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水試だより52号

更新日:2020年5月26日 印刷ページ表示

【巻頭】新規採用職員の紹介

新規採用職員 生産技術係 技師 井下 眞

 今年度より水産試験場にて勤務しております、井下眞(いのしたまこと)と申します。私は、主にアユの種苗生産に関わる業務に従事しております。アユはとても繊細な魚ですので、環境の整備や病気の予防などに注意して作業をしています。みなさまに高品質な魚をお届けできるように、また、群馬県の水産業の発展に貢献できるように誠心誠意努めて参ります。どうぞよろしくお願いいたします。

大学での研究生活

 私が在学していた福井県立大学は、福井県若狭町にある三方五湖の周辺水域で自然再生および環境保護に取り組んでいます。その中の取り組みの一つとして、私は水田を利用したコイ科魚類稚魚の種苗生産に関わる研究をしていました。
 水田は、稚魚の餌となるミジンコのような動物プランクトンやユスリカの幼生などが豊富に生息しています。また、他の水域から隔離された環境であるため、捕食者と遭遇しにくいなど、稚魚の成育に適した場所とも考えられています。
 私の研究では、主にフナを対象としていました。フナは高水温や低酸素に強く、また、三方五湖周辺では遺伝的に固有な小系統が確認されており、系統保存の側面からも研究対象に適した魚種です。今後は、研究してきた知識や経験を生かし、業務遂行に役立てていきたいと思います。

新規採用職員 井下 眞の写真
新規採用職員 井下 眞

三方五湖周辺の水田の写真
三方五湖周辺の水田

種苗生産したフナの写真
種苗生産したフナ

【特集】「ハコスチ」の生産拡大に向けて

はじめに

 ハコスチは、水産試験場が開発した日本初の遊漁用ニジマスで、激しいファイトが高く評価されており、「上野村漁協冬季釣り場」のように、ハコスチの放流により遊漁者が大幅に増加した釣り場もあります。2015年から種苗供給と養殖が本格的に始まりましたが、未だ生産量が少なく、釣り場が限られているのが現状です。そこで、今後、ハコスチの生産量を増やすためにはどうすればよいかを考えました。

現状と課題

1 生産量

 ハコスチの生産量は、2015年の0.5トンから2019年には9トンと毎年伸びています(図)。しかし、県が定めた2024年の生産目標である30トンを達成するためには、生産を3倍以上に増大させなければなりません。

2 種卵生産

 ハコスチの種卵生産は水産試験場川場養魚センターのみで行われており、2018年の供給量は、32万粒でした。ハコスチの種卵生産には、箱島系とスチールヘッド系の2系統のニジマスが必要です。したがって、通常のニジマス種卵の生産に比べ、親魚の飼育尾数が多くなり、生産コストが高くなります。さらに、スチールヘッド系の成熟ピークは箱島系よりも半月ほど遅いため、ハコスチ種卵生産時期の前半では、スチールヘッド系1尾あたりの採精量が少なく、多くのオスを確保しておく必要があります。

3 釣り場

 本県はマス類を対象とした管理釣り場が約60か所あります。また、マス類の第五種共同漁業権を持つ漁業協同組合(以下「漁協」という)が12組合あります。しかし、2018年度にハコスチを放流した釣り場は、民間等の管理釣り場が4か所(約7%)、漁協等による河川特設釣り場等が5か所(約40%)に限られています。

対応策

1 生産拡大

 養鱒業者が所有する飼育池の数は限られており、飼育魚の種類を増やすことは小規模の業者では難しいと思われます。そこで、全ての種苗をハコスチ種苗に置き換え、一部を遊漁用大型魚のハコスチとして育成し、残りの種苗を食用魚としてレギュラーサイズ(約150グラム/尾)で利用するなどの体制を構築することで、ハコスチの生産者と生産量を増やすことが可能になると考えられます。そのため、ハコスチのレギュラーサイズの養殖特性試験を今年度に実施する予定です。

2 種卵生産の効率化

 生産業者への聞き取り等によれば、ハコスチ種卵の需要は50~60万粒でした。この需要を満たすためには2018年度の供給量よりも20~30万粒増産しなければならないため、必要な種卵を安定供給するために、種卵生産のさらなる効率化を図りたいと思います。

3 需要拡大

 県内には多くの管理釣り場がありますが、前述したようにハコスチを放流している釣り場は少ないのが現状です。これまでは遊漁者(消費者)向けのPRが主体でしたが、これからは釣り場経営者(実需者)に向けたPRも行うことで需要を拡大することが必要です。

(主席研究員 小西 浩司)

図ハコスチ生産量の推移グラフ画像
図 ハコスチ生産量の推移

【試験研究から】飼育水温の違いによるアユのなわばり形成の検討

はじめに

 アユはなわばりを作る時期の水温によって、なわばり形成能力が変化することが知られています。しかしながら、成長する過程で経験してきた水温がなわばり形成にどのような影響を与えるかは分かっていません。そこで、異なる飼育水温で育成したアユを用いて、なわばり形成に関する試験を実施しました。

試験研究の具体的内容と結果

 供試魚は、水産試験場で継代している江戸川系としました。2019年1月16日~4月3日まで水温12度で飼育した群(以下「12度区」という)、水温22度で飼育した群(以下「22度区」という)および水温調整していない井戸水(水温約16度)で飼育した事業用の群(以下「16度区」という)を試験に用いました。
 また、なわばり形成能を調べるため、底面に砂利を敷き、観察面を除き全面を黒色の寒冷紗で覆ったアクリル製水槽(30センチメートル×90センチメートル×水深35センチメートル)中央部に藻類を付着させた素焼き製の植木鉢(口径10センチメートル)を設置しました。水槽内に供試魚を1尾収容し、24時間以上馴致させた後に、なわばり侵入者と模した市販のアユルアーを植木鉢の側面と底面からそれぞれ5センチメートル上の位置に水平になるように設置しました(図1)。試験時は井戸水を掛け流し、水温は16.5±0.5度でした。攻撃行動の観察は、供試魚をアユルアー設置から3分間順応させた後、10分間の攻撃回数を目視で確認しました。なお、本試験では、供試魚がアユルアーに威嚇のため魚体を接触させる行動を攻撃とみなしました。この観察を2019年8月8日~9月4日まで各飼育群24尾ずつ行いました。
 攻撃行動が確認された個体数は12度区で10尾、16度区で8尾および22度区で11尾であり、各区間での有意差は認められませんでした(図2、χ2検定:P>0.05)。
 一方、各飼育群の攻撃回数について、12度区と22度区で有意差が認められ、22度区の攻撃回数は12度区よりも多い結果となりました(図3、Kruskal-Wallis検定:P<0.05)。

現場での活

 今回の試験では、飼育水温の相違が攻撃回数に影響を及ぼすことが示唆されました。しかしながら、飼育水温の相違となわばり形成に関する知見は十分でないため、現場へ活用するには、今後も同様の試験等を繰り返し実施し、データを蓄積していく必要があります。

(川場養魚センター 神澤 裕平)

図1水槽模式図画像
図1 水槽模式図

図2各飼育群の攻撃状況グラフ画像
図2 各飼育群の攻撃状況

図3各飼育群の攻撃回数画像
図3 各飼育群の攻撃回数

【水産行政から】漁業法改正に伴う本県における水産政策の改革

はじめに

 水産業の成長産業化を進めるため、約70年ぶりに漁業法が大改正され、資源管理措置、漁業許可、漁業権制度等の漁業に関する基本的制度の一体的な見直しが図られます。
 この改正に伴う主な水産政策の改革項目としては、1.新たな資源管理システムの構築、2.漁業許可制度の見直し、3.漁業権制度の見直し、4.その他(内水面漁場管理委員会に関する事項等)が挙げられています。本県の内水面漁業においては、上記の3と4の改革が関係していることから、これらの事項について概説します。

漁業権制度の見直し

1 漁場計画の樹立プロセスの透明化

 現行の漁業法では、内水面を最大限に活用し、漁業生産力を発展させるため、漁業権設定に先立って、関係者の要望や調査を行い、漁業権の内容を定め、内水面漁場管理委員会の意見を聴いた上で、県が漁場計画を樹立することとなっています。
 改正漁業法では、現行のプロセスを維持した上で、漁業権免許のプロセスの透明性を向上させるため、関係者からの要望聴取およびその結果の公表を改正漁業法第64条で新たに義務づけています。

2 漁業権

 第五種共同漁業権は、現行の漁業法と同様に内水面漁協に免許します。第二種区画漁業権についても、これまでと同様に既存の漁業者に免許します。また、漁業権者に対しては、資源管理の状況、漁場の活用状況等の報告が義務化されます。
 第五種共同漁業権を免許された漁協は、当該漁業権における漁業生産力を発展させるため、組合員が相互に協力して生産の合理化および経営の高度化の促進に関する計画を作成し、その実現に努めなければなりません。なお、内水面漁協の計画作成に当たっては、地域の実情に即しつつ、組合員の漁獲所得の向上、若い組合員の参画、技術や経験の伝承等に資する方法を内容とし、総会、総代会又は総会の部会の決議を得ることが適当です。

内水面漁場管理委員会に関する事項

 内水面漁場管理委員会の委員の選出方法は、現行の知事が任命する制度を維持します。ただし、委員の選出の対象者のうち「水産動植物の採捕をする者」を「水産動植物の採捕、養殖又は増殖をする者」と改正されます。

おわりに

 今回の漁業法等の改正により、内水面が適切かつ有効に活用されれば、持続可能な漁場運営の推進に繫がると考えられます。今回の改正を契機に、関係者の皆様とさらなる連携を図りながら、内水面漁業の振興に務めたいと考えています。

(蚕糸園芸課水産係 鈴木 究真)

令和2年度 職員の配置

  • 場長 原田 昌季
  • 次長(総務係長)石山 貴浩
  • 主席研究員 小西 浩司
  • 総務係 係長(次長兼務)、北野 洋一、桜木 葉子
  • 水産環境係 係長 新井 肇、鈴木 紘子、阿久津 崇、渡辺 峻
  • 生産技術係 係長 松原 利光、垣田 誉志史、清水 延浩、井下 眞
  • 川場養魚センター センター長 田中 英樹、神澤 裕平、星野 勝弘、山下 耕憲

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