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中嶋 洋さん
所在地 埼玉県鴻巣市
受賞年度 令和4年度
高い空間・形態把握能力を活かした鋼板の手加工に卓越した技能を有しており、試作車ボディの外板パネルの成形や技能五輪競技課題の工法研究において、その高い技能を発揮している。また、技能五輪skill評価システムの発案・導入によって、技能五輪出場選手の訓練進捗状況や技能レベルを視覚化し、指導者として出場選手の育成及び入賞に貢献した。
自動車板金工 中嶋 洋 さん
自動車板金工
中嶋さんは、前職の職業訓練校で自動車板金と出会い、鋼板を叩いて自由な形を作ることができることに魅力を感じた。
職業訓練校には3訓練科(自動車板金・内燃機関・機械仕上げ)があり、数ヶ月の体験期間後に、専科を選択するというカリキュラムであった。中嶋さんは当初内燃機関を希望していたが、指導者から板金の腕を見込まれ、自動車板金の道へ進むことにしたという。
ハンドワークの板金作業
板金製の硬式野球ボール
中嶋さんは、鋼板を手加工で成形する板金作業に卓越した技能を有している。板金作業は全体の工程をイメージできていないと歪みや不具合が生じやすくなるが、高い空間・形態把握能力を発揮し、それらを最小限に抑えながら加工している。
高校生に板金の魅力を伝えるために製作した作品(写真:板金製の硬式野球ボール)には中嶋さんの高い技能が発揮されている。2枚の鋼板をどのように糸で組み合わせていくかをイメージしながら製作する技能が要求される。
また、中嶋さんは第21回技能五輪全国大会(昭和58年度)に選手として出場した。「当時は素手でハンマーを振って練習していたため、手がボロボロだった。一生懸命努力したが、入賞するためには努力だけではなく、良い指導も必要だと感じる。」と選手時代を振り返りながら語った。
意識改革~Mind Renovation~
SUBARU技能五輪組織
前社の技能五輪撤退をきっかけに、当時のSUBARUの技能五輪指導者から声がかかり、平成26年度にSUBARUへの転職を決めた。転職後は、社内の意識改革に取り組んだ。当時のSUBARUは長年入賞から遠ざかっており、練習するための設備は整っているが、大会に向けての目標意識が薄く、スローガンがないことを知り、改革の必要性を感じたという。
意識改革として、「技能五輪skill評価システム」の導入や選手の採用方法の見直しを行った。「技能五輪skill評価システム」は、自動車板金に必要な技能を項目別に、選手の技能レベルを5段階1000点満点で評価するものである。このシステムの導入により、選手の訓練の進捗状況や技能レベルが視覚化され、入賞に向けてどのように訓練を進めていけばよいかが明確になった。また、選手が引退して製造現場に戻ってからも、技能五輪を通じて習得した技能の証明としても役立っている。
新しい取り組みを始めるにあたり、周囲の理解を得るのは非常に苦労したが、第55回技能五輪全国大会(平成29年度)に出場した選手が、社内初の金メダルを獲得したことで、社内の雰囲気が変わったという。「金メダルには、頂点でしか味わえない誇らしさや銀メダルでは味わえない喜びがあった」と当時の喜びを語った。
後進指導育成
技能五輪全国大会入賞選手のメダル
技能五輪全国大会出場選手の指導者として、今までに50名以上の選手指導に携わっている中嶋さん。「大会で1番を取れとは言わない、でも1番を狙って訓練をしなさい」と選手に伝えている。
技能五輪以外の活動では、中央技能検定委員を務め、工場板金職種技能検定の試験問題の作成や都道府県職業能力開発協会からの問い合わせに回答するなど、技能検定の適正な運営に貢献した。試験問題の作成にあたり、齟齬がないように問題文を一言一句確認する作業は、間違いが許されずとても大変であったと語る。
若手技能者に向けてのメッセージ
- 大事なのは、目標をもって努力すること
- 自分が何を求めて努力するのかを明確にすること
- 仕事とプライベートの目標の使い分けが大事、これができると色々なジャンルで認められる人になれると思う