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大澤 直也さん

更新日:2023年8月1日 印刷ページ表示

大澤 直也さんの画像

所在地 桐生市

受賞年度 平成22年
独自の工法を開発し、高度な組子技術を駆使することにより、建具業界の技術水準を向上させた。また、各種展示会に積極的に出品したり、展示会を主催し発表することにより、業界の発展に貢献している。


木製建具製造工 大澤 直也 さん

“用の美”を一人でも多くの人に

“用の美”について語る大澤さんの画像
“用の美”について語る大澤さん

「『用の美』つまり、日用品の美しさを日本人は大切にしてきたと思います」。そう話すのは木製建具製造工・大澤直也さん。40年近くにわたり建具の製造を手掛ける一方で、キッチンや机などの大型家具、行灯や文箱といった小物もオーダーメードにこだわり作り続けてきた。

また、仕事の傍ら同業者だけでなく市民も対象とした木工教室を開いたり、中学校で講演活動を行ったりと人材育成にも力を注いでいる。それというのも一人でも多くの人に“用の美”を知ってもらい、使ってもらうことで日々の生活を豊かなものにしてほしいという思いがあるためだという。

はじめからできる人間なんていない

平成21年度GDぐんま選定作品『組子入りピラミッド行灯』の画像
平成21年度GDぐんま選定作品『組子入りピラミッド行灯』

「学生の時はやんちゃで勉強が嫌いで、親にはたくさん苦労をかけた」と話す大澤さん。親孝行をしたいという思いから、父・和夫さんが営む木工所を継ぐため、高校を卒業後岐阜県にある父の知り合いの木工所で修業を始めた。

「毎日が失敗の連続。先輩の作った作品を道具の手加減がわからず壊してしまい、出て行けと怒られたこともあった」と当時を振り返る。頼み込んで修業を続けさせてもらい、昼夜を問わず働き、給料が出れば道具を買いに行った修行の日々。「やがて信頼されて仕事をさせてもらえるようになり、仕事に自信を持てるようになっていった」。

大澤さんに転機が訪れたのは、20代初め、勉強のために訪れた東京で開催の全国建具展示会でのこと。釘を使わずに木を組み付ける組子の技術に目を奪われ、「自分にはこんな仕事は一生作れない」と打ちのめされた。その日から組子は憧れの的となり、仕事にも一層力を注ぐようになったという。

人との出会いがなかったら今の自分はない

「自分が頑張ることで恩返しができるなら」の画像
「自分が頑張ることで恩返しができるなら」

5年半の修行生活を終え帰郷し、父・和夫さんが営む木工所に就職した大澤さん。オーダーメードにこだわり、建具に加え家具の製造も手掛けるようになった。その一方、同じ群馬県の木製建具製造工・佐藤博宜さん(平成19年度現代の名工)と知り合い、念願だった組子の技術を教えてもらえるようにもなった。展示会に作品を出品するようになり、佐藤さんの勧めで出場した技能グランプリでは全国3位の成績を収めた。

そんな大澤さんに30代半ば悲劇が訪れる。経営する木工所が火事で全焼し、住むところも失った。「大澤木工はもう駄目だろう」と周囲からささやかれ、大澤さん自身も再起不能と感じたという。しかし、火災から間もなく職人仲間など100人近くが毎日駆けつけ、焼け跡を10日足らずで片付けてくれた。銀行も「親父の信用と息子の若さに賭ける」と惜しみない支援をしてくれた。「自分が頑張ることで恩返しができるなら」と大澤さんは木工所を再開した。

誇りを持つことが大切

息子さんと共にの画像
息子さんと共に

休日は家族そろって各地の建築物を視察に行くほど仲の良い大澤さん一家。現在、立て直した木工所では父・和夫さんと長男・道成さん、次男・聖史さんを含め10人の職人が働いている。「親として子供に夢を持って続けられる仕事であってほしい」と、従来手掛けてきた建具や家具製造に加え、小物の製造も行うようになった。

また、「生きていく上で大切な誇りを持つには、自分の住む地域を知ることが大切である」との思いから、地域文化財の補修を手掛けたり、地元境野町に関する「境野検定」を行ったりと、幅広く地域振興にも取り組んでいる。

そうした地元に対する愛着から、桐生の山々や川などの自然、桐生織で用いられる道具や文様といった文化を取り入れた作品も手掛けている大澤さん。「技の追求はこれでいいということはない」―誇りを胸に“用の美”を伝える挑戦は続く。

若手技能者に向けてのメッセージ

若者へのメッセージ

「勉強は嫌いだったが数学だけは得意だった。数学に求められるのは素直に受け取ること。思い込みはダメ。職人の仕事にも通じることだと思う」

「職人とは同じものをいつでも同じように作れること、再現できることが求められる。それには積み重ねしかない」

「時代を越え技を受け継いでいくためには、過去の技術を見習い、新しいものに惑わされずに、常に挑戦することも大切」

「釘は錆がひろがることで木を浸食し、繋ぎ止め、やがて朽ちていくものと思われているが本当は違う。洋釘と違って本物の和釘、つまり鍛錬された鉄というのは錆を出さず、しっかり繋ぎ止めるもの。本当の人間も錆を出さず周りに害を与えないもの」

「仕事のために生きるんじゃない。生きるために、幸せのために働く。死ぬときに悔いのない生き方をすることが大切」

フォトギャラリー

オータ゛ーメート゛のアイラント゛キッチン組子入り行灯組子入り文箱組子入り六葉星型額大澤さんか゛手か゛けた文化財補修 (桐生市・桐生天満宮)地元桐生の自然・文化を取り入れた組子入り襖