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山口 茂さん

更新日:2023年8月1日 印刷ページ表示

山口 茂さんの画像1

所在地 藤岡市

受賞年度 平成24年
伝統的な手彫りの技術に精励し、均一の厚さで土台と鬼面を作る造形技能、立体感や迫力を生み出す仕上げ技能に卓越している。神社仏閣の鬼瓦や公共施設の壁面レリーフなどを手掛けるほか、鬼瓦教室を開催するなど技能の普及・伝承に努めている。


鬼瓦製造工 山口 茂 さん

地域の顔を守り続ける

「鬼は顔を見ればすぐに分かる」の画像
「鬼は顔を見ればすぐに分かる」

「鬼は顔を見れば誰が作ったかすぐに分かる」。瓦製造に古い歴史を持つ藤岡市で、江戸伝来の技術を受け継ぐ鬼瓦製造工・山口茂さん。屋根の上から険しい表情で家や神社仏閣・地域の邪気を払う鬼瓦は、古くから地域や作り手によって特徴のある様々な顔が生み出されてきた。中でも山口家の鬼瓦は角も牙も大振りで、全国の鬼瓦が一堂に集まる京都の鬼瓦公園では「からっ風のおっかない顔が来た」と同業者からも注目を集めたという。

型にはめる大量生産の瓦が出回り鬼の顔も均一化が進む昨今、手彫りの技術を有する職人は神社仏閣の多い関西以外では数えるほどとなっている。そうした状況で、山口さんのもとには一点物の特殊な作品や、型の残っていない古い瓦の修復の依頼が県外からも舞い込んでいる。

受け継がれる鬼師の血

四代目の父・喜代蔵さんの画像
四代目の父・喜代蔵さん

「土3年と言われるほど藤岡の土は柔らかく扱いにくい。しかし、薪釜で焼いたときにひびが入らず、本物の燻し銀の味わいが出る」。瓦の要である良質の水と土を求め、今から約200年前の江戸時代に初代が移り住み五代目となる山口鬼瓦店。山口さんは幼少期から四代目の父・喜代蔵さんから瓦作りの手ほどきを受け、すでに小学生時代には家に数人いた職人に混ざり仕事を手伝っていたという。瓦産業が隆盛していた高度成長期にあった当時を「自分で覚えるしかないと言われ、見よう見まねで作り続けた」と振り返る。

父・喜代蔵さんは東京・増上寺本堂などの鬼瓦を手掛け、昭和43年には現代の名工にも選ばれた稀代の鬼師。地元の高校に進学し写真部に所属していた山口さんは、手元には残らない父の作品を写真に収め続けた。「幼いころから親父のあとを継ぐと思っていた」。

仕事から逃げるな

山口さんが初めて一人で手掛けた鬼瓦(藤岡市・寿楽寺)の画像
山口さんが初めて一人で手掛けた鬼瓦(藤岡市・寿楽寺)

高校を卒業後、山口さんは家に入り本格的な修業を続けたものの、父が手がける大きな鬼瓦を作ることはなかった。転機が訪れたのは30代半ばのこと。藤岡市内の寺社から特殊な鬼瓦の仕事が舞い込んだ直後、父・喜代蔵さんが心筋梗塞で倒れた。「やるしかなかった」―山口さんは工房に残されていた図案とそれまでの経験を頼りに粘土に向き合い続け、父の容体が回復すると教えを乞いに毎日のように病院へ通った。「あのときの経験があったから自立することができた。『出来ないからと言って逃げればそれ以上腕は伸びない。仕事から逃げるな』と親父に言われた」。鬼瓦の完成を見届けるように亡くなった喜代蔵さんの最期の言葉となった。

その後、洋風建築が増え瓦の需要が減る一方で大量生産の瓦が出回るようになり、家にいた職人も離れ藤岡市内の瓦業者も激減した。しかし、山口さんが瓦作りを止めることはなく、家計の足りない分はコンビニエンスストアの深夜アルバイトをして補った。「親父の遺言が常に頭にあった。仕事から逃げることはできなかった」。

逆境はチャンス

戦国武将の家紋の置物の画像
戦国武将の家紋の置物

現在、仕事の傍ら幼稚園や小学校などに出向き、鬼瓦作りの体験教室を開いている山口さん。子供たちが夢中になって取り組む姿には学校の先生も驚くという。「自分の宝物にすると言ってくれた子もいた。自分の手で作ったものは貴い。それを大切にしてくれたら嬉しい」。

しかし、依然衰退の一途を辿る瓦産業の現状に危機感を抱いている。「過去に体験教室で教えた子が3人弟子入り志願に来たが、仕事がなくて雇うことができなかった。息子にも継がせてやりたかった」。

現状を打破しようと、近年山口さんは屋根の上に掲げる鬼瓦だけでなく、置物やコースターなどの工芸品も数多く手掛けるようになった。息子さんの助言で作りはじめた家紋の置物も、昨今の歴史ブームの追い風もあり好調だという。「逆境はチャンス。親父の時代には出来なかった仕事が出来ると思えばいい」。地域の顔を守り続けるため、山口さんは名コーチである母・美知寿さんに見守られながら今日も仕事に向かい続けている。

若手技能者に向けてのメッセージ

山口 茂さんの画像2

「死んでもものは残る」

「経験しないと仕事は覚えない」

「初めての仕事に取り組むときは誰だって不安。しかし取り掛かれば不安もなくなる」

「取り掛かるまでの段取りがすべて」

「いつになってもゴールはない。これでいいというところは絶対ない」

フォトギャラリー

山口さんの鬼瓦 「『目が急所』と親父から教わった」京都・鬼瓦公園 左手前:山口さんの鬼瓦山口さんの鬼瓦としゃちほこ (高崎市・少林山達磨寺)特注のカメラの作品壁面レリーフ (藤岡市内)父・喜代蔵さんの大きさ八畳分の鬼瓦 (東京・増上寺本堂)