本文
平成29年度答申第1号
1 件名
(1)第1号請求
平成28年11月4日付け保護費返還処分(以下「第1号処分」という。)についての審査請求(以下「第1号請求」という。)
(2)第2号請求
平成29年1月30日付け保護費返還処分(以下「第2号処分」という。)についての審査請求(以下「第2号請求」という。)
2 処分庁
高崎市福祉事務所長
3 審査会の結論
(1)第1号請求について
審査請求人には取消しを求める法律上の利益がなく不適法なものであることから、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第1項の規定により、却下すべきものである。
(2)第2号請求について
審査請求人の主張には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却すべきものである。
4 審査関係人の主張の要旨
(1)審査請求人
審査請求人は、逮捕直後に居住アパートの鍵をアパート入居契約時の保証人たる親族に預け、アパート管理会社への連絡を依頼していること、処分庁が審査請求人の生活状況等について調査を怠らなければ生活保護費の過支給は発生しなかったと考えられるため、過支給が発生したことについての落ち度は自分にはなく、処分庁にあること、返還するだけの金品を所有していないため返還することができないことから、第1号処分及び第2号処分は取り消されるべきである。
(2)審査庁
第1号請求については取消しを求める法律上の利益がないことから却下し、第2号請求については審理員意見書のとおり棄却すべきである。
5 審理員意見書の要旨
次のとおり、第1号請求及び第2号請求には、理由がないので、棄却されるべきである。
- 刑事施設収容を理由とする生活保護廃止については、当事者間に争いがなく、また、妥当である。
- 処分庁は、3~4か月に1回程度の家庭訪問を行っており、生活状況等の把握の方法として妥当なものであり、また、逮捕等の事実が警察官署等から処分庁に通報される仕組みはとられておらず、審査請求人が逮捕された事実を即時に把握できなかったことについて、処分庁の落ち度はない。
- 過支給された生活保護費は、審査請求人が指定している金融機関口座に入金されていることから、返還するだけの金品を所有していない旨の審査請求人の主張には理由がない。
6 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
- 平成29年5月9日審査庁から諮問書を収受
- 同月16日調査・審議
- 同年6月27日調査・審議
7 審査会の判断の理由
(1)審理手続の適正について
本件審査請求に係る審理手続は適正に行われたものと認められる。
(2)審査会の判断について
ア 第1号請求について
(ア)第1号請求は、第1号処分の取消しを求めるという請求である。
(イ)処分庁は、平成29年1月17日に第1号処分の取消しについての内部意思決定を行い、第2号処分の通知書において、第1号処分の「通知に不備があったことから改めて」処分を行った旨を示している。
(ウ)(イ)の事実から、第1号処分は、取り消されていると解するのが相当であり、第1号請求において不服の対象とする処分が消滅しているものと解される。
以上から、第1号請求は、審査請求のもととなった処分が消滅し、審査請求人には、取消しを求める法律上の利益がなくなっており、不適法なものであることから却下されるべきものである。
イ 第2号請求について
(ア)本件における法令等の規定について
a 保護の廃止及び停止について、生活保護法(昭和25年法律第144号)は、「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない」と規定している(生活保護法第26条前段)。
b 国は、aを受け、「保護を廃止すべき場合」として、通知で、「(1)当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、以後特別な事由が生じないかぎり、保護を再開する必要がないと認められるとき。(2)当該世帯における収入の臨時的な増加、最低生活費の臨時的な減少等により、以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるとき。」の2点を示している(生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日厚生省社会局保護課長通知))。
c また、別の通知では、「行刑機関、警察官署等に拘束されている者が発病した場合には、これに対する医療は、原則として刑事行政の一環として措置されるべきものである」としている(生活保護法による医療扶助運営要領について(昭和36年9月30日厚生省社会局長通知)別紙第2号)。
d 生活保護実施機関が被保護者に対してどの程度家庭訪問調査等を行うべきかについては、国は、通知で、「要保護者の生活状況等を把握し、援助方針に反映させることや、これに基づく自立を助長するための指導を行うことを目的として、世帯の状況に応じ」、「年間訪問計画を策定のうえ行うこと」とし、具体的には「少なくとも1年に2回以上」家庭訪問することや「申請により保護の変更を行う場合」や「生業扶助により就労助成を行った場合」の臨時訪問等を示している(生活保護法による保護の実施要領について(昭和38年4月1日厚生省社会局長通知第12))。
(イ)第2号処分の違法性について
a 長期の刑事施設収容による生活保護廃止については、当事者間に争いはない。審査請求人の逮捕を受けて、処分庁が生活保護を廃止したことは、(ア)bに照らして妥当である。また、刑事施設に収容されている間は、生活保護法以外の他法が優先されることは、(ア)cに照らして妥当である。
b 処分庁は、3~4か月ごとに1回程度家庭訪問を行っていたことがうかがわれる。処分庁の家庭訪問調査等の実態は、審査請求人の世帯が単独世帯で非稼働世帯であることを踏まえ、(ア)dに照らすと、妥当なものである。
c 一般的に被保護者が逮捕等された場合、警察官署や検察庁から逮捕等の事実が生活保護実施機関に通報される仕組みはとられておらず、第2号処分を行うに当たり、処分庁が審査請求人の逮捕を即時に把握できなかったことについて、処分庁の過失を認めることはできない。
d 過支給された生活保護費は、審査請求人が指定した金融機関口座に入金されていることから、返還するだけの金品を所有していないので返還することはできないとする審査請求人の主張には理由がない。
以上のとおり、審査請求人の主張には理由がなく、第2号請求は、棄却すべきものである。
8 付言
(1)第1号処分について
第1号処分は、前述のとおり、処分庁の職権において取り消されていると解されるが、審査請求人にそのことが十分に伝わったかどうか疑問な点がある。
処分庁において、審査請求人に対する通知方法等について適切かつ丁寧な処理がされることを要望する。
(2)第2号処分について
第2号処分には、判断には影響しないが、保護を要しなくなった日と保護の廃止日に係る記載が混同しており、不明瞭になっている点がある。
処分庁において、関係法令及び関係通知を十分に確認し、適切な処理がされることを要望する。