本文
平成28年度答申第2号
1 件名
保護変更決定処分に対する審査請求
2 処分庁
高崎市福祉事務所長
3 審査会の結論
審査請求人の主張には、理由付記の不備に関しては理由があるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定により処分の全部を取り消すべきである。
4 審査関係人の主張の要旨
(1)審査請求人
処分庁の行った保護変更決定処分により、生活扶助費が○○○円から○○○円に減額されており、生活が成り立たないとして処分の取消しを求めるものである。
また、処分庁が本件処分の通知に変更の理由を「世帯主の加算の変更による」と記載していることについて、具体的な記述がないので理由を明確にするよう求めている。
(2)審査庁
審理員意見書のとおり、処分の全部を取り消すことが適当である。
5 審理員意見書の要旨
次のとおり、本件審査請求には理由があるので、取り消されるべきである。
- 生活扶助費の減額の原因である障害者加算の認定取消しについては、「精神障害者保健福祉手帳による障害者加算の障害の程度の判定について」(平成7年9月27日社援保第218号厚生省社会・援護局保護課長通知)に基づき処分庁が認定していた障害者加算を、本来、請求人の障害厚生年金は障害等級3級との裁定があった平成26年1月の翌月から取り消すべきであったが、誤って認定し続けていたため平成28年7月分の生活扶助費から取り消し、是正したものであり、違法又は不当な点は認められない。
- しかし、処分庁は本件処分の理由について、本件処分通知に「世帯主の加算の変更により」と記載しているのみで,処分の基礎となる具体的な事実関係の適示とこれに対する処分基準の適用も示さないばかりか、根拠法条すら示していないことから、本件処分における理由付記の瑕疵は免れず、違法である。
6 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
- 平成28年10月6日審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
- 同月7日調査・審議
- 同月24日審査請求人から審理員意見書に対する意見書を収受
- 同年11月11日調査・審議
7 審査会の判断の理由
(1)審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
(2)審査請求人の主張について
ア 生活扶助費の算定が適切に行われているかについて
本件処分における生活扶助費減額の原因である障害者加算(以下「加算」という。)は、身体障害者障害程度等級表(以下「等級表」という。)の1級、2級若しくは3級又は国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表(以下「別表」という。)の1級若しくは2級に定める等級に該当する障害者に対して認定することとされている。精神障害については等級表には該当する級がなく、別表に該当する障害にある者に対して認定することとなる。別表に該当するかの確認方法は、原則として国民年金証書で行う。ただし、国民年金証書を所持していないが、精神障害者保健福祉手帳(以下「手帳」という。)を所持している者については、その者が障害年金の裁定を申請中である場合には、その裁定が行われるまでの間、手帳により、手帳に記載する障害の等級が別表の等級に該当するか確認し、該当すれば加算を認定することとされている。また、障害厚生年金における障害等級の各級の障害の状態は、1級及び2級の場合は別表によることとされ、3級の場合は厚生年金保険法施行令(昭和29年政令第110号)別表第1(以下「別表第1」という。)によることとされている。
審理員から提出された事件記録によれば、審査請求人は遅くとも平成25年9月27日までには障害年金の裁定を申請している。また、同年10月2日には手帳(障害等級2級。有効期限平成27年10月31日)の交付を受け、平成25年11月22日に処分庁宛てその写しを提出したため、処分庁は同年12月より加算の認定を行った。その後、審査請求人は平成26年1月9日に障害厚生年金3級の保険給付決定、つまり、別表第1に基づく等級に該当するとの決定を受け、別表の1級又は2級には該当しないこととなり、加算の要件を満たさなくなった。それを受け、処分庁は加算の認定を取り消すべきであったが、誤って加算の認定をし続けていた。
その誤りに平成28年6月の調査で気づき、誤りを是正するため、本件処分により同年7月分の生活扶助費より加算の認定を取り消したものであり、その取消しについては、違法又は不当な点はないと認められる。
なお、年金の裁定が却下された後、手帳の交付又は更新を受けた者については、年金の再申請を行った上で、再申請に係る年金の裁定が行われるまでの間、当該手帳に記載する障害の程度により加算を認定できるとされているが、審査請求人が手帳の更新を受けたのは平成28年6月28日であり、同月17日付で決定した本件処分には影響を及ぼさないものである。
よって、生活扶助費の算定は適切に行われていると認められる。
イ 本件処分の理由付記が適切に行われているかについて
判例(最高裁昭和38年5月31日第二小法廷判決)においては、「一般に、法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨であり、法が理由付記を命じる場合に、理由の記載が不十分である処分は、それだけで取消しを免れないもの」とされ、不利益処分をなす場合に示すべき理由の内容・程度については「処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」と判示されている。
生活保護法には示すべき理由の内容・程度について規定されておらず、その内容・程度は明確とはなっていないが、本件処分の決定通知には「世帯主の加算の変更により」と記載があるのみであり、事実関係やどのような基準を適用して処分を行ったかを全く記載しておらず、法の趣旨を満たす処分理由を審査請求人が知ることができたとは考えられないため、理由の記載は不十分であると認められる。また、理由付記の不備の瑕疵は、審査裁決において処分理由が明らかにされた場合であっても治癒されないと判示されている(最高裁昭和47年12月5日第三小法廷判決)ことから、本件処分における理由付記の不備の瑕疵は治癒されない。
よって、本件処分においては、処分理由の付記に不備があり、取消しを免れない。
ウ その他
その他本件処分について、違法又は不当な点は認められない。
以上のとおり、審査請求人の主張には、理由付記の不備に関しては理由があり、本件審査請求は、審理員意見書のとおり、処分の全部を取り消すべきである。