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公文書開示審査会答申第139号
「群馬県立○○○○センター(以下甲という)の看護職員ら(以下乙という)が、甲に於いて当直・日直勤務中に、甲の外来患者(以下丙という)の電話対応業務(以下当該業務という)を、丙が乙宛に架電した際に要求しても、その際乙が当該業務以外の用・業務があって当該業務を即座にできない場合、乙の手の空いたときに丙に乙から折り返し架電しなくてもよい、又はしてはならない、という内容」外8件の公文書不存在決定に対する異議申立て
群馬県公文書開示審査会 第二部会
第1 審査会の結論
群馬県知事が行った決定は妥当であり、取り消す必要はない。
第2 諮問事案の概要
1 公文書開示請求
異議申立人(以下「申立人」という。)は、群馬県情報公開条例(平成12年群馬県条例第83号。以下「条例」という。)第11条の規定に基づき、群馬県知事(以下「実施機関」という。)に対し、別表の(あ)欄に記載の年月日付けで、別表の(い)欄に記載の開示請求(以下「本件各請求」という。)を行った。
2 実施機関の決定
実施機関は、別表の(う)欄に記載の年月日に、本件各請求に係る公文書について存在しないことを確認し、別表の(え)欄に記載の決定(以下「本件各処分」という。)を行い、不存在の理由を次のとおり付して、申立人に通知した。
(不存在の理由)
当該請求に係る文書は保有していないため
3 異議申立て
申立人は、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定に基づき、平成25年12月8日付けで本件各処分を不服として実施機関に対し異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
4 諮問
実施機関は条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して平成25年12月25日、本件異議申立て事案の諮問(以下「本件事案」という。)を行った。
第3 争点(本件各請求に係る公文書の公文書不存在決定について)
本件各請求に係る公文書を不存在とした実施機関の決定は妥当であるか。
第4 争点に対する当事者の主張
1 申立人の主張要旨
(1)条例第14条第2号イ違反である。
(2)昭和35年7月20日の最高裁大法廷の判例では、憲法第11条、13条、21条等を根拠として、人権を抑圧してくる公務員を侮辱、罵倒、非難することは合憲であるという結果が出ている。また、申立人は憲法第16条をもとに損害の救済を求めているわけである。
(3)群馬県立○○○○センター(以下「センター」という。)は公立病院であり、したがってそこの職員も公務員なのであり、上記の判例が適用される。申立人が職員を非難していることをもって当該職員が電話を勝手に切ったりするのは明らかに憲法違反である。
(4)群馬県の内規では、群馬県の機関にかかってきた電話は勝手に切ってはならないのであり、当該職員は内規違反も恒常的に犯している。
(5)職員の都合で外来患者からの電話に出られないのなら、慣習で折り返し架電してきた当該患者に電話をかけ直すべきである。
(6)外来患者の看護職員に対する薬の相談を医師職員にたらい回しにするのは常套手段であり、外来患者に対する奉仕にもなっておらず、憲法第15条違反である。
(7)今回の請求で実施機関がしたことは、群馬県の内務規定違反、地方公務員法でいう職権濫用罪、怠業罪及び憲法違反にあたるため、本件請求及び意見書で名指ししている職員は処罰されるべきである。
(8)これら不法行為は各職員の独断でできるわけがなく、この不法行為を行うという共同謀議した公文書があるはずである。
2 実施機関の主張要旨
地方公務員であるセンター職員は、地方公務員法その他の法令を遵守すべき義務があり、地方公務員法に定められた服務に関する規定に反する行為の他、その他具体的に「切電してよい、又はしなければならない」とか「相談を受けてもまともに答えなくてもよい、又は答えてはならない」などの趣旨の公文書を作成または取得することはない。また、センターの職員は、外来患者に対して「法令に違反するような対応」を行っていない。
したがって、当該請求に係る公文書は、作成または取得しておらず、保有もしていないため、不存在としたものである。
第5 審査会の判断
1 争点(本件各請求に係る公文書の公文書不存在決定について)
(1)申立人は、大要、「センターの職員が群馬県の内務規定違反、地方公務員法でいう職権濫用罪、怠業罪及び憲法違反をしたため、この不法行為を行うという共同謀議した公文書があるはずである」と主張している。一方、実施機関は、「地方公務員であるセンター職員は、地方公務員法その他の法令を遵守すべき義務があり、地方公務員法に定められた服務に関する規定に反する行為の他、その他具体的に「切電してよい、又はしなければならない」などの趣旨の公文書を作成または取得することはない」として、「当該請求に係る公文書は、作成または取得しておらず、保有もしていない」と主張する。
(2)そこで、本件各請求に係る公文書が実施機関における事務処理において作成・取得されたか否かを検討する。
申立人は「当該職員の都合でセンターの外来患者からの電話に出られないのなら、慣習で折り返し架電してきた当該患者に電話をかけ直すべき」や、「群馬県の機関にかかってきた電話は勝手に切ってはならない」と主張している。そのため、これら電話対応に関してセンター職員に確認したところ、「業務の円滑な遂行を考慮したうえで対応をしている」ということであった。もっとも、電話対応などは臨機応変に対応することも求められるものであるため、「センターでは、これらの運用についての文書は作成していない」という実施機関の説明にも特段不合理な点は認められない。
(3)さらに、実施機関における一般職に属するすべての地方公務員は地方公務員法(昭和25年法律第261号)の適用を受けるが、同法第32条には法令等及び上司の職務上の命令に従う義務が定められている。また、医療法(昭和23年法律第205号)第1条の4第2項には、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」と規定されている。センターは地方公共団体の一機関であり医療機関でもあるため、職員がこれらの法令に従うのは当然のことであるが、そもそも一般的に公的機関の職員が不法行為その他の信用を失墜するような行為を「行ってよい又は行わなければならない」という趣旨の公文書を作成及び取得することは通常想定し難いことである。そのため、本件各請求に係る公文書は存在しないとする実施機関の説明に特段の不自然な点は認められない。
その他、申立人は「各職員の独断でできるわけがなく、この不法行為を行うという共同謀議した公文書があるはずである」と主張するが、この主張は実施機関が本件各請求に係る公文書を作成・取得したものと言うには根拠に乏しいものである。
(4)したがって、本件各請求に係る公文書を不存在とする実施機関の判断は妥当であると認められる。
2 結論
以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
なお、申立人は異議申立書において、本件各処分は条例第14条第2号イに違反すると主張する。しかし、同規定は個人識別情報であっても一般に公にされている情報については、あえて非開示情報として保護する必要性に乏しいものと考えられることから、ただし書により、本号の非開示情報から除くこととしたものである。そのため、本件各請求に係る公文書は不存在であるという実施機関の判断が妥当である以上、本件各請求に係る公文書が存在することを前提とした申立人の当該主張は是認することはできない。
また、申立人はその他種々主張するが、本答申の判断を左右するものではない。
第6 審査の経過
当審査会の処理経過は、以下のとおりである。
年月日 | 内容 |
---|---|
平成25年12月25日 | 諮問 |
平成26年2月20日 | 実施機関からの理由説明書を受領 |
平成26年3月17日 | 異議申立人からの意見書を受領 |
平成26年5月30日 (第39回 第二部会) |
審議(本件事案の概要説明) |
平成26年7月29日 (第40回 第二部会) |
審議(実施機関の口頭説明) |
平成26年9月24日 (第41回 第二部会) |
審議 |
平成26年10月14日 | 答申 |
項番 | (あ) 請求年月日 |
(い) 開示を請求する公文書の内容又は件名 |
(う) 決定年月日 |
(え) 決定 |
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1 | 平成25年11月5日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○・○○○○看護職員ら(以下乙という)が、甲に於いて当直・日直勤務中に、甲の外来患者(以下丙という)の電話対応業務(以下当該業務という)を、丙が乙宛に架電した際に要求しても、その際乙が当該業務以外の用・業務があって当該業務を即座にできない場合、乙の手の空いたときに丙に乙から折り返し架電しなくてもよい、又はしてはならない、という内容 | 平成25年11月13日 | 公文書不存在決定 |
2 | 平成25年11月7日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○医師職員(以下乙という)が、甲において乙が日直・当直勤務中に甲の外来患者に対して折り返しの電話をしなくてよい、という指示(以下丙という)を甲の看護職員に出してよい、又は出さなければならない、及び、甲の看護職員(○○○○を含む)が平成25年9月9日の甲の院長による公文書不存在決定に逆らって丙に従ってよい、又は従わなくてはならない、という内容。 | 平成25年11月13日 | 公文書不存在決定 |
3 | 平成25年11月8日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○○医師職員(以下乙という)が、甲において乙が勤務中に乙が主治医である外来患者に対して折り返しの電話をしなくてよい、という指示(以下丙という)を甲の看護職員に出してよい、又は出さなければならない、及び、甲の看護職員(○○○○○を含む)が丙に従ってよい、又は従わなくてはならない、という内容。 | 平成25年11月19日 | 公文書不存在決定 |
4 | 平成25年11月12日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○○・○○○○○看護職員ら(以下乙という)が甲で当直・日直勤務中に甲の外来患者から電話で甲の医師職員が処方した薬について相談を受けてもまともに答えなくてもいい、又は答えてはならない、及び前述の答えに乙が窮したら、乙は甲の医師職員の責任にしてよい、又はしなければならない、という内容 | 平成25年11月19日 | 公文書不存在決定 |
5 | 平成25年11月15日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○・○○○○看護職員ら(以下乙という)が甲で当直・日直勤務中に主治医が甲の○○○○○(以下丙という)の外来患者から電話で丙が処方した薬について相談を受けてもまともに答えなくてもいい、又は答えてはならない、及び前述の答えに乙が窮したら、乙は丙にたらい回しにしてよい、又はしなければならない、という内容 | 平成25年11月25日 | 公文書不存在決定 |
6 | 平成25年11月15日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○・○○○○看護職員ら(以下乙という)が甲で当直・日直勤務中に主治医が甲の○○○○○の外来患者(以下丙という)から電話で相談を受けた際、憲法違反(例:第13・16条違反)の対応を丙に対してしてよい、又はしなければならない、及びその対応を丙が受け入れなかったら、乙は切電してよい、又はしなければならない、という内容 | 平成25年11月25日 | 公文書不存在決定 |
7 | 平成25年11月20日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○○医師職員(以下乙という)が、乙が主治医である外来患者が甲の職員(○○○○を含む。以下当該職員という)に当該職員が当直・日直勤務時間に電話した際、群馬県職員の内規を破って当該職員が勝手に切電してよい、又はしなければならないという指示を当該職員に出してよい、又は出さなければならない、という内容。 | 平成25年12月2日 | 公文書不存在決定 |
8 | 平成25年11月21日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○○医師職員(以下乙という)が、乙が主治医である外来患者が甲の職員(○○○○・○○○○を含む。以下当該職員という)に当該職員が当直・日直勤務時間に電話した際、群馬県職員の内規を破って当該職員が勝手に切電してよい、又はしなければならないという指示を当該職員に出してよい、又は出さなければならない、という内容。 | 平成25年12月2日 | 公文書不存在決定 |
9 | 平成25年11月24日 | 群馬県立○○○○センター(以下甲という)の○○○○○医師職員(以下乙という)が、乙が主治医である外来患者が甲の職員(○○○○・○○○○・○○○○を含む。以下当該職員という)に当該職員が当直・日直勤務時間に電話した際、群馬県職員の内規を破って当該職員が勝手に切電してよい、又はしなければならないという指示を当該職員に出してよい、又は出さなければならない、という内容。 | 平成25年12月2日 | 公文書不存在決定 |