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1 被害実態の解明と品質低下の要因分析
平成22年産米は、白未熟粒(背白・基白)、胴割粒が発生し、玄米品質が低下した(県全体の被害額は約57億7,300万円、被害面積は約7,560)。
特に平坦地域での品質低下が著しく、規格外米が多く発生した。
そのため、各農業事務所普及指導課、地区農業指導センターで被害状況の把握のため、品質低下状況の緊急調査を実施した。その結果等を用い、被害実態の解明と品質低下の要因分析を行った。
結果の要約
- 県内における被害状況は、高冷~中山間地域の吾妻・利根では品質低下は軽微であり、平坦地域である中部、西部、東部で白未熟粒による品質低下が著しかった。
- 気象要因は、8月~9月上旬にかけての異常高温及びその時期に水稲の登熟期が重なったためであると考えられた。
- 品質低下は、出穂期が8月下旬にあたる二毛作地域で作付けされている品種の被害が顕著であった。品種では、高温登熟性が劣る「ゴロピカリ」の被害が著しく、次いで「あさひの夢」であった。
- その他の要因としては、田植時期の前進や生育後半の窒素供給不足も一因と考えられた。
1 被害実態の解明
(1)県内の水稲作付状況
- 本県の平成22年産水稲の作付面積は18,000ヘクタールであり、その内主食用の作付面積は17,300ヘクタールである(農林水産統計)。
- 品種別の作付面積比率は、「あさひの夢」32%、「ゴロピカリ」25%、「コシヒカリ」21%、「ひとめぼれ」11%である(表1)。
- 地域別の作付比率は、中部27%、西部21%、吾妻・利根10%、東部42%であり、中部、西部では「ゴロピカリ」、吾妻・利根では「コシヒカリ」、東部では「あさひの夢」の作付比率が高い(表1)。
- 作期別の作付比率は、早期4%、早植47%、普通期以降は48%となっている(表2)。
地域 | 面積及び比率 | あさひの夢 | ゴロピカリ | コシヒカリ | ひとめぼれ | その他 | 計 | 地域別作付 比率(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
中部 | 作付面積(ヘクタール) | 627 | 1,816 | 1,220 | 676 | 423 | 4,762 | |
比率(%) | 13 | 38 | 26 | 14 | 9 | 100 | 27 | |
西部 | 作付面積(ヘクタール) | 314 | 1,764 | 473 | 678 | 503 | 3,732 | |
比率(%) | 8 | 47 | 13 | 18 | 13 | 100 | 21 | |
吾妻・利根 | 作付面積(ヘクタール) | 0 | 0 | 1,245 | 313 | 264 | 1,822 | |
比率(%) | 0 | 0 | 68 | 17 | 14 | 100 | 10 | |
東部 | 作付面積(ヘクタール) | 4,682 | 900 | 884 | 287 | 762 | 7,515 | |
比率(%) | 62 | 12 | 12 | 4 | 10 | 100 | 42 | |
計 | 作付面積(ヘクタール) | 5,623 | 4,480 | 3,822 | 1,954 | 1,952 | 17,831 | |
比率(%) | 32 | 25 | 21 | 11 | 11 | 100 | 100 |
地域 | 面積及び比率 | 早期 | 早植 | 普通期以降 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
中部 | 作付面積(ヘクタール) | 22 | 1,487 | 3,253 | 4,762 |
比率(%) | 0 | 31 | 68 | 100 | |
西部 | 作付面積(ヘクタール) | 26 | 1,721 | 1,985 | 3,732 |
比率(%) | 1 | 46 | 53 | 100 | |
吾妻・利根 | 作付面積(ヘクタール) | 0 | 1,822 | 0 | 1,822 |
比率(%) | 0 | 100 | 0 | 100 | |
東部 | 作付面積(ヘクタール) | 753 | 3,400 | 3,362 | 7,515 |
比率(%) | 10 | 45 | 45 | 100 | |
計 | 作付面積(ヘクタール) | 801 | 8,430 | 8,600 | 17,831 |
比率(%) | 4 | 47 | 48 | 100 |
作期の区分
早期:~5月20日(平坦地のみ)
早植:5月21日~6月15日
普通期:6月16日~6月30日
(2)被害実態
緊急調査結果を用い、主要4品種(「あさひの夢」、「ゴロピカリ」、「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」)の被害実態を分析した。
1)品種間差
ア「ゴロピカリ」の整粒割合の平均値は28%と低く、3等基準(整粒割合45%以上)には達しなかった。
他の3品種は、外観品質の低下はみられたが、3等基準以上であった(図1)。
図1 品種別整粒割合平均値
イ 検査結果は、規格外の割合が高く、全体では約33%を占めた。
品種別では、「ゴロピカリの規格外割合が約96%と非常に高かった(表3)。
1等 | 2等 | 3等 | 規格外 | 全体 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
ゴロピカリ | 数量(トン) | 0 | 11トン | 233トン | 5,304トン | 5,548トン |
比率(%) | 0 | 0 | 4.2% | 95.6% | ||
あさひの夢 | 数量(トン) | 129トン | 3,837トン | 11,088トン | 3,304トン | 18,358トン |
比率(%) | 0.7% | 20.9% | 60.4% | 18.0% | ||
ひとめぼれ | 数量(トン) | 89トン | 524トン | 120トン | 101トン | 835トン |
比率(%) | 10.7% | 62.8% | 14.4% | 12.1% | ||
コシヒカリ | 数量(トン) | 434トン | 808トン | 525トン | 72トン | 1,837トン |
比率(%) | 23.6% | 44.0% | 28.6% | 3.9% | ||
全体 | 数量(トン) | 889トン | 5,523トン | 12,597トン | 9,549トン | 28,558トン |
比率(%) | 3.1% | 19.3% | 44.1% | 33.4% |
2)地域別の整粒割合と作況指数
ア 吾妻・利根の整粒割合平均値は94%と高く、品質低下は軽微であった。
その他地域の整粒割合平均値は51~53%と品質低下が著しかった(図2)。
図2 地域別整粒割合平均値
イ 作況指数(表4)は中毛が低かった。
その要因は、「ゴロピカリ」の作付比率(表1)が高く、規格外の発生割合が高かったためと考えられる。
地帯 | 群馬県 | 中毛 | 北毛 | 東毛 |
---|---|---|---|---|
作況指数 | 82 | 70 | 101 | 90 |
※ 作況指数は、農産物検査規格の3等以上の飯用に供される米が予想収穫量の対象であるため、規格外については被害粒等を除いて3等規格に調整した後の収量が算入される。
そのため、規格外が多くなると実際の収量より低い数値となる。
※ 作況指数の中毛には、県区分の中部と西部が含まれる(参考資料5)。
3)品種別の田植時期と整粒割合の関係(図3)
ア 平坦地域での作付比率が高い「ゴロピカリ」は、田植時期に関わらず整粒割合が著しく劣った。 しかし、田植時期が遅くなるに従い整粒割合が高いものも存在した。
イ 平坦地域での作付比率が高い「あさひの夢」は、「ゴロピカリ」よりも整粒割合はやや高く、田植時期が遅くなるに従い、整粒割合が高くなる傾向がみられた。
ウ 中山間地域での作付比率が高い「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」は、田植時期が遅くなるほど整粒割合が低下し、品質が低下する傾向がみられた。
図3 田植え時期と整粒割合(品種別)
(3)被害実態のまとめ
- 主要4品種の中では、「ゴロピカリ」の品質低下が著しく、次いで「あさひの夢」であった。どちらも整粒割合が低かったが、田植時期が遅くなるほど整粒割合が高いものが増加する傾向がみられた。
- 地域では中部、西部、東部の品質低下が著しかった。
作況指数は「ゴロピカリ」の作付比率の高い中毛が70と低く、被害が甚大であった。
2 品質低下の要因分析
(1)気象による要因(気象データは前橋地方気象台およびアメダスによる)
1)気温
月 | 平均気温(度) | 最高気温(度) | 最低気温(度) | 日照時間(時間) | 降水量(ミリメートル) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
本年 | 平年 | 対差 | 本年 | 平年 | 対差 | 本年 | 平年 | 対差 | 本年 | 平年 | 対差 | 本年 | 平年 | 対差 | |
5月 | 18.1 | 17.7 | +0.4 | 23.4 | 23.3 | +0.1 | 13.0 | 12.6 | +0.4 | 223 | 194 | 115% | 127 | 91 | 140% |
6月 | 23.5 | 21.2 | +2.3 | 29.0 | 25.7 | +3.3 | 18.8 | 17.2 | +1.6 | 169 | 119 | 142% | 214 | 151 | 142% |
7月 | 27.0 | 24.7 | +2.3 | 32.3 | 29.2 | +3.1 | 23.0 | 21.0 | +2.0 | 171 | 135 | 127% | 227 | 183 | 124% |
8月 | 29.0 | 26.1 | +2.9 | 34.1 | 30.9 | +3.2 | 25.1 | 22.3 | +2.8 | 189 | 163 | 116% | 130 | 185 | 70% |
9月 | 24.2 | 21.9 | +2.3 | 29.2 | 26.1 | +3.1 | 20.2 | 18.4 | +1.8 | 164 | 117 | 140% | 195 | 215 | 91% |
10月 | 17.7 | 16.1 | +1.6 | 21.5 | 21.0 | +0.5 | 14.5 | 12.0 | +2.5 | 103 | 158 | 65% | 161 | 93 | 173% |
平均 | 23.3 | 21.3 | +2.0 | 29.3 | 26.0 | +2.3 | 19.1 | 17.3 | +1.8 | 170 | 148 | 115% | 175 | 153 | 114% |
ア 前橋の稲作期間全体(5月~10月)の平均気温は、平年に比べ2.0度高く、特に8月は29.0度と2.9度高くなった(表5)。
イ 白未熟粒(背白・基白)は、出穂期から出穂後20日間の日平均気温が27度を超えると籾への養分転流が阻害され、発生が急増するとされている。
また、胴割粒は出穂後10日間の高温が発生を助長するとされている。
本年は、水稲の出穂期~登熟期と8月~9月上旬までの連続した異常高温が重なったことや8月下旬~9月上旬に夜温が高かったことから、白未熟粒や胴割粒の発生が多くなったと考えられる(図4)。
胴割粒の発生には、収穫適期の前進による収穫遅れも影響したと考えられる(表6)。
図4 平成22年産水稲登熟期の気温の推移(前橋)
出穂期 | 収穫適期 | 平年対比 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
平成22年 | 平年 | |||||
8月20日 | 9月27日 | 10月3日 | 6日早 | |||
8月25日 | 10月4日 | 10月10日 | 6日早 | |||
8月30日 | 10月12日 | 10月18日 | 6日早 |
一方、白未熟粒(乳白粒、心白粒、死米)は一時的な高温(台風通過後のフェーン現象)によっても発生し、過去に本県でも被害事例はあるが、被害地域等は限定されていた。
本年は広範囲に登熟後半まで高温が続いたため、大きな被害となったと考えられる。
ウ 吾妻・利根地域の品質低下が軽微であったのは、中山間地以上では27度を超えることは希であり、白未熟粒の発生も少なかったためと考えられる。
他の地域は27度を超えている(図5)。
図5 地域別平均気温の推移
2)日照時間・降水量(表5)
ア 前橋の日照時間の平均値(5月~10月)は平年に比べ 115%と多かったが、10月は65%と少なかった。
イ 降水量の平均値(5月~10月)は平年に比べ114%と多く、特に10月は173%と多かった。
しかし、出穂期の8月は70%と少なかった。
ウ 収穫期(9月中旬~10月上旬)の降雨による収穫遅れ(胴割粒の発生)も品質に悪影響を与えたと考えられる。
3)発生要因の検証(表7)
ア 前橋の気象を用いて、出穂期から20日間の日平均気温について検証を試みた。
イ 出穂期を8月10日から5日間隔で8月30日まで想定した場合、すべてにおいて27.0度を上回った。
ウ 8月10日~8月25日の出穂期は、ほぼ29.0度に達しており、白未熟粒が多発しやすい条件が整っていた。
エ 奨励品種決定調査(6月25日植・県農業技術センター)における出穂期は、「ゴロピカリ」8月26日、「あさひの夢」8月28日であり、白未熟粒が非常に発生しやすい条件下にあったと推測される。
項目 | 出穂期 | 備考 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
8月10日 | 8月15日 | 8月20日 | 8月25日 | 8月30日 | ||
日平均気温 出穂期~20日間 | 28.9度 | 29.5度 | 29.3度 | 28.7度 | 27.0度 | 27度以上で白未熟粒(背白・腹白)急増 |
(2)品種による要因
主要4品種の中では、高温登熟性が劣る「ゴロピカリ」の品質低下が著しく、次いで「あさひの夢」となった。
「ゴロピカリ」の品質低下が著しいのは、大粒のため高温による転流阻害の影響を受けやすかったこと、
「あさひの夢」より出穂期が早く、登熟期に高温に遭遇する期間が長くなったことなどが考えられる。
(3)田植時期の前進
平坦地では早植ほど品質が低下する傾向が認められた。
麦類の作付面積の減少等により田植時期が前進し、出穂期から登熟期が高温に遭遇しやすいことも一因と考えられる。
(4)根の活性低下による生育後半の窒素供給不足
各地域で生育後半に赤枯れ症状がみられており、生育後半の窒素供給不足から稲体の活力が低下し、白未熟粒(背白・基白)の発生が助長されたと考えられる。
これは、生産現場で良食味指向や労力不足等から穂肥を控えることが多くなっていることや、浅耕・根腐れによる根張りの不良等が要因と考えられる。
(5)担い手の変化
- 高齢化や兼業化により、適切な栽培管理(水管理、病害虫防除等)が困難となっている。
- 米価の下落により、コスト低減のため、土壌改良資材や追肥を省くようになっている。
(6)要因のまとめ
- 気象要因は、8月~9月上旬にかけての異常高温及びその時期に水稲の出穂期~登熟期が重なったためである。
- 品質低下は、出穂期が8月下旬にあたる二毛作地域で作付けされている品種の被害が顕著であった。
品種では、高温登熟性の劣る「ゴロピカリ」の被害が著しく、次いで「あさひの夢」であった。 - その他の要因としては、田植時期の前進や生育後半の窒素供給不足も一因と考えられる。