本文
公文書開示審査会答申第126号
第1 審査会の結論
群馬県警察本部長の決定は妥当であり、取り消す必要はない。
第2 諮問事案の概要
1 公文書開示請求
審査請求人(以下「請求人」という。)は、群馬県情報公開条例(以下「条例」という。)第11条の規定に基づき、群馬県警察本部長(以下「実施機関」という。)に対し、平成22年7月15日付けで、「警察署協議会委員、同会長会の委員が分かる文書(最新のもの)」の開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 実施機関の決定
実施機関は、平成22年7月28日、本件請求に係る公文書を「警察署協議会委員、同会長会の委員が分かる文書(最新のもの)」であると判断し、「警察署協議会委員名簿平成22年6月10日現在」(以下「本件公文書1」という。)及び「警察署協議会会長名簿平成21年11月12日現在」(以下「本件公文書2」という。)を特定し、公文書部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、本件公文書1及び本件公文書2(以下「本件公文書」という。)を一部開示しない理由を次のとおり付して、請求人に通知した。
○条例第14条第2号該当
〔開示しない部分の概要〕
本件公文書1のうち、年齢、住所、職業・役職等
本件公文書2のうち、年齢、職業・役職等
〔理由〕
個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができる情報を含む。)又は、公にすることにより、個人の権利利益を侵害するおそれがあるため
〔開示しない部分の概要〕
本件公文書1のうち、推薦者
〔理由〕
それぞれの委員が、いずれの推薦者の推薦を受けているかということは、当該委員の個人に関する情報であり、公にすることにより個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあるため
○条例第14条第6号該当
〔開示しない部分の概要〕
本件公文書1のうち、推薦者
〔理由〕
公にすることにより、今後の警察署協議会委員の選任事務等に支障を及ぼすおそれがあるため
3 審査請求
請求人は、行政不服審査法第5条の規定に基づき、平成22年8月24日付けで、本件処分を不服として群馬県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対し審査請求を行った。
4 諮問
諮問庁は条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して、平成22年9月29日、本件審査請求事案(以下「本件事案」という。)の諮問を行った。
第3 争点
1 争点1(条例第14条第2号該当性について)
本件公文書で非開示とされた部分が、条例第14条第2号に該当するか。
2 争点2(条例第14条第6号該当性について)
本件公文書1で非開示とされた部分のうち「推薦者」が、条例第14条第6号に該当するか。
第4 争点に対する当事者の主張
1 請求人の主張要旨
警察署協議会委員は「地域住民の要望意見を警察署長に伝達する任務」を持ち、公金から報酬も支払われており地域住民が同委員の連絡先等の最低限度の情報を知る権利は当然であり、同委員も地域住民に周知されることを前提に任務を引き受けているのであり、「年齢、住所、職業・役職等」を開示しない理由はない。また、警察署協議会長は、公開されることを前提に任務を引き受けているのであり、「年齢、職業・役職等」を開示しない理由はない。
本件公文書には、電話番号等の連絡先が無いようであるが、連絡方法が全て郵送等の文書ということは考え難く「電話番号等の連絡先」の情報も実施機関では保有している筈でありこれを開示しない理由もない。
2 諮問庁の主張要旨
(1)条例第14条第2号該当性
ア 委員の年齢、住所、職業・役職等
本件公文書の「年齢、住所、職業・役職等」については、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができる情報を含む。)又は公にすることにより、個人の権利利益を侵害するおそれがある情報であり、条例第14条第2号本文に該当する。
同号ただし書ハの該当性については、公務員の個人情報が全て例外的に公とされる情報であると規定しているものではなく、本来個人情報として非開示とすべきところ、公務員として担う職責、すなわち説明責任を果たすという目的から、担任する職務を遂行する場合における当該職務遂行に関する情報については公にするという条例の制定趣旨なのである。このような制定趣旨を踏まえて本件公文書を検討すると、住所等は、委員の職務遂行の内容とは何ら関係する情報ではないことから条例第14条第2号ただし書ハには該当しない。
よって、委員の住所等は、条例第14条第2号本文に該当し、同号ただし書ハには該当しないことから非開示が妥当である。
イ 委員の推薦者
本件公文書1の「推薦者」とは、群馬県警察署協議会委員の委嘱に関する規程(以下「委嘱規程」という。)第2条第2項第3号に基づき警察署長に対し、委員の推薦等を行った自治会等である。
委員の「推薦者」については、委員個人の情報であって、委員によっては、その推薦等の経緯自体が知られたくない情報であるところ、個々具体的に委員ごとにその部分を開示としたり非開示としたりすることは妥当ではなく、公にすることにより、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある情報である。また、委員の推薦者は、委員の職務遂行の内容には何ら関係する情報ではなく、委員の住所等と同様に公開することに公益性は認められないことから、条例第14条第2号本文に該当し、同号ただし書ハには該当しないことから非開示が妥当である。
(2)条例第14条第6号該当性
本件公文書1の「推薦者」については、公にすることにより、実施機関に対して恨みや敵意を持つ者が、委員の推薦に介入するなどして、推薦者に圧力を加えたり、警察への協力を拒ませるなどの工作が行われた場合には、推薦者による適切な人物の推薦を得ることが困難になるなど、今後の委員の選任事務等に支障を及ぼすおそれがある。また、委員個人に対しても警察業務に対する妨害行為が行われた場合には、今後、協議会への委員の協力を得ることが困難になることや、協議会において警察業務への意見・要望等に影響を生じるなど、同協議会の運営等に支障が生じるおそれもあることから、条例第14条第6号に該当し非開示と判断したものである。
第5 審査会の判断
当審査会は、本件事案について審査した結果、次のとおり判断する。
1 本件公文書の特定について
実施機関が特定した本件公文書1には、番号、所属、氏名、年齢、住所、職業・役職等、推薦者、性別及び備考欄の各欄に警察署協議会委員に係る所要の記載があり、本件公文書2には、番号、所属、氏名、年齢、職業・役職等、性別、新再任別、備考欄の各欄に警察署協議会会長に係る所要の記載がある。
請求人は、審査請求書及び意見書において、本件公文書には電話番号等の連絡先が無いようであるが、電話番号等の連絡先の情報も実施機関では保有している筈でありこれを開示しない理由はない旨主張する。これに対して、諮問庁は、開示請求書の「開示を請求する公文書の内容又は件名」欄(以下「件名欄」という。)には、「警察署協議会委員、同会長会の委員が分かる文書(最新のもの)」と記載されており、委員の電話番号が請求の対象とされていないと主張する。
当審査会は、本件開示請求書の件名欄に記載された請求内容の解釈及び対象公文書の特定について、その妥当性を検討したところ、実施機関は本件公文書を特定するに当たり、件名欄に「警察署協議会委員、同会長会の委員が分かる文書(最新のもの)」と記載されていたことから、委員の氏名、年齢、住所等が記載された本件公文書を特定したものであり、その記載内容から解釈すれば、実施機関の判断が合理性を欠いていたとはいえない。
したがって、実施機関による本件開示請求書の件名欄の解釈及び対象公文書の特定については、誤りはないものと認められる。
2 争点1(条例第14条第2号該当性)
請求人は、警察署協議会委員は「地域住民の要望意見を警察署長に伝達する任務」を持ち、公金から報酬も支払われており、協議会委員及び会長は地域住民に周知されることを前提に任務を引き受けているのであり、「年齢、住所、職業・役職等」を開示しない理由はないと主張する。
本件公文書の記載内容は、前記1のとおり全体として警察署協議会委員及び会長の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものと認められる。
このうち、実施機関は、年齢、住所、職業・役職等、推薦者の各欄の記載(以下「本件非開示情報」という。)を非開示とし、その余の各欄の記載を開示とした。
条例第14条第2号は、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものについては、同号ただし書に該当する情報を除き、非開示情報と規定していることから、本件非開示情報の同号ただし書該当性について検討する。
(1)条例第14条第2号ただし書イ及びロ該当性
警察署協議会は、警察法第53条の2第2項において、警察署の管轄区域内における警察の事務の処理に関し、警察署長の諮問に応ずるとともに、警察署長に対して意見を述べる機関とされており、同条第4項では、警察署協議会の設置、その委員の定数、任期その他警察署協議会に関し必要な事項は条例(警察署協議会の議事の手続にあっては、都道府県公安委員会規則)で定めるとされている。群馬県においては、群馬県警察署協議会条例及び群馬県警察署協議会運営規則を定め、警察署協議会委員の委嘱に関し必要な事項については委嘱規程を定めているが、警察署協議会委員が地域住民の要望意見を警察署長に伝達する任務を持ち、氏名のほか本件非開示情報について地域住民に周知されることを前提として任務を課すとする法令等の規定はない。さらに、当審査会では、本件事案についての説明を諮問庁及び実施機関から受けたが、警察署協議会委員については、委員個人の日常生活を通じて地域住民と関わり合う範囲で、日頃思っていること、感じたことなどを警察署協議会の場において述べるにとどまるものであり、地域住民に周知されることを前提として任務を課せられているものでも引き受けているものでもないとの説明に不自然な点は認められなかった。
また、諮問庁は、群馬県公安委員会ホームページの各協議会の開催結果の中で、各協議会委員及び会長の氏名の姓については慣行として公表しているが、本件非開示情報については公表しておらず、本件非開示情報を公にすべきものとする法令等の規定もない。
したがって、本件非開示情報については、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とは認められないことから、本号ただし書イに該当しない。また、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であるものとも認められないことから、本号ただし書ロにも該当しない。
(2)条例第14条第2号ただし書ハ該当性
警察署協議会の委員は、警察法第53条の2第3項において、都道府県公安委員会が委嘱するとされており、群馬県警察署協議会の委員については、委嘱規程に基づき、警察署長の推薦を受けた被推薦者の中から、群馬県公安委員会が委嘱するものであり、地方公務員法第3条第3項第2号に定める非常勤の特別職の地方公務員である。
条例第14条第2号ただし書ハでは、職務遂行に係る公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分については開示しなければならないことを定めており、実施機関は、群馬県警察署協議会委員が特別職の地方公務員であることから、各協議会委員及び会長の所属及び氏名等を開示しているが、上記(1)で述べたとおり、警察署協議会は警察署長の諮問に応じ、警察署長に対して意見を述べる機関であって、地域住民の要望意見を警察署長に伝達する任務を負うものではなく、本件非開示情報を住民に周知することは予定されていない。
したがって、本件非開示情報については、警察署協議会委員及び会長としての具体的な職務の遂行と直接の関連を有するものではなく、公務員等の職務遂行に係る情報であるとは認められないことから、本号ただし書ハに該当しない。
3 争点2(条例第14条第6号該当性)
前記2(1)及び(2)で述べたとおり、本件非開示情報は、条例第14条第2号に該当し、同号ただし書イ、ロ及びハのいずれにも該当しないと認められるため、同条第6号該当性について判断するまでもなく、実施機関が非開示としたことは妥当である。
4 結論
以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
なお、請求人はその他種々主張するが、本答申の判断を左右するものではない。
第6 審査の経過
当審査会の処理経過は、以下のとおりである。
年月日 |
内容 |
---|---|
平成22年9月29日 |
諮問 |
平成22年11月8日 |
諮問庁からの理由説明書を受領 |
平成23年1月5日 |
審査請求人からの意見書を受領 |
平成23年3月7日 |
審議(本件事案の概要説明) |
平成23年4月19日 |
審議(諮問庁及び実施機関の口頭説明) |
平成23年5月23日 |
審議(審査請求人の口頭陳述) |
平成23年7月5日 |
審議 |
平成23年8月24日 |
審議 |
平成23年9月30日 |
審議 |
平成23年10月7日 | 答申 |