本文
令和3年度答申第1号
件名
生活保護変更決定処分についての審査請求
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
審査請求人は、処分庁による生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)に基づく令和2年9月18日付け生活保護変更決定処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める理由として、次のとおり主張している。
- 生活扶助基準が令和2年10月から引き下げられたため、審査請求人は、憲法第25条に規定されている健康で文化的な最低限度の生活を下回る生活を余儀なくされている。
- 生活扶助基準が令和2年10月から変更されたが、本件処分に係る保護決定通知書に理由の記載が詳細にされておらず、法第24条第4項に違反する。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
保護の基準及び程度をいかに設定するかは、厚生労働大臣の裁量の範囲内に属するものであり、保護の実施機関である処分庁に裁量の権限はない。
令和2年10月分として審査請求人に支給される保護費の算定に誤りは認められない。
本件処分の理由について、決定通知書に記載された「基準改定」という理由は簡潔ではあるものの、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。)の改定内容は本件処分以前に公表されており、かつ、処分庁は改定内容を記載したパンフレットを郵送し、審査請求人に処分理由やその内容を知らしめている。これらのことから、決定通知書を受けた段階で処分の理由は明らかであり、審査請求人による不服申立ての便宜を損なうものであったとはいえず、法第24条第4項及び行政手続法(平成5年法律第88号)第14条第1項の要件を欠いた違法又は不当な処分とはいえない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和3年3月16日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和3年3月26日 調査・審議
令和3年4月27日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件処分に係る生活保護費の決定について
(1) 保護の基準及び程度について、法第8条第1項は「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うもの」としており、保護基準が定められている。
(2) この保護基準は、令和2年8月27日付け厚生労働省告示第302号(以下「本件告示」という。)により改正され、令和2年10月1日から適用されている。
(3) 保護の基準及び程度をいかに設定するかは、厚生労働大臣の裁量の範囲内に属するものであり、保護の実施機関である処分庁に裁量の権限はない。
(4) 本件告示により改正された保護基準によれば、審査請求人の令和2年10月分に係る最低生活費(医療扶助等の現物給付分を除く。)は、生活扶助に係る世帯基準額○○○○円及び住宅扶助に係る世帯基準額○○○○円並びに教育扶助費○○○○円の合計○○○○円となる。
この額は、前月分(合計○○○○円)と比べ○○○○円減額となる。
(5) (4)により、令和2年10月分として審査請求人に支給される保護費が算定されているが、保護基準に基づき算定されており、この算定に誤りは認められない。
(6) 処分庁は、審査請求人の令和2年10月分に係る生活保護費の決定を、本件告示により改正された保護基準に基づき適正に行っており、本件処分に係る生活保護費の決定について違法又は不当な点はない。
3 保護変更決定通知書の変更理由について
- 法第25条第2項において、「保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とすると認められるときは、速やかに、職権をもつてその決定を行い、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。前条第4項の規定は、この場合に準用する。」とされており、法第24条第4項では、「書面には、決定の理由を付さなければならない。」とされている。
- これは、保護の決定が法令の定めるところにより最も妥当、適正に決定されたものであることを申請者に十分理解させ、もし、申請者が不服の申立をする際には、それが単純、容易に行われるためかつまた、その決定、裁決の便宜のためと解される(厚生省社会局援護課長 小山進次郎著「生活保護法の解釈と運用」(中央社会福祉協議会刊))。
- また、行政手続法第14条第1項が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名あて人に示さなければならないとしているのは、行政庁の恣意を抑制するとともに、処分の理由を名あて人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。また、どの程度の理由を提示すべきかは、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきとされている(平成23年6月7日最高裁判所第三小法廷判決)。
- 加えて、処分通知に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に処分の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合を別として、理由付記として十分でないといわなければならないとされている(昭和60年1月22日最高裁判所第三小法廷判決)。
- 本件処分は、保護基準の改定に伴って、保護基準どおりの処分を行うものであり、処分庁による恣意的な判断が介入するおそれはなかったものである。また、本件処分の保護決定通知書に記載された「基準改定」という理由は簡潔ではあるものの、保護基準の改定内容は本件処分以前に公表されており、かつ、処分庁は改定内容を記載したパンフレットを郵送し、審査請求人に処分理由やその内容を知らしめている。
- 以上から、本件処分の決定通知書に付記された文言は「基準改定」のみであるが、処分庁が郵送した文書において基準改定の概要、時期等が説明されていること、決定通知書に記載された扶助額の内訳から生活扶助額が減額となったことが了知しうることを勘案すると、審査請求人が通知を受けた段階で処分の理由は明らかであり、本件処分の基礎となった事実関係をも当然知りうるものであったと考えられることから、審査請求人による不服申立ての便宜を損なうものであったとはいえず、本件処分が法第24条第4項及び行政手続法第14条第1項の要件を欠いた不当な処分とまではいえない。
4 その他
上記のほか、本件処分に違法又は不当な点は見受けられない。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。