する。本件公文書3には本件医師の勤務先医療機関の院長名での報告書が添付されているが、ここには、「平成27年4月20日 院長と事務次長で県へ報告」という記載があるため、その際の状況を実施機関に確認したところ、当該医療機関からの報告ということで院長等が来庁したときに、実施機関からは口頭で検証を依頼したが、当該医療機関も実施機関も、その際に文書を授受していないとの説明があった。
また、申立人は、「○○医科大学からの文書が特定されていない」や「○○大から自主返納する旨の文書を収受しているのであれば、対象公文書として特定すべき」と主張するため実施機関に確認したところ、精神保健関係の対外的な窓口である障害政策課ではそのような文書を受けておらず、また、精神医療審査会を所管するこころの健康センターでも受けていないとの説明があった。
これらの説明から、申立人の主張には、実施機関が該当する文書を保有していることを推認するまでの理由があるとは認められない。
(9)条例第30条第4項に基づく検証について
以上のとおり検討したが、実施機関の説明だけでは文書の不存在を推認することができないものもあるため、当審査会は、実施機関に対して条例第30条第4項に基づく調査を実施し、本件公文書の保有の有無を確認するため、障害政策課において公文書の確認を行った。その際、実施機関から、本件処分において一部の文書(「○○医科大学病院の指定医申請に関わった指導医の指定医取消しについて」(平成27年度、登録番号500-9))の特定漏れがあった旨の報告を受けた。そのため、当該公文書は、改めて本件請求の対象として特定すべきものであるが、その余の文書については、本件請求に係る対象として改めて特定すべきものの存在は認められず、また、これを覆すに足る事情も認められない。
(10)まとめ
したがって、「○○医科大学病院の指定医申請に関わった指導医の指定医取消しについて」(平成27年度、登録番号500-9)は、改めて本件請求の対象として特定すべきであるが、その余の文書について本件公文書を除き特定すべきものは認められない。
2 争点2(非開示情報該当性の判断について)
(1)非開示情報該当性の判断に当たって
実施機関は、本件公文書について、別表のとおり非開示とした全ての情報が条例第14条第2号に当たる旨に加えて、本件医師の勤務先医療機関の名称、印影、院長の氏名、郵便番号、住所及び電話番号が条例第14条第3号イにも当たる旨を主張する。
そこで、審査会における非開示情報該当性の判断に当たっては、本件公文書に記載された情報を項目ごとに区分した上で、まず、条例第14条第2号の該当性を判断してから、条例第14条第3号イの該当性についても判断するものとする。
なお、以下で述べる非開示情報該当性の判断にあたっては、審査会は、条例第30条第1項の規定に基づき本件公文書を実際に見分する、いわゆるインカメラ審理を行って審査をしたものである。
(2)本件医師に対する医師法に基づく行政処分に関する情報について
ところで、本件医師は医師法第7条第2項第2号に規定する医業停止処分を受けたことが本件公文書に記されていることから、各項目ごとの非開示情報該当性を判断する前に、その点について述べておくこととする。
当該行政処分について、医師法第30条の2は医師の氏名その他政令で定める事項を公表するものとすると規定し、同法施行令(昭和28年政令第382号)第14条において、医師が戒告又は医業停止の処分を受けた場合で再教育研修を修了していない者について、その処分に関する事項を公表するものとしている。そのため、医師に対する医師法に基づく行政処分に関する情報については、条例第14条第2号ただし書イに該当する情報といえる。ただし、再教育研修を修了した者(医業停止については停止期間の経過及び再教育研修を修了した者)については、公表しないものと同法施行令第14条において明記されていることから、法令の規定に基づき公にされることが予定されているのは、かかる制限の範囲内にとどまると解するべきである。
ところで、本件医師の医業停止期間は平成27年10月15日から1月間であると本件公文書6に記されているところ、本件処分は平成27年10月27日付けであることから、本件処分は本件医師の医業停止期間中に行われたものであると認められる。そのため、本件処分で非開示とされた情報のうち、医師法第30条の2に規定する医師の氏名その他政令で定める事項については、同法の規定により公にされ、又は公にすることが予定されている情報に当たるものであるか判断する必要があるため、以下で述べる項目ごとの判断においては、その点についても考慮するものとする。
(3)本件医師の氏名
本件公文書1ないし4及び本件公文書6には、本件医師の氏名が記されている。
実施機関は、当該情報について「開示した場合当該医師の住所地が群馬県であることが開示されてしまう」として、条例第14条第2号に該当すると主張しているため、その該当性について判断する。
本件公文書1の厚生労働省プレスリリース中の「2 対象者」には本件医師の氏名が記されているが、この厚生労働省のプレスリリースにある本件医師の氏名は、同時に処分された者と一緒に開示されている。ところで、精神保健福祉法施行令(昭和25年政令第155号)第2条の2の4は、指定医がその指定を取り消された場合における指定医証の返納について規定しているものであるが、当該指定医証の返納は、「その住所地の都道府県知事を経由して、厚生労働大臣に指定医証を返納しなければならない」とされている。本件公文書2は、本件医師に係る指定医証の返納について伺った起案文書であるが、ここで本件医師の氏名を開示することは、本件医師が指定医証の返納時に本県に住所を有していたという情報(以下、「居住県名」という。)を氏名と共に明らかにすることを意味するものである。一方、厚生労働省のプレスリリースでは、本件医師も含めて指定医を取り消された者の氏名が列挙されているが、ここからは、どの者が指定医証の返納時に群馬県に住所を有していたか分からない。つまり、厚生労働省のプレスリリース中の氏名の開示と指定医証の返納について伺った起案文書中の氏名の開示は、開示することにより本件医師の個人情報として明らかになる内容に違いがあることが認められる。
また、本件公文書1には、「本籍地である群馬県知事を経由して申請」という記載があるが、これは本件医師が精神保健指定医の指定を受けた際の本籍地が群馬県にあったということが記されている情報(以下、「本籍地のある県名」)であると認められる。そして、当該情報も本件医師の居住県名と同様に、厚生労働省のプレスリリースでは明らかにされていない情報である。
以上のとおり、本件医師の氏名は特定の個人を識別することができる情報であるが、それを開示することにより居住県名等が他の情報と相まって分かる情報でもあるため、その点を踏まえて、以下で条例第14条第2号ただし書の該当性について判断する。
本件医師の氏名は、上記(2)で述べたとおり医師法第30条の2及び同法施行令第14条の規定により公表するものとされている情報であるが、先に述べたとおり、当該情報を開示することによって明らかになる本件医師の居住県名及び本籍地のある県名は、同法に基づいて公表される情報と同じものと認めることはできないことから、当該情報は条例第14条第2号ただし書イに該当しない。
次に、条例第14条第2号ただし書ロ該当性について判断するが、条例第14条第2号ただし書ロの規定は、当該情報を公にすることにより保護される人の生命、健康等の利益と、これを公にしないことにより保護される権利利益とを比較衡量し、前者の利益を保護することの必要性が上回るときにはこれを開示する趣旨である。そこで、本件処分で非開示とされた本件医師の氏名について考えるが、そもそも当該非開示部分を公にすることにより保護される人の生命、健康等の利益を具体的に見出すことができないことから、これらを公にしない利益との比較衡量により人の生命、健康等を保護する利益が優先し、何人にも公にすることが必要であるということはできない。よって、条例第14条第2号ただし書ロに該当しない。
また、申立人は、精神保健指定医が精神保健福祉法第19条の4第2項の規定により特別職の公務員に該当するため、本件医師の氏名を条例第14条第2号ただし書ハにより開示すべきと主張する。しかし、実施機関では、本件医師に対して精神保健指定医として措置入院に係る診察等、公務に該当する職務を依頼した事実はないということであり、審査会が行った条例第30条第4項に基づく実施機関に対する調査においても、そのような記載のある公文書は認められなかったことから、当該情報が条例第14条第2号ただし書ハに該当するものと判断することはできない。
したがって、本件医師の氏名は、条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(4)本件医師の住所、印影、生年月日及び指定番号
本件公文書2には、本件医師の住所、印影、生年月日及び指定番号が記されており、本件公文書3には、本件医師の生年月日が記されている。
実施機関は、当該情報のいずれも「特定の個人を識別することができる」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
これらの情報は、いずれも特定の個人を識別することができる情報であると認められるものである。また、当該情報はいずれも法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とはいえないことから条例第14条第2号ただし書イに該当しない。また、条例第14条第2号ただし書ロの該当性については、上記(3)の判断と同様である。さらに、当該情報のいずれもその性質上、条例第14条第2号ただし書ハにも該当しない。
したがって、本件医師の住所、印影、生年月日及び指定番号は、条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(5)本件医師の写真
本件公文書2には、本件医師の写真が記されている。
実施機関は、当該情報について「特定の個人を識別することができる」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
当該情報は、本件医師の顔が写されている写真であり、特定の個人を識別することができる情報である。次に、条例第14条第2号ただし書の該当性について判断する。当該情報は法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とはいえないことから条例第14条第2号ただし書イに該当しない。また、条例第14条第2号ただし書ロの該当性については、上記(3)の判断と同様である。
次に、条例第14条第2号ただし書ハの該当性について、申立人は、「公務員の顔写真は、職務遂行情報に関して同様の規定を有する他の自治体では、一般に開示になっている」と主張するため、この点について判断する。一般的に、公務員の顔が識別できる写真については、当該写真が、その公務員が担任する具体的な職務の遂行状況を写したものである場合に、そこに写されている顔も含めて条例第14条第2号ただし書ハに該当するものと判断されるものである。ところで、精神保健指定医は、精神保健福祉法第19条の4第2項に規定された職務について「公務員として」行うとされているが、本件公文書2の本件医師の写真は、本件医師の精神保健指定医証の写しであって、これは公務員として担任する具体的な職務の遂行状況を写したものとは認められないものである。そのため、条例第14条第2号ただし書ハに該当しない。
したがって、本件医師の写真は、条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(6)本件医師の勤務先医療機関における採用年月日及び常勤、非常勤の別
本件公文書3には、本件医師の勤務先医療機関における採用年月日が記されており、本件公文書4には、本件医師の勤務先医療機関における常勤、非常勤の別が記されている。
実施機関は、当該情報のいずれも「他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
これらの情報は、いずれも特定の個人を識別することができる情報とは認められないものである。また、個人の人格と密接に関連したり、公にすれば財産権その他の個人の正当な利益を害するおそれがある情報と認められるものでもない。
したがって、本件医師の勤務先医療機関における採用年月日及び常勤、非常勤の別は、条例第14条第2号には該当しないと判断する。
(7)本件医師の勤務先医療機関名
本件公文書1ないし4及び本件公文書6には、本件医師の勤務先医療機関名が記されている。
実施機関は、当該情報を条例第14条第2号及び同条第3号イに該当すると主張しているため、まず条例第14条第2号の該当性について判断した上で、同条第3号イの該当性についても判断するものとする。
本件医師の勤務先医療機関は、比較的中小規模であり、当該医療機関に勤務している医師は数名程度であることが確認できる。そのため、当該医療機関名を開示することにより、本件医師を識別することができる情報であると認められることから、前記(3)で判断した本件医師の氏名と同様に条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
次に、当該情報の条例第14条第3号イの該当性について判断する。申立人は、「報道、発表等や開示文書に明記されている情報によれば、指定医の勤務先病院が○○大指定医問題に係る不正に関与していないことは、明々白々であるから、勤務先病院名を知った人間が、当該精神科病院自体が指定医の違法取得に加担したと判断することは、社会通念上、起こりえない」や「当該病院において指定医の資格を違法に取得した医師による加療が行われていたことは、れっきとした事実であり、それが公表されても当該病院の正当な権利利益を害するおそれがあるとは認められない」と主張する。この点について判断するに、特定の医療機関に勤務する医師が、精神保健指定医の資格を不正取得したとして、当該指定を取り消されたという事実の有無が明らかにされた場合、その資格が当該医療機関に勤務している時点で取得されたものか否かを問わず、当該医療機関が当該指定医の不正取得に加担したのではないかとの憶測や、当該医療機関における医療行為が本件医師以外のものも含めて適切でなかったかのような憶測を呼び、そのような憶測が広く拡散するといった、いわゆる風評被害が発生するなど当該医療機関の社会的信用を低下させるおそれがあることは否定できない。そのため、患者確保の面等において医療機関の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって、本件医師の勤務先医療機関名は、条例第14条第2号及び同条第3号イに該当し、非開示とすることが妥当である。
(8)本件医師の勤務先医療機関についての院長氏名、印影、郵便番号、住所及び電話番号
本件公文書3には、本件医師の勤務先医療機関についての院長氏名及び印影が記されており、本件公文書4には、本件医師の勤務先医療機関についての郵便番号、住所及び電話番号が、本件公文書6には、本件医師の勤務先医療機関についての院長氏名が記されている。
実施機関は、当該情報について、「特定の個人を識別することができる」又は「他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
これらの情報は、いずれも本件医師の勤務先医療機関を識別することができる情報である。本件医師の勤務先医療機関名については、上記(7)で非開示が妥当と判断したことと同様に、本件医師の勤務先医療機関についての院長氏名、印影、郵便番号、住所及び電話番号も、条例第14条第2号及び第3号イに該当し、非開示とすることが妥当である。
(9)検証を行った医師の氏名、印影及び勤務先医療機関名
本件公文書3には、検証を行った医師の氏名、印影及び勤務先医療機関名が記されている。
実施機関は、当該情報のいずれも「特定の個人を識別することができる」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
検証を行った医師の氏名及び印影は、いずれも特定の個人を識別することができる情報であると認められる。
次に、検証を行った医師3名のうち一部は本件医師の勤務先医療機関に勤務する者であることが本件公文書から認められるが、本件医師の勤務先医療機関名は、上記(7)で非開示妥当と判断している。また、それ以外の医療機関に勤務する医師の当該勤務先であるが、比較的中小規模であり、当該医療機関に勤務している医師は数名程度であることが確認できることから、当該医療機関名を開示することにより、検証を行った医師を識別することができる情報であると認められる。
次に、条例第14条第2号ただし書の該当性について判断する。検証を行った医師の氏名、印影及び勤務先医療機関名はいずれも法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とはいえないことから条例第14条第2号ただし書イに該当しない。さらに、条例第14条第2号ただし書ロの該当性については、上記(3)の判断と同様である。
また、申立人は、「当該指定医の指定としての業務を検証することは、精神保健福祉法第19条の4の第2項の規定による判定や診察といった公務である。ゆえに、検証を実施した指定医の氏名はただし書きハに該当する」と主張する。この点について判断するが、本件医師が行った精神保健指定医業務について、適正に判断され行われたか否かの検証は、精神保健福祉法第19条の4第2項に規定する公務員としての職務に該当するものとは認められないものであり、実施機関の判断に不合理な点は認められない。そのため、これらの情報は、いずれも条例第14条第2号ただし書ハに該当しない。
したがって、検証を行った医師の氏名、印影及び勤務先医療機関名は、条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(10)本件医師の勤務先医療機関における事務次長の氏名
本件公文書6には、本件医師の勤務先医療機関における事務次長の氏名が記されている。
実施機関は、当該情報について「特定の個人を識別することができる」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
当該情報は、特定の個人を識別することができる情報であると認められる。また、当該情報は法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とはいえないことから条例第14条第2号ただし書イに該当せず、同条第2号ただし書ロの該当性については、上記(3)の判断と同様である。また、その性質上、同条第2号ただし書ハにも該当しない。
したがって、本件医師の勤務先医療機関における事務次長の氏名は、条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(11)本件医師に対する勤務先医療機関での処分内容
本件公文書6には、本件医師に対する勤務先医療機関での処分内容が記されている。
実施機関は、当該情報について「他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
当該情報は、勤務先医療機関における本件医師に対する処分内容であるが、本件医師の知人、同僚若しくは当該医療機関の関係者又は患者であれば、本件医師を識別することが容易であることを踏まえると、本件医師の氏名等を除いたとしても、当該情報を開示することにより、当該一定の範囲の者には、本件医師が勤務先医療機関から受けた処分の内容を知られる結果となる。そして、勤務先から受けた処分の内容は、通常他人に知られたくないと考えられる情報であって、個人の権利利益を害するおそれがあると認められるものである。また、当該情報は法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とは言えないことから条例第14条第2号ただし書イに該当せず、同条第2号ただし書ロの該当性については、上記(3)の判断と同様である。また、その性質上、同条第2号ただし書ハにも該当しない。
したがって、本件医師に対する勤務先医療機関での処分内容は、条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(12)本件医師の今後の開業予定年及び開業予定先
本件公文書6には、本件医師の今後の開業予定年及び開業予定先が記されている。
実施機関は、当該情報のいずれも「他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる」ことと併せて「個人の権利利益を侵害するおそれがある」と主張しているため、条例第14条第2号の該当性について判断する。
本件医師の開業予定先の市町村における年間の開業届出件数は、おおよそ数件程度に留まる。そのため、本件医師の今後の開業予定先は、特定の個人を識別することができる情報であると認められる。また、開業予定年については、大都市部を除き特定の診療科目にあっては数件程度に絞り込むことができる。そのため、本件医師の今後の開業予定年は、特定の個人を識別することができる情報であると認められる。また、実施機関は当該情報について個人の権利利益を侵害するおそれがあると主張しているため、その点についても判断するが、本件医師の開業予定年及び開業予定先の情報は、精神保健指定医の指定を不正に取得し、当該指定を取り消されたという情報と併せて開示することにより、本件医師が今後診療所等を開業するにあたり、当該個人の財産権を害するおそれがあると認められる。
次に、条例第14条第2号ただし書の該当性について判断する。当該情報は法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とはいえないことから条例第14条第2号ただし書イに該当せず、その性質上、同号ただし書ハにも該当しない。また、条例第14条第2号ただし書ロの該当性については、上記(3)の判断と同様である。
したがって、本件医師の今後の開業予定年及び開業予定先は、条例第14条第2号に該当し、非開示とすることが妥当である。
(13)本件医師の年齢
本件公文書3には、本件医師の年齢が記されている。
当審査会において本件処分で通知した公文書部分開示決定通知書及び申立人に開示したものと同じ状態の公文書の写しを確認したところ、開示した状態の公文書の写しでは本件医師の年齢が非開示とされているにもかかわらず、公文書部分開示決定通知書には当該情報が非開示である旨及び当該情報を開示しない理由の記載が認められなかった。また、この点について、理由説明書においても特段の主張は確認できなかった。
そのため、実施機関による当該情報の非開示情報該当性の判断が不明であることから、審査会は本件事案において当該情報の判断は行わないが、実施機関が他の情報と共に改めて決定し直すときに、当該情報の非開示情報該当性について検討を加えた上で、改めて決定すべきである。
3 結論
以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
なお、申立人はその他種々主張するが、本答申の判断を左右するものではない。
年月日 | 内容 |
---|---|
平成27年12月10日 | 諮問 |
平成28年3月15日 | 実施機関からの理由説明書を受領 |
平成28年4月11日 | 異議申立人から意見書を受領 |
平成28年5月20日 (第52回 第二部会) |
審議(本件事案の概要説明) |
平成28年7月11日 (第53回 第二部会) |
審議(実施機関の口頭説明) |
平成28年9月12日 (第54回 第二部会) |
審議 |
平成28年10月7日 (第55回 第二部会) |
審議 |
平成28年11月17日 (第56回 第二部会) |
審議 |
平成28年12月20日 (第57回 第二部会) |
審議 |
平成29年1月31日 (第58回 第二部会) |
審議 |
平成29年3月22日 | 答申 |
本件公文書の名称 | 非開示部分 | 該当条例 | 非開示理由 |
---|---|---|---|
○○医科大病院における「精神保健指定医」資格の不正取得について | 該当医師の氏名(ただし、厚生労働省発出の報道機関向け資料は除く) | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
○○医科大病院における「精神保健指定医」資格の不正取得について | 勤務病院名 | 条例第14条第2号及び第3号イ該当 | 特定の個人が識別されるため。併せて当該病院の正当な利益を害するおそれがあるため。 |
精神保健指定医証の返納について | 該当医師の住所、氏名、印影、生年月日、指定番号、本人写真 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
精神保健指定医証の返納について | 勤務病院名 | 条例第14条第2号及び第3号イ該当 | 特定の個人が識別されるため。併せて当該病院の正当な利益を害するおそれがあるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る対応について | 該当医師の氏名、生年月日、採用年月日 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る対応について | 検証を行った医師氏名、印影、その勤務病院名 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る対応について | 勤務病院名、院長氏名、印影 | 条例第14条第2号及び第3号イ該当 | 特定の個人が識別されるため。併せて当該病院の正当な利益を害するおそれがあるため。 |
○○医科大学病院に関連する精神保健指定医の指定取消事案を受けた今後の対応について | 該当医師の氏名、常勤、非常勤の別 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
○○医科大学病院に関連する精神保健指定医の指定取消事案を受けた今後の対応について | 勤務病院名、勤務病院の郵便番号、住所、電話番号 | 条例第14条第2号及び第3号イ該当 | 特定の個人が識別されるため。併せて当該病院の正当な利益を害するおそれがあるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る当該医師への行政処分について | 該当医師の氏名 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る当該医師への行政処分について | 勤務病院における処分内容 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る当該医師への行政処分について | 事務次長名 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る当該医師への行政処分について | 勤務病院名、院長名 | 条例第14条第2号及び第3号イ該当 | 特定の個人が識別されるため。併せて当該病院の正当な利益を害するおそれがあるため。 |
「精神保健指定医」不正取得に係る当該医師への行政処分について | 該当医師の今後の開業予定年、開業予定先 | 条例第14条第2号該当 | 特定の個人が識別されるため。併せて個人の権利利益を侵害するおそれがあるため。 |