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公文書開示審査会答申第89号

更新日:2011年3月1日 印刷ページ表示

「『朝鮮半島出身の旧民間徴用者の遺骨に関する情報提供依頼について』
【1】国からの通知【2】県から市町村等への通知【3】市町村等から県への回答【4】県から国への回答」の部分開示決定に対する異議申立てに係る答申書

群馬県公文書開示審査会
第一部会

第1 審査会の結論

 実施機関が非開示とした部分のうち、別表記載の情報以外の情報についての原決定は妥当であるが、別表記載の情報について群馬県情報公開条例(以下「条例」という。)第14条第2号該当を理由に非開示としたことは妥当でなく、同条第3号イ該当性について検討したしたうえで、改めて非開示情報該当性を判断すべきである。

第2 諮問事案の概要

1 公文書開示請求

 異議申立人(以下「申立人」という。)は、条例第11条の規定に基づき、群馬県知事(以下「実施機関」という。)に対し、平成18年4月7日付けで、「朝鮮半島出身の旧民間徴用者の遺骨に関する情報提供依頼について【1】国からの通知、【2】県から市町村等への通知、【3】市町村等からの回答、【4】県から国への回答」の開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 実施機関の決定

 実施機関は、平成18年4月20日、本件請求に係る公文書を「『朝鮮半島出身の旧民間徴用者の遺骨に関する情報提供依頼について』【1】国からの通知【2】県から市町村等への通知【3】市町村等から県への回答【4】県から国への回答」(以下「本件公文書」という。)であると判断し、部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、開示しない部分の概要及びその理由を次のとおり付して、申立人に通知した。

条例第14条第6号該当

 県担当者及び市町村担当者メールアドレス部分

(理由)
 県または市町村の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため

条例第14条第2号該当

(1)「埋火葬許可証等一覧」のなかの
 氏名及び生年月日
(2)「埋火葬許可証等」のなかの該当者の
 本籍のうち郡より詳細の部分
 住所のうち郡市より詳細の部分
 戸主との続柄、族稱、職業
 氏名、生年月日
 病名、死亡場所、埋葬地
(3)「埋火葬許可証等」のなかの出願者の
 職業、住所、氏名、死亡者との関係、生年月日
(4)「その他遺骨の所在に関する新たな情報」のうち
 個人名
 遺骨の所在地、名称、連絡先

(理由)
 個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む)に該当するため

3 異議申立て

 申立人は、行政不服審査法第6条の規定に基づき、平成18年6月13日、本件処分を不服として、本件処分のうち条例第14条第2号該当を理由とする非開示部分の取消し及び該当部分である【1】氏名及び生年月日【2】本籍、住所、続柄、氏名、生年月日、病名、死亡場所、埋葬地【3】出願者に関するすべて【4】個人名、遺骨の所在地、名称、連絡先(以下「本件個人情報」という。)の開示を求めて、実施機関に対し異議申立てを行った。

4 諮問

 実施機関は、原処分維持が妥当であると判断し、条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して平成18年6月26日、本件異議申立て事案の諮問を行った。

第3 争点

争点1(個人情報該当性について)

 本件個人情報は非開示情報である個人情報に該当するか。

争点2(公益的開示情報該当性について)

 本件個人情報は、仮に非開示情報に該当する場合であったとしても、条例第16条の規定による裁量的開示を行う場合に該当するか。

第4 争点に対する当事者の主張

1 争点1(個人情報該当性について)

(1)申立人の主張

ア 申立人は「○○○○」の代表として、長年にわたり群馬県内の強制連行の実相を調査してきており、朝鮮半島出身の旧民間徴用者の遺骨を捜し出し、遺族の方に一日も早く遺骨や死亡の事実を知らせる活動を行っている。遺族を捜すことについては既に経験もあり、手段も心得ている。今回、市町村から県に報告された情報が開示されれば直ちに遺族調査に入る体制を作っている。
 しかし、部分開示された本籍も氏名も生年もわからない名簿では遺族を見つけ出すことはできない。

イ 現存する個人に係わる情報なら公開を差し控えることもあろうが、申立人が求めているものは70年に近い過去の事柄である。

ウ 仮に個人識別情報であるとしても、条例第14条第2号ただし書ロの「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当し、開示すべき情報である。旧徴用朝鮮人の埋火葬の状況を開示することにより、韓国、朝鮮に在住する遺家族が切望している、徴用され、行方不明になっている父や兄の消息の一端を伝えることは、人道上の措置そのものであり、遺家族の方々の、日本に渡ったまま消息の途絶えた肉親への60有余年にわたる思いを解決することが出来れば、まさしく安寧をもたらすことになる。

エ 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)第2条は、保護の対象は生存する個人であって死者は該当しないことを明示している。申立人らが探しているのは死亡者の情報であるのだから、開示することに何ら問題はないはずである。

(2)実施機関の主張

ア 朝鮮半島出身の旧民間徴用者の遺骨に関する情報提供依頼については、国からの要請を受け、県から市町村へ情報提供を依頼し、その結果を国に報告した。
 開示請求に係る一連の業務は、国が調査主体となって、各都道府県等からの情報提供を求めているものであり、県は、情報源である市町村から回答を得て、国に報告する経由機関としての役割を担っている。県から国への報告結果については、今後、国の責任において大韓民国政府との間で情報提供が行われる予定である。

イ 本件の埋火葬許可証の発行は、半世紀以上経過しているものがほとんどであるが、個人の権利利益の十分な保護を図るため、特定の個人を識別できる情報(死亡者の氏名、本籍、住所の詳細、生年月日、職業、病名等、出願者の氏名等)は非開示とした。
 なお、市町村から報告された朝鮮半島出身者の埋火葬許可証は、国が調査の範囲として示した期間(戦中から戦後しばらくの間(昭和30年頃))に市町村が発行したものであるが、市町村から報告のあった埋火葬許可証に記載された死亡者が旧民間徴用者であるかどうかは確認できない。

ウ 個人情報であっても、条例第14条第2号ただし書イ、ロ又はハのいずれかに該当する場合は非開示とすることはできないが、本件個人情報は法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とはいえず、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報でもない。さらに、本件個人情報の本人が公務員等であったかどうか不明であり、仮に公務員等であったとしても埋火葬許可証に記録された情報は職務遂行情報であるとはいえない。

エ 条例第14条第2号の特定の個人を識別できる情報には、生存する個人のほか死亡した個人も含まれるものである。

2 争点2(公益的開示情報該当性について)

(1)申立人の主張

ア 平成16年、日韓首脳会談で韓国大統領からの徴用犠牲者の遺骨返還請求に、小泉首相(当時)は「検討したい」と答え、日本政府は昨年、今年と2度にわたる全国調査を行った。今回の調査は埋火葬許認可書に絞っての調査であるが、申立人からの開示請求に対して、最も基本となる本籍、氏名、死因などが開示されていない。死の事実を確認し、鶴首して待つ遺族にお知らせすることはまさに、人道的な責務である。

イ 一般的な「個人情報」とは異なり、戦後60年以上もの間、放置されてきた徴用朝鮮人の生死を確認し、韓国の遺族に一日も早くお知らせすることは人道上の責務であると考える。国の責任はそれとして、県民としての人道上の責任はとらなければならないと考える。政府は政府として韓国政府に報告するであろうが、当該県の住民として早急に誠意を持って対応するのが県民の道義であろう。県の条例で個人一般の情報と同様の限定的解釈をすることは、この件の歴史的事情からして許されないことである。

ウ 本件請求に係る情報を韓国に提供し遺族を捜すのは政府や県がやることであると実施機関は主張するが、今日までほとんど手がついていない。申立人らはそれなりの調査方法を承知しており、申立人に開示することにより迅速な遺族探しが可能である。

(2)実施機関の主張

ア 条例第16条で規定する公益上の理由による裁量的開示制度については、個人情報を公にすることによって生じる支障を上回る公益上の必要性がある場合には、実施機関の行政的判断により裁量的に開示することができるとするものである。しかし、本件については、市町村からの情報提供を受け、今後、国において情報が活用される予定であることから、本県の段階で開示する理由は認められないため、当該条項を適用するのは適当ではない。

イ 申立人は、本件公文書中の個人情報に関する部分を、申立人の属する団体の活動に必要として異議申立てを行っている。しかし、今回の調査の目的は、国が必要とする情報を都道府県を通じて収集し、日本国政府から外交ルートを通じて大韓民国政府へ提供されるものである。今後は、国の責任において、大韓民国政府との間で情報交換等が継続して行われる予定であることから、公文書に記載されている個人情報を開示することの必要性は認められない。

第5 審査会の判断

1 争点1(個人情報該当性について)

(1)本件個人情報は、条例第14条第2号本文に該当する情報か

 本件個人情報を分類すると、「埋火葬許可証等の対象である死者」についての個人情報、「埋火葬許可証等の出願者」についての個人情報及び「その他遺骨に関する新たな情報」に記載された個人情報の3種類となる。以下、それぞれについて条例第14条第2号本文に規定する個人情報であるか否か検討する。

ア 埋火葬許可証等の対象である死者
 申立人は、個人情報保護法第2条第1項において、「『個人情報』とは、生存する個人に関する情報であって」と規定されていることを根拠に、埋火葬許可の対象者は明らかに死者であり、非開示情報である個人情報には該当しない旨を主張し、実施機関は、特定の個人を識別できる情報には生存する個人のほか死亡した個人も含まれる旨主張するので、この点につき、審査会は次のとおり判断する(なお、当該情報は、埋火葬許可証等(受付簿の写しを含む。)のほか、埋火葬許可証等一覧にも記載されている。)。
 申立人は個人情報保護に関する基本法である個人情報保護法を援用するが、本件においては行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「行政機関個人情報保護法」という。)と比較対照する方がより適切であると考える。行政機関個人情報保護法は第2条第2項において、「この法律において『個人情報』とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」と規定して、死者に関する情報を同法の「個人情報」から除外しているのに対し、行政機関が保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)が不開示情報とする同法第5条第1号本文の個人識別情報は、生存する個人に関する情報に限定するものとして規定されていないことに照らせば、情報公開法の不開示情報である個人識別情報には死者に関する情報も含まれるものと解される(同旨、東京地方裁判所平成15年5月29日判決平成14年(行ウ)355号。なお、同判決については控訴及び上告がされたがいずれも棄却されている。)。
 一方、群馬県個人情報保護条例(平成12年条例第85号。以下「個人情報保護条例」という。)は行政機関個人情報保護法と異なり、そもそも死者に関する情報を個人情報から除外しておらず(個人情報保護条例第2条第1項)、条例も非開示情報である個人識別情報から死者に関する情報を除外していないことから、死者に関する個人識別情報も条例第14条第2号本文に該当する情報であると解することが相当である。

イ 埋火葬許可証等の出願者
 申立人は、埋火葬許可の書類が作成されたのは70年に近い過去のことであると述べるが、本件公文書中最も新しい許可は昭和31年2月になされていることから、埋火葬許可を出願した者が今なお生存している可能性はあり、また、仮に既に死亡しているとしても上記アで判断したように、死者に関する個人識別情報も条例第14条第2号本文に該当する情報であるから、出願者の個人識別情報も条例第14条第2号本文に該当する情報と解することが相当である。
 なお、当該許可証等は昭和9年11月から同31年2月にかけて作成されたもので、作成後51年ないし72年が経過しているが、独立行政法人国立公文書館(国の機関から内閣総理大臣が移管を受けた歴史資料として重要な公文書等を保存し、及び一般の利用に供すること等の事業を行うことにより、国立公文書館又は国の機関の保管に係る歴史資料として重要な公文書等の適切な保存及び利用を図ることを目的とした施設)では、30年以上経過した歴史公文書等に個人に関する情報が記録されている場合、当該情報が個人の重大な秘密(国籍、人種又は民族及び家族、親族又は婚姻など)にあっては80年まで、個人の特に重大な秘密(門地、遺伝性の疾病若しくは精神の障害その他の健康状態など)にあっては80年以上経過したものであっても、一般の利用を制限することができる取扱いである(独立行政法人国立公文書館利用規則第4条及び別表)ことを考慮すると、例えば70年のような一定年数を経過することによって、個人識別情報が開示できる情報に転換すると解することは相当でない。

ウ その他遺骨の所在に関する新たな情報
 当該情報(以下「遺骨所在情報」という。)は、【1】生前の氏名、【2】遺骨の所在地、【3】遺骨を管理する組織等の名称及び【4】上記組織の所在地・連絡先から成っている(1)及び【3】は、「遺骨の状況」及び「上記関連事項の具体的内容」としても記載されている。)。【1】は明らかに個人識別情報であり、また、審査会において本件公文書を見分したところ、【2】ないし【4】も【1】に付随する個人情報であると認められたことから、上記アで判断したとおり、死者に関する情報であっても条例第14条第2号本文に該当すると解するのが相当である。

(2)本件個人情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報に該当するか(条例第14条第2号ただし書イ該当性)

 本件公文書は、厚生労働省から実施機関への情報提供依頼、実施機関から県内市町村等への照会、市町村等から実施機関への回答、実施機関から厚生労働省への回答及び関連する起案文書を内容とするものであり、法令等の規定により又は慣行として公にされているものとは認められない。
 また、第156回国会(衆議院)において提出された「朝鮮人強制連行・強制労働に関する質問主意書」に対する答弁の中で、政府は「いわゆる朝鮮人徴用者等に関する名簿については、平成2年5月25日の日韓外相会談の際に、大韓民国(以下「韓国」という。)側から終戦前に徴用された者の名簿の入手について協力要請があったことを受け、各都道府県、各市区町村、いわゆる朝鮮人徴用者等を受け入れていた可能性がある民間事業所等に対し、韓国政府に提出することを目的として調査を依頼し、提供された情報を取りまとめて、平成3年及び平成4年に韓国政府に提出したものであること、当該名簿中に記載されている事項の大部分はその後に施行された行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)に規定する不開示情報に該当すること等から、政府として、現段階においてこれを一般に公開することは適当ではないと考えているところである。」と答弁している(内閣衆質156第31号 平成15年3月25日)。この答弁は、直接には本件公文書についてのものではないが、本件公文書と類似の情報に関するものであり、現在に至るまでこの答弁と異なる考えが政府から示されていないことから、現段階では厚生労働省へ回答した本件公文書は、公にすることが予定されている情報であるとは考えらない。
 これらのことから、本件個人情報は条例第14条第2号ただし書イに該当するものとは認められない。

(3)本件個人情報は、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要な情報か(条例第14条第2号ただし書ロ該当性)

 申立人は、戦時中、朝鮮半島から日本へ「徴用」という名目で連行されてきた人たちの消息の一端を伝えることは、人道上の措置そのものであり、遺家族の方々の思いを解決することが出来れば、まさしく安寧をもたらすことになる、との理由を挙げ、本件個人情報は、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示すべき情報であると主張しているものと認められるので、以下この点について判断する。
 条例第14条第2号ただし書ロの趣旨は、人の生命、健康その他の基本的な権利利益を保護することは、実施機関の基本的な責務であるから、個人情報についても、公にすることにより害されるおそれがある当該個人情報に係る個人の権利利益よりも、人の生命、健康等の保護の必要性が上回るときには、それを開示する必要性と正当性が認められることから、当該情報を開示するというものである。
 ところで、申立人が主張する「人の生命、健康その他の基本的な権利利益」はあくまでも申立人に対して本件公文書の個人情報が開示されることを前提としているが、後記2(1)のとおり、公文書開示制度は、開示請求者の請求理由や情報の利用目的を斟酌するものではない。したがって、開示請求者の個別的事情を考慮しないで判断すると、本件公文書の個人情報は、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため公にすることが必要な情報であるとは認められない。

(4)本件個人情報は、公務員等の職務遂行情報か(条例第14条第2号ただし書ハ該当性)

 審査会において本件公文書を見分したところ、本件個人情報は条例第14条第2号ただし書ハが定める公務員等の職務の遂行に係る情報と認めることはできなかった。

 以上のことから、本件個人情報は、条例第14条第2号に該当する非開示情報であると認められる。

2 争点2(公益的開示情報該当性について)

(1)条例第16条の趣旨等

 条例第16条の「公益上特に必要があると認められるとき」とは、第14条各号(第1号を除く。)の非開示情報に該当する情報であるが、実施機関の高度な行政的な判断により、公にすることに、当該保護すべき利益を上回る公益上の必要性がある場合を意味し、公益上の必要性の認定については実施機関の要件裁量を認めるものであると解される。したがって、同条による公文書の開示をしなかった実施機関の判断は、与えられた裁量権を逸脱又は濫用するものでない限り、違法・不当とはならないものである。
 また、条例は、公文書の開示請求権を「何人」に対しても認めており、開示請求者に対し、開示請求の理由や利用等の目的等の個別的事情を問うものではなく、開示請求者が誰であるか、又は開示請求者が開示請求に係る公文書に記録されている情報について利害関係を有しているかどうかなどの個別的事情によって、当該公文書の開示決定等の結論に影響を及ぼすものではない。

(2)申立人の主張は、大要、次のとおりであると認められる。

 本件個人情報が申立人に開示されれば、申立人及び申立人が代表を務める団体は、これまでの経験を元に遺族を捜し出すことができる。

 朝鮮半島出身の旧民間徴用者の遺族に、徴用され行方不明になっている父や兄の消息の一端を伝えることは、人道上の措置そのものである。

 死亡事実を確認し、遺族に知らせることができれば、日本と韓国との間の暗い過去を解きほぐしていく手がかりにもなる。

 一般的な「個人情報」とは異なり、戦後60年以上もの間、放置されてきた徴用朝鮮人の生死を確認し、1日も早く遺族に伝えることは人道上の責務である。国の責任はそれとして、県民としての人道上の責任はとらなければない。政府は政府として韓国政府に報告するであろうが、当該県の住民として早急に誠意を持って対応するのが県民の道義である。

(3)申立人が主張する「公益」は、開示を受けて本件個人情報を利用する者が申立人(ひいては申立人が代表を務める団体)であることを前提としているものと認められるが、審査会は上記(1)のとおり、条例第16条を適用して公益的裁量開示を行うには、請求者が誰であっても同じ公益性が認められなければならないと考えるものである。

 したがって、申立人等が行っている活動が真摯なものであり、日韓関係の修復等に資するものであることを疑うものではないが、条例第16条を適用して本件個人情報を開示すべきであるとは認められない。

3 争点以外の判断事項(部分開示の開示範囲について)

(1)条例第15条について

 条例第15条第1項は「実施機関は、開示請求に係る公文書の一部に非開示情報が記録されている場合において、非開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、前条の規定にかかわらず、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。」と規定し、開示請求に係る公文書中に非開示情報がある場合、原則として非開示情報を除いた部分は開示しなければならないとする。
 そして、同条第2項は「開示請求に係る公文書に前条第2号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。」と規定し、非開示情報である個人識別情報を除くことにより残りの個人情報を公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められる場合は、当該残りの個人情報は非開示情報ではないとみなして部分開示すべきであるとする。
 本件事案において非開示となっている情報は条例第14条第2号に該当する個人情報であるので、実施機関が非開示とした情報の範囲が第15条の規定に合致するものであるか否かにつき、以下検討する。

(2)埋火葬許可証等一覧

 非開示とされた個人情報は、氏名及び生年月日であるが、これらはそれ自体として個人を識別しうる情報であり、非開示とすべき情報であると認められる。

(3)埋火葬許可証等

ア 当該書類は、「墓地及埋葬取締規則」、「墓地及埋葬取締規則施行方細目標準」、「墓地及埋葬取締規則に違背する者処分方」、「埋火葬の認許等に関する件」又は「墓地、埋葬等に関する法律」等に基づく埋火葬許可等の記録の写しであり、各ページごとに全体が死亡者及び出願者の一体的な個人情報であると認められるが、実施機関において、これを細分化し、個人識別情報(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)のみを非開示としているものであり、その具体的な内容は、死亡者の【1】本籍(郡より詳細の部分に限る。)、【2】住所(郡市より詳細の部分に限る。)、【3】職業、【4】戸主トノ續(続)柄、【5】族稱、【6】氏名、【7】生年月日、【8】病死・自殺其ノ他變死・中毒等ノ別、【9】死亡場所、【10】病名、【11】埋葬地及び【12】發病 並びに出願者の【1】職業、【2】氏名、【3】死亡者トノ關係、【4】生年月日及び【5】住所である。

イ まず、死亡者の【1】本籍、【2】住所、【6】氏名及び【7】生年月日 並びに出願者の【2】氏名、【4】生年月日及び【5】住所については、それ自体として個人を識別しうる情報であり、非開示とすべき情報であると認められる。

ウ 次に、死亡者の【3】職業、【4】戸主トノ續(続)柄、【5】族稱、【8】病死・自殺其ノ他變死・中毒等ノ別、【10】病名、【11】埋葬地及び【12】發病 並びに出願者の【1】職業及び【3】死亡者トノ關係については、本籍、住所、氏名及び生年月日を除く結果、既に開示されている情報及びこれらの情報から特定の個人を識別するには特別な調査要するため、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなる情報」であるとは認められず、また、公にしても、死亡者若しくはその遺族又は出願者若しくはその家族若しくは遺族の権利利益が害されるおそれがないと認められることから、条例第14条第2号を理由とした非開示決定は妥当でないと認められる。ただし、死亡者の【4】戸主トノ續(続)柄として戸主の氏名も記入されている場合、戸主の氏名は当該戸主の個人識別情報であるため、非開示とすべき情報である。

エ 最後に、死亡者の【9】死亡場所についてであるが、審査会が本件公文書を見分したところ、死亡場所の記述には死亡者の住所を推測できるものもあるため、そのような記述については死亡者の個人識別情報と認められ非開示とすべきであるが、それ以外のものについては開示されている情報及び上記ウにより開示される可能性がある情報と併せても、特定の個人を識別するには特別な調査を要するため、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなる情報」であるとは認められず、また、公にしても、死亡者若しくはその遺族又は出願者若しくはその家族若しくは遺族の権利利益が害されるおそれがないと認められることから、条例第14条第2号を理由とした非開示決定は妥当でないと認められる。

(4)遺骨所在情報

 審査会において本件公文書を見分したところ、生前の氏名以外の個人情報は、遺骨を保管している寺院名とその所在地・連絡先であることが確認されたが、既に開示されている情報及びこれらの情報から特定の個人を識別するには特別な調査を要するため、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなる情報」であるとは認められない。また、公にしても、死亡者又はその遺族の権利利益を害するおそれがないと認められることから、条例第14条第2号を理由とした非開示決定は妥当でないと認められる。

4 その他

 審査会は、別表記載の情報については条例第14条第2号を理由とした非開示決定は妥当でないと考えるものであるが、これは当該情報についてはすべて開示すべきであるという判断をしているものではないことを念のため申し添える。
 特に、埋火葬許可証等に記載された埋葬地並びに遺骨所在情報に記載された寺院名及びその所在地・連絡先については、第14条第3号イの「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する可能性があるので、第21条第1項の規定による意見聴取を行うなどして、非開示情報該当性を判断することが適当である旨を付言する。

5 結論

 以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

第6 審査の経過

 当審査会の処理経過は、以下のとおりである。

審査会の処理経過

年月日 内容
平成18年6月26日 諮問
平成18年7月26日 実施機関からの理由説明書を受領
平成18年8月23日 異議申立人からの意見書を受領
平成18年11月20日
(第4回 第一部会)
審議(事案の説明等)
平成18年12月26日
(第5回 第一部会)
審議(異議申立人の口頭意見陳述)
(実施機関の口頭説明)
平成19年1月29日
(第6回 第一部会)
審議
平成19年3月8日
(第7回 第一部会)
審議
平成19年3月12日 答申

別表

審査会の処理経過

区分 項目 備考
埋火葬許可証等(受付簿の写しを含む) 職業  
戸主トノ續(続)柄 戸主の氏名は非開示とする。
族稱  
病死、自殺其ノ他變死、中毒等ノ別 死亡場所について、○○市【1】及び【3】は非開示とする。
病名  
發病  
出願者 職業  
死亡者トノ關係  
その他遺骨の所在に関する新たな情報 遺骨の所在地  
遺骨を管理する組織等の名称  
上記組織の所在地・連絡先  
遺骨の状況  
上記関連事項の具体的内容 生前の氏名は非開示とする。