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公文書開示審査会答申第105号
「資料名:平成18年度基礎単価表 発行元:群馬県県土整備局」の部分開示決定に対する異議申立てに係る答申書
群馬県公文書開示審査会
第二部会
第1 審査会の結論
実施機関の決定は妥当であり、取り消す必要はない。
第2 諮問事案の概要
1 公文書開示請求
異議申立人(以下「申立人」という。)は、群馬県情報公開条例(以下「条例」という。)第11条の規定に基づき、群馬県知事(以下「実施機関」という。)に対し、平成19年2月1日付けで、「平成18年度 基礎単価表 群馬県県土整備局」の開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 実施機関の決定
実施機関は、平成19年2月9日、本件請求に係る公文書を「資料名:平成18年年度基礎単価表 発行元:群馬県県土整備局」(以下「本件公文書」という。)であると判断し、条例第14条第3号に該当する情報が含まれていることを理由として、公文書部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、本件公文書を一部開示しない理由を次のとおり付して、申立人に通知した。
- 条例第14条第3号該当
〔開示しない部分の概要〕
財団法人○○○調査会(以下「調査会1」という。)及び財団法人□□□調査会(以下「調査会2」という。)が発行している雑誌を元に設定している単価
〔理由〕
市販雑誌を購入することで単価を求めることは可能であり、開示により2調査会の利益を害するおそれがあるため。なお、単価の設定方法は既に公表されている。
3 異議申立て
申立人は、行政不服審査法第6条の規定に基づき、平成19年2月23日付けで、本件処分を不服として実施機関に対し異議申立てを行った。
4 諮問
実施機関は条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して、平成19年3月7日、本件異議申立て事案の諮問を行った。
第3 争点
1 争点1(条例第14条第3号イ該当性)
本件公文書で非開示とされた部分が条例第14条第3号イに該当するか。
2 争点2(条例第14条第6号該当性)
本件公文書で非開示とされた部分が条例第14条第6号に該当するか。
第4 争点に対する当事者の主張
1 争点1(条例第14条第3号イ該当性)
(1)申立人の主張要旨
非公開決定の理由のうち「2調査会の利益を害する恐れがあるため。」とあるが、著作権法により保護されているものについて、「私的使用のための複製」や「引用」など、著作権法上認められた場合を除き、無断で複製、転用をしない限り、これに該当しない。自治体が作成した資料に関しては原則公表であるため非公開決定理由には該当しない。
(2)実施機関の主張要旨
本件開示請求において非開示とした情報とは、「市販されている刊行物から引用し設定した単価」である。この単価は、調査会1及び調査会2(以下「両調査会」という。)が発行する刊行物に掲載されている、同名称・同規格の単価を選定し、この二つの単価を平均し算定しているものである。
一般に単価情報は、予算計画・設計・積算・監査等の各部門で必要な基礎情報であり、市場での取引価格を取引数量、納入時期、荷渡場所等の各条件にあわせ、随時把握する必要がある。これらの情報は、本来、取引関係にある企業間のみに存在する情報であり公にされる類の情報ではない。両調査会の提供する単価情報は、この企業間にのみ存在する情報を独自の調査により得た情報であり、その情報の販売が両調査会の事業の根幹となっている。また、両調査会が発行する刊行物は、その内容について著作権が発生しており、複製や公開等を行う際に、両調査会の許諾が必要な旨が刊行物に明記されており、平成17年度に本件と同様の開示請求があった際に両調査会に意見照会を行ったところ「第三者へ価格情報を提供することに支障がある」旨の回答を得ている。
これらを踏まえ、実施機関内で検討したところ、「市販されている刊行物から引用し設定した単価」は、刊行物の購入により容易に算出が可能で、かつ両調査会の利益を害するおそれがあるため、条例第14条第3号イ「当該法人その他の正当な利益を害する」と判断し、非開示とした。
2 争点2(条例第14条第6号該当性)
(1)申立人の主張
審査会から申立人に対し意見書の提出を求めたが、提出されなかった。
(2)実施機関の主張要旨
条例第14条第6号も該当するものとして非開示理由の追加を行う。
両調査会より「第三者へ価格情報を提供することに支障がある」との見解が示されているにもかかわらず、県が第三者に情報を提供した場合、今後、データベースの提供、刊行物に掲載された単価情報の使用も含め、両調査会から価格情報を提供する一切の業務協力を拒否されるおそれがあり、両調査会からの協力が得られなければ、県が独自に調査をしなければならない事態となることが想定される。
県が独自に調査をしなければならない事態となった場合、両調査会がそれぞれ著作権を有する各刊行物に掲載された情報を両調査会の許諾なしに使用し、各刊行物に掲載された単価情報の転載及び加工を手入力により行い「基礎単価表」を作成することとなる。両調査会から得ている単価情報は、「基礎単価表」に収録されている単価のうち5,001件(うち、1,813件が刊行物を基とする単価)であり、基礎単価表の77%を網羅している。「基礎単価表」の更新、改定、廃止等の業務は、相当数に上る項目を常時把握し、年4回以上基礎単価表へ反映させていることから、現行の単価情報の精度を保つためには、多大な労力、調査時間及び経費が必要となることは明確であり、現実的に実務を執行することができないと判断される。このことは、積算事務の適正な遂行に支障を及ぼすとともに、それに引き続く入札及び契約などの一連の事務についても支障を来すこととなる。
以上のことから、本件公文書で非開示とした部分は、条例第14条第6号「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に当たると判断し、開示しない理由として追加する。
第5 審査会の判断
当審査会は、本件事案について審査した結果、次のとおりと判断する。
1 本件公文書について
本件公文書は、群馬県県土整備局(平成19年11月1日付けの組織改正により県土整備部に変更)内の各所属及び各土木事務所等において、平成18年度に公共事業を発注する際に当該工事の予定価格を算出するための労務及び資材等の単価(以下「基礎単価」という。)をとりまとめたものである。
基礎単価には、群馬県で独自調査等により設定した単価、国土交通省等から参考送付された資料から引用した単価及び両調査会が発行する刊行物から引用し設定した単価(以下「本件単価情報」という。)の三種類がある。このうち、本件単価情報以外は、平成18年度から群馬県ホームページで公表されており、本件単価情報についても、刊行物名、発行元、単価算定方法等については群馬県ホームページで公表されている。
実施機関は、本件公文書のうち、群馬県で独自調査等により設定した単価及び国土交通省等から参考送付された資料から引用した単価については開示したが、本件単価情報については非開示とした。
2 条例第14条第6号該当性について
本件公文書で実施機関が非開示とした情報が、条例第14条第6号に該当するかどうかについて検討する。
実施機関は、両調査会より「第三者へ価格情報を提供することに支障がある」との見解が示されているにもかかわらず、実施機関が第三者に情報を提供した場合、今後、データベースの提供、刊行物に掲載された単価情報の使用も含め、両調査会から価格情報を提供する一切の業務協力を拒否されるおそれがあり、両調査会からの協力が得られなければ、実施機関が独自に調査をしなければならない事態となることが想定されると主張する。
そこで、審査会では、両調査会に対して条例第30条第4項に基づき陳述書の提出を求めたところ、平成19年12月26日付けで調査会1から、同月28日付けで調査会2からそれぞれ陳述書が提出された。
その陳述書において調査会1は、「本件情報を開示することにより両調査会から価格情報の提供協力が得られなくなるおそれがある」とする実施機関の主張について、「本件単価情報が公開された場合、当会に損害が生じるため、当会はデータベースの提供、当会刊行物に掲載された単価の使用も含め、今後単価等のデータの情報の提供を拒否せざるを得ないと考える。万一、群馬県が当会から刊行物掲載単価を入手後これを公開するのであれば、当会は群馬県へのデータ提供を取りやめる考えである」と述べる。
また、調査会2は陳述書において次のとおり述べる。
すなわち、当会と群馬県は「平成18年度設計単価データ作成業務委託契約」を平成18年6月に締結し、群馬県の指定する仕様に基づき、当会データベースから群馬県が指定した資材分類、規格及び地区に該当する単価情報を抽出し、これを磁気媒体に収録し納品している。この契約には「平成18年度設計単価データ作成業務委託著作権に関する特記仕様書」が付されていて、第3項において「発注者は、当該成果品のうち著作物に該当する部分を、著作者の承諾なしに発注者の組織外に公表・配布・貸与することはできない。」とされており、明確に発注者たる群馬県が、当該成果品のうち著作物に該当する部分を当会の承諾なしに公表等をすることができないことが規定されている。
当会は、かかる条項に基づき群馬県が本件単価情報を、当会の承諾なしに公表等をしないことを信頼しているからこそ情報を提供しているのであって、かかる信頼が裏切られ、本件契約に基づき群馬県に提供した情報が無償で第三者に公開されることになれば、当会としては今後、群馬県に対する業務協力の内容を、データ料の値上げを含めて検討するか、あるいは価格情報の提供を含めた一切の業務協力を拒否せざるを得なくなる。また、刊行物等や受託業務料の値上げが受け入れられなかった場合、当会はもはや群馬県下においては従前と同様の事業を継続することができなくなるが、かかる事態となった場合も、当会は群馬県に対する価格情報の提供をすることが不可能となる。
以上のように、審査会に提出された陳述書において、両調査会とも「実施機関が本件単価情報を開示した場合、群馬県への価格情報の提供を含めた一切の業務協力を拒否せざるを得なくなる」と述べていることからすると、両調査会から価格情報の提供を含めた一切の業務協力が得られず、実施機関が独自に調査をしなければならなくなった場合、現行の単価情報の精度を保つためには、多大な労力、調査時間及び経費が必要となることは明らかであり、また、実施機関の人員及び予算からみて大幅な増員・増額は困難であることも明らかである。したがって、実施機関の積算事務、それに引き続く入札及び契約等の一連の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第14条第6号に該当すると認められる。
3 結論
以上のことから、本件処分について、非開示とされた部分は条例第14条第6号に該当すると認められるため、同条第3号イ該当性について判断するまでもなく、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 審査の経過
当審査会の処理経過は、以下のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 |
内容 |
---|---|
平成19年3月7日 | 諮問 |
平成19年3月14日 | 実施機関からの理由説明書を受領 ※異議申立人は意見書を提出せず |
平成19年8月28日 (第11回 第二部会) |
審議(本件事案の概要説明) |
平成19年10月22日 (第12回 第二部会) |
審議(実施機関からの意見聴取) |
平成19年11月13日 | 実施機関からの理由説明書の追加を受領 ※異議申立人は意見書を提出せず |
平成19年11月30日 (第13回 第二部会) |
審議 |
平成19年12月7日 |
条例第30条第4項による調査を実施 |
平成19年12月28日 |
調査会1からの陳述書を受領 |
平成20年1月4日 |
調査会2からの陳述書を受領 |
平成20年1月25日 (第14回 第二部会) |
審議 |
平成20年3月4日 (第15回 第二部会) |
審議 |
平成20年3月5日 | 答申 |