本文へ
群馬県ホームページへ

環境農林常任委員会・専門家からの意見聴取(説明)

開催日時

 平成22年8月26日(木) 午前10時30分から午後0時25分

開催場所

 群馬県議会庁舎2階 203会議室

内容

 有害鳥獣対策について~野生動物管理の考え方と行政の役割~

専門家

 日本獣医生命科学大学准教授 羽山伸一
 

1.説明

 皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました羽山と申します。
 本学と群馬県とは鳥獣対策に関わる包括連携協定、全国で初めて締結させていただきまして、現在、鋭意調査等に取り組んでいるところであります。議員の先生方のお手元に群馬県と連携して野生動物問題解決ハンドブックという、被害対策の進め方を基本としました冊子が配ってありますけれども、これの一番最後の頁に、群馬県での実際の事例を、これ桐生市の奥沢地区で実際にやられた事業風景ですけども、こういった形で始めさせていただいて、成果が出始めている。そういうご報告をさせていただきまして、今日は個別問題というよりはそもそも論としての野生動物管理の基本的な考え方、そしてその中における行政機関の果たすべき役割の考え方、これを私なりにお話しさせていただきたいと思います。ただ、やはり具体事例がないとご理解いただきにくいかと思いますので、最初の方に基本的なお話をさせていただきまして、後段のところでですね、私、実は神奈川県出身で、20年ほど神奈川県の対策にずっと携わってまいりました。その神奈川県での事例をご紹介しながら、群馬県のご参考になればなというふうに期待しております。そうしましたら座らせていただいてお話に入りたいと思います。
 もう言うまでもないことでありますけども、こういった人と野生動物の関係、これは年々深刻化している。みんなご承知の通りなんですが、更に従来の想定された鳥獣被害対策、農林業被害、水産業被害、こういったもの以外の問題の多様化・深刻化というのが、ここ10年から20年程の間に急速に進行してまいりました。ここにずらっと書きましたけども、これらの課題というのは、実は法律で言いますと鳥獣保護法という法律がありますが、これは大正時代に出来た法律で、長いこと野生動物対策の基本となった政策ですけども、それでは想定されていない課題、ですからこういった新たな課題に対して、やはり誰がどう取り組んでいくのか、これが今求められているところだと思います。ですからここで出てきた結論というのは、従来の被害問題というのは特定の地域、特に中山間地域に特化した、そういう地域問題という位置付けが多かったかと思うんですけども、むしろここに挙げられたようなことというのは、もう社会全般、県民全員に関わるような、そういう大きな社会問題なんだと、そういう位置付けでこの鳥獣対策というのは今後は取り組んでいく必要がある、というふうに考えております。例えば鹿の問題。当然、群馬の尾瀬の国立公園を始めとしまして、世界遺産の知床、或いは屋久島、わが国を代表するようなこういった自然地域で鹿の問題が大きく深刻化しておりまして、このままでは日本の山全体が禿げ山になりかねない、こういう状況にあります。これは僅かこの20年足らずで顕在化してきた問題です。鹿がそういう動物であるならば、とっくの昔に、もう日本列島には数万年に渡って鹿が住んでますので、これは鹿の影響、鹿の問題だけで起こっていることでは決してなくて、これはやはり人間と鹿との関連の中で、僅かこの数十年の間に起こってしまった。まさにこれは人間が引き起こした社会問題です。こういったものにも対応が求められているところです。
 それから、ようやく明日あたり終息宣言が出されるようですけども、宮崎で発生しました口蹄疫、今、全世界で口蹄疫の問題というのはなかなか制圧が難しいということで、世界的な取り組みが進んでおりますけども、わが国でもついにそれを正面から取り組まざるを得ない、そういう段階に入ってきております。幸いですね、今回宮崎で発生した場所が、猪や鹿があまり生息していない地域であったということが非常に大きな、不幸中の幸いでして、例えばこれ群馬の場合ですけど、分布図が20年も前ですから、もう少し広がってきておりますけども、この養豚場の分布と猪の分布、もうかなりオーバーラップしております。ここで口蹄疫が万が一発生した場合、野生の猪の世界に口蹄疫ウイルスが広がるというのは、もうこれ世界の常識であります。野生の世界に一旦入ってしまいますと、極めて制圧が難しい。そういうことで、まさに危機管理ということを含めてこれは取り組まなければいけない野生動物問題です。
 それから、これは宇宙から見た群馬県中心の映像ですけど、だいたい100キロメートル四方くらい。この程度の大きさの中に、たぶん見る限りで約2,000万人以上の人が暮らしています。その中に日光や尾瀬といった国立公園、浅間山がここにありますけど、上信越の国立公園、それから秩父の国立公園、日本を代表する自然生態系がぎゅうぎゅう詰めに詰まってる。こういう稠密な土地利用構造の国というのは世界でも例がない。そういう中でこそ、この野生動物と人との軋轢が非常に深刻化しやすい、そういう構造上の問題があるわけです。しかし、それを未来の世代に渡って健全に維持していくというのも我々の責務でありますし、それから動物にとっては県境というのが殆ど意味のないものですから、県だけで問題が解決するという次元では既になくなってきておりますので、隣接地域との、どうやって連携をとり、どう管理していくのか。つまり、今までのように捕獲をして良いとか悪いとか、それから被害の対策を個別に進めるというような従来型のやり方では、もうこういった視点での問題を解決するのは非常に難しい。つまり、良いか悪いかは別としまして、もう人間は野生動物を含む自然を管理しなければ、し続けなければ、人間も生き続けていくことは出来ない。21世紀というのは、まさに適切な管理を行う時代なんだと、そういうふうに認識しております。
 これから先、じゃあその野生動物をどう管理するのか。必要性については十分ご理解いただけてるとは思いますけども、一番大きな問題というのは2つあります。まず第1は、そもそも野生動物をどのように管理したらいいのか。従来型のように捕る捕らないというだけの対応で良いのか。それから2つ目は、じゃあ管理するとしても、それを一体誰が管理するのか。この誰が、というところが今まで非常に曖昧にされてまいりました。それから管理をする以上、管理者が必要であるというのは、これはどんな分野でも同じだと思いますけども、その管理者が誰なのか、この問題について意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、どのように管理するか、ということなんですが、そもそも相手が得体の知れない自然です。ですから人間が全てを理解しているわけではありません。人間社会ですら十分管理するのは難しいという時代で、自然というのは我々が知ろうと思っても100%理解することはほぼ不可能である。そもそも生物が一体今何種類いるかすらはっきり分からない。そんな中で相手を管理しなければいけない。こういったよく分からない相手を人間が管理するという手法については、最近になって考え方が整理され実践が生まれてきております。これを基本原則としまして、ワイルドライフマネジメント、つまり管理、日本語の管理という言葉だとちょっと十分表現しきれないんですけれども、英語の場合ですとマネジメント、むしろ経営するという、そういう発想に近いものを導入していく必要がある。これが生き物を相手にした場合、或いは自然を相手にした場合の、管理の基本原則と考えられております。それからここ10年から20年の間で、世界中で野生動物だけに限りません。例えば河川ですとか森林生態系ですとか、そういった自然を相手にしたものについては、まさに決め打ち的に、これをやればこうやって上手くいくというようなものは、なかなか見出せない。ですから早い話がやってみなければ分からない。だけれども、税金を使って、やってみなければ分かりませんというのは、なかなか選択できない手法ですので、ですからそれを繰り返し繰り返し、科学的なデータを用いながら、そして納税者と議論を交わしながら、そして軌道修正をして正しい道を探し当てていく。この手法のことを順応的管理というふうに呼んでおります。まさに野生動物を相手にするには、この基本原則とこの手法によって取り組んでいく必要があるということが、最近の知見で明らかになってきたところです。ただ従来というか、現状でもこういった被害対策について、このようなことが取り組まれているのかというと、残念ながら多くの場合、現状でこういった深刻な被害を何とか解消に向けて、或いは自然との共生に向けて変えていきたい、というのが誰もが納得できることだと思うんですが、やられていることといえば、殆どこの2つ。被害が出たら駆除。或いは被害が出たら農地をフェンスで囲う。この防護施設を整備する。今、おそらく県の施策の中でも、大半の税金がこの2点に投資されていると思います。これで問題が解決するんであれば、何も考える必要はないと思うんですが、残念ながら多くの場合はなかなか解消に至らない。これは何故かと言えば、よく考えてみれば当たり前の話で、例えば病気の場合ですね、病気だからといって抗生物質さえ飲めば治るという、そういう問題では決してない。しかしそれに近いことを被害対策の現場では実際に延々とやってきている。そこに莫大なお金と労力が投資されている。こういった実態をやはり変える必要があると思うんです。
 じゃあどう変えたらいいか、ということなんですけれども、そもそもワイルドライフマネジメントというのは何かということなんですが、駆除とか防護施設だけでなぜ問題が解決出来ないかというと、実は人間と動物の関係というのは1対1の関係ではないということです。例えば従来ですと、被害が出たら人間は捕獲をする。こういう1対1対応だったわけですが、一方で人間は土地を利用して生きています。農地を利用したり森林を利用したり、土地を改変することで生活をしている。この結果、同じ場所に動物が暮らしています。この改変によって生息環境が変わることで、動物たちの餌の供給量が大きく変動します。例えば、森林を伐採すれば鹿にとっての餌の量は約20倍まで増加します。しかし、熊みたいな動物にとっては森林を伐採すれば急激にゼロに近づいてしまいます。つまり、動物と人間の関係というのは直接的に人が捕獲をするということで個体数を調整すると同時に、土地を改変することで動物の個体数を間接的にコントロールしています。ですからこの3つの関係を適正に調整しないと、例えば分かりやすい話で言えば、片や森林を伐採して鹿をどんどんどんどん増やす。一方でそこで被害が出るからといって税金を使ってどんどんどんどん鹿を間引く。これを調和させないでやってきたのが従来のやり方で、つまりこの3つの関係を適正に調整することが一番コストが安くて、そして適切な自然環境の管理に繋がる。こういうことで、ワイルドライフマネジメントというのは、この3つの関係を適正に調整すること、と定義されております。従いまして、これからやらなければいけないことは、それぞれの3つの対象に対して適切に管理を行うこと。つまり管理の対象というのは、野生動物だけではないということです。3つの対象が管理される必要があるということで、このマネジメントとは何か。実行段階になった場合には、この3つの対象を適切に管理すること、ということになります。ですから被害対策というのは、この3つの分野を必ずセットで用意しておく必要があるということです。当然それを施策に反映する場合、これはもうどんな行政課題でも同じだと思いますけども、具体的に、具体的な個別課題を数年以内にどういう達成目標に導くか、ゴール設定を通常すると思います。残念ながら野生動物対策の場合にはこういった課題設定、目標設定というのが非常に曖昧にされてきたために、具体的な選択肢というのが捕獲か施設整備の、どちらかに投資されるに過ぎない。ですから例えば、例をここに書いてありますけど、おそらくそれぞれの個別課題に対して、目標を達成するには色々なアプローチがあるはずです。今すぐ出来ることから、中期的、中期といっても2~3年という単位ですけども、それでしか出来ない。しかし、それぞれを具体的に、誰が何処で何をするのか、こういうことを明確にして、計画的にやっていく。これが本来の進め方です。これを野生動物対策でも当然導入すべきだ。ですから、そのためにはやはり具体的なマスタープラン、単なる方針ではなくて、具体的なマスタープランを作って対策作りをしていかなきゃいけないんですが、残念ながらこういったものが作られているケースというのは非常に少ないと思います。それから、当然目標としての5年計画というようなものは、多くの県で今作られていますが、それを具体的に年次事業の自主計画にまで落とし込んで、しかもそれを市町村や各地域の主体と一緒になってやっていく、こういう体制まで出来ているところは極めて少ない。これが実情であります。先程申し上げた順応的管理システムというのは、これは行政の方ではもうご存知の通り、いわゆるPDCAサイクルと言われているものと基本的には同じなんですが、問題なのは多くの場合ですね、自然というのは、やった結果、どういう反応が出るかが想像つかないんですね。同じことをやっても地域によって、或いは動物によって、或いは場合によって、反応の仕方が変わります。ですから、必ず計画を実行した場合にそれがどう上手くいったのか、いかないのか。この科学的なモニタリングというのが、これがまさに生命線になります。当然それを、なるべく早い段階でフィードバックして、次の評価に反映させる。つまり、適切にリアルタイムで軌道修正していく。これが本来必要な順応的管理です。当然そのためには、これらのシステムを支える幾つかのこういった仕組みが必要です。ここに納税者を含む多様な主体が参画していくことで、納得できる税金の使い方というのが、期待されるわけです。特に重要なのは、この科学的な評価をする組織、それから具体的に誰が何を何処でするのか、という実行組織。これを明確化しておくということなんですが、残念ながら多くの自治体の場合には合意形成の組織というのは、作られておりますけども、これらを支える、特にこの黄緑色で示した、ここの部分が弱いというのが実態です。幸いですね、この仕組みを日本の法律法体系の中で初めて導入したのが、特定鳥獣保護管理計画制度というもので、これは鳥獣保護法の中で99年改正された新たな制度ですけども、その制度の中で約10年間、群馬県も含めまして、こういった仕組み作りをやってきたんですが、まだまだ走り出したばかりということもありますけども、多くの場合、予算と人材が不足しているということがありまして、この仕組みが十分機能しているということは残念ながら言い難いのが実情です。
 ただ、じゃあこれを、そもそも誰がやるべきなのか。多くの場合、国がとか、色々な意見を出されることがあると思いますが、これは制度論上の整理、ここではしてみました。早い話が、野生動物の管理者は誰なのか、ということです。実は、これは法律的には全く明記されたものがありません。つまり、管理権限というのが明記されておりません。これは何故かというと、よく根拠としていわれるのは、野生動物自体が民法上の無主物である。誰のものでもないから誰も管理しない。こういうような論調で言われてきたことがあるんですけども、ただ、それで許される時代は良かったんでしょうが、現状ではもうそれは無理。管理をする以上、管理者が必ず必要だという時代です。ただ、法律上は、捕獲許可権者は規定されておりません。ですから市民は許可されない限りは一切野生動物を捕獲することが出来ません。ですから許可をする人がやはり管理をしなければいけない。これは自明のことだと思うんですけども、この捕獲許可権者はじゃあ誰かといいますと、法律上は希少動物、これはレッドデータブックに記載されているものですけども、これは国が許可をする。それ以外は、実は法律上は都道府県の自治事務になっています。自治事務である以上は、これは国が何と言おうと、市町村が何と言おうと、やはり県が主体的に責任を持たなければいけない。これが、そういう意味では、野生動物の管理者は何か、誰かと言われたときには、答えとして、当然これは都道府県です。都道府県が責任者にならない限りは物事は動かない。多くの場合なかなかそれは受け入れられてないんですけども、ただ例えばですよ、水なんか、同じようなもんなんです。水も民法上の無主物であります。しかし、水は我々にとって生きていくために必要不可欠なものですから、管理権・水利権、これはもう発生させているわけです。当然これは河川管理者だとか、色々な方にこういった権限が与えられていると思いますけれども、何れにしても、これは規定上明記されていないとは言え、都道府県がやるしかないというふうに考えています。
 じゃあ具体的に、今後誰がどのようにしてやっていくのか、ということなんですが、この野生動物管理、先程申し上げたように大きく3つの管理が必要です。これを、誰が実施者なのか、という視点で整理したところですね、例えば捕獲の担い手ということで、今、狩猟者が実質的には動いている。被害対策については、これは当然個人の農地ですから、農業者が管理しているわけです。それから森林については森林所有者が管理している。こういうスタイルになっているのが普通だと思います。当然それぞれに担当部局があって、じゃあマスタープランはどうなってるかというと、現状では野生動物管理に関しては基本的に、法律上の特定鳥獣保護管理計画、これが各動物毎に作られていますけども、実質的にはこれは捕獲の量を規制する、或いは拡大する、こういった捕獲計画に過ぎないというのが多くの場合の実態で、これで上手くいくならいいんですけど、実際には上手くいっていないというのが現実です。しかも殆どの担い手が、これは個人の善意に頼らざるを得ないというところで、これから先、狩猟者は大体あと10年から20年でほぼ全滅する可能性が出てきています。それから被害地域の農業者の撤退、これによって耕作放棄地が増える。こういった問題が当然起こっているわけですが、これもそのうちそうなってくれば、放っておけばですね、いなくなる。森林所有者も、林業そのものの衰退の中でだんだんだんだん管理をしなくなってくる。こうなってくると、実施者がいない中で野生動物管理をどうやるのか。ここがまさに喫緊の課題として一刻も早く仕組みを作らなきゃいけない、ということだと思います。もちろんこれは県だけの責任の話ではなくて、色々なレベルでの問題があります。詳しい話は割愛しますけども、何れにしてもですね、これから先これを誰がやっていくのかということを考えたときには、やはりもう個人のレベルでは到底不可能です。早い話が、冒頭で医療の話をしましたけども、医者がいないのに病気が治るわけがない。今、医者がいない中でむやみな処方箋が出され、薬が出され、そして治らない治らないと言っているのが実態で、そうではなくて、やはり必要なのは医者をつくること。ですから、この分野で言うお医者さんに当たるのは技術者です。今、どっちかって言うと、政府の方ではですね、捕獲の担い手を増やさなきゃ間に合わないということで、如何に狩猟者を増やすかというところに主眼がおかれた政策がとられていますけども、狩猟者が増えるということは、ほぼ期待薄だと思います。それから実際に、例えば河川の管理を進めていかなければいけないのに、釣り人を増やそうなんていう政策があり得るわけがない。それとほぼ同じことを今現実にやっているわけです。そうではなくて、やはり当然、狩猟者というのは、これは趣味の団体ですから、もちろん社会的な責任はあるとしてもですね、やはり捕獲を行う責任を持った技術者が必要である。捕獲をする人ばかりを増やしてもしょうがないわけで、やはり管理者がいなければ管理が出来ない。つまり、この管理の技術者と捕獲の技術者、この車の両輪を欠いて、今、迷走しているのが日本の野生動物対策。ですから、ここをまず確保するというところから、よく考える必要があると思います。ですから、将来的にはこの野生動物管理を地域一体となってやっていく仕組みを作らないと、おそらく立ちゆかなくなるのは目に見えていると思います。つまり、従来の狩猟者や農業者、森林所有者、こういった方々には当然ご協力を頂きつつですね、管理全体を地域が支えるという仕組み、これが求められます。特にこのマネージャー、管理者ですね、こういった県の地域の中に必ず地域の管理者がいて、そしてその捕獲の技術者と狩猟者が協力をして、野生動物の調整をしていく。そしてその被害対策、それから生息地の管理、多様な主体の協力の中で支えられていく。この仕組みを作っていかないと、これから先は管理が難しいと思います。幸い、特措法で被害防止計画というのを市町村単位で作るようなことも出来るようになってきましたので、こういったものをですね、活用しながら地域の広域的な枠組みというのを作れると思います。
 実はこのような地域管理組織、これによって管理を進めていくというやり方は、もう既に欧米ではスタートしております。アメリカから始まった仕組みですけども、これはコミュニティーベイストマネジメントと呼ばれるもので、如何に地域主権でそこの自然資源管理を行っていくのか。そのためこれを個人ではなく、地域全体で支えてやっていくというこの枠組み作り、これが必要で、ただ、じゃあここだけで物事を完結できるかというと、なかなかそれは難しいわけです。幸い県には対策支援センターも出来ましたし、今、科学的な評価組織がありませんけれども、或いはそれを一元的に管理する野生動物管理部局もありませんけれども、こういったものを整備することで科学的な、或いは技術的な支援が出来るようになるだろうと思います。ただ、当然それらの全体を束ねるマスタープランですね、これが特定計画という法定計画が良いかどうかは分かりませんが、何れにしてもこれらを支える計画づくり、この全体の仕組み作りを今後目指す必要があるというのが私の考えです。
 これからちょっと具体的な事例をご紹介したいと思います。この間、オーストラリアの、ここにタスマニア州というのがあるんですけど、ここに実際にこのコミュニティーベイストマネジメントをやっているというのを聞きまして、現場を見に行ってまいりました。タスマニア州というのは大体北海道の8割くらいの面積の州ですけども、人口は40万人ちょっとです。ですから面積の割には人が非常に少ない。だけども、一つの独立した州として、野生動物管理に取り組んでいます。面積的に非常に広いんですが、島の半分が世界遺産に登録されておりまして、島の半分が農地と、そういう地域なんですが、そこで、それだけの広大な地域の管理組織なんで、州政府のセンターに伺ったんですが、それなりの大きなものなのかなと思ったらですね、これがオフィスです。畜産試験場の中にひとつ、小屋と言っちゃ申し訳ないですけど、建物をひとつ借りて、ここが拠点となって、この州全体の管理を行っておりました。この方はマネージャーの方ですけども、博士の学位をもった科学者でもあります。彼の部下に6人のスタッフ、こんなでかい島なんですけど、6人のスタッフでこれを回していると聞いて非常に驚きましたが、やってることは何かと言いますと、ここに大体20ページくらいの契約書ですね、これはどういう事かと言いますと、それぞれの地域、大体日本で言うと市町村くらいの大きさのところの地域に赴いて、州政府の管理者がですね、ワークショップをやるんです。住民の方、それから狩猟者の方、そういう方々を集めて、これから先この地域の野生動物対策をどう進めるか、そういう議論をするんです。当然そのためには、誰がどういうことをしなきゃいけないのか。例えばハンターが1年間に100頭の鹿を捕らなきゃいけない。そういうような具体的なことをみんなで決めます。それをこういった協定書という形で仕上げて、ですからそれは当然地域ごとに全部中身が違います。その協定書を州政府が仲介役になって作り、最終的にこれが関係する主体のサインを最後求めて、マネージャーが最後それにサインをすると、それが法的な根拠を持ちます。ですから、これが出来ることによって、ほぼ1年間に渡って狩猟をすることが出来ますし、そのエリアの中にはいわゆるよそから自由に入ってくる狩猟者は排除出来ます。ですから狩猟者にとっては、一種の自分の縄張りを守れるし、打ちたいときに打つことが出来る。そういうようなメリットが非常に大きいですし、何よりも安全管理としてですね、この知らないところから弾が飛んでくるということもありませんので、結果的にはこの制度によって、現在ですね、狩猟者自体が増え始めている。実はアメリカでもヨーロッパでもオセアニアでも、狩猟者の高齢化と減少というのは歯止めが掛かってないんですが、この制度を取り入れた地域では狩猟者の増加が始まっている。何れにしても、ただそれを、それぞれの地域毎でこれやっていくんで、もの凄い大変な作業量です。しかしこの僅か数人のスタッフが毎日のように各地域に赴いてワークショップをやって、大体今、農地の約6割近い部分がこの協定書によって管理されるようになりました。このオフィスにあるキャビネットは、ぎっしりこの契約書がですね、協定書が収まっていると言ってましたけども、その作業量には脱帽と言っていいんですが、ただ問題なのは、そのあと放っておくわけではないんです。毎年毎年その地域で、どんな個体をどうやって捕獲したか、どういう動物を目撃したか、こういう科学的なデータは報告する義務があります。その報告されたものを、この管理組織の方で科学的に評価して、それぞれの地域にまたフィードバックする。ちょっと捕りすぎじゃないかとか、もっと捕っても大丈夫だとか、そういったことを指示しながら、地域主体で管理を進めていくという、これがコミュニティーベイストマネジメントという手法です。特に鹿の場合は顎の提出義務がありまして、必ず捕獲した個体は顎を切除して、これを封筒にポイッと入れてですね、郵送するんですけども、こうやってデータを集めながら、その地域の評価をしていく。こういう事を延々と続けております。じゃあこれを群馬県で、これをというか全く同じことではなくて、これをやはり日本スタイルに替えていく必要があると思いますが、日本で出来るのか、群馬県で出来るのかということなんですが、例えばですね、鳥獣保護法の担当職員の配置状況です。これ全国込みになっておりますので、色々県によって違うかと思いますが、全国的な傾向として、大体お分かりいただけると思うんですが、大半がいわゆる事務職の方、あと残りが林業職の技術職の方、直接的に野生動物を専門にされている技術者というのは殆どいません。これが日本の実情です。これは世界では普通あり得ない現象です。しかしこれ、じゃあどうするかということなんですが、全国で全て足しますと約千人の担当者が野生動物の対策で、少なくとも鳥獣保護法の所管だけで働いております。これ以外に実際最近では、農業被害の現場では普及員さんですとかね、農業技術者が約数千人の単位で働いておりますので、こういう方々が、各県単純に割り込みますとね、まあせいぜい少なくともですね、40~50人の方は働いているわけです。この方々がそれなりの知識と技術を持ったら、いくら数百万人の自治体といえどもですね、これは同じことが出来るんではないか。ですから全くホープレスではなくて、現実味がない話ではなくて、如何にその職種に対してですね、そのポストに対して専門性を与えるか、ここが重要だと思います。従来は鳥獣保護法の捕獲の許認可だけが本来的な業務で、百年近くやってきましたけれども、もうこれからはそんな時代では決してないというふうに考えております。そこで4年前から群馬県と連携させていただきまして、これは私どもの大学が文科省から助成をいただきまして、全国の技術者育成にですね、取り組んでまいりましたけども、そうは言ったって小さな取り組みですので、年間約百人程度しか出来ませんが、それでも群馬県との連携もここ3年程やらせていただきまして、各市町、それから県の職員の方々ですね、毎年数十人単位で研修を受けていただいて、やはり群馬県の技術レベルというのは飛躍的に向上しているんじゃないかなというふうに思っております。ですから、やはりこの人材育成がある意味、被害対策の正に全てに近くて、この人づくりをまず優先させる、その人達がいれば少なくとも今、少なからず鳥獣対策の予算は確保されていますので、これを如何に有効に使えるかということに繋がるだろうということに期待しております。
 ここからは冒頭でお話した神奈川県の事例を紹介させていただきます。神奈川県には丹沢という山がありまして、約4万ヘクタールくらいです。その大半が国定公園に指定される自然地域ですけども、ご承知のように神奈川県は900万人の人口がいます。もう山裾まで住宅団地が迫っておりますので、当然その丹沢には熊から猿、鹿、みんないますので、こういった動物との軋轢が生じております。とりわけこの鹿の問題というのが、日本で最初に顕在化したのが丹沢で、これはやはり山が小さいからだと思いますけども、その鹿の問題を解決するために、今までどういう取り組みがあったのか、これをご紹介したいと思います。前橋がここにありますけども、丹沢はこういう山で、ちょっとこれを見て分かるように、独立した山です。ここに中央本線とか中央高速とか、これが東名高速とかですね、完全に分断された孤立峰、これが丹沢山地でありますけども、実は東京都心や横浜の都心からですね、一番近い距離にあるブナの森です。私はここへ4つの頃から登ってますので、もう既に50年近く見てきておりますが、子供の頃の景観はこんな感じでした。もうとにかくうっそうとしたブナ林で、森の中をかき分けるように、本当に泳ぐように、すす竹をかき分けながら登ったという、そういう記憶もあります。ところが大体1980年代に入りますと、鹿の増加に伴って、こういった樹皮剥ぎなどが段々進行してまいりまして、ついにはこれはブナ林の中ですけども、おおよそブナ林とは言えないような禿げ山みたいな状況になってまいりました。もちろん、そのあとの科学的な研究によりまして、鹿だけの影響でこういう事は起こらないということが分かってきましたが、しかし逆に言えば鹿がいなければこんな事は起こらない。こういうことも言えるわけで、鹿対策というのがこの非常に重要な問題になってまいりました。ただ、ご承知のようにこれは最初の頃はですね、丹沢でこの問題が起こったときは、丹沢というのは特殊な場所だと、そういうふうに全国から言われましたけども、現在ではこれと同じような現象が日本中で起こり始めました。まさにこれは鹿問題と言えるような社会問題。神奈川県ではこれをどうするかということで、93年から4年間かけて科学的な調査を行いました。ただこの時に、県が主体となってやるのではなくて、地域の研究者、それから民間団体、こういったところに協力を求めて、まさに調査団方式でやっていこうということになりました。この時は東京とか周辺地域も含めまして、500人以上の専門家が結集して調査団を編成いたしました。その調査の結果に基づきまして、大きく2つの提言をいたしました。1つは神奈川県もその当時、マスタープランがありませんでした。ましてや国定公園を管理するという立場にありながら、国定公園の管理計画すら出来ていない。これではまずいでしょうということで、この丹沢大山保全計画というものが、その提言を受けて99年に策定されました。これは一種の公園管理計画です。その時に幾つか、細かいお話は省きますけども、幾つかの原則も提案しながら、大きくですね、ブナ林を保全したり、野生の鹿の個体群を保全したりという、保全を中心とした施策をやるべきと、こういう提案をしたわけです。一方でこれを誰がやるか、実行機関がないわけです。そこでこれを一元的に行う組織というものを提案いたしまして、神奈川県では2000年の4月に、関係するこれは県の組織ですね、教育機関であった自然保護センター、それから公園の管理事務所、それからいわゆる林業試験場、それから県有林、丹沢の場合は半分近くが県有林ですので、こういった、まさに土地の管理から科学的な評価、そして普及啓発まで、これを総合的に行う組織を立ち上げるということになりました。大体、現在ではこれは更に発展してますけど、この当時で職員数が約100名の組織でした。これはたぶん全国でこういったものは初めてだっただろうと思います。ところがここまで、我々にも責任はあるんですけれど、提案しっぱなしで、そのあとフォローアップも何もしなかったんですけども、結果的にこれは上手くいきませんでした。それは何かと言いますと、これは行政の方の前では言いずらいんですけど、それぞれの部局がサボっていたわけでは決してなくて、それぞれの部局では当然別々の根拠法に基づいて、それぞれの事業を一生懸命やられているわけです。しかし、それは決められたことをキチッとやれば当然自然は回復するはずだ、こういうのを予定調和といいますけども、こういった自然を短冊形に切ってやっていくことで、残念ながら自然が戻らないということが分かりました。それから専門家が中心で調査をやりましたので、住民の方の意見というのが十分反映させてない計画であったり、当然のことながら順応的管理に必要な仕組みをこの当時は分からなかったものですから、組み込むことが出来なかった。こういう大きな問題点で頓挫しました。実際にやられているのはこういうことです。これは鹿を中心とした対策だけで、こんなにいっぱいの事業が動いていたわけですけど、これは同じ場所で動いてたんです。だけど、それぞれ所管する法律は違いますし、担当部局は違いますし、これらが決して横に繋がることがない中で、残念ながら物事は上手く進まないということが分かりました。そこで我々が考えたのは、そもそも自然の立場に立って、こんなやり方でいいんだろうか。よく言われるのが森林の機能には木材生産から生物多様性まで色んな機能がある。だけど人間の世界だとこういう縦割り型の発想になってしまうんですが、自然の世界では決してこんなふうにはなっていない。土壌があって、土壌があるから生き物が暮らせて、だからこそそこで水源が汎用されて木材が生産される。こういう仕組みになっているものですから、やはり自然の摂理に合わせた政策というのが必要だろうと。これを統合型管理というもので、これは最近になって考え出されたもので、まだまだ仕組みは世界的にも十分出来ていないんですけども、いずれにしてもこういうやり方が必要だろう。そこで心機一転ですね、2002年に企画をしまして、もう一回調査をスタートさせました。ただこの時は、調査のための調査ではなくて、問題を解決するためにどうすればいいのか、その答えを出すための調査。しかもそこから必ず政策提言を行って、具体的な政策にまで、そして最終的には実行から進行管理まで関わっていこうということで、これを市民主導でスタートさせたものです。実行委員会方式で行いました。仕組みはこのようなものです。お金はありませんので、神奈川県から財政措置をしていただいて、この時も約600人の調査団を編成いたしました。実行委員会と連携しまして調査を行うんですけども、この調査団から出てきたデータを、この実行委員会の中で具体的に政策としてどう繋げていくか、こういう議論を延々と繰り返しました。大体ワークショップだけで100回を超える議論を行いました。そして最終的に具体的な政策提案をするためのワーキングでやったんですけど、この時は私がこの座長を務めまして、取りまとめを行いました。やり方はもうひたすら話し合うという単純なやり方なんですが、ここでこういった形で話し合う。一番大きい時で約200人のワークショップを行いましたけども、そこで市民から出された、或いは科学者から出された、解決すべき課題ですね、もちろん課題はいっぱいあるんですけど、とにかくこれを解決しないと丹沢は崩れてしまう。我々の生活基盤も失われてしまう。そういった課題として絞り込まれたのが、この8つです。この8つの特定課題をどう解決していくのか、こういう視点で調査を進めました。最終的には、これはその単なる鹿対策という話ではなくて、自然そのものを再生させなければいけないんだということで、自然再生委員会という、神奈川県も参加する民間組織を作りまして、その再生委員会の下に国有林であるとか市町村、NPO、それぞれの自然再生事業と同じ枠組みで県の事業を束ねる、こういう仕組みを作りました。県事業につきましては、丹沢大山自然再生計画というもので、先程の8つの課題を解決するための事業を構成いたしましたけども、実行組織として先程の保全センターを拡充するという取り組みで現在進めております。今年度からは本庁の公園の企画の機能ですとか、或いはここは水源地域になっておりますので、水源林の管理機能ですね、これらの本庁機能もここに移転させまして、現在これで事業を進めております。ここで注目していただきたいのは、鹿の特定鳥獣保護管理計画というのは神奈川県でも作っておりますけど、これはあくまでも地域の自然再生の全体計画の中の一事業として作られています。つまり土地の管理があって野生動物の管理があるんだ。当たり前の話なんですけども、残念ながら多くの地域ではこういった位置付けにはなっておりません。実際にこれをどう運営しているかということなんですけれども、まず植生を回復させるのが最優先です。植生の回復状況というのは、これは実際に現場に行かなければ分かりません。かといってお金は無限にありませんので、登山者の方、或いは森林の管理者の方々、当然登山道を歩きます。その歩いた時に情報を提供していただきます。これが丹沢の登山道のネットワークですけども、そこで非常に簡単な指標を作りまして、植生の回復状況を見る。これを1キロ四方の中で強化していくと、こんなような絵が描けます。水色の所は比較的健全なところ。一方でこの赤いところは、先程の写真にあったような禿げ山みたいなところ。つまり山全体が劣化しているのではなく、極めて局所的なところにこういった植生劣化というのが集中している。こういうことが分かってまいりましたので、つまり何処でどんな対策が必要かというのは、この地図化されたことによって明確になりました。一方でこの里山地域ですね、これ実は多くの場合人工林に置き換わってるんですけども、ここはあくまでも自然植生です。自然植生としては健全なのかもしれないんですが、一旦人工林の中に入りますと、ここまで酷いのはそうはないんですけども、こういったように放棄された人工林が目立つということも分かってまいりまして、実際に里山地域は民有林が大半です。この赤い色の割合がですね、これが荒廃が進行しているところで、県全体で見ますと、実に適正に管理されているのは僅か14%しかないということが分かります。このままでは当然表土の流出とか防災上の問題もありますけども、とてもここに鹿が暮らせるような環境はない。つまり、ここで暮らせない鹿たちが高山帯に閉じこめられて、そこで徹底的に自然植生を破壊していく、こういう構図が見えてまいります。これ実は、全国で起こっている鹿問題は、基本的にこういうパターンです。ですからやはりこの里山地域ですね、ここの人工林の管理を適切に行わなければ駄目だということも分かりました。ブナ林の中はもうこんなような状況になってますので、まずは表土を止めなきゃいけない。土壌リストの状況はどうなっているか、ということを調べましたけれども、驚くべきことにですね、こういった下層植生が殆どなくなってしまった場所では、年間1ミリずつ土壌が流出しているということが分かりました。年間1ミリの土壌を作るのに、林業関係の方ならもうよくご存知だと思いますけれど、何百年という単位が掛かる。これが10年20年の単位ではもうセンチ単位で失われていきますので、そのままいくと今世紀中にこの神奈川県では二度と植生が回復できない、そういった山になりかねない。ですから何とかして表土を止めるということが緊急課題になったわけです。何れにしてもこういった情報を、先程も申しあげたように、各事業部局毎にそれぞれ個別のデータを持たれている。それを如何に一元的に管理して、そしてそこで誰が何処で何をするのか、これを具体化するのが必要だろうということで、この丹沢の調査の場合ではですね、E丹沢というネットワークシステムを作りまして、あらゆる情報を、これは行政も持っている、研究者も持っている、あらゆる情報を一元的に管理するというシステムを構築いたしました。これは現在ウェブ上で全部公開されておりますので、県民の方でもこれを使って色々な対策を提案できる、そういう仕組みにしてあります。実際その中で出てきた鹿の管理の仕方ですが、やはりちっちゃな山ですけども動物ですから相当動きます。要するに鹿にとってみれば捕獲されたくないですから、捕獲を盛んにやればそこからはいなくなります。別の場所に集中します。そうやってリアルタイムで動物というのは大きく変化していくわけですね。その密度の状況を、毎年これは調査してありますけれども、増加傾向にあるところはこの赤い色です。減少傾向にあるところがこの緑色の系統のところです。つまり、沢山いるところと減少しているところ、というのはこんな隣接したところで起こっている。つまり、ここで一生懸命捕っているから減っているわけですけど、ここの辺りではあまり捕らないから、ここにいた連中がここに集中しているというような、そういう動き方をする動物なんだということが分かってまいりました。ですからそこで、山全体で何千頭、だからそのうち何頭捕ればいいという単純な管理計画では決してこの問題は解決できない、ということが結論です。そこで、神奈川県の場合は55の管理ユニット、大体ちっちゃいとこだと1,000ヘクタールくらい、大きいところで大体3,000ヘクタールくらい、このくらいの、これは1人の人間が1日で歩けるくらいの範囲です。そういうものに細かくユニットを切りまして、それぞれのユニット毎に捕獲数を算出して毎年、目標を達成する、そういう仕組みにいたしました。例えば、これ20年度の状況ですけども、この時は11のユニットが集中的に捕獲すべき場所として抽出されましたので、それぞれに対して捕獲目標頭数を設定して、左側が実際の結果ですけども、このあたりはあまり上手くいかなかったんですけど、こちらでは目標以上の頭数を捕れた。こんなようなことを毎年毎年データを積み上げていきます。それから植生回復をさせるためには、もちろん捕獲だけではなくて、そのフェンスを張ったりとか、土壌流出の対策とか、こういったものが必要ですので、これは全てデータが地図化されておりますので、かなりきめ細やかに、この事業を何処で行うか。実際やられている事業は、ここにちっちゃい字でいっぱい書いてありますけど、全部部局が違うわけです。それぞれ各部局でやられている事業が当然あるんですけど、今までは連携がないので、それぞれやりたいところというか、それぞれの部局の都合でやってたんですが、それを戦略的に、ここで、ここを集中してやってください、というようなことが示せるようになりました。これも同じようなことです。で、結果です。今までは人工林の手入れ不足で植生が退行する。或いは鹿の影響で植生が退行する。こういうような問題を解決するために、一つは原因対策である人工林の間伐、或いは鹿の管理捕獲、こういうことをやって、最終的には植生を回復させよう。ただ、その結果対策として回復させたものを更に守っていかなきゃいけませんので、植生保護柵や土壌保全、こういった、この大きく4つの問題連関図の中で出てきたそれぞれの課題に対して対応する。こういう事業の構成を考えたわけです。ここまでは何となく上手くいっているように見えると思うんですが、実際に平成19年度から神奈川県では水源環境保全税が導入されます。これによって大幅に森林の整備面積が、大幅にというか倍くらいになりましたけども、これによって一気にこれが加速するのかなと、期待されたわけです。ちなみに水源環境保全税というのは、これは私も検討に加わりましたけども、神奈川県というのは900万人の人口の、いわゆる利用する上水道ですね、この約8割がこの相模川とそれから酒匂川という二大河川があるんですけど、その水系から得ているということで、特にその水源地域の中核をなすのがこの丹沢地域です。丹沢には5つのダムがありまして、このダムがそれこそ埋まってしまうとですね、県民が水を飲めない。決して脱ダム宣言が出せないのが神奈川県です。ですからその上流域の森林の保全というのは、極めて県民のライフラインを確保する上で大事な施策なんですけども、その森林を含めた水源環境を保全するための県民税上乗せという形で、年間約38億の特別会計を組んで、これで対策を進めるということで、先程のような事業進捗があったわけです。こういったことも後押しされまして、何となく植生が回復してまいりました。先程の禿げ山だった、ここの同じ場所の写真ですけども、こんなふうにですね、鹿も減り、植生も回復し、こんな状況になってきたんですが、問題はですね、しかし、なんでありますね。本当にこれ山全体が回復してるんだろうか、ということで、神奈川県ではこのモニタリングサイトというのを、ここにあるようなものを地域で行ってまいりました。基本的には人工林も自然植生も含めて、実際このあと鹿の影響がどう変わっていくのか、それを見ているところです。当然鹿の影響を観察するのは非常に難しいもんですから、そのそれぞれの森林に鹿が入れない、大体10メートル四方くらいのフェンスを張ります。当然そこは鹿が入らないので、鹿がいない場合の植生回復を見ることが出来る。柵の外は鹿がいるわけですから、鹿がどれだけインパクトを与えているか、というものを対比させることが出来るわけです。ここの場合ですね、森林整備をかなりやったところなんですけども、残念ながら整備したあと、全く下層植生は回復してきておりません。これは何かって言ったら、結局そこに生えてきた草を鹿が全部食っちゃってる、ということです。同じようなことが他の場所でも見てとれます。つまりこういうことです。この赤字の部分が新たに分かってまいりました。植生が回復すると当然そこに鹿が集中してきます。当然そこの鹿たちの集中によって、過度の採食圧が掛かるので、結果的には下層植生が無くなる。或いは鹿の管理捕獲を一生懸命やったおかげで、鹿たちの移動がどんどん始まりまして、だから鹿が動くということで下層植生の回復は助長されるんですが、新たな場所に広がってってしまったり、というような問題が起こり始めている。結果的に良かれと思って今までやって、それなりに成果は出てきてるんですが、結果的には何が問題かというと、森林の管理と鹿の管理を同じ場所で一体的にやってなかった。つまり集中的に鹿を捕獲する場所と、集中的に森林を管理する場所が別の場所でやられていたために、結局鹿の移動を促してしまった。一生懸命整備しても整備しても、そこの植生は回復出来ない。ですから、やはり鹿の管理というのは、むしろ森林の管理なんだと。こういう発想で、極端な話、木を切ることを分かっているなら、木を切る前に鹿を捕るというくらいのそういう発想がないと、もうこの問題は解決できない、ということが分かりました。さっき言った、これが水源地域のダムの様子ですけども、この辺りの土壌流出がですね、結果的にはこのダムを埋め始めているわけです。現在では神奈川県も、この浚渫をするのが大変なものですから、ダムの上流に貯砂ダムという、ダムのためのダムを造って、ここを定期的に浚渫するというような形で、何とか食い止めてるんですけども、これは2つの大きなダム湖ですが、とにかくどんどんどんどん埋まってまいりまして、ここで何とか今頭打ちにしてるんですけども、もうこのままいけば何十年かしか持たない、そういう状況で埋まってる。現在、この浚渫費用だけで年間12億円掛かってます。ですから何とかして上流の土壌を止めるというのは、そういう意味で水源施設を維持する上でも欠かせない問題で、ですからやはりこれは何とかしなきゃいけない。そこで昨年ですね、これはもう計画期間の途中でしたけども、森林の管理者と、これは県も含めて、国有林も含めて、それから鹿の管理、こういう関係者が一堂に会しまして、具体的にこれどうやって、政策を調整していったらいいのか、こういうことを議論いたしました。その結果、ここにズラズラと書いてありますけれど、読めば当たり前の話なんですが、基本的にはさっき言ったような話です。つまり、森林の管理と鹿の管理を一体化するというのが結論で、これについて水源税を所管するこの神奈川県民会議、これは県が設置した正式な意思決定の組織ですけれども、ここに提案をいたしました。この結果、県の施策として、これをやるべきだということで、来年度からですね、鹿の管理に水源税が使われるようになります。
 それからもう一つは、これは群馬県で今問題が顕在化しているアライグマ対策について、神奈川県の事例をご紹介したいと思うんですが、アライグマはある意味、関東では神奈川県が発祥と言っていいくらい、もうかなり以前からですね、問題になっていて、場合によっては神奈川県から群馬県に捨てに来られたというケースもあるかもしれませんが、何れにしてもですね、全国でも早い段階で被害が顕在化したのが神奈川県です。今からもう10年以上前に有害捕獲が始まりまして、それからもう倍々どころではなくて、10倍くらいずつですね、増えてきまして、一気に被害額も激増していって、こういうような事態になりました。当初は有害捕獲で延々と対応していたんですが、もうこれでは立ちゆかないだろうということで、ちょうど外来生物法が施行されたことを受けまして、平成18年度から外来生物法に基づく防除実施計画を全県下で県が実施するというものにいたしました。基本的には捕獲は市町村、必要経費の2分の1を県が補助という枠組みで、全体計画とモニタリングは県の仕事、こういう役割分担をしまして、スタートいたしました。その結果ですね、一気に捕獲数が伸びていったんですけども、被害額も大幅に減少するということで、一定の成果が出てきたわけです。ところがです。この黄緑色の部分が計画前の分布状況なんですけども、結果的にはこの計画を進めていっても、どんどんどんどん分布域が拡大していくと。もうほぼ全県下に分布の拡大が広がる、こういう事態になりました。つまり、個体数は減少させられたかもしれないんですけど、分布の拡大を止めることは出来なかった。これがアライグマ問題の極めて深刻なところです。ですから、これ、未来永劫やり続けなきゃいけないという事態になりかねない。そこで、これでは駄目だろう。大体捕獲の状況を見てきますと、従来の有害捕獲とそうは変わらないんですね。被害が出てるから捕る。その単なる対応だけでずっときてしまったので、じゃあそれをどうするか。市町村に対しては、なかなかこういうデータを採ってくださいとお願いするのは厳しいわけですけども、ただ、1個1個の罠に対して個体番号を付けまして、その罠が何処で何日間稼働して、そして何頭捕れたのか。この記録だけつけてください。この記録を全て県が回収して解析をいたしました。解析には我々もお手伝いいたしましたけども、これで見てお分かりのようにですね、ここに捕獲努力量と書いてありますが、これは何かと言うと、1キロ四方の中で何日間罠をかけたのか、どれだけ捕獲の努力をしたのか、そういうデータです。この地域では、もちろん被害も多いんですけれど、非常に努力をしているということが分かります。一方でこの辺りでは殆どしていないか、全くしていない地域もあるということが分かってまいりました。これに対して、実際のこれ細かいデータです。1個1個のメッシュにデータがずっと入ってます。こういう情報を集めた。それに対して一体何頭捕れたのか。従来何処の県でもそうだと思うんですけども、何頭捕れましたというデータしか残っていないと思うんですが、何頭捕れたかっていうのはあまり関係ない。沢山いれば沢山捕れるに決まってるんですから、ですから動物というのはどれだけの努力に対してどれだけ捕れたのかという、これが大事で、これはむしろその割り返しをすれば、相対的な動物の密度になります。これをCPUEというふうに呼んでおりますけれども、要するに対面積あたりの相対的な捕獲効率。これを見ていただくと、平成17年、これは計画実施前の状況ですが、この色の黒いところが比較的密度が高いところです。実際にそれを3年間計画を実行した結果、この地域では密度が減ったということが明らかになりました。一方でこの地域では殆ど減らないか、むしろ増えているということが分かりました。これは先程の努力量との関係で見ても明らかで、つまり努力をすればアライグマは減らせる、これが分かりました。これをもっと詰めていきますと、対面積あたりにどのくらいの努力をすれば、どのくらい減らせるということがこれから計算できる。ですから、今年度からですね、各市町村に対して、「お宅の町のこのメッシュでは1年間にどれだけの努力をしてください」、今までは「何頭捕ってください」というお願いだったんですけれども、これからは努力をしてください、こういうことを県が提示できるようになりました。これを我々は面的常時捕獲というふうに呼んでおりますけども、実はこれ、沖縄とかそれから奄美大島で現在マングース対策を行っておりますけども、これはもう世界的なスタンダードな方法です。つまり被害があろうがなかろうが、農地であろうが森の中であろうが、もう徹底的に捕らなきゃいけない。徹底的に捕ればいつかはいなくなります。そうすれば事業は終わります。しかし今のように被害に対応しているだけでは、これは未来永劫とり続けなきゃならない。それを断ち切るためにこの考え方が出てきたわけですが、これはどういうことかというと、ハイ・ミディアム・ロウ。密度が相対的に高い・中くらい・低い、そんなふうに見ていただきたいんですが、これは例えば、の話です。これを見ていただくと、例えば変化が起こりました。青い枠で囲んだのは去年より減った場所、例えばここは赤い枠は増えた場所。こんなのが今言った単純な情報から明らかになります。そうすると、ここの地域に対しては、もっと頑張ってくださいって指示できます。当然ここは減ったわけですから、それに対して、今の状況を維持してください、こういうことを提示できるので、これはむやみにとにかく捕り続けるということよりも、これは限られた予算で当然これは檻を仕掛けてるわけですから、市町村にとっても経済的なメリットが非常に大きくなります。そういうことでこれから先ですね、これの成果を期待してるところですけど、何れにしてもここでお話ししたいことは何かと言うと、やはり野生動物対策を進めていく上では、冒頭からお話ししているように科学的データが無ければですね、これは納税者も説得出来ませんし、それから行政の施策としてもやはり説明がつかない、というふうに思いますので、軌道修正するには何が間違っていたのかが分からないと、これは軌道の修正のしようがないわけです。つまり如何に科学的なデータを効率的に採っていくのか、それが野生動物管理をやる上では非常に大事だということをお話ししたかったので、これをご紹介いたしました。
 何れにしてもこの外来種対策、現在アライグマは全国47都道府県全てに広がりました。僅か20年でこんなに広がるとは誰も予想していなかったことですけども、被害額は年々増えておりまして、このまんまでは、もうその対策費だけで、他のそれこそ猿だの鹿だの、そういった対策のための予算労力を食われかねない状況です。放っとけば、これ都市部にも入りまして、ついこの間は皇居でも捕獲されました。東京は何もしない自治体ですので、23区内を含めて全域に広がってしまいました。ですからこれ、アライグマというのはですね、実は狂犬病を媒介する動物です。北米では狂犬病対策で一番重点的な対策が行われているのがアライグマです。日本はもう50年間、狂犬病が無いことになってますけど、お隣の中国では年間2,000人以上の方が亡くなっている。ですからいつ日本に入ってきてもおかしくない。もしこれが日本に入ってきたら、犬はワクチンが打たれてますけども、アライグマは屋根裏にいるわけですね。一番身近な野生動物かもしれないアライグマが、これは対策の、ワクチンの、感染症対策のとりようがない。こういうものを放置するという選択肢はありません。群馬は幸いまだ拡大が始まったばかりですので、今やれば間に合う。ですからそのためにはキチッとした計画に基づいて、対策を進めていく必要があると、ある意味最後のチャンスが今だと、いうふうに思っています。何れにしてもこの定着してしまった場合には今のような、かなり大がかりな対策が必要になるんですが、拡大が始まった段階では、むしろこの早期発見、つまり情報を市民の方から集めて、そしてその見つけ次第、そこで集中的に捕獲を行う。こういうやり方が、最初はコストが大きく掛かるように見えるかもしれないんですけれど、長期的に考えたら一番安上がりなのがこの方法なんです。ですからそういう意味で、これから特に計画的にですね、取り組まれることをお勧めしたいと思います。実際に関東では神奈川県をはじめとしまして、山梨県、それから埼玉県、そして千葉県、もうすでに全県の防除計画を作りました。山梨は私が直接関わりましたけど、今までは殆どいないと言われてた、その段階で作ろうということで踏み切ったんですが、計画を作った途端にですね、県内から至るところで、なんか家にもアライグマがいるらしいという情報が集まりました。これは何かと言うと、計画を作るまではそもそも情報が、そんな動物がその地域にいるっていう情報が出てない。だからやはりこの安易にアピール効果としてもこの計画づくりというのは極めて有効だろうというふうに考えております。
 ということで、以上、ちょっと長時間に渡ってお聞き苦しかったかもしれませんが、私からのお話はここまでにさせて頂きたいと思います。ご静聴ありがとうございました。
 

2.参考資料

 参考資料のページへ

質疑のページに続く


<連絡先>

議会事務局政策広報課
〒371-8570 前橋市大手町1-1-1
電話 027-897-2892
FAX 027-221-8201
E-mail giseisaku@pref.gunma.lg.jp
迷惑メール対策のため、メールアドレスの一部(@pref.gunma.lg.jp)を画像化しております。