本文
個人情報保護審議会諮問事件第37号
1 件名
「本日公安委員会宛て請願書を提出したがその後どのように処理されたのか判る文書」の個人情報不存在決定に対する異議申立て
2 諮問庁・処分庁
公安委員会
3 開示等決定内容及び理由
(1)決定内容
平成25年9月4日 個人情報不存在決定
(2)処分の理由
- 条例では、開示請求の対象となる個人情報が記録された公文書がどの時点で存在するものをいうのかについて、明文で規定されていない。しかし、条例第2条第4項(公文書の定義)、同第12条第1項(開示請求)、同第13条(個人情報の開示義務)の関連規定を合理的に解釈すれば、開示請求の対象となる公文書は開示請求の時点で実施機関が保有する公文書であると解される。
- 審査請求人は、群馬県庁県民センターにおいて開示請求書を提出後、群馬県警察本部に移動して請願書を提出したものであり、本件開示請求において求める文書は、開示請求の時点で実施機関が保有していないことが明らかである。
- 仮に、開示請求時点より後に保有することとなった公文書を開示請求の対象文書に含めることとなれば、開示請求の期限までに新たな公文書を作成・取得する都度、当該公文書の開示の可否判断について検討を要することとなり、結果的に開示決定の遅延を招くことより、原則として開示請求のあった日から15日以内に開示決定等をしなければならないとする条例の趣旨を妨げることとなる。
4 不服申立て
(1)申立年月日
平成25年9月8日
(2)趣旨
本件処分の取消しを求める。
(3)理由
他では開示している。
5 諮問年月日
平成25年12月11日
6 審議会の判断
(1)結論
群馬県公安委員会が行った個人情報不存在決定は妥当ではなく、審査請求人(以下「請求人」という。)の提出した請願書を対象公文書として特定した上で、改めて決定を行うべきである。
(2)判断の理由
判断に当たっての基本的な考え方について
条例は、第1条に規定されているとおり、個人情報の適正な取扱いの確保に関し必要な事項を定めるとともに、県の実施機関が保有する個人情報の開示、訂正及び利用停止を求める権利を明らかにすることにより、県政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益の保護及び県民に信頼される公正で民主的な県政の推進を目的として制定されたものである。よって、自己情報の開示請求に対する決定を行うに当たっては、原則開示の理念のもとに制度の解釈及び運用がなされなければならない。
しかしながら、この自己情報の開示請求権も絶対無制限な権利ではなく、条例には他の法益との衡量により制限される場合も規定されている。
本件請求個人情報について
本件開示請求の趣旨は、「本日公安委員会宛て請願書を提出したがその後どのように処理されたのか判る文書」(以下「本件請求個人情報」という。)の開示を求めるものであり、請求人が平成25年9月2日付けで処分庁に提出した請願書及びその処理結果を記載した公文書であると解される。
条例における不存在の解釈について
次に、本件請求にかかる公文書につき、実施機関が開示請求の時点で保有していなかったことを理由に不存在であるとした本件処分の妥当性を検討する。
ア 開示請求対象文書の存在時点についての原則
この点、請求人は「少なくとも僕の申立書(請願書)はあり、他ではそれを開示している」旨主張する。これに対し、諮問庁の説明によれば、請求人は、群馬県庁県民センターにおいて開示請求書を提出後、群馬県警察本部に移動して請願書を提出したものであり、本件開示請求において求める文書は、開示請求の時点で実施機関が保有していないことが明らかである、とのことである。
開示請求の対象となる文書がいつの時点で存在することを要するものであるかについて、条例上、明文の規定はない。しかし、諮問庁の主張するように、開示決定は開示請求のあった日から原則として15日以内になされねばならないという規定(条例第18条第1項柱書)、及び個人情報の開示請求権を定めた条例第12条第1項(何人も、実施機関に対し、公文書に記録されている自己の個人情報の開示の請求をすることができる)、公文書の定義を規定している条例第2条第4項(「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう)を合理的に解釈すれば、開示請求の時点で実施機関が保有している文書であるものと解される。
従って、事実関係が諮問庁の説明するとおりであるとすれば、本件請求の時点で実施機関は対象公文書を保有しておらず、本件請求に係る個人情報を不存在であるとした本件処分は妥当であったかのように思われる。
イ 本件における開示対応について…同日付文書の特例
しかるに、個人情報の開示請求権が憲法第13条に基づく「自己情報コントロール権」を実質的に保障するために認められた重要な権利であることに鑑みれば、他の法益との衡量を踏まえつつも、出来るだけ広く認めていくことが条例の趣旨である。
以下、本件の開示請求について開示の余地を検討する。
(ア)開示請求の時点
請求者は県民センターにおいて開示請求書を提出後、警察本部に移動して請願書を提出したということであるから、今回、その先後関係は明らかであるように思われる。
しかし、審議会において判明した事実によれば、実施機関が受理文書に押捺する受理印には年月日までしか記載されず、時分単位での管理はしていないとのことであった。本件においては、開示請求の受理窓口にて、請求者がその後提出する予定の請願書を所持していることが請求者の言動から明らかになった訳であるが、仮に請求者がその意図を秘めたまま、同日中に警察本部に移動して請願書を提出した場合には、受理印の記載から先後関係を確定することは困難であったと思われる。
受理を日付単位で管理している点、そして開示請求権を出来るだけ広く認めていく条例の趣旨に照らせば、実施機関が保有する文書のうち、請求書と同日付のものまでは開示請求対象文書に含め得るものと解すべきである。
(イ)開示すべき内容
一方、実施機関が文書を取得した場合、様々な事務処理が継時的に発生し、対象文書の範囲はその都度変動する。開示請求の対象文書を原則として開示請求の時点で実施機関が保有している文書とするのは、そうしないと対象文書を一意に特定することが出来ず、開示制度を安定的に運用することが不可能となるためである。
従って、上記(ア)で検討したように、開示請求対象文書を請求書と同日付のものまで含めることとした場合でも、実施機関が文書の特定に困難を生じないよう、開示請求時点で実施機関が保有したものと同視できる文書に限定すべきである。
これを本件についてみると、請求者は開示請求の時点でその後請願書を提出することを告知し、実際に同日中に請願書を提出している。よって、少なくとも請願書自体については開示請求時点で実施機関が保有していたものと同視することが可能であり、請願書自体を対象文書として開示決定することになったとしても、事務手続に特段の不都合が生じるとは考えられない。
結論
以上のことから、「(1)審議会の結論」のとおり判断する。
なお、本件においては原則開示の理念を踏まえ、厳密には開示請求時点で実施機関が保有していない公文書につき、開示請求の対象とすべきものと判断したが、制度の安定的な運用に鑑みれば、このような例外的な取扱いを広く認めることは望ましくない。この点、実施機関は請求者が対象公文書となるべき請願書を所持していることを把握した時点で、先に請願書を提出させ、しかるべき後に開示請求を受け付けるようにしておれば本件のような混乱は避けられたと思料される。
今後、開示事務の実施に当たっては、請求者に対し適時適切な助言を行う等、実施機関に十分な配慮を求めるものである。
7 答申年月日
平成27年1月30日(個審第232号)