本文
令和元年度答申第5号
件名
保護停止決定処分及び保護廃止決定処分についての審査請求
第1 審査会の結論
本件審査請求のうち、処分庁による生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第26条に基づく生活保護停止決定処分(令和元年5月23日付け○○第453号。以下「本件処分1」という。)に係る審査請求には理由がないことから、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により請求を棄却し、第26条に基づく生活保護廃止決定処分(令和元年6月5日付け○○第613号。以下、「本件処分2」という。)に係る審査請求には理由があるから、行政不服審査法第46条第1項の規定により本件処分2は取り消されるべきである。。
第2 審査関係人の主張の要旨
(1) 審査請求人
本件処分1及び本件処分2を取り消して、○○年○○月○○日までの生活保護費を遡って支給することを求める。その理由は次のとおりである。
ア 審査請求人は既に釈放されており、過支給分も存在しない。また、処分庁が主張する「長期にわたる収容」ではなく、○月しか勾留されていない。
イ そもそも本件処分1及び本件処分2は、処分庁が○○個人情報保護条例違反をして得た情報をもとに下されたものであり、違法である。
(2) 審査庁
棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
本件審査請求のうち本件処分1については請求を棄却、本件処分2については請求を認容すべきである。
(1) 本件処分1の妥当性
処分庁は、審査請求人が○○警察署に逮捕・勾留されたことを理由として、本件処分1を行った。
留置施設に留置されている者(以下「被留置者」という。)については、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)により、被留置者の状況に応じた適切な処遇がされることになっており、起居すべき居室が提供され、衣類及び寝具、食事及び湯茶、日用品、筆記用具その他の物品が貸与又は支給されるとともに、負傷し、若しくは疾病にかかっているとき又はこれらの疑いがあるときは、医師による診療等が行われる。
したがって、被留置者は、留置施設に留置されている期間において、最低限度の生活を維持することができない者には該当しないこととなるから、保護を行う必要性に欠けるといえる。
審査請求人は、○○年○○月○○日に逮捕・勾留され、○○年○○月○○日付けで起訴されたことから、審査請求人に対する処遇は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に基づいて措置されることとなるため、法第26条第1項に規定する「被保護者が保護を必要としなくなったとき」に該当すると考えられ、処分庁が請求人に対する保護を停止する判断をし、過支給分の返還を求めたことは、違法又は不当であるとはいえない。
以上のことから、本件処分1には、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。
(2) 本件処分2の妥当性
処分庁は、審査請求人が即決裁判手続きで審判される可能性も視野に入れ、起訴されてから14日後、○○地方裁判所へ問い合わせ、○○年○○月○○日が第1回公判であることを確認した。
処分庁は、「日本では刑事事件の有罪率が極めて高い状況であり、かつ、○○罪(未遂を含む)は○○の懲役刑のみであることから、相当期間にわたって保護を要しない状態が継続するもの」と判断して、保護停止日である○○年○○月○○日に遡って生活保護の廃止を決定した。
しかし、実際には、審査請求人は、○○年○○月○○日に釈放されており、少なくとも、保護停止から、おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続することを確認した後、保護廃止決定を行うことが適当であったと考えられる。
このことから、処分庁が行った本件処分2の判断には重要な事実を欠いており、手続に瑕疵があることから、本件処分2は取り消されるべきである。
(3) その他
処分庁は、○○年○○月○○日付けで○○警察署から刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第197条第2項に基づく捜査関係事項照会書が送付されたことを受け、審査請求人の拘留について把握しており、○○個人情報保護条例違反をした事実は認められない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和元年8月21日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和元年8月28日 調査・審議
令和元年9月27日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 生活保護の補足性
法第4条第1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と、同条第2項は、「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と規定している。
イ 保護の停止及び廃止の規定について
法第26条は、「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもって、これを被保護者に通知しなければならない」と規定している。
また、「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の第10の問12において、保護を停止すべき場合は、「(1) 当該世帯における臨時的な収入の増加、最低生活費の減少等により、一時的に保護を必要としなくなった場合であって、以後において見込まれるその世帯の最低生活費及び収入の状況から判断して、おおむね6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想されるとき。」、「(2) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、一応保護を要しなくなったと認められるがその状態が今後継続することについて、なお確実性を欠くため、若干期間その世帯の生活状況の経過を観察する必要があるとき」と規定されている。
さらに、課長通知の第10の問12において、保護を廃止すべき場合は、「(1) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、以後特別な事由が生じないかぎり、保護を再開する必要がないと認められるとき」、「(2) 当該世帯における収入の臨時的な増加、最低生活費の臨時的な減少等により、以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるとき。」と規定されている。
ウ 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の規定
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第182条は、「被留置者の処遇(運動、入浴又は面会の場合その他の内閣府令で定める場合における処遇を除く。)は、居室(被留置者が主として休息及び就寝のため使用する場所として留置業務管理者が指定する室をいう。以下この条及び第212条において同じ。)外において行うことが適当と認める場合を除き、昼夜、居室において行う。」と規定している。
また、同法第186条は、「被留置者における、次に掲げる物品(書籍等を除く。以下この節において同じ。)であって、留置施設における日常生活に必要なもの(第188条第一項各号に掲げる物品を除く。)を貸与し、又は支給する。」と規定している。
さらに、同法第199条では、「留置施設においては、被留置者の心身の状況を把握することに努め、被留置者の健康及び留置施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。」と規定している。
エ 被保護者が被疑者等として警察署に留置、拘束された場合の最低生活費
「生活保護問答集について」(平成21年3月31日付け厚生労働省社会保護課長事務連絡)問7-15において、「被保護者が被疑者等として警察署に留置、拘束された場合は、刑事行政の一環として措置されるべきものであることから最低生活費の計上は必要ない」とされている。
(2) 本件処分1及び本件処分2の違法性について
ア 本件処分1の違法性
処分庁は、審査請求人が○○警察署に逮捕・勾留されたことを理由として、本件処分1を行った。
被留置者については、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律により、被留置者の状況に応じた適切な処遇がされることになっており、起居すべき居室が提供され、衣類及び寝具、食事及び湯茶、日用品、筆記用具その他の物品が貸与又は支給されるとともに、負傷し、若しくは疾病にかかっているとき又はこれらの疑いがあるときは、医師による診療等が行われる。
したがって、被留置者は、留置施設に留置されている期間において、最低限度の生活を維持することができない者には該当しないこととなるから、保護を行う必要性に欠けるといえる。
審査請求人は、○○年○○月○○日に逮捕・勾留され、○○年○○月○○日付けで起訴されたことから、審査請求人に対する処遇は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に基づいて措置されることとなるため、法第26条第1項に規定する「被保護者が保護を必要としなくなったとき」に該当すると考えられ、処分庁が審査請求人に対する保護を停止する判断をし、過支給分の返還を保留したことは、違法又は不当であるとはいえない。
以上のことから、本件処分1には、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。
イ 本件処分2の違法性
生活保護の廃止決定は、最低限度の生活保障を廃止するものであり、その決定は慎重であるべきである。
処分庁の令和元年6月4日ケース診断会議記録によれば、処分庁は、審査請求人が即決裁判手続きで審判される可能性も考慮し、起訴されてから14日を経過した○○年○○月○○日に○○地方裁判所へ問い合わせ、公判期日が○○年○○月○○日であることを確認した。そして、弁明書、審査請求人のケース記録及び令和元年6月4日ケース診断会議記録によれば、「逮捕・勾留後、公訴が提起されており、今後は刑事裁判を控えているが、日本では刑事事件の有罪率が極めて高い状況であり、かつ、○○罪(未遂を含む)は○○の懲役刑のみであることから、相当期間にわたって保護を要しない状態が継続するものと考えられる」ため、課長通知の問第10の12答2-(1)に該当し、「起訴の事実を受け、長期にわたる収容が想定され、最低生活費の恒常的な減少が継続するとして保護を再開する必要がないもの」と判断し、保護の停止日である○○年○○月○○日に遡って生活保護の廃止を決定した。
しかし、起訴後も判決宣告前に身柄の拘束が解かれたり、執行猶予付きの判決がされて身柄の拘束が解かれることも想定される。また、刑事裁判の場合に、公判が2回を超えることは、裁判員裁判等の重大事件を除いては少なく、本件においても、実際の拘束期間は○月程度であった。
よって、本件処分2の処分時において「長期にわたる収容が想定され、最低生活費の恒常的な減少が継続するとして保護を再開する必要がない」とはいえない。
このことから、処分庁が行った本件処分2は、判断に必要な重大な事実を欠いていることから、本件処分は取り消されるべきである。
ウ ○○個人情報保護条例違反
処分庁は、○○年○○月○○日付けで○○警察署から刑事訴訟法第197条第2項に基づく捜査関係事項照会書が送付されたことを受けて審査請求人の拘留を把握しており、○○個人情報保護条例違反をした事実は認められない。
エ その他
上記の他には本件処分に違法又は不当な点は認められない。
以上のとおり、本件審査請求のうち本件処分1に係る部分ついては理由がなく、本件処分2に係る部分については理由があるから、「第1 審査会の結論」のとおり答申する。