ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 組織からさがす > 総務部 > 総務課 > 令和2年度答申第4号

本文

令和2年度答申第4号

更新日:2020年7月28日 印刷ページ表示

件名

 生活保護廃止決定処分についての審査請求

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

  1. 指示違反を理由に被保護者に不利益処分を課す場合には、被保護者の保護の必要性にも十分配慮する必要があり、特に保護の廃止処分は、被保護者の最低生活限度の生活の保障を奪う重大な処分であるから、違反行為に至る経緯や違反行為の内容等を総合的に考慮し、違反の程度が処分に相当するような重大なものであることが必要であって、それに至らない程度の違反行為については、何らかの処分が必要な場合でも、保護の変更や停止などのより軽い処分を選択すべきである。
  2. 本件では、自動車の保有ではなく、たんなる借用であり、その使用の回数もわずかで、かつ、その用途も就職活動のためであり、むしろ生活保護の趣旨に沿うような使用である。また、就職の見込みもあったのであるから、「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号。以下「課長通知」という。)第3の問9の2で示されているとおり、処分指導を行わないものと取り扱われるべきであった。
     加えて、自動車の普及率の向上に伴ってかなり低価格の中古車等も出まわるようになっているなどの社会情勢に、殊に群馬県においては、自動車がなければ生活が非常に困難であることを考量すると、自動車の一時的な借用を禁止する度合いは低く、自動車借用による違反については、その違反の程度は著しく低いものである。
  3. そうすると、最も重大な保護廃止処分を行ったことは重きに失し、処分の相当性において、保護実施機関に与えられた裁量の範囲を逸脱したものであることは明らかであり、処分庁が行った審査請求人に対する令和元年12月25日付け保護廃止決定処分(以下「本件処分」という。)は違法な処分である。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

  1. 審査請求人が主張している就職活動のためという目的以外による自動車の使用であり、就職活動を行っていることを明らかにする報告等がなかったほか、就職活動のための自動車使用である事実は認められず、自動車の使用について、認めることはできない。
  2. 審査請求人は令和元年9月11日の口頭指導、同年10月11日の文書指導及び保護停止決定後の同年11月26日の指導に違反しており、本件処分は、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号。以下「局長通知」という。)第11の2(4)及び課長通知第11の問1の答で明示されている基準に則った処分であり、妥当であると認められる。
  3. よって、本件処分には違法又は不当な点はなく、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。

第4 調査審議の経過

当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和2年5月29日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和2年6月5日 調査・審議
令和2年7月3日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 審査会の判断について

(1) 本件に係る法令等の規定について

ア 保護の基準及び程度等

 生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うもの」とし、その厚生労働大臣の定める基準として「生活保護法による保護の基準」(昭和38年4月1日厚生省告示第158号)が定められるとともに、法定受託事務である保護実施の処理基準(地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の9第1項及び第3項)として「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社第123号。以下「次官通知」という。)、局長通知、課長通知その他の通知が厚生労働省から発出されている。

イ 生活保護の補足性

 法第4条第1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と、同条第2項は、「民法(昭和29年法律第89号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と規定している。

ウ 資産の活用

 次官通知第3は、「最低生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、次の場合を除き、原則として処分のうえ、最低限度の生活の維持のために活用させること。なお、資産の活用は売却を原則とするが、これにより難いときは当該資産の貸与によって収益をあげる等活用の方法を考慮すること。1 その資産が現実に最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持及び自立の助長に実効があがっているもの 2 現在活用されてはいないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの 3 処分することができないか、又は著しく困難なもの 4 売却代金よりも売却に要する経費が高いもの 5 社会通念上処分させることを適当としないもの」とされている。
 また、「生活保護問答集について」(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「事務連絡」という。)問3-20の答において「生活保護における資産の保有とは、次官通知第3に示してあるとおり、最低生活の内容としてその保有又は利用をいうものであって、その資産について所有権を有する場合だけでなく、所有権が他の者にあっても、その資産を現に占有し、利用することによってそれによる利益を享受する場合も含まれるものである。したがって自動車の使用は、所有及び借用を問わず原則として認められないものであり、設問の場合には、特段の緊急かつ妥当な理由が無いにもかかわらず、遊興等単なる利便のため度々使用することは、法第60条の趣旨からも法第27条による指導指示の対象となるものである。これは、最低生活を保障する生活保護制度の運用として国民一般の生活水準、生活感情を考慮すれば、勤労の努力を怠り、遊興のため度々自動車を使用するという生活態度を容認することもまたなお不適当と判断されることによるものである。」とされている。
 課長通知第3の問9の2の答では、「概ね6か月以内に就労により保護から脱却することが確実に見込まれる者であって、保有する自動車の処分価値が小さいと判断されるものについては、次官通知第3の2「現在活用されてはいないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実行があがると認められるもの」に該当するものとして、処分指導を行わないものとして差し支えない。ただし、維持費の捻出が困難な場合についてはこの限りではない。また、概ね6か月経過後、保護から脱却していない場合においても、保護の実施機関の判断により、その者に就労阻害要因がなく、自立支援プログラム又は自立活動確認書により具体的に就労による自立に向けた活動が行われている者については、保護開始から概ね1年の範囲内において、処分指導を行わないものとして差し支えない。」とされている。

エ 指導及び指示

 法第27条第1項は、「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」と規定している。

オ 指示等に従う義務

 法第62条第1項は、「被保護者は、保護の実施機関が、(中略)第27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。」と、同条第3項は、「保護の実施機関は、被保護者が前2項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる」と、同条第4項は、「保護の実施機関は、前項の規定により保護の変更、停止又は廃止の処分をする場合には、当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては、あらかじめ、当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。」と規定している。

カ 保護決定実施上の指導指示

 局長通知第11の2(4)では、「法第27条による指導指示は、口頭により直接当該被保護者(これによりがたい場合は、当該世帯主)に対して行うことを原則とするが、これによって目的を達せられなかったとき、または目的を達せられないと認められるとき、及びその他の事由で口頭によりがたいときは、文書による指導指示を行うこととする。当該被保護者が文書による指導指示に従わなかったときは、必要に応じて法第62条により所定の手続を経たうえ当該世帯又は当該被保護者に対する保護の変更、停止又は廃止を行うこと。」とされている。
 また、課長通知第11の問1の答では、「被保護者が書面による指導指示に従わない場合には、必要と認められるときは、法第62条の規定により、所定の手続を経たうえ、保護の変更、停止又は廃止を行うこととなるが、当該要保護者の状況によりなお効果が期待されるときは、これらの処分を行うに先立ち、再度、法第27条により書面による指導指示を行うこと。なお、この場合において、保護の変更、停止又は廃止のうちいずれを適用するかについては、次の基準によること。1 当該指導指示の内容が比較的軽微な場合は、その実情に応じて適当と認められる限度で保護の変更を行うこと。2 1によることが適当でない場合は保護を停止することとし、当該被保護者が指導指示に従ったとき、又は事情の変更により指導指示を必要とした事由がなくなったときは、停止を解除すること。なお、保護を停止した後においても引き続き指導指示に従わないでいる場合には、さらに書面による指導指示を行うこととし、これによってもなお従わない場合は、法第62条の規定により所定の手続を経たうえ、保護を廃止すること。」とされている。

(2) 本件処分の妥当性について

ア 審査請求人の自動車使用の妥当性について

 処分庁から提出されたケース記録票等によれば、以下の事実が認められる。

  • 処分庁は、令和元年○○月○○日、同月○○日及び同年○○月○○日に処分庁庁舎に隣接する○○センターの駐車場で、同年○○月○○日、同年○○月○○日、同月○○日及び同年○○月○○日に審査請求人の自宅アパートの駐車場で、同年○○月○○日に○○駅西口付近の歯科医院の駐車場で、審査請求人又は審査請求人の妻が、審査請求人の妻の父名義の自動車(以下「本件自動車」という。)を使用しているところを目視にて確認した。
     また、処分庁は、令和元年○○月○○日に審査請求人の妻が本件自動車を使用しているところを目視にて確認した。
  • 令和元年○○月○○日には、処分庁は、審査請求人の子が通園する幼稚園の園長から、両親が車で送ってくることもしばしばあった旨聴取した。
  • また、審査請求人は、処分庁に対して、令和元年10月31日付けで「○○月○○日に車を使った理由ははっきり覚えていませんが、買い物や通院だったと思います。車は何度か使用しましたが、○○月○○日からは使っていません。今後は使用しません。申告していない収入はありません。○○月○○日までに車は返します。」と記載した法第28条に基づく報告書を提出した。
  • 令和元年11月18日には、処分庁が審査請求人に電話した際に、審査請求人から、「正直に話すと、○○月○○日に○○へ行く際も使用し、引っ越しの際にも荷物の運搬など何度も使用した」旨の発言があった。
  • 一方で、審査請求人は主に就職活動のために本件自動車を借用しており、就職の見込みもあった旨主張しているが、そのことを明らかにする報告等をした事実は見受けられない。
     これらのことから、審査請求人が本件自動車を日常生活において使用していた事実がうかがわれるものの、本件処分までの間に、審査請求人から処分庁に対し就職活動のために本件自動車を使用していたこと及び就職の見込みがあったことの報告はなく、審査請求人の自動車の使用を容認すべき事情を認めることはできない。
     よって、審査請求人が本件自動車を使用することについて、事務連絡問3-20の答より、自動車の借用であっても原則として認められないとされることも併せ考えると、次官通知第3において利用が認められる場合には当たらない。
イ 本件処分の手続の妥当性について

 本件処分を法第62条第4項の規定並びに局長通知第11の2(4)及び課長通知第11の問1の答に示されている基準に照らしてみると、処分庁は、審査請求人に対して、自動車の使用の禁止等を内容とする法第27条第1項の規定による指示を口頭により、その後に文書により行ったが是正されなかったため、保護の停止に先立ち、法第62条第4項の規定により弁明の機会を与え、審査請求人から弁明がなかったことを確認後、保護停止決定処分を行っていることが認められる。
 また、処分庁は、審査請求人に対して、保護停止決定処分後においても、自動車の使用の禁止等を内容とする法第27条第1項の規定による指示を文書で行ったが是正されなかったため、保護の廃止に先立ち、法第62条第4項の規定により弁明の機会を与え、審査請求人から弁明がなかったことを確認後、保護廃止決定処分を行っていることが認められる。
 よって、本件処分は、法第62条第4項の規定並びに局長通知第11の2(4)及び課長通知第11の問1の答に示されている基準に則った処分であり、違法又は不当な点は認められない。

以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり答申する。

群馬県行政不服審査会答申集ページへ戻る群馬県行政不服審査会ページへ