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令和3年度答申第6号

更新日:2021年10月29日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

 処分庁が行った令和3年3月1日付け精神障害者保健福祉手帳の障害等級変更処分(以下「本件処分」という。)を取り消すことを求めるものであり、その理由は次のとおりである。

 医師から発達障害なんて作られた障害などと暴言を受け、放置され続けているにもかかわらず、症状が安定しているから等級が下がることもあるとごまかしの処分を受けたことは障害者の人権侵害であり、刑務所暮らしの方がよいのではないかと頭をよぎる毎日において、障害等級3級というのは考えられない。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 審査請求人から提出された診断書から読み取れる情報を基に、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態の判定を行うと、主たる精神障害が自閉スペクトラム症であり、広汎性発達障害関連症状があることから、「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(平成7年9月12日健医発第1133号厚生省保健医療局長通知)」(以下「判定基準」という。)別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)7(b)に該当する主症状があることが分かる。さらに、「幼少期より対人関係が苦手で、感覚過敏もあった」とのことから、判定基準別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)7(c)に該当するその他の精神神経症状があることが分かる。また、審査請求人の広汎性発達障害関連症状の程度については本件診断書から、「高度のもの」であるとまで認めるに足りる記載は見当たらない。したがって判定基準における主症状とその他の精神神経症状の程度から、精神疾患(機能障害)の状態は障害等級3級に該当すると判断できる。
 次に、審査請求人の能力障害(活動制限)の状態の判定を行うと、日常生活能力の各判定では、全8項目が「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」とされていることから、判定基準により障害等級3級程度に該当すると判断できる。しかし、「日常生活能力の程度」については「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」に該当するとされており、「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準の運用に当たって留意すべき事項について(平成7年9月12日付け健医精発第46号厚生省保健医療局精神保健課長通知)」(以下「留意事項」という。)によりおおむね2級程度と判断できる一方で、単身で生活していることや「障碍者雇用にて勤めに出ているがコミュニケーションの苦手さや、独特の理解の仕方などがあり状況を客観的に見て行動を指導するなどの支援が必要となる。」との記載から、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」と照らして、障害等級3級に該当すると判断できる。
 以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断し、審査請求人は障害等級2級についての要件を満たしておらず、障害等級3級に該当すると認めることができる。
 したがって、本件処分は法令等の定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
 以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、棄却すべきである。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
 令和3年9月22日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
 令和3年9月30日 調査・審議
 令和3年10月13日 審査請求人から主張書面を収受
 令和3年10月21日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件に係る法令等の規定について

(1)都道府県知事は、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請があった場合において、申請者が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号。以下「施行令」という。)第6条に規定する精神障害の状態にあると認めたときは、申請者に精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならず(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)第45条第1項及び第2項)、また、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者は、2年ごとに、施行令第6条に規定する精神障害の状態にあることについて、都道府県知事の認定を受けなければならないとされている(法第45条第4項)。
(2)施行令第6条に規定する精神障害の状態とは、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、障害等級1級の障害の状態として「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」、障害等級2級の障害の状態として「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」、障害等級3級の障害の状態として「日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」とされている(同条第3項)。
(3)障害等級の判定の具体的な基準については、国から「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について(平成7年9月12日付け健医発第1132号厚生省保健医療局長通知)」(以下「実施要領」という。)が発出されており、「障害等級の判定に当たっては、精神疾患(機能障害)の状態とそれに伴う生活能力障害の状態の両面から総合的に判定を行うものとし、その基準については、別に通知するところによる。」とされている(実施要領第2の2(2))。
(4)この実施要領を受けて、判定基準が発出され、また、この判定基準の運用について留意事項が発出されている。
(5)判定基準及び留意事項によれば、障害等級の判定は、精神疾患の存在の確認、精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認、精神障害の程度の総合判定という順をおって行われることとされている(判定基準頭書)。
 発達障害の精神疾患(機能障害)の状態については、その主症状とその他の精神神経症状が高度のもの」は1級と、「その主症状が高度であり、その他の精神神経症状があるもの」は2級と、「その主症状とその他の精神神経症状があるもの」は3級とされている(判定基準別紙の表)。
 能力障害(活動制限)の状態については、「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持」、「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続や公共施設の利用」及び「趣味・娯楽等への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目について、「できない」等の場合は1級と、「援助なしにはできない」等の場合は2級と、「行うことができるがなお援助を必要とする」等の場合は3級とされている(判定基準別紙の表)。
 また、診断書の「日常生活能力の程度」欄が、「精神障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通にできる」である場合は障害等級非該当と、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける」である場合はおおむね3級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする」である場合はおおむね2級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」又は「精神障害を認め、身の回りのことはほとんどできない」である場合はおおむね1級程度とされている(留意事項別紙3(6)の表)。
(6)なお、実施要領によれば、申請者が施行令第6条に規定する精神障害の状態にあるかどうかの判定は、都道府県に設置されている精神保健福祉センターの指定医に行わせるものとされている(実施要領第2の3(2))。

3 診断書による障害等級の判定結果について

(1)診断書からは、以下について確認することができる。

ア 精神疾患の存在の確認

 診断書の病名から、主たる精神障害として「自閉スペクトラム症」が確認できる。また、従たる精神障害と身体合併症はないことが確認できる。

イ 精神疾患(機能障害)の状態の確認

 診断書の「3 発病から現在までの病歴並びに治療の経過及び内容」では「仕事がうまくいかず、小さいころから人付き合いの苦手さを感じていたこともあり、自身で発達障害を疑い、○○に相談となった。検査、医学診断を経て、広汎性発達障害と診断される。」との記載がある。
 次に、「4 現在の病状及び状態像等」では「11 広汎性発達障害関連症状」が該当有りとなっており、「1.相互的な社会関係の質的障害」、「2.コミュニケーションのパターンにおける質的障害」及び「3.限定した常道的で反動的な関心と活動」に該当していることが確認できる。
 また、「5 4の病状及び状態像等との具体的程度、症状、検査所見等」では「幼少期より対人関係が苦手で、感覚過敏もあった。小学校でも友人関係は結べず、中学校は不登校傾向だった。定時制高校に進学し、アルバイトをするが、ミスが多く、接客が出来なかった。○○大学に進学し、卒業後就職するも、ミスが多く、臨機応変に対応できず退職。コミュニケーションが取れず、その場の雰囲気や人の顔色を読めない。」との記載がある。
 そして、「7 備考」では、平成25年6月7日に実施した【WAIS-3】の結果が確認できる。

ウ 能力障害(活動制限)の状態の確認

 診断書の「1 現在の生活環境」では、「在宅(単身)」が○で囲まれている。
 次に、「2 日常生活能力の判定」では、「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続きや公共施設の利用」、「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目について「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」と判定されている。
 また、「3 日常生活能力の程度」には、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」と判定されており、「上記の具体的程度、状態等」の欄には「障碍者雇用にて勤めに出ているがコミュニケーションの苦手さや、独特の理解の仕方などがあり状況を客観的に見て行動を指導するなどの支援が必要となる。」との記載がある。

(2)(1)ア及びイを基に、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態の判定を行うと、主たる精神障害が自閉スペクトラム症であり、広汎性発達障害関連症状があることから、判定基準別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)7(b)に該当する主症状があることが分かる。さらに、「幼少期より対人関係が苦手で、感覚過敏もあった」とのことから、判定基準別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)7(c)に該当するその他の精神神経症状があることが分かる。また、審査請求人の広汎性発達障害関連症状の程度については診断書から、判定基準における障害等級1~2級に当たるような「症状が高度」であるとまで認めるに足りる記載は見当たらない。したがって、判定基準における主症状とその他の精神神経症状の程度から、精神疾患(機能障害)の状態は障害等級3級に該当すると判断できる。
 次に、(1)ウを基に審査請求人の能力障害(活動制限)の状態の判定を行うと、日常生活能力の各判定では、全8項目が「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」とされていることから、判定基準別紙の表により障害等級3級程度に該当すると判断できる。しかし、「日常生活能力の程度」については「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」に該当するとされており、留意事項別紙3(6)の表によりおおむね2級程度と判断できる一方で、単身で生活していることや障碍者雇用にて勤めに出ていることから、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」と照らして、障害等級3級に該当すると判断できる。
 以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断し、審査請求人は障害等級2級についての要件を満たしておらず、障害等級3級に該当すると認めることができる。
 したがって、本件処分は、適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。

(3)審査請求人による主張書面について

 審査請求人により提出された令和3年10月8日付け主張書面における主張は、診断書の記載を左右する事由にはあたらず、審査結果に影響を及ぼすものではない。

(4)結論

 よって、本件処分には、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。

第6 結論

 以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。

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