本文
公文書開示審査会答申第79号
○○市デイサービスセンターにおける利用者死亡に至る介護事故について
(1)平成13年度以降、社会福祉法人△△△運営の事業所等に対する実地指導に対して、同法人が提出した改善結果報告書
(2)平成13年度以降、社会福祉法人△△△運営の事業所等に対する実施指導に対して同法人が提出した改善結果報告書に係る挙証書類の部分開示決定に対する異議申立てに係る答申書
群馬県公文書開示審査会
第一部会
第1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、改善結果報告書についてはすべて開示すべきである。
また、挙証書類について、別表に掲げるものを除き開示すべきである。
第2 諮問事案の概要
1 公文書開示請求
異議申立人(以下「申立人」という。)は、群馬県情報公開条例(以下「条例」という。)第11条の規定に基づき、群馬県知事(以下「実施機関」という。)に対し、平成16年12月22日付けで、「○○市デイサービスセンターにおける利用者死亡に至る介護事件について平成13年度以降、社会福祉法人△△△運営の事業所等に対する実施指導結果等のうち苦情申立書等に関連したもの。及び同法人等提出の改善結果報告書並びに挙証書類等(前回開示の書面等で非開示部分が前回と同一である場合にはこれを除く。また、比較可能な他の一般的指導結果通知事例及び本指導等に係る背景、経過等を表わす書面等を添付すること)」の開示請求を行った。
なお、改善結果報告書は、これ以降「改善報告書」という。
2 実施機関の決定
実施機関は、平成17年1月11日、本件請求に対応する公文書を「平成14年度実施の特別養護老人ホーム△△△に係る監査結果通知に対する改善報告書及び挙証書類」(以下「本件公文書1」という。)、「平成15年2月5日実施の△△△居宅介護支援事業所及び△△△デイサービスセンターに係る実地調査結果に対する改善報告書及び挙証書類」(以下「本件公文書2」という。)であると判断し、条例第14条第3号イに該当する情報が含まれていることを理由として、部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、本件公文書1及び2(以下「本件公文書」という。)を一部開示しない理由を次のとおり付して、申立人に通知した。
条例第14条第3号イ該当
競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため。
3 異議申立て
申立人は、行政不服審査法第6条の規定に基づき、平成17年3月14日、本件処分を不服として実施機関に対し異議申立てを行った。
4 諮問
実施機関は条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して、平成17年3月31日、本件異議申立て事案の諮問(以下「本件事案」という。)を行った。
第3 争点
争点(条例第14条第3号イ等該当性)
本件公文書に記載された情報(挙証書類に関しては文書名を含む)が、条例第14条第3号イその他の非開示情報に該当するか。
第4 争点に対する当事者の主張
争点(条例第14条第3号イ等該当性)
(1)申立人の主張
ア 本件指導の内容により、実施機関が当該法人の不正の揉み消しを図った事実が明らかになっている。また、指導の結果及び改善報告書の内容については、(老発479号平成12年5月12日付 厚生省老人保健福祉局長通知で)「そのサービス事業者の事業活動区域に所在する市町村(保険者)への情報提供を行う」とうたっているが、市町村への情報提供が全く行われておらず、当該不正の隠蔽を図る意図は明らかであり、速やかに開示されるべきである。
イ 本件公文書は、改善報告書であり、改善内容が明確に記されている。従って、現在も適正とはいえない運営がなされているかのような誤解を生じさせる恐れはありえない。また、指摘事項等に認められる不正は既に明らかであり、改善内容の記述について、同法人による虚偽あるいは不実の記載があるならば、その事実を確認して相応の処分が必要である。
ウ 不正受給の隠蔽と揉み消しが、法人との信頼関係の持続に必要であるとする実施機関の主張は論外というも愚かであり、すべてを開示して事実を明らかにすることが、双方にとって緊張関係を保つことであり、法令順守の遂行に繋がるものである。
エ 本件指導等についての着眼点及び主眼事項について、それらの規定違反に対する改善内容が明らかとなることが、競争上の地位その他正当な利益を害するものとは考えられない。
オ 関係法令順守と適正な介護給付を指導監督するべき立場でありながら、法令違反の事実を揉み消し不正を隠蔽した者が、不当な条例の適用を再度主張するべきではない。
カ 前回の答申(答申第55号等)において、次のとおりの付帯意見が記されている。
「指導結果の通知及び改善報告の内容について、・・・・・・できる限り利用者保護の観点から開示を行う」旨が明記されている。したがって、現時点において・・・開示することは・・・難しいとしても・・・法人ごとの指導結果の通知及び改善報告書の内容について公表する方法を検討するなど必要な措置を講じられたい」
保険者への通知も行われず、指導結果等が不正の隠蔽を意図することが明らかである現時点においては、当該答申の趣旨に沿った開示が相当である。
キ 公文書開示審査会において、介護保健施設の指導監査について(老発第479号平成12年5月12日付 厚生省老人保健福祉局長通知)等に関して錯誤が存在する。
(2)実施機関の主張
【公文書1】
指導監査結果通知は、社会福祉法人及び当該法人が運営する社会福祉施設の事業活動について関係法令及び厚生労働省通知等を踏まえ、改善を要する事項を文書により通知し改善指導するものであり、それに対し、同法人は、指導監査結果通知の指摘事項に沿って、改善状況の報告を行っている。また、改善報告書を裏付ける資料として、挙証書類を添付している。
具体的に内容を検討したところ、改善報告書には、指摘事項とそれに対する「改善結果と今後の措置」及び「改善(予定)年月日」が含まれており、群馬県公文書開示審査会答申(平成16年12月13日付答申第55号等)の中で述べられているように、指摘文言のみから安易に評価されると法人及び施設に関する社会的信用・信頼を不当に低下させ、その正当な利益を損なうおそれが強いと判断せざるを得ないものであった。
また、挙証書類についても、開示することにより、指摘した事項が類推されるおそれがあることから、同様の判断を行ったものである。
このため本件公文書は、条例第14条第3号イに規定する「公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報」である。
【公文書2】
実地調査は、良質かつ適切な福祉サービスの提供を支援するため必要に応じ実施するものである。実地調査結果通知は、指導監査結果と同様、当該施設の事業活動について、指導、育成面から是正・改善を要する事項を文書により通知するものであり、それに対し、同事業所は、指導監査結果通知の指摘事項に沿って、改善状況の報告を行っている。
具体的に内容を検討したところ、上記公文書1と同様に、これら指摘文面のみから安易に評価されると事業所及び法人に関する社会的信頼を不当に低下させ、その正当な利益を損なうおそれが強いと判断せざるを得ないものであった。
このため本件公文書は、条例第14条第3号イに規定する「公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報」である。
【挙証書類全般】
答申第55号・第56号は、指導監査結果通知についての判断であるが、改善結果報告及び挙証書類は、指導監査結果通知に対する往復文書であり、非開示情報の判断基準が同一でなければ、その整合性が図れないものであると判断したものであり、改善報告書に添付された「挙証書類」を開示することは、答申の趣旨に反し、法人の利益を害することとなるものである。
当該答申は、「改善報告書」について判断したものではないが、「指導監査結果通知」と「改善報告書」は往復文書であり、公文書開示に係る開示・非開示情報の判断の整合性を考慮すると、「『改善報告書』は非開示である」と判断することの蓋然性は高く、実際、当然に「『改善報告書』は非開示である」と認識していたものである。
よって、「改善報告書」が提出された時点において、法人・事業者は、「改善報告書」及び挙証書類について、公にされないと認識していたことから、挙証書類のうち、通例として公にされていないようないわゆる「内部管理情報」は、条例第14条第3号ロに規定する、「公にしないとの条件で任意に提出されたものであって、通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付すことが、情報の内容、当時の状況から照らして合理的であると認められるもの」に該当するものであり、法人・事業者の県に対する信頼は保護されなければならないと判断している。
挙証書類は、指導監査結果通知に対する改善報告書の内容を裏付けるために添付されたものであるが、「開示請求により開示される」という法人・事業者側認識がなかった(非開示であると認識していた)状況のもとでは、指導監査の趣旨以外に使用される場合が十分に想定され、それにより法人・事業者が不当な批判を受けることが明らかな情報は、極めて慎重な取扱いが必要である。
【挙証書類の内重要事項説明書】
従業員(生活相談員)の氏名が記載されており、条例第14条第2号に該当する。
【挙証書類の内「資金収支計算内訳表」及び「事業活動内訳表」】
計算書類(決算書)の開示については、社会福祉法第44条第4項に規定されており、事業報告書、財産目録、貸借対照表及び収支計算書(資金収支計算書及び事業活動収支計算書)は閲覧に供しなければならないとされている。
計算書類の作成に当たっては、ほかに、資金収支内訳表、事業活動収支内訳表及び決算付属明細表の作成が義務づけられているが、「社会福祉法人の認可について」(平成12年12月1日 厚生省大臣官房障害保健福祉部長ほか連名通知)別紙1 第35(2)により、「資金収支計算書に付属する資金収支内訳表及び事業活動収支計算書に付属する事業活動収支内訳表についても併せて開示することが望ましいこと。」とされており、資金収支内訳表及び事業活動収支内訳表についても閲覧に供することができる体制をとっておくことが望ましいとされている。
本県では、事業報告書、財産目録、貸借対照表及び収支計算書(資金収支計算書及び事業活動収支計算書)が閲覧できる体制が整っていない場合には、文書による改善報告を求めているが、資金収支内訳表や事業活動収支内訳表が閲覧できる体制になっていない場合は、閲覧できる体制を取ることが望ましいことを口頭で伝える程度で、基本的には法人の判断に委ねているところである。
よって、社会福祉法第44条第4項に該当するものは、貸借対照表、資金収支計算書及び事業活動収支計算書であり、資金収支内訳表及び事業活動収支内訳表は含まないと判断しているところである。
資金収支計算内訳表及び事業活動内訳表には、例えば、職員俸給、職員諸手当等の金額まで記載されており、法人がどの様な経費にいくら使っているかが一目で判明してしまうものであり、上記で示したように開示すべき義務がないので、内部管理情報の要素が極めて強いといえる。
本来、会計に関する指導監査は、社会福祉法人の認可等の適正化並びに社会福祉法人及び社会福祉施設に対する指導監査の徹底について(平成13年7月23日社援発第1275号ほか連名通知)5(3)及び(6)にあるように、社会福祉法人会計基準(平成12年2月17日 社援第310号厚生省大臣官房障害保健福祉部長ほか連名通知)に沿って計算書類が適切に作成されているか、二重帳簿や伝票の改ざんなどの不正な会計処理はないかを中心に確認するものである。他の事業者と比較して、非常勤職員の人件比率が高いとか、○○費が多いなどの経営判断をすることではない。こうしたものは、法人が自ら判断する「経営判断・事業戦略の問題」である。
こうした内部管理情報を開示することは、指導監査の趣旨と反し、他の事業者と比較される結果となり、法人の「経営判断・事業戦略」を無視した不当な批判にさらされるおそれがあり、条例第14条第3号イに規定される権利、競争上の地位その他正当な利益を侵害するおそれがあると判断したものである。
【挙証書類の内「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」】
指定基準(「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」及び「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」。以下同じ。)では、従業者の配置状況を施設内に掲示していることが求められており、職員の出勤日・欠勤日・勤務時間が分かるもの(いわゆる勤務ローテンション表)を開示することまでは求められていない。
そもそもこうした勤務ローテーション表は、人員配置基準・労働基準法等の関係法令等を踏まえ、「利用者の処遇を適切に行ったうえで、最大の利益を生み出す」という経営判断の基に事業者が独自に考えて作成しているものであり、従業員の配置人員、各職種ごとの配置人員、常勤職員や非常勤職員の状況などは、「経営判断・事業戦略」の上に成り立っている、経営上の「ノウハウ」の一種であると考えられる。
よって、第三者にこうした「ノウハウ」を開示することは、条例第14条第3号イに規定する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると考えている。
なお、「従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表」には従業員の氏名や勤務態勢が記載されており、条例第14条第2号に該当するとともに、看護師、准看護師、機能訓練指導員などは配置数が少ないため、関係者には職名から職員名が特定されてしまうことから、氏名を非開示にしたのみでは、個人の勤務日や休暇の状況が開示されてしまうことになってしまい、個人情報の面からも開示は不適切と考える。
特に、(施設の)管理者からは、女性が多い職場であり、犯罪に巻き込まれる可能性も高いことから、利用者の個人情報と同様に従業員の個人情報についても慎重に捉えているとの声が多く聞かれる。
【挙証書類の内「在宅ケアアセスメント表」、「問題領域一覧」、「居宅サービス計画書」、「居宅介護経過」及び「サービス連絡表」全般】
介護保険事業者の個人情報の取扱いは、厚生労働省により平成16年12月に示された「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」に沿って、適切に運営するよう指導しているところである。
また、指定基準にあるように、居宅サービス計画をはじめとする個人情報を居宅介護支援事業所などの関係事業者等に提供する場合は、本人に文書による同意を求めるなど、厳正な取扱いが求められている。
介護事業者においては、利用者が極めて限定されていることから、氏名をマスキングしたとしても、生年月日や利用者の状況などの記載内容などの僅かな情報からでも、利用者やその家族等の関係者が見た場合、利用者が簡単に特定されてしまうことが十分想定される。
今回の事例は、事業者から監査の実施機関に提供された個人情報について、第三者への開示が争点になっているものであるが、施設と監査実施機関の間では、行政機関の求めによるものであり、個人情報といえども必要な情報の提供は行われるものであるが、通常公にすることが想定されていない情報についての監査実施機関から第三者への提供は、利用者やその家族の同意が確認できないばかりでなく、事業者も「開示請求により開示される」という認識がなかった(非開示であると認識していた)ことから、極めて慎重な取扱いが必要である。
なお、従業員の氏名は、条例第14条第2号に規定する非開示情報に該当する。
【挙証書類の内「在宅ケアアセスメント表」】
通常、アセスメントシート自体は、外部に公表するものではなく、事業所の介護支援専門員が居宅サービス計画を作成する過程の中で作成される書類である。アセスメントは居宅サービス計画書を作成する上で重要なものであるが、アセスメントをはじめとするケアマネジメントは、担当する事業者(介護支援専門員)の技量が出やすい事項でもあり、一種の「ノウハウ」ともいえる。
具体的にアセスメントに関していえば、どの様な項目を調査しているのか(アセスメントチャートの様式など)、利用者や家族の要望は適切に把握されているか、利用者の心身の状況が的確に把握できているのか、日常生活を行っていく上での課題は適切に把握できているか、などが重要なポイントである。
第三者にこうした「ノウハウ」を無制限に開示することは、条例第14条第3号イに規定する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると考えている。
また、アセスメントは、これらを担当する介護支援専門員の能力だけでなく、利用者の意向や利用者を取り巻く家族関係もあり、単に書類に書かれた事項だけをみて、アセスメントの内容が適切かどうかを判断することは一面的な見方となり極めて危険である。
こうした状況を知らない第三者に開示された場合、条例第14条第2号に規定する個人情報を非開示にしたとしても、不当な批判がなされるおそれがあり、また、他の事業者と比較され、事業者間の技量の優劣を比較する材料に使用されることも想定される。
指導監査は、アセスメント、居宅サービス計画、モニタリングなどの質を評価するために実施するものではなく、指定基準に沿った運営がなされているかを確認するために実施しており、こうした事業者に対する一面的な批判や事業者間の優劣の比較がなされることは、指導監査の趣旨に反し、条例第14条第3号イに規定される権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断したものである。
【挙証書類の内「問題領域一覧」】
「問題領域一覧」は在宅ケアアセスメント表に続く一連の資料であり、在宅ケアアセスメント表と同様に、事業者の「ノウハウ」に該当するものであり、第三者にこうした「ノウハウ」を無制限に開示することは、条例第14条第3号イに規定する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると考えている。
また、「問題領域一覧」に記載された内容を見た場合でも、指導監査の趣旨とは離れた批判を受ける可能性がある。
在宅ケアアセスメント表の理由で述べた様に、単に書類だけを見てのみの批判は一面的であり、こうした批判を受けること、そして他の事業者との優劣の比較材料に使われることは、条例第14条第3号イに該当する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断したものである。
【挙証書類の内「居宅サービス計画書」】
居宅サービス計画は、本人の文書による同意を得たうえで、関係する事業者に提供されるものであり、こうした形で、第三者へ開示されることは想定されていないだけでなく、事業者の「ノウハウ」に該当するものであり、第三者にこうした「ノウハウ」を無制限に開示することは、条例第14条第3号イに規定する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると考えている。
また、記載内容についても、利用者の状況を知らない第三者が見た場合、指導監査の趣旨とは離れた批判を受けることも予想される。
在宅ケアアセスメント表の理由で述べた様に、単に書類だけを見てのみの批判は一面的であり、こうした批判を受けること、そして他の事業者との優劣の比較材料に使われることは、条例第14条第3号イに該当する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断したものである。
【挙証書類の内「居宅介護経過」】
「居宅介護記録」は介護現場における看護・介護の記録と同様に、本人が開示請求をした場合以外には開示されることは想定されていないだけでなく、事業者の「ノウハウ」に該当するものであり、第三者にこうした「ノウハウ」を無制限に開示することは、条例第14条第3号イに規定する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると考えている。
また、記載内容についても、指導監査の趣旨とは離れた批判をする場合も十分想定される。
「在宅ケアアセスメント表」の理由で述べた様に、単に書類だけを見てのみの批判は一面的であり、この様な批判を受けること、そして他の事業者との優劣の比較材料に使われることは、条例第14条第3号イに該当する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断したものである。
【挙証書類の内「介護保険サービス連絡表」】
「介護保険サービス連絡表」は介護現場における看護・介護の記録と同様に、本人が開示請求をした場合以外には開示されることは想定していない。
また、記載内容についても、「関係する法人・事業者は、適切な業務ができていない。事業者の資質に欠ける。」などの指導監査の趣旨とは離れた批判がなされることが十分想定される。
「在宅ケアアセスメント表」の理由で述べた様に、単に書類だけを見てのみの批判は一面的であり、この様な批判を受けること、そして他の事業者との優劣の比較材料に使われることは、条例第14条第3号イに該当する権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断したものである。
第5 審査会の判断
(1)本件公文書について
本件公文書に係る指導監査に関しては国から次のような通知が出ている。
まず、「介護保険施設等の指導監査について」(平成12年5月12日付 厚生省老人保健福祉局長通知)によると、介護保険施設等の指導監査は、介護給付等対象サービスの質の確保及び保険給付の適正化を図ることを目的として行われ、その内容は、介護保険法第24条、第76条、第83条及び第90条等の規定に基づき実施される「監査」と、第5条の規定に基づき実施される「指導」に分かれている。このうち「監査」は、不正又は著しい不当が疑われる場合に適切な措置をとるために実施され、「指導」は、介護給付等対象サービスの取扱い、介護報酬の請求等に関する事項について周知徹底させるために実施される。次に、「老人福祉施設に係る指導監査について」(平成12年5月12日付厚生省老人福祉局長通知)によると、老人福祉施設に対する指導監査も、介護保険施設等と同様に不正又は著しい不当等がある場合とそうでない場合とに分けてそれぞれ行うこととされている。
実施機関は、これらを踏まえたうえで、介護老人関係施設(特別養護老人ホーム等)に関しては「群馬県社会福祉施設等指導監査実施要綱」(以下「要綱」という。)に基づき、「指導」及び「監査」を行っている。このうち、「監査」は「指導」の結果重大な問題があると認められた施設等のほか、特に必要があると認められた施設等に対して実施するものである。
また、実施機関は、介護保険サービス事業者等(居宅介護支援事業所、デイサービスセンター等)に関しては、対象サービスの取扱い、介護報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを目的とする場合には「群馬県介護保険サービス事業者等指導要綱」(以下「指導要綱」という。)に基づき「指導」を行い、対象サービスの内容又は介護報酬の請求について不正又は著しい不当が疑われる場合には「群馬県介護保険サービス事業者等監査要綱」に基づき「監査」を行っている。
これら「指導」及び「監査」の結果は、主に厚生省令の基準が十分に満たされていないもの、またはそれに関連する事項に対してなされる「指摘事項」と、厚生労働省通知が十分に満たされていないもの、またはそれに関連する事項に対してなされる「指導事項」に分けて通知され、「指摘事項」に関しては改善結果の報告を求めている。本件公文書の指摘事項の背景となる厚生省令の基準の主なものは、本件公文書1においては、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」と「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」であり、本件公文書2においては、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」及び「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」である。
今回の対象公文書は、指導要綱に基づき行政指導として行った「指導」の結果通知(指摘事項)に対する「改善報告書」及び改善結果に係る「挙証書類」である。
(2)本件事案を判断するに当たっての留意点
本件事案を判断するに当たっては、実施機関及び申立人双方が前回(答申第55 号及び第56号)の判断に関して、それぞれ提出された理由書及び意見書で引用あるいは反論していることから、今回の判断に当たっては、そのことを踏まえ、本件 事案と前回答申との事実の相違点を違いをできるだけ明らかにした上で判断を行う ものとする。
(3)改善報告書の条例第14条第3号イ等該当性について
改善報告書に記録され、実施機関が非開示とした情報が、条例第14条第3号イに該当するかどうかについて検討する。
実施機関は、「改善報告書には、指摘事項とそれに対する『改善結果と今後の措置』及び『改善(予定)年月日』が含まれており、群馬県公文書開示審査会答申(平成16年12月13日付答申第55号等)の中で述べられているように、指摘文言のみから安易に評価されると法人及び施設に関する社会的信用・信頼を不当に低下させ、その正当な利益を損なうおそれが強いと判断せざるを得ない」と主張するが前回の実地指導結果通知と異なり、改善報告書については、前回の理由で挙げている「当該『指導』の結果通知のみに記録された全ての情報が単独で公開されると、既に改善されているにもかかわらず、現在も適正とはいえない運営がなされているかのような誤解を生じさせるおそれがあると判断された。」は該当しない。
また、「背景を知らない第三者がこの短文の指摘文を見ても、十分な内容を把握できずに無用の誤解を招くおそれ」は改善報告書に関して全くないとはいえないものの、介護保険施設等に関しては、前述の「介護保険施設等の指導監査について」で「都道府県は、指導結果の通知及び改善報告書の内容について、そのサービス事業者等の事業活動区域に所在する市町村(保険者)へ情報の提供を行うとともに、出来る限り利用者保護の観点から開示を行う。」とされ(他に「社会福祉法人指導監査要綱の制定について」(平成13年7月23日社会・援護局長等通知)において「監査結果の開示は、法人運営の適正化のみでなく、利用者の立場に立った質の高いサービスの提供に資することも目的としていることを踏まえ、各都道府県市の情報公開条例に基づく開示請求に対しても積極的に閲覧を可能としておく体制を整えることが望ましいこと。」とされている。)、審査会で調査した限りにおいては、東日本のほとんどすべての都道県において開示情報(北海道、東北及び関東はすべて原則開示)であると判断していること、同種の情報である社会福祉法人の指導監査結果等のホームページ上の公開が実際なされている都県も存在し、記載内容の比較が可能であること、そもそも今回の対象公文書は改善をしたとの結果が合わせて記載されている事実からすれば、通常一般人が誤解をするとは考えられず、県と介護保険施設等の間でその指摘内容に疑義が生じている場合でもない限り、法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまでは認められない。
なお、今回は、実施機関は条例第14条第6号該当とは正式に主張していないが、前回の答申で「・・・当該『指導』に当たっては、法人及び施設等の関係者から組織運営、人事、資産など内部管理情報の任意の提供を受けて実施しており、これら任意の情報の提供は、一般的に他に知らされないという認識及び信頼のもとに行われている。したがって、従来公にされたことのない『指導』の結果通知の内容を突然に公にすることになると、法人との間の信頼関係が損なわれ、今後の『指導』が円滑に行われなくなる事態が予想されることから・・・」としているのでそれとの関係も述べることとしたい。
事務事業の適正な遂行に支障があるおそれがある解釈について、最高裁判事である藤田宙靖氏は、かつて国の情報公開審査会委員(東北大学教授)であったときの講演の中で次のように述べている(情報公開法施行一年を振り返って-情報公開審査会審査委員としての経験から- 平成14年7月12日 東北大学 藤田宙靖 東北大学大学院法学研究科・法学部ホームページから引用)。
「・・・いわゆる『労災隠し』の問題などが、その典型例の一つであって、労働災害が起きた事業所から基準監督署が受ける事故報告書につき、これを開示せよ、という請求に対し、行政機関の側では、こういったものが開示されると、今後、事業所側は、例えば風聞被害等をおそれて、事故が起きても詳細な報告をしないとか、或いは偽った報告をする等、適正な協力をしなくなるおそれがあり、それでなくとも摘発が難しい労災隠しについての調査が、一層困難になる、という理由から、不開示が相当と主張して来ている。この種のケースは、事業所側の非協力ということ自体が、本来あってはならないことなのであって、それを前提として議論すること自体適当でない、と考えるべきなのか、それとも、それが良いか悪いかはともかく、事実として、そういった事態が生じ、事業に支障が生じるおそれがある以上、情報開示はなさるべきでない、というように考えるのか、とりわけこのようなケースでは、第三者の協力が得られるかどうかが重要なポイントとなっており、必ずしも、行政機関の側の努力のみで完全に解決できる問題だけではない、といった側面があることから、甚だ難しい判断が強いられるケースである。
こういった難しい実情はあるが、しかし、この問題は、やはり、基本的に、規範論的立場から考えることをその出発点とせざるを得ないものであるように考える。すなわち、・・・(中略)・・・監督署が、本来あってはならない事業所側の非協力の恐れを理由とすることは、極力避けられなければならないのである。それが無理だ、というためには、無理であるということ、例えば、・・・(中略)・・・労災隠しを防ぐにはそれしかない、といった事情が、具体的かつ詳細に説明されるのでなければならない。こういったスタンスを明確にせず、徒らに事実論的立場に立って判断することが習いとなると、『事実として困難』という理屈の前に、『それは本来あってはならないこと』という認識が後退し、そこに歯止めが効かなくなってしまう恐れがある。・・・」
本審査会は司法機関ではないので、すべての事案に関してここでいうところの規範論的立場を優先すべきであるとまでいうつもりはないが、少なくとも本件事案については、先に述べた国の通知で「出来る限り利用者保護の観点から開示を行う。」(本県の指導要綱でも同様の記述がある。)とあり、そしてそれが出された当時の背景として介護保険制度の「行政上の措置」から「利用者本位の契約」へという大きな流れがあったことから判断すれば、改善報告書が提出された時点で、法人への指導としては完結しており、改善がされたことが記載されている公文書については条例第14条第6号の該当性よりも、むしろ開示していくことが、同通知の「介護給付等対象サービスの質の確保及び保険給付の適正化を図ること」という指導監査の目的にも適うと考えるものである。
(4)挙証書類の条例第14条第3号イ該当性について
(3)のとおり、「改善報告書」の記載自体が条例第14条第3号イに該当しないことから、実施機関の主張である「挙証書類についても、開示することにより、指摘した事項が類推されるおそれがあることから、同様の判断を行ったものである。」の主張は認められない。また、往復文書であるから当然に非開示であるという考えは情報公開制度には存在しないので、原則どおり個別に非開示理由が主張立証なされなければならない。
次に、実施機関が【挙証書類全般】で、条例第14条第3号ロに規定する「公にしないとの条件で任意に提出されたものであって、通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付すことが、情報の内容、当時の状況から照らして合理的であると認められるもの」に該当するものであり、法人・事業者の県に対する信頼は保護されなければならないと判断していると主張しているが、介護保険施設等の指導監査は、確かにその手続自体は要綱等で定められているが、その根本は介護保険法等にあるといわざるを得ず、また、要綱等により制度として「指導」や「監査」をし、「改善結果」の報告を求める形になっている以上、条例第14条第3号ロには該当しない(条例第14条第3号ロ関係においては、挙証書類は主たる物(改善報告書)の従物(民法第87条参照)のごとく考えるべきである)。また、指導監査の改善報告書やその挙証書類に関して、公にしないとの条件を認めることは、条例第1条の趣旨に反することになるので適当ではない(ただし、非開示情報にならないという趣旨ではない)。
一方で、挙証書類を見る限り、非開示情報に該当するものもあるので、それについて個別に判断を行うものとする(公文書2の挙証書類から先に判断をする)。
ア 居宅介護支援重要事項説明書【本件公文書2の挙証書類】
一般的に居宅介護支援事業所の「居宅介護支援重要事項説明書」は法人の内部管理情報であるとは認められないから、条例第14条第3号イの非開示情報には該当しない。
ただし、記載されている担当者名に関しては、個人識別情報に該当し、本説明書への記載や施設内への掲示をもって、条例第14条第2号ただし書イにいうところの「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」には当たらないものと判断されるので非開示が妥当である。
なお、本説明書中の事業者側の説明者の氏名、印影らしきものが記載された部分、及び利用者の住所、氏名並びに代理人の住所、氏名らしきものが記載された部分は当初よりマスキングされている。
イ 通所介護重要事項説明書【本件公文書2の挙証書類】
一般的にデイサービスセンターの「通所介護重要事項説明書」は法人の内部管理情報であるとは認められないから、条例第14条第3号イの非開示情報には該当しない。
ただし、記載されている担当者名(管理者以外)に関しては、個人識別情報に該当し、本説明書への記載や施設内への掲示をもって、条例第14条第2号ただし書イにいうところの「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」には当たらないものと判断されるので非開示が妥当である。
また、防火管理者名についても、個人識別情報であり、消防法等に特に公にするような規定も存在しないことから非開示が妥当である。
なお、本書類も主治医氏名、連絡先及びご家族氏名、連絡先その他情報、事業者側の説明者の所属、氏名及び印影らしきものが記載された部分、及び利用者の住所、氏名及び印影並びに代理人の住所、氏名及び印影らしきものが記載された部分が当初よりマスキングされている。
ウ 従業員の勤務の体制及び勤務形態一覧【本件公文書2の挙証書類】
職員の氏名(管理者以外)は、個人識別情報であり、ア及びイでの判断と同様に施設内への掲示等をもって、条例第14条第2号ただし書イにいうところの「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」には当たらないと判断されるので非開示が妥当である。
また、本一覧中の第1週から第4週までの日毎の個人の労働時間の記述部分については、通常個々の職員の労務管理に係る情報は、法人の内部管理情報であり、福祉介護サービスが典型的な労働集約的産業であることから、ノウハウとまではいえないが、それを明らかにされれば、雇用方針や経営方針などノウハウに準ずる法人の事業を営む運営上の地位を害するものであると認められるので非開示が該当である。
その余の部分は、条例第14条第3号イに該当するおそれがあるとまではいえず、開示情報であると判断される。
エ 在宅ケアアセスメント表(問題領域一覧)【本件公文書2の挙証書類】
在宅ケアアセスメント表は、事業所の介護支援専門員が居宅サービス計画を作成する過程の中で作られる書類であり、利用者の介護経歴、家族関係、意向及び問題領域等が記載されている。
審査会において該当公文書の内容を確認したところ、文書自体は、択一方式になっている部分もあり、必ずしも利用者の情報が濃密、詳細に記載されているとは認られなかった。
しかしながら、通常利用者(顧客)に係る情報は、基本的に法人の内部管理情報であると判断され、とりわけ医療・介護関係等の分野は通常法人より個人情報の管理に慎重な取扱いが求められていること、及びアセスメントは居宅サービス計画書を作成する上で重要なものであり、アセスメント及びケアマネジメントの方法を記録したものは方式を含めノウハウに準ずるものと判断できることに鑑みれば、結局のところこのような情報を開示することは法人の事業を営む運営上の地位を害するおそれが認められるので、非開示が妥当である。
オ 居宅サービス計画書(1)【本件公文書2の挙証書類】
居宅サービス計画書(1)は「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(平成11年11月12日老企発第29号厚生省老人福祉局企画課長通知)の第1表の書類であり、利用者名、居宅サービス計画作成者氏名、利用者及び家族の介護に対する意向、総合的な援助の方針及び家事援助中心型の算定利用等の情報が記載されている。
審査会において該当公文書の記載内容を確認したところ、必ずしも利用者の情報が濃密、詳細に記載されているとは認られなかった。
しかしながら、この公文書についても上記エと同様に、通常利用者(顧客)に係る情報は、基本的に法人の内部管理情報であると判断され、とりわけ医療・介護関係等の分野は通常法人より個人情報の管理に慎重な取扱いが求められていること、及びノウハウに準ずるものと判断できることに鑑みれば、結局のところこのような情報を開示することは法人の事業を営む運営上の地位を害するおそれが認められるので、非開示が妥当である。
カ 「居宅介護経過」【本件公文書2の挙証書類】
居宅介護経過は「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(平成11年11月12日老企発第29号厚生省老人福祉局企画課長通知)の第6表の書類であり、利用者名、居宅サービス計画作成者氏名、年月日及び内容の情報が記載されている。
審査会において該当公文書の記載内容を確認したところ、利用者の状態がある程度具体的に記載されていることが認られられた。
また、この公文書についても上記エ及びオと同様に、通常利用者(顧客)に係る情報は、基本的に法人の内部管理情報であると判断され、とりわけ医療・介護関係等の分野は通常法人より個人情報の管理に慎重な取扱いが求められていることに鑑みれば、結局のところこのような情報を開示することは法人の事業を営む運営上の地位を害するおそれが認められるので、非開示が妥当である。
キ 「介護保険サービス連絡票」【本件公文書2の挙証書類】
介護保険サービス連絡票は、法人の施設間での連絡事項を記載したものである。
審査会において該当公文書の記載内容を確認したところ、利用者の状態がある程度具体的に記載されていることが認られられた。
この公文書についても上記エ、オ及びカと同様に、通常利用者(顧客)に係る情報は、基本的には法人の内部管理情報であると判断され、とりわけ医療・介護関係等の分野は通常法人より個人情報の管理に慎重な取扱いが求められていることに鑑みれば、結局のところこのような情報を開示することは法人の事業を営む運営上の地位を害するおそれが認められるので、非開示が妥当である。
なお、エからキの公文書は利用者氏名等の個人情報は当初よりマスキングがなされている。また、これらの書類には職員の氏名等の個人情報や特にカ及びキについてはその記述の内容から個人の権利利益を害するおそれがあると判断されるものでもあるが、今回の答申では、既に法人情報として非開示であると判断しているので、特に個人情報での評価は行わない。
ク 指摘事項に係る原因の説明書である「H12年度次期繰越活動収支差額とH13年度前期繰越活動収支差額の各施設の差異について」及び「資金収支計算書(自)平成13年4月1日(至)平成14年3月31日社会福祉法人△△△(合併)」、「資金収支予算内訳表(自)平成13年4月1日(至)平成14年3月31日社会福祉法人△△△(合併)」、「資金収支決算内訳表(自)平成13年4月1日(至)平成14年3月31日社会福祉法人△△△(合併)」、「事業活動収支計算書(自)平成13年4月1日(至)平成14年3月31日社会福祉法人△△△(合併)」、「事業活動収支内訳表(自)平成13年4月1日(至)平成14年3月31日社会福祉法人△△△(合併)」、「貸借対照表平成14年3月31日現在社会福祉法人△△△(合併)」ほかの各計算書類【本件公文書1の挙証書類】
指摘事項に係る原因の説明書である「H12年度次期繰越活動収支差額とH13年度前期繰越活動収支差額の各施設の差異について」は、挙証書類に分類されているが、この公文書については、「指導監査結果に対する報告書」本体で「別紙のとおり・・・」としているので、判断は「(3)改善報告書の条例第14条第3号イ等該当性について」と同様に行うべきである。
次に、貸借対照表及び収支計算書(資金収支計算書及び事業活動収支計算書)であるが、社会福祉法第44条第4項が「社会福祉法人は、第2項の書類(注:事業報告書、財産目録、貸借対照表及び収支計算書)・・・(中略)・・・を各事務所に備えて置き、当該社会福祉法人が提供する福祉サービスの利用を希望する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならない。」と規定しているので、法が直接係るものに関しては、条例第14条第3号イに該当しないことは明らかである。直接係らないものに関しても、法の趣旨を踏まえれば、条例第14条第3号イに該当するおそれがあるとまではいえず、開示情報であると判断される。
また、社会福祉法第44条第4項で直接義務づけられていない「資金収支予算内訳表」、「資金収支決算内訳表」及び「事業活動収支内訳表」については、「社会福祉法人の認可について」(平成12年12月1日厚生省大臣官房障害保健福祉部長ほか連名通知)別紙1 第35(2)により、「資金収支計算書に付属する資金収支内訳表及び事業活動収支計算書に付属する事業活動収支内訳表についても併せて開示することが望ましいこと。」とされているが、実施機関の主張によると、事業報告書、財産目録、貸借対照表及び収支計算書(資金収支計算書及び事業活動収支計算書)が閲覧できる体制が整っていない場合には、文書による改善報告を求めているが、資金収支内訳表や事業活動収支内訳表が閲覧できる体制になっていない場合は、閲覧できる体制を取ることが望ましいことを口頭で伝える程度で、基本的には法人の判断に委ねているということである。
以上の本件公文書が提出された時点での事実を基に、「資金収支予算内訳表」、「資金収支決算内訳表」及び「事業活動収支内訳表」について検討していくこととする。
まず、「資金収支予算内訳表」であるが、金額以外の部分は(社会福祉法人会計基準の制定について(平成12年2月17日厚生労働省官房障害保健福祉部長ほか連名通知)による)勘定科目名や法人に属している施設名が記載されているだけなので、条例第14条第3号イに該当するおそれがあるとまではいえず、開示情報であると判断される。
次に、勘定科目の大区分の金額については、資金収支計算書にて既に開示と判断されているものと同様の情報(金額)であるので開示情報であると判断される。
また、収入の勘定科目の中区分以下の内、介護報酬収入(施設)や経常経費補助金収入等の金額はいわゆる税金や介護保険料が原資となっている公費であるので、条例第14条第3号イに該当するおそれがあるとまではいえず、開示情報であると判断される。
一方、上記の介護報酬収入(施設)や経常経費補助金収入等以外の勘定科目の中区分以下に係る金額は、社会福祉法人の経営状態を細部にわたるまで表すとともに、当該法人の経営方針や経営戦略をうかがい知ることのできるものと認められ、自ら公表していないという事実の下では、条例第14条第3号イに該当し、非開示が妥当であると判断される。
「資金収支決算内訳表」、「事業活動収支内訳表」も上記の「資金収支予算内訳表」と同様に判断される。
(5)結論
以上により、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 その他
異議申立人は、条例以外のその他種々主張するが、いずれも本件事案の判断とは関係がない。
第7 審査の経過
当審査会の処理経過は、以下のとおりである。
年月日 | 内容 |
---|---|
平成17年3月31日 | 諮問 |
平成17年5月9日 | 実施機関からの理由説明書を受領 |
平成17年11月16日 | 異議申立人からの意見書を受領 |
平成18年3月24日 (第121回審査会) |
審議 |
平成18年4月28日 (第122回審査会) |
審議(実施機関、異議申立人の口頭意見陳述) |
平成18年5月22日 (第123回審査会) |
審議 |
平成18年6月16日 (第124回審査会) |
審議 |
平成18年7月21日 (第1回審査会第一部会) |
審議 |
平成18年9月4日 (第2回審査会第一部会) |
審議 |
平成18年10月23日 (第3回審査会第一部会) |
審議 |
平成18年11月13日 | 答申 |