ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 組織からさがす > 総務部 > 総務課 > 令和元年度答申第4号

本文

令和元年度答申第4号

更新日:2019年10月17日 印刷ページ表示

件名

 不動産取得税に係る差押処分及び配当処分についての審査請求

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

(1) 審査請求人

 処分庁が審査請求人に対して平成〇〇年〇〇月〇〇日付けで行った平成30年度不動産取得税の徴収金に係る普通預金の払戻請求権に対する差押処分(以下「本件処分」という。)について、処分庁が差し押さえた口座はもっぱら老齢年金を受領する口座であり、しかも口座に入金された後、極めて短時間のうちに差し押さえられたものであることから、老齢年金としての属性を失っていない。
 差押禁止債権が預金に入金されると一般債権に転化するという最高裁判決があるが、近年では、広島高裁判決や前橋地裁判決によって、場合によっては否定されている。
 このため、本件処分は国税徴収法(昭和34年法律第147号。以下「国徴法」という。)第76条第1項及び第77条第1項に照らし過剰な差押えであり、これらの規定に反していることから、本件処分及び平成〇〇年〇〇月〇〇日付け配当処分(以下「配当処分」という。)の取消し並びに差押金額の返還を求める。

(2) 審査庁

 本件審査請求は、棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 老齢年金は、一定の差押禁止額が設けられている差押禁止債権であるが、差押え自体が禁止されているわけではない。
また、本件処分は、預金債権を差し押さえたものであり、老齢年金債権を差し押さえたものではない。
 差押禁止債権が預金口座に振り込まれて生じた預金債権は、原則として差押禁止債権としての属性を承継しないと解するのが相当とされている(最高裁平成10年2月10日第三小法廷判決。以下「最高裁判決」という。)。
 最高裁判決の考え方を原則としつつ、例外的に、実質的に差押禁止債権を差し押さえたものであり違法であるとされたものとして、広島高裁平成25年11月27日判決(以下「広島高裁判決」という。)と前橋地裁平成30年1月31日判決(以下「前橋地裁判決」という。)があるが、本件とは異なる事情の基に判断されたものである。また、東京地裁平成28年9月23日判決(以下「東京地裁判決」という。)と照らし合わせてみるに、本件処分は、老齢年金債権をあえて預金口座に振り込ませ、その預金債権を差し押さえようとしたものでないと考えられる。
 また、東京高裁平成30年12月19日判決(以下「東京高裁判決」という。)及び前橋地裁判決では、最高裁判決の考え方を原則としつつ、法が、最低限の生活の維持に必要な費用等に相当する一定の金額について差し押さえることを禁止した趣旨は尊重されるべきとしているところ、本件処分では、処分庁職員が臨場時点での預金残高を調査した際、口座残高のほぼ全てである〇〇万円がすでに引き出され、残高の〇〇円を差し押さえたものであり、本件処分をもって、審査請求人がただちに生活困窮に陥ったとは考えにくい。
 以上のことから、本件処分は、差押禁止債権自体を差し押さえることを意図して行ったものとは考えられず、広島高裁判決や前橋地裁判決の事案と同一の事案とは認められないため、原則どおり最高裁判決に従って判断すべきであるから、本件処分に違法又は不当な点はない。

第4 調査審議の経過

当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
 令和元年8月20日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
 令和元年8月28日 調査・審議
 令和元年9月6日 審査請求人から主張書面を収受
 令和元年9月27日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

(1) 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

(2) 審査会の判断について

ア 本件処分に係る法令等の規定について

(1) 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

(2) 審査会の判断について

ア 本件に係る法令等の規定について

(ア) 地方税法(昭和25年法律第226号)第73条の36第1項は、不動産取得税に係る滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに当該不動産取得税に係る徴収金を完納しないときは、滞納者の財産を差し押さえなければならないと規定している。
(イ) 国徴法第77条第1項は、差押禁止額の計算に際し、社会保険制度に基づき支給される老齢年金に係る債権を給料等とみなして、国徴法第76条の規定を適用すると規定している。
(ウ) 国税徴収法施行令(昭和34年法律第329号。以下「施行令」という。)第34条は、国徴法第76条第1項第4号(給料等の差押禁止の基礎となる金額)に規定する政令で定める金額を、「滞納者の給料、賃金、俸給、歳費、退職年金及びこれらの性質を有する給与に係る債権の支給の基礎となつた期間1月ごとに10万円(滞納者と生計を一にする配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)その他の親族(以下「生計同一人」という。)があるときは、これらの者1人につき4万5千円を加算した金額)と規定している。

イ 本件処分について

(ア) 審査請求人が、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに本件不動産取得税に係る徴収金を納付しなかったことから、処分庁が地方税法第73条の36第1項の規定に基づき本件処分を行ったものである。
(イ) 審査請求人は、本件処分の対象となった普通預金の払戻請求権に係る預金口座(以下「本件口座」という。)は、もっぱら老齢年金のみが入金される口座であり、入金直後に本件処分が行われたことからも、本件口座の預金は老齢年金としての属性を維持しており、生計同一人が〇名いる状況下では、1月あたりの老齢年金の給付額が国徴法及び施行令に規定される差押禁止額より下回っていることから、差押えを行うことが出来ないはずであり、本件処分は違法行為であると主張していると解される。
(ウ) 差押禁止債権が預金口座に振り込まれた場合について、最高裁判決は、「差押禁止債権に係る給付金が金融機関の口座に振り込まれると、受給者の当該金融機関に対する預貯金債権に転化し、受給者の一般財産になると解すべきであるから、差押禁止債権の振り込みによって生じた預貯金債権は、原則として差押禁止債権としての属性を承継しないと解するのが相当である」とした原審(札幌高裁平成9年5月23日判決)の判断を是認している。
(エ) 広島高裁判決は、児童手当法(昭和46年法律第73号)第15条によりその支給を受ける権利の差押えが禁止されている児童手当が振り込まれた預金債権の差押えについて、処分行政庁が児童手当が口座に振り込まれる日であることを認識した上で、振り込まれた9分後に、児童手当によって大部分が形成されている預金債権を差し押さえた差押処分は、差し押さえた預金債権のうち児童手当相当額の部分に関しては、いまだ児童手当としての属性を失っておらず、実質的に児童手当の支給を受ける権利自体を差し押さえたものと変わりがないと認められると判断したが、これは最高裁判決の例外を示したものと解される。
(オ) ただし、広島高裁判決では、最高裁判決を引用し、「一般に、差押等禁止債権に係る金員が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預金債権は、原則として差押等禁止債権としての属性を承継するものではないと解される」として最高裁判決の考え方が原則であることを明確に示している。さらに、広島高裁判決は、損害賠償に関する判断の部分ではあるものの、「差押等禁止債権に係る金員であっても、これがいったん金融機関の口座に振り込まれた場合には、これによって発生する預金債権を差し押さえることが違法であるとは一般的に解されていないし、最高裁判決からすれば、差押等禁止債権が預金債権に転化した以上、差し押さえも許されるとの見解にも相当の合理性があるというべきである」とも述べている。
(カ) このように、広島高裁判決は、あらかじめその日に差押等禁止債権である児童手当が振り込まれることを認識した上で、振込日当日、金融機関が開店した直後に、差押禁止債権によって大部分が形成された預金債権の差押えを執行したという当該事案固有の事実関係に基づく極めて例外的な判断であったと考えられる。
(キ) この点について、本件処分に照らし合わせると、処分庁職員が第三債務者に臨場したのは老齢年金の支給日ではあったものの、臨場時点での預金残高を調査した際、本件口座残高のほぼ全てである〇〇万円が既に引き出されており、処分庁職員はこの口座の残高〇〇円について差押えを執行したものとなっている。
 この事実から、本件処分は広島高裁判決の事案とは異なり、老齢年金がその日に口座に振り込まれることを認識して振込日当日の入金直後に行ったものではなく、老齢年金の支給を受ける権利自体を差し押さえたのと変わりがないものとは認められない。
(ク) また、東京地裁判決においては、差押禁止債権が預貯金口座に振り込まれた場合について、広島高裁判決と同様に最高裁判決を原則的な考え方としたうえで、預金債権差押処分をした時点では、同日に支払われる老齢年金債権を差し押さえることが困難であった上、本件預金債権差押処分をした後、同月に本件年金債権差押処分をし、これに続く本件各年金債権配当処分においては、国徴法第76条第1項各号に掲げる差し押さえることのできない金額を除いた金額について差し押さえ、配当をしていることからすると、原告が支給を受ける老齢年金について、あえて一旦預金口座に振り込ませ、その預金債権を差し押さえることにより、結果的に老齢年金相当額の全額を差し押さえようとする意図があったとみることは困難であるとの判断が示された。
(ケ) このように、東京地裁判決は、差し押さえることのできない債権であることを認識しながら、あえて預金口座に振り込ませ、その預金債権を差し押さえることで、差押禁止債権相当額の全額を差し押さえようとする意図が存在したかどうかという最高裁判決を補足する判断であったと考えられる。
(コ) ひるがえって、本件処分に照らし合わせると、処分庁は平成〇〇年〇〇月〇〇日に本件口座内のほぼ全ての金額が既に引き落とされた、この口座の残額の預金債権を差し押さえ、取り立てを行った後に、同月〇〇日に請求外老齢年金の支払請求権について差押えを行っている。
 このことから、本件処分をした時点では、同日に支払われる老齢年金債権を差し押さえることが困難であったことから、やむを得ず、本件口座の払戻請求権を差し押さえたものと考えられる。よって、本件処分については、東京地裁判決の事案と同様に、審査請求人が支給を受ける老齢年金について、あえて一旦預金口座に振り込ませ、その預金債権を差し押さえることにより、結果的に老齢年金相当額の全額を差し押さえようとする意図があったとは認めがたく違法な行為ではないと認められる。
(サ)また、前橋地裁判決においては、「滞納処分庁が、実質的に国徴法76条第1項、第2項により差し押さえを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合には、上記差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分として、違法となる場合があるというべきである」との考え方が示されているが、本件処分については、(キ)及び(コ)のとおり、差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して本件処分を行ったものとは認められない。
(シ) なお、差押禁止債権が預金口座に振り込まれた場合についての原則的な考え方については既出のとおり最高裁判決で示されているところであるが、東京高裁判決では最高裁判決を原則としたうえで、「年金等に基づき支払われる金銭が受給者名義の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、国徴法第77条第1項及び第76条第1項が年金等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差し押さえを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべき」との見解が示されている。この差押えを禁止した趣旨を没却するものと認められるかの判断については、東京高裁判決において、「実質的に差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押えを行ったといえるか、差し押さえられた金額が滞納者の生活を困窮させるおそれがあるか否かなどを総合的に考慮すべき」として、新たな考え方が示されている。
(ス)この点について、本件処分について考えると、処分庁職員が臨場時点で本件口座の預金残高を調査した際、口座残高のほぼ全てである〇〇万円が既に引き出されており、処分庁職員はこの口座の残高〇〇円について差押えを執行していること、審査請求人は本件不動産取得税を滞納している理由について、行政の不備を指摘するために支払わないと主張していること、本件不動産取得税は売買による不動産取得により課されたものであることを考慮すると、本件処分をもって、審査請求人がただちに生活困窮に陥る状況にあったとは考えにくく、(キ)及び (コ)についても考慮すると、本件処分が、国徴法第77条第1項及び第76条第1項の趣旨に反しているとはいいがたい。
(セ) 以上のことから、本件処分は、広島高裁判決及び前橋地裁判決の事案と同一の事案とは認められず、また、東京高裁の事案と同様に国徴法第77条第1項及び第76条第1項の趣旨に反した差押えであったとは認められないから、原則どおり最高裁判決に従って判断すべきであると考えられる。
 よって、本件処分は、差押禁止額の適用がない審査請求人が第三債務者に対して有する預金債権を差し押さえたものであり、審査請求人が主張する「過剰な差押え」には該当しないものと考えられ、本件処分及び配当処分に違法又は不当な点は認められない。

以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり答申する。

群馬県行政不服審査会答申集ページへ戻る群馬県行政不服審査会ページへ