本文
平成30年度答申第6号
件名
特別障害者手当認定請求却下処分に対する審査請求
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由があるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定により処分を取り消すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
(1)審査請求人
○○による精神障害があり、障害の程度については、特別障害者手当の認定の条件を満たしている。また、特別障害者手当認定診断書(以下「診断書」という。)を作成した医師も特別障害者手当の認定の条件を満たしていることを認めており、処分庁が平成30年5月22日付けで行った特別障害者手当認定請求却下処分(以下「本件処分」という。)後、診断書を作成した医師は、審査請求人が精神障害による障害年金を申請する際に作成した国民年金・厚生年金保険診断書(精神の障害用)と同じ内容になるよう、診断書の謄本に加筆をしてくれた。審査請求人は認定の厳しい精神障害による障害年金1級を受給している。このことを踏まえれば、本件処分を行った処分庁の判断は不適切であるため、特別障害者手当の認定を求める。
(2)審査庁
審理員意見書のとおり、本件処分を取り消すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
次のとおり、本件審査請求には理由があるから、本件処分は取り消されるべきである。
- 「障害児福祉手当及び特別障害者手当の障害程度認定基準について」(昭和60年12月28日付け社更第162号厚生省社会局長通知)の別紙「障害児福祉手当及び特別障害者手当の障害程度認定基準」(以下「認定基準」という。)では「障害程度の認定は、原則として、別添に定める障害児福祉手当認定診断書及び特別障害者手当認定診断書(略)によって行うこと。なお、精神障害その他の疾患で当該認定診断書のみでは認定が困難な場合にあっては必要に応じ療養の経過、日常生活の状況の調査、検診等を実施した結果に基づき認定すること。」と規定している(認定基準第一の3)。
- また、「改訂 特別障害者手当等支給事務の手引」(平成10年4月30日発行。以下「手引」という。)では、「精神障害による障害基礎年金1級の受給者であることが確認できれば手当の対象として認定して差しつかえない。」と規定している(手引267頁及び268頁)。
- 審査請求人の障害程度の認定について診断書のみで認定することは困難であり、その場合は必要に応じ療養の経過の調査等を実施した結果に基づき認定することとされているが、処分庁が調査等を行った事実は認められない。
また、証拠書類から審査請求人は精神障害による障害基礎年金1級を受給しており、特別障害者手当の認定の条件を満たしている可能性を否定できないが、この点について、処分庁が調査することは可能であったと考えられる。 - よって、処分庁は調査を尽くしておらず、審査請求人の障害の程度が認定基準に該当しないとまではいえないことから、本件処分は取り消されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
平成30年11月30日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
平成30年12月6日 調査・審議
平成31年1月30日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
(1)審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
(2)審査会の判断について
ア 本件における法令等の規定について
(ア)特別障害者手当とは、特別児童扶養手当等の支給に関する法律(昭和39年法律第134号。以下「法」という。)に基づき、精神又は身体に著しく重度の障害を有する者の福祉の増進を図るために支給されるものである。
(イ)特別障害者とは、法第2条第3項において「20歳以上であつて、政令で定める程度の著しく重度の障害の状態にあるため、日常生活において常時特別の介護を必要とする者」とされ、また法第26条の2において「市長(略)は、その管理に属する福祉事務所の所管区域内に住所を有する特別障害者に対し、特別障害者手当(略)を支給する。」と定められている。
(ウ)第2条第3項に規定された「政令で定める程度の著しく重度の障害の状態」については、特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行令(昭和50年政令第207号。以下「令」という。)第1条第2項各号に掲げられており、その具体的な基準は国の定める認定基準により、次のとおり定められている。
a 令第1条第2項第1号で定める著しく重度の障害の状態とは、令別表第2各号に掲げる障害が重複するものである。
b 令第1条第2項第2号で定める著しく重度の障害の状態とは、次の2つのいずれかの状態である。1つは、令別表第2第1号から第7号までのいずれか1つの障害を有し、かつ、認定基準第三の2(1)の表に規定する障害を重複して有するものである。もう1つは、令別表第2第3号から第5号までのいずれか1つの障害を有し、かつ、認定基準第三の2(2)の「日常生活動作評価表」の日常生活動作能力の各動作の該当する点を加算したものが10点以上となるものである。
c 令第1条第2項第3号で定める著しく重度の障害の状態とは、令別表第1のうち、次のいずれかの認定基準に該当するものである。
(a)認定基準第二の4又は5における「内部障害」又は「その他の疾患」に該当する障害を有し、かつ、認定基準第三の1(7)ウの「安静度表」の1度(絶対安静)に該当する状態を有するもの。
(b)認定基準第二の6における「精神の障害」に該当する障害を有し、かつ、認定基準第三の1(8)エの「日常生活能力判定表」の該当する点を加算したものが14点となるもの。
なお、「精神の障害」は、統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害、気分(感情)障害、症状性を含む器質性精神障害、てんかん、知的障害、発達障害に区分され、そのうち○○の傷病及び状態像が令別表第1第9号に該当すると思われる症状等は、○○とされている。
また、「日常生活能力判定表」の該当する点を加算したものが14点となるものとは、次表に掲げる各動作及び行動に該当する点を加算したものが14点に達する場合をいう。
動作及び行動の種類 | 0点 | 1点 | 2点 |
---|---|---|---|
1 食事 | ひとりでできる | 介助があればできる | できない |
2 用便(月経)の始末 | ひとりでできる | 介助があればできる | できない |
3 衣服の着脱 | ひとりでできる | 介助があればできる | できない |
4 簡単な買い物 | ひとりでできる | 介助があればできる | できない |
5 家族との会話 | 通じる | 少しは通じる | 通じない |
6 家族以外の者との会話 | 通じる | 少しは通じる | 通じない |
7 刃物・火の危険 | わかる | 少しはわかる | わからない |
8 戸外での危険から身を守る(交通事故) | 守ることができる | 不十分ながら守ることができる | 守ることができない |
d 認定基準では認定に関する一般事項についても定めており、そのうち認定基準第一の3では、「障害程度の認定は、原則として、別添に定める障害児福祉手当認定診断書及び特別障害者手当認定診断書(略)によって行うこと。なお、精神障害その他の疾患で当該認定診断書のみでは認定が困難な場合にあっては必要に応じ療養の経過、日常生活の状況の調査、検診等を実施した結果に基づき認定すること。」とされている。
また、認定基準第一の7では、「実施機関において、障害程度の認定に関し疑義を生ずる場合においては当該障害程度の認定について都道府県知事に必要に応じて照会すること。」(以下「知事協議」という。)とされている。
(エ)認定に関する疑義については手引が発出されており、精神障害者で障害基礎年金1級の受給者について年金証書をもって認定することの可否については、手引267頁及び268頁において「年金証書には障害名の記載がないので通常の場合、当該証書のみでは判定できないと考える。」としつつ、「ただし、精神障害(精神薄弱を除く。)に係る障害基礎年金の1級の基準と手当の認定基準が同一の規定のしかたとなっているので精神障害による障害基礎年金1級の受給者であることが確認できれば手当の対象として認定して差しつかえない。」としている。
イ 精神障害による障害年金1級を受給しているという審査請求人の主張について
審査請求人は認定の厳しい精神障害による障害年金1級を受給しているとして、証拠書類として精神障害による障害年金を申請する際に医師が作成した国民年金・厚生年金保険診断書(精神の障害用)の写し及び国民年金・厚生年金保険支給額変更通知書の写しを提出しているが、その証拠書類によると、審査請求人は精神障害による障害基礎年金1級を受給していることがわかる。
ウ 障害程度の認定方法について
障害程度の認定については、認定基準第一の3に定めるとおり、原則として診断書に基づいて行うこととされている。よって、本件処分に際し、処分庁が審査請求人から提出された診断書に基づき審査を行ったことに違法又は不当な点はない。
エ 診断書の内容について
平成○○年○○月○○日付けで審査請求人が処分庁に提出した診断書によると、審査請求人が提出した診断書は精神の障害用であり、障害の原因となった傷病名は○○と記載がある。また障害の状態については、次のとおりである。
(ア)○○について
○○の項目に印があり、その程度・症状については、○○と記載がある。
(イ)○○について
○○の項目に印があり、その程度・症状については、○○と記載がある。
(ウ)○○について
○○の項目に印があり、上記ア(ウ)c(b)の「日常生活能力判定表」による点数は○○点となる。また具体的な内容については、○○と記載がある。
なお、審査請求人が審査請求書を提出した際に証拠書類として診断書の謄本が添付されたが、その謄本には○○の欄に○○と加筆されている。
オ 本件処分等の違法性の有無について
(ア)認定基準による令第1条第2項各号の該当性の有無について
審査請求人の障害程度が令第1条第2項各号に該当するかについて、審査請求人の有する障害は精神障害のみであるため、重複障害はない。よって、重複障害を要件とする、令第1条第2項第1号及び第2号の認定基準については該当しない。令第1条第2項第3号のうち、審査請求人が有する障害は、精神障害であることから、上記ア(ウ)c(a)の認定基準には該当しない。よって、上記ア(ウ)c(b)の「精神の障害」について、その該当性の有無について判断すると、次のとおりである。
a 平成○○年○○月○○日付け診断書による障害程度の認定について
まず「日常生活能力判定表」の点数については上記エ(ウ)より○○点となり、認定基準で定める点数に達することから、該当する。次に「精神の障害」に該当する障害の有無については、上記エ(ア)の○○の程度・症状の記載欄において○○と記載があり、また上記エ(ウ)の○○の具体的な内容の記載欄においても○○と記載があることから、○○となっていることが見受けられる。よって、診断書から「精神の障害」に該当する可能性を否定することはできない。
b 知事協議に対する回答について
一方で、処分庁が認定基準第一の7の規定に基づき審査請求人の障害程度の認定について知事協議を行ったところ、群馬県知事から意見照会を受けた群馬県心身障害者福祉センターの医師は「最重度ではない。通院状態、治療可能の疾患」との理由により非該当と回答している。
上記a及びbより、診断書を作成した医師の所見と、群馬県心身障害者福祉センターの医師の回答が異なることから、「精神の障害」の該当性の有無については、診断書のみで判断することは困難であると思量する。
そこで、精神障害について診断書のみで認定が困難な場合は、認定基準第一の3より、必要に応じ療養の経過、日常生活の状況の調査を実施した結果に基づき認定することとなっているが、処分庁が診断書を作成した医師に照会を行った事実や、日常生活状況の調査等を行った事実は認められない。
(イ)障害基礎年金1級の受給者に係る特別障害者手当の認定について
審査請求人が提出した証拠書類によると、審査請求人は精神障害による障害基礎年金1級を受給しており、上記ア(エ)の手引の問答から、審査請求人の障害程度が特別障害者手当の認定の対象となる可能性が否定できないと考えられる。この点については、審査請求人が処分庁に提出した特別障害者手当認定請求書に障害年金の受給状況を申告する項目があるため、処分庁も審査請求人の障害程度について調査を行うことは可能であったと考えられる。
よって、上記(ア)及び(イ)より、処分庁は、審査請求人の精神障害について判断するための調査を尽くしておらず、また、診断書より審査請求人の障害の程度が認定基準に該当しないとまではいえない。
(ウ)上記以外の違法性又は不当性についての検討
他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。
以上のとおり、本件審査請求には理由があるから、「第1 審査会の結論」のとおり答申する。
なお、審査請求人は本件審査請求において特別障害者手当の認定を求めているが、行政不服審査法第46条第1項の規定により、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合には、当該処分を変更することはできないとされており、審査庁である群馬県知事は処分庁である○○の上級行政庁又は処分庁のいずれでもないことから、本件処分を変更することはできないことを付言する。