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がんの症状から治療法までを、県内病院で診察中の医師が解説します。
胃がん│胃がん(治療について)│肺がん│より詳しい肺がんの情報│大腸がん│肝臓がん│乳がん│子宮頸がん│前立腺がん│血液のがん
口から摂取した食物は食道を通り、一度、胃に溜められます。胃では、塩酸と同じように強酸性の胃液が分泌されます。胃液は食物とよく混ぜられることで、主にたんぱく質を分解し、食べた物をより柔らかく、栄養分が吸収されやすい形にします。栄養分の吸収は主に胃の先の十二指腸や小腸で行われ、胃は、柔らかく消化した食物を適量ずつ十二指腸へ送り出していきます。
胃は下図のように、食道から噴門胃底部(ふんもんいていぶ)、胃体部、幽門前庭部(ゆうもんぜんていぶ)の3つに大きく分けられます。主に胃体部と呼ばれる部分で胃酸が分泌され、胃の出口に近い幽門前庭部で、消化した食物を適量ずつ十二指腸へ送り出します。
さらに前庭部からは、消化液の分泌を調節するホルモンや、ビタミンなどの栄養素を吸収するために必要な成分が分泌されています。
胃の構造
胃の壁は他の腸管より厚く、内側から粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜の5層に分かれています。
胃がんは、胃の粘膜の細胞から発生し、「腺がん」という種類に分類されます。発生したがん細胞は、ほとんどが徐々に増殖し、粘膜層から、その外側の粘膜下層へと広がっていきます。このように、粘膜から外側にがんが広がっていくことを「浸潤」と呼びます。
胃がんでは、浸潤の程度で、早期がんと進行がんに分けられており、図のように、粘膜下層までの胃がんを早期胃がん、筋層まで浸潤した胃がんを進行胃がんと定義しています。
胃がんだけでなく、どのがんにおいても、突然、大きくなって進行がんになるということはなく、必ず早期がんの段階を経て、進行していきます。
一般的にバリウムや胃カメラなどの胃がん検診で見つけられるような大きさになるまでには、数年間の月日を要すると考えられており、この早期がんの段階で胃がんを発見することが、胃がん治療の第一歩と言えます。
そのため、毎年の検診とういうものが非常に重要な役割を持つようになってきます。
胃に発生したがん細胞が、血管やリンパ管に浸潤し、そこから血流やリンパ流に乗って、胃から離れた臓器に移動し、そこで増殖をすることを、「転移」と呼びます。胃がんにおいて最も多い転移は、リンパ節転移です。リンパ節とはリンパ管が集まり、リンパ流の関所の役割をしており、胃の周囲だけでなく、体中に存在します。基本的に、病変の近くにあるリンパ節から順に転移すると考えられています。
粘膜内に留まるような早期胃がんでは、転移の確率はほとんど無いと考えられますが、粘膜下層まで浸潤した場合、早期がんでもリンパ節転移は10~15%の確率で認められると言われています。
さらに進行した胃がんでは、リンパ節だけでなく、肝臓や肺などの遠隔転移を認めることもあります。
発生した胃がんを内視鏡や手術で採取し、顕微鏡で観察することで、がん化した細胞の成熟度を評価することができます。成熟度が高いものから、高分化腺癌・中分化腺癌・低分化腺癌に分類され、成熟度が低いものほど悪性度が高いと言えます。
さらに、特別なタイプの胃がんとして「スキルス胃がん」があげられます。このタイプは、多くは組織学的に印環細胞から成り、この印環細胞癌は進行すると「スキルス胃がん」と呼ばれる形態をとることが多くなります。これは、がん細胞が胃粘膜の表面には顔を出さず、胃壁の中を這う様に広がっていきます。そのため、早期の発見が困難であり、さらに進行も早いため、診断がついた時点で約60%の患者さんに転移が認められます。
胃がん患者の中で約10%を占め、30代から40代の比較的若い女性に多く、診断の上で、特に注意を要します。
スキルス胃がん
胃がんの症状として、多く認められるのは、心窩部痛(胃痛)、胸焼け、腹部膨満感、黒色便、体重減少などですが、早期胃がんの場合、全く症状を認めない場合が少なくありません。また、胃がんの症状と胃炎や胃潰瘍の症状は、非常に良く似ており、症状だけで診断をすることは出来ません。そのため、症状が続くときには早めに医療機関を受診し、検査することが大切になります。症状が無い場合でも定期的な検診はきちんと受けるようにしましょう。
胃がんの発生率を上げるものとして、タバコ・塩分の摂り過ぎ・ニトロソアミン(魚や肉のコゲなどに含まれます)などが分かっています。また、遺伝の影響も少なからずあると考えられており、特に両親などの近い家族に胃がんになった人がいる場合も、発生率が上がると言われています。
また、胃がんの発生は40歳以降に著明に増加してきます。これは、幼少期のヘリコバクター・ピロリ菌感染の影響によるところが大きいといわれています。ピロリ菌感染の少ない欧米においては、胃がん患者が極端に少ないことからも、裏付けられています。近年では積極的にピロリ菌の除菌療法が行われるようになってきており、全体数は男女ともに減少傾向にあります。
現在では、検診の際に、ピロリ菌感染の検査を合わせて行える施設も増えてきています。
内視鏡検査やバリウム検査で胃がんを疑われた場合、内視鏡検査による生検(病変部位の組織を採取すること)が行われます。その後、病理検査(顕微鏡で採取された組織を評価すること)にて、胃がんの最終診断がなされます。
胃がんの診断がなされると、次に胃がんの進行度(浸潤・転移の程度)の検査を行います。これには、超音波内視鏡検査やCT・PETなどの画像診断が含まれます。
胃がん診断チャート
以前から、胃がん検診の方法として、広く行われている検査です。X線透視下に、バリウムを飲んでもらい、胃の全体的な形や胃粘膜のしわの状態を見ます。途中で発泡剤(炭酸ガスを発生する薬)を飲み、胃を膨らませることで、より精密に検査を行うことができます。そのため、検査中はげっぷを我慢してもらう必要があります。
内視鏡と違い、直接胃内を観察するわけではないので、胃の部位や条件によっては、早期胃がんが写らなかったり、空気の泡や残渣物などが病変の様に写ってしまう可能性もあります。胃がんが疑われた場合は、改めて内視鏡を行う必要があります。
中央にヒダが集中(がんの可能性)
内視鏡(ビデオスコープ)を用いて、胃の内部を観察する検査です。胃内を直接モニターで観察することができるため、ごく早期の小さな胃がんでも、見落としなく発見することが可能です。
胃がんが疑われた場合、同時に生検(組織を採取する)検査を行うことができます。色素を撒くことで、病変の広がりを詳しく調べたりもします。超音波内視鏡を用いて、胃がんの浸潤度(病変の深さ)を検査することもあります。
近年では、嘔吐反射などの苦痛が軽減できる経鼻内視鏡が、検診などで広く行われるようになっています。
内視鏡検査
早期胃がん
進行胃がん
胃がんの診断をつけるための検査です。内視鏡検査の生検により採取した組織を、実際に顕微鏡で観察し、がん細胞が存在するかどうか診断する検査です。がん細胞が存在する場合、どのような種類の胃がん細胞なのかについても診断することができます。
X線を使って体の輪切りの像を描き出し、腹部や胸部の異常や、転移の有無を調べる検査です。苦痛なく、最も簡便に全身を調べることのできる検査と言えます。病変の広がりや転移の様子をより正確に診断するため、通常、造影剤を注射して撮影します。そのため、確率は少ないものの、副作用としてアレルギー反応が生じる場合があります。
コンピュータ断層撮影(CT)
胃が赤く光り、病変の存在を疑う
近年、転移の有無や、がんの局在を調べるために広く普及してきた検査です。放射線を出す物質を結合させたブドウ糖を注射して、検査をします。がん細胞は特に多くのブドウ糖を消費しているため、その性質を利用して、どこに注射したブドウ糖が集まるかをその放射線量を測定し、がんの原発巣や転移巣を調べます。
CTを同時に撮影することで、より正確なブドウ糖の集積部位を決定することができます。炎症のある部位や正常な脳や心臓などの臓器にも集積するため、読影は専門の放射線科医によって行われます。
病期(ステージ)とは、がんの進行度を示します。治療方針を決定する上で、上記のような検査を行った結果を参考にして、まず病期の評価(ステージング)を行います。
病期は、胃がん取扱い規約に沿って、1:がんの胃壁への浸潤の深さ(深達度)、2:リンパ節転移の個数、3:他臓器転移の有無の3つの要素で、1期~4期のいずれかに決定されます。この病期に合わせて、実際の治療方針が胃がん治療ガイドラインに沿って、話し合われることになります。
病期は治療前の検査によって決定されますが、手術を行った場合、摘出した手術標本を病理診断した上で、最終的な病期が決定されます。
※胃がん取扱い規約が2010年3月に10年ぶりに改訂され、この変更点に乗っ取って2010年10月には胃がん治療ガイドラインが承認・公開されました。現在はこの新しい規約とガイドラインを前提として、治療方針が相談されます。