本文
公文書開示審査会答申第115号
「平成10年ごろから、上記住所において、県道の拡幅工事による用地買収について○○土木事務所の職員らが協議と称して何度も来訪している。ついては、平成10年ごろから現在に至るまでの当該工事及び上記住所にかかる一切の情報」のうち、「平成10年ごろから現在に至るまでの当該工事にかかる一切の情報)」の部分開示決定に対する異議申立てに係る答申書
群馬県公文書開示審査会
第一部会
第1 審査会の結論
群馬県知事が行った公文書部分開示決定はその非開示部分の理由付記の一部に不備があり、群馬県行政手続条例(以下「行手条例」という。)第8条の規定に違反する処分と認められることから取り消すべきである。
また、改めて行う決定にあたっては、「第5 審査会の判断」で示した考えに留意し、適切に非開示情報該当性を判断すべきである。
第2 諮問事案の概要
1 公文書開示請求
異議申立人(以下「申立人」という。)は、群馬県情報公開条例(以下「条例」という。)第11条の規定に基づき、群馬県知事(以下「実施機関」という。)に対し、平成20年2月4日付けで、「平成10年ごろから、上記住所において、県道の拡張工事による用地買収について○○土木事務所の職員らが協議と称して何度も来訪している。ついては平成10年ごろから現在に至るまでの当該工事及び上記住所にかかる一切の情報(回議書、伺い書、決裁書、同意書、復命書、協議書、議事録、会議録、打合簿、打合せメモ、査定所、境界確定書、用地買収マニュアル、補償額や買収額の単価、契約条件、実際の買収単価、工事名称、工事予算の出所、補償や買収など実際に支払った単価とその条件などを含む)」の開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 実施機関の決定
実施機関は、平成20年3月13日、本件請求に係る公文書を「『本件請求』のうち、『平成10年ごろから現在に至るまでの当該工事にかかる一切の情報』」(以下「本件公文書」という。)であると判断し、次の(1)~(9)の公文書を特定した上で、部分開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、本件公文書の一部を開示しない理由を別紙のとおり付して、申立人に通知した。
(1)事業説明会議事録
(2)要望書
(3)用地測量成果簿
(4)用地交渉記録簿(以下「本件公文書1」という。)
(5)用地買収単価決定起案(以下「本件公文書2」という。)
(6)用地台帳(以下「本件公文書3」という。)
(7)補償金算定書(以下「本件公文書4」という。)
(8)補償台帳(以下「本件公文書5」という。)
(9)工事設計関係書類(以下「本件公文書6」という。)
3 異議申立て
申立人は、行政不服審査法第6条の規定に基づき、平成20年5月12日付けで、本件処分を不服として実施機関に対し異議申立てを行った。
4 諮問
実施機関は条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して、平成20年5月29日、本件異議申立て事案(以下「本件事案」という。)の諮問を行った。
第3 争点
1 争点1(条例第14条第2号該当性)
本件公文書で非開示とされた部分が条例第14条第2号に該当するか。
2 争点2(条例第14条第3号イ該当性)
本件公文書で非開示とされた部分が条例第14条第3号イに該当するか。
3 争点3(条例第14条第6号該当性)
本件公文書で非開示とされた部分が条例第14条第6号に該当するか。
第4 争点に対する当事者の主張
1 争点1(条例第14条第2号該当性)
(1)申立人の主張要旨
実施機関は、非開示理由として、「公にすると個人の権利利益を害するおそれがある」と主張するが、公にしたほうが個人の権利利益に沿うことに目を向けようとしない。これは、開示すると都合が悪くなるおそれがあるのは実施機関だからではないか。
また、申立人は買収交渉に対して真摯に対応してきたが、実施機関は買収や補償条件についてきちんと説明せず、また申立人からの質問に対しても説明責任を果たさないまま、買収交渉を打ち切り、強引に拡幅工事を行い、申立人からの営業妨害であるとのクレームにも耳を貸さないまま、工事を完了した。
その結果、もともと有った歩道が失われ、異議申立人の保有地内に不特定多数の通行人が往来する状況となっている。
にもかかわらず、実施機関はこの期に及んでも、依然として用地交渉中で拡幅工事も継続中であるかのような対応をしており、申立人は、自分の生活や財産等に多大な影響を受け続けている。
よって、申立人が請求した情報は、条例第14条第2号ただし書ロに定める「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要と認められる情報」であるので、実施機関は早急に非開示部分を開示しなければならない。
なお、これに対し実施機関は、「当該情報にかかる個人の権利利益よりも、人の生命、健康等の保護の必要性が上回るとは認められない」と主張しているが、これは憲法第11条に定めた人権を侵害するものであり、第14条に定める法の下の平等に反し、憲法前文に明記された国民主権をないがしろにするものである。
(2)実施機関の主張要旨
個人識別可能な情報又は特定の個人を識別できないが、公にすることにより個人の権利利益を害するおそれのある情報は非開示情報となる。
本件公文書のうち、本件公文書2に記載された「不動産鑑定士の印影」、「土地価格調査書の画地価格調査書のうち未買収地に関する情報」、「土地価格調査書の個別的要因調査表及び算定表のうち標準地の所在地、取引事例地の所在地・所有者名及び未買収地に関する情報」、「土地価格調査書の地域要因調査表及び算定表のうち標準地、取引事例地の交通・接近条件」、「土地価格調査書の取引事例調査表(取引事例カード)及び位置図」及び「土地価格調査書の収益価格算出表のうち総収益算出内訳表」、本件公文書1に記載された「立会人、土地等所有者関係人氏名、交渉場所、交渉時間」並びに本件公文書3に記載された「代替地提供者の住所・氏名」は、特定の個人を識別できる情報であるため、条例第14条第2号に該当する。
また、本件公文書1に記載された「交渉内容」、本件公文書3に記載された「賃借人の借地権割合を示す金額」、本件公文書4及び本件公文書5は、その全てが個人の収入、財産状況に関する情報であり、公にすることで当該個人の権利利益を害するおそれがあるため、条例第14条第2号に該当する。
なお、申立人は、条例第14条第2号ただし書ロに規定する「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要と認められる情報」に該当するため開示しなければならないと主張するが、上述した特定の個人に関する氏名、住所、収入及び財産状況等に関する情報が広く一般に公にされることにより害されるおそれがある当該情報に係る個人の権利利益よりも、人の生命、健康等の保護の必要性が上回るとは認められないため、条例第14条第2号ただし書ロには該当しない。
2 争点2(条例第14条第3号イ該当性)
(1)申立人の主張要旨
実施機関は、非開示理由として、「公にすると法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」と主張するが、公共工事に伴う情報に、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれが具体的にどのようなものなのかについて示していない。これは開示すると都合が悪くなる恐れがあるのは実施機関だからではないのか。
ちなみに、申立人は、本件請求後、実施機関と交渉など一度もしておらず、実施機関の言う「競争上の地位とその他正当な利益を害することとなる」とする意味が分からない。
(2)実施機関の主張要旨
法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報は非開示情報となる。
本件公文書1のうち法人等の権利者が交渉相手である場合に、交渉内容に関する部分は、法人等の権利と財産状況の情報であり、公にすることで、法人等の権利利益を害することとなり、当該法人(個人事業者も含む。)の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため、条例第14条第3号イの非開示情報に該当する。
また、本件公文書4及び本件公文書5は法人等の収入、財産の価値補償が記載された文書であり、その全てが当該法人の財産調査算定及び利益に関する情報であり、公にすることで法人等の権利、競争上の地位とその他正当な利益を害することとなるため、条例第14条第3号イの非開示情報に該当する。
3 争点3(条例第14条第6号該当性)
(1)申立人の主張要旨
実施機関は、非開示理由として、「公にすると県等の機関が行う事務事業に関する情報は非開示情報となる」と主張し、本件公文書1については、「双方の意見と合意内容等を記録した交渉経過に関する情報が記された文章なので、交渉相手方との信頼関係を損なう」と強調する。
このことについて、少なくとも、申立人を含めた交渉相手方にとっては、交渉という場はなかった。合意内容すらない。よって、非開示そのものが信頼関係を損なう行為である。
また、実施機関は「今後の用地買収等契約交渉の事務事業の遂行に支障を生ずるおそれがある」と主張するが、開示された書類を見る限り、工事は完了しているように思われる。今後の用地買収等契約交渉とは何を意味するのか、申立人に開示して意味が分かるように示してほしい。
本件公文書2のうち「土地価格調査書の画地価格調書のうち個別要因格差、単価、金額」及び「土地価格調査書の個別要因調査表及び算定表のうち各画地の評価及び格差率」について、実施機関は「個人識別情報及び法人等の権利と財産状況に関する情報である」として、「公にすると交渉相手方との信頼関係を損ない、用地買収等契約交渉の事務事業の遂行に支障を生ずるおそれがある」と主張する。しかし、個人の根抵当などに関する書類は公にした。また、「用地買収費調書」には個人名、住所、抵当権等について、きっちりと記されていた。
実施機関は、公共性のある事務事業に関して、用地買収単価算定の根拠など、判断の基準を何人にもきちんと示す必要がある。そうすれば、用地買収等契約交渉の遂行に支障をきたすおそれがなくなる。
なお、部分開示の際に、申立人は、個人情報保護を口うるさく唱える実施機関に「個人情報保護条例により請求すれば、自分に関する情報に限り明らかにしてくれるのか」と訊いたところ、「できるかもしれない」と「かも」を強調して述べた。今回の実施機関の理由説明を聞くと、要するに役所に都合の悪い情報は、憲法や条例を捻じ曲げて解釈しても、絶対に見せたくない、という意思を感じる。
(2)実施機関の主張要旨
県の機関又は国若しくは他の地方公共団体の機関が行う事務又は事業に関する情報は非開示情報となる。
本件公文書のうち本件公文書1は、個人及び法人等と、事業実施で生じる財産及び権利等の補償内容について、双方の意見と合意内容等を記録した交渉経過に関する情報が記載された文書であり、交渉記録等を公にすることで、交渉相手方との信頼関係を損なうなど、今後の用地買収等契約交渉の事務事業の遂行に支障を生ずるおそれがあるため、前記1(2)及び前記2(2)で非開示と判断する部分も含め、当該記録簿の全ての情報が条例第14条第6号の非開示情報に該当する。
また、本件公文書2のうち、「土地価格調査書の画地価格調書のうち個別要因格差、単価、金額」及び「土地価格調査書の個別要因調査表及び算定表のうち各画地の評価及び格差率」は、個人識別情報及び法人等の権利と財産状況に関する情報であり、当該情報を公にすると、交渉相手方との信頼関係を損なうこととなり、用地買収等契約交渉の事務事業の遂行に支障を生ずるおそれがあるため、条例第14条第6号の非開示情報に該当する。
第5 審査会の判断
審査会は、本件事案について審査した結果、次のとおり判断する。
1 本件公文書について
本件公文書は、主要地方道○○線に係る交通安全施設等整備事業として行われた道路の拡幅工事(以下「本件工事」という。)に関する一切の情報であるが、申立人が非開示部分の取消しを求めているのは、実施機関が先に部分開示決定を行った公文書のうち、本件公文書1、本件公文書2、本件公文書3、本件公文書4、本件公文書5及び本件公文書6である。
2 本件処分についてなされた理由付記について
行手条例第8条では、行政庁が申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には、原則として、その理由を提示することを行政庁に義務付けている。この理由付記の制度は、行政庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものであり、付記すべき理由をどの程度記載しなければならないかは、処分の性質と各法令の規定の趣旨、目的に照らして決定すべきであると考えられる。
条例第18条第1項に基づく公文書部分開示決定は、その非開示とした部分について、行手条例第8条に規定する「申請により求められた許認可等を拒否する処分」に該当するので、同条の規定に基づきその決定の際にその理由を提示することが求められる。
条例が、公文書の開示請求権を明らかにし、県が県政に関し県民に説明する責務を全うすることにより、県民の理解と信頼の下に公正で透明な行政を推進すること等を目的としていることに照らせば、公文書部分開示決定通知書に付記すべき理由としては、開示請求者において、条例第14条各号の非開示情報のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、求められる理由付記としては十分とは言えない。すなわち、根拠規定に加え、少なくとも当該公文書中のどのような情報をどのような理由で非開示としたのか、特に、根拠規定中に複数の非開示理由が含まれている場合にはそのうちのどれに該当するのかを示さなければ、開示請求者において非開示の理由を知り得ないのが通例であると考えられる。
本件処分では、別紙のとおり非開示理由が示されているが、本件事案の審査にあたり実施機関から本件公文書の一部の提示を受け、その内容を確認した限りにおいても、以下のとおり理由付記に不十分な点があった。
(1)本件公文書2について、実施機関は、収益算出表のうち総収益算出内訳表を非開示とした旨明示しているが、審査会で当該非開示部分を見分したところ、総収益算出表内訳の他にも非開示としている情報が認められた。
(2)本件公文書3について、実施機関は、代替地提供者の住所・氏名及び賃借人の借地権割合を示す金額を非開示とした旨明示しているが、審査会で当該非開示部分を見分したところ、代替地の所在地、地目、地積、単価及び契約金額についても非開示としていることが認められた。
(3)本件公文書6について、実施機関は、調査会社、工事施工会社の職員氏名及び個人が特定される部分を条例第14条第2号に規定する個人識別情報として非開示とした旨明示しているが、審査会で当該非開示部分を見分したところ、法人名や法人の口座番号についても非開示としていることが認められた。
以上からすれば、実施機関が行った理由付記では、開示請求者において、どのような理由でどのような情報を非開示としたかを知り得ることができないことは明らかである。
したがって、本件処分は理由付記に不備があり、行手条例第8条に違反するものと認められるため、非開示情報該当性を判断するまでもなく、これを取り消し、改めて適切な理由を付した上で再度決定を行うべきである。
3 本件処分における非開示情報該当性の判断の妥当性について
本件処分は理由付記の違法により取り消し、改めて決定を行うべきであることは既に述べたとおりであるが、「第3 争点」及び「第4 争点に対する当事者の主張」に関して、今回審査会で本件公文書の一部を見分した限りにおいても、実施機関の非開示情報該当性の判断及び主張が妥当とは認められないものが散見されたことから、本件処分の取消し後に実施機関が再度決定を行う際の留意事項として、非開示情報該当性についても念のため意見を述べるものとする。
(1)本件公文書1
本件公文書1は、本件工事に係る用地買収にあたり、実施機関が土地所有者等と行った用地交渉等の内容を特定の様式に記録したものである。実施機関は条例第14条第2号、第3号イ及び第6号に該当するとしてその全てを非開示としているため、以下、本件公文書1の様式の記載項目ごとに非開示情報該当性を検討する。
なお、記載項目にはそもそも情報の記載がないもの、「なし」と記載されているものも認められたが、このような場合には、条例第14条各号に規定する非開示情報には該当しないため開示すべきであることを申し添える。
ア 発議年月日
当該項目には、発議者である実施機関の職員が本件公文書1を作成した年月日が記載されているが、当該情報は条例第14条各号に規定する非開示情報とは認められないため開示が相当と考える。
イ 発議者、実施機関の職員の印及び県側出席者
当該項目には、実施機関の職員の氏名に関する情報が記載されているが、当該情報は条例第14条第2号ただし書ハに規定する公務員の職務遂行に係る情報であるため開示が相当と考える。
ウ 工事名
当該項目には、本件工事の名称が記載されているが、当該情報は条例第14条各号に規定する非開示情報とは認められないため開示が相当と考える。
エ 立会人及び土地等の所有者関係人氏名
当該項目には、実施機関と用地交渉を行った者又はその用地交渉に立ち会った者に関する情報が記載されるものと考えられ、実際に審査会が見分した文書には、実施機関の交渉相手として個人の氏名や電話番号等特定の個人を識別できる情報が記載されていた。
一般に、県が行う用地買収に係る所有権の移転、当該土地の所在、地番、地目及び地積並びに所有者の住所及び氏名は、不動産登記簿に登記されて公示されるものであるため、用地買収により県に所有権が移転する前の土地所有者の氏名等の情報は、条例第14条第2号イに規定する「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当すると考えられる。しかしながら、県と用地交渉を行う者やその交渉の立会人は土地所有者に限られるわけではなく、実際に審査会が見分した文書には、土地所有者の家族や親族の氏名が記載されている場合も認められたことから、当該情報は「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」と解することはできない。したがって、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。
一方、本件公文書2の記載によれば、当該項目に法人名や店舗名等が記載される場合もあると考えられる。審査会が実際に見分した文書にはこのような記載がなかったため具体的な非開示情報該当性の検討は控えるものとするが、以下、実施機関が再度決定を行う際に拠るべき考え方を示すものとする。
当該項目に法人名や店舗名等が記載されている場合、当該情報は条例第14条第3号に規定する「法人に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」であるといえる。しかしながら、当該情報を開示したとしても、県と用地交渉を行ったという事実が明らかになるに過ぎず、当該法人又は当該事業を営む個人の競争上の地位を害するおそれは認められないことが通例であると思われる。
また、当該情報は、県が行う用地買収により取得した情報であるため、条例第14条第6号の「県の機関が行う事務又は事業に関する情報」であるともいえる。しかしながら既に説示したとおり、当該情報を開示したとしても県と用地交渉を行った事実が明らかになるに過ぎないと考えられる以上、これを開示することより実施機関と交渉相手の信頼関係が損なわれる等の支障を生じるおそれは認められないことが通例であると思われる。
したがって、条例第14条第3号イ又は同6号を理由に非開示とする場合には、これらを考慮した上でもさらに非開示とすべき高度の秘匿性を有するような情報が当該記載項目に記載されている場合等に限られるのであって、再度の部分開示決定にあたっては、実施機関はこの点に留意し非開示情報該当性を判断すべきである。
オ 交渉場所
審査会が見分した限りでは、当該項目に土地等の所有者関係人の個人の住所が記載されているものが認められたが、当該情報は、エと同様の理由により、条例第14条第2号に該当するため非開示が相当と考える。しかしながら一方では、当該項目に実施機関の事務所の名称が記載されているものも認められ、このような場合の当該情報は条例第14条各号に規定する非開示情報とは認められないため開示が相当と考える。
なお、エと同様に、当該項目に法人の店舗等が記載されている場合も考えられるが、この場合もエで説示した点に留意して実施機関は非開示情報該当性を判断すべきである。
カ 交渉時間
当該項目には、用地交渉が行なわれた時刻が記載されているが、当該情報は条例第14条各号に規定する非開示情報とは認められないため開示が相当と考える。
キ 交渉内容
当該項目には、本件工事に伴い買収される土地の補償交渉の経過やその内容が記載されており、当該情報は条例第14条第6号の「県の機関が行う事務又は事業に関する情報」に該当すると認められる。
一般に、用地交渉はその交渉内容等を交渉相手以外には公にしないことを前提とした上で進めていると考えられることから、その内容等が開示されることとなれば、実施機関が交渉相手との間で築き上げてきた信頼関係が損なわれ、今後、用地交渉自体等を拒む者が出てくる等、用地交渉に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって、当該情報は、条例第14条第2号及び同条第3号イ該当性を検討するまでもなく、条例第14条第6号本文に該当するため非開示が相当と考えられる。
ク 添付書類
添付書類は、本件公文書1の様式内に設けられた項目ではなく、用地交渉の参考資料として添付されている書類であり、用地交渉の場において実施機関が交渉相手に提示した補償内容や図面等の情報が記載されていることが一般であると考えられる。
実際に審査会が見分した限りにおいても、補償対象者の資産やその交渉時点で実施機関が提示した補償対象者の資産に対する補償内容そのものが、またその資産がどのような経緯をたどり補償が行われたかという情報が記載されていることが認められ、このような情報は交渉内容の一部を為すということができるから、キと同様の理由により、条例第14条第6号本文に該当するため非開示が相当と考える。
(2)本件公文書2
本件公文書2は、本件工事に係る用地買収にあたり、実施機関が不動産鑑定士に土地の評価を依頼し用地買収単価を決定した起案文書である。
本件公文書2における非開示情報該当性の検討にあたっては、本件工事に係る用地買収単価の決定の流れやその手法を考慮することが重要であると考えられることから、まずアにおいて用地買収単価について整理した上で、イ以下において本件公文書2のそれぞれの非開示部分について非開示情報該当性の検討を行うものとする。
なお、審査会が見分したところでは、本件公文書1と同様に、そもそも情報の記載がない箇所についても、非開示としているものが認められたが、このような場合には、条例第14条各号の非開示情報には該当しないため開示すべきであることを申し添える。
ア 本件工事に係る用地買収単価の決定について
審査会が見分したところ、本件工事に係る用地買収単価は概ね(ア)~(エ)により決定されていることが認められる。
(ア)比準価格(市場において発生した取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格について個別的要因の比較及び地域要因を比較衡量することで求められる対象不動産の試算価格をいう。)を基に、収益価格(収益還元法(対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純利益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法をいう。)により求められる試算価格をいう。)及び規準価格(国土利用計画法第9条の規定に基づく地価調査基準地価格について、個別的要因や土地価格の変動等を加味して補正した価格をいう。)を考慮した上で、本件工事に係る買収対象地域の標準地(特定の地域において一般的かつ標準的な使用に供されていると認められる想定上の画地をいう。)の1平方メートル辺りの価格(以下「標準地価格」という。)を算出する。
(イ)買収対象地域の標準地と本件工事に係る用地買収の対象となった各画地(以下「本件各画地」という。)とで、街路条件、環境条件及び画地条件等の個別的要因を比較し格差率を求める。
(ウ)(イ)により求められた格差率を買収対象地域の標準地価格に乗じることで本件各画地ごとの単価を算出し、さらにこれに当該画地の地積を乗じ、本件各画地ごとの価格を算出する。
(エ)(ウ)により求められた本件各画地ごとの価格の総和を本件各画地の地積の合計で除すことにより加重平均値を求め、この値をもって用地買収単価とする。
イ 土地評価格報告書の不動産鑑定士の印影
当該情報は実施機関から依頼を受け土地の評価を行った不動産鑑定士が使用する印鑑の印影であることが認められるが、申立人は開示すべきとの主張をしていないことから、具体的な非開示情報該当性の判断は控えるものとする。
ウ 画地価格調書
画地価格調書には、買収対象地域の標準地価格並びに本件各画地の所在、現況地目、買収地積及び所有者名等が、そして、ア(ウ)の結果として、本件各画地の個別要因格差、単価及び金額が記載されている。また、ア(エ)の結果として、本件工事に係る用地買収単価についても、地目別加重平均単価という名称により記載されている。
実施機関はこのうち、個別要因格差、単価及び金額を条例第14条第6号に、未買収地の所在、地番、地目、地積及び所有者を条例第14条第2号に該当するとして非開示としている。
(ア)個別要因格差、単価及び金額
非開示とされたこれらの情報は、それぞれア(イ)における格差率、ア(ウ)における本件各画地ごとの単価、本件各画地ごとの価格に相当する情報である。本件公文書2では、このうちの個別要因格差の評価基準として、個別格差認定基準表及び地域格差認定基準表が既に開示されており、これに加えて、県が買収した各画地の所在が開示されているため、一般人であっても現地の状況を見ることにより個別要因格差のおおよその見当をつけることができる可能性は否めない。しかしながら一般人においては、その正確な数値まで知ることができるとは考えられず、これに加えて、実際の用地買収単価や用地買収価格は、ここで非開示とされている本件各画地の個別要因格差、単価及び金額ではなく、既に開示されている地目別加重平均単価により一律に計算されることからすれば、当該情報を開示することにより、本件工事終了後の現在においてもなお、買収対象となったそれぞれの画地の評価や実際の支払金額の多寡をめぐって実施機関と当時の土地所有者等との間に対立が生じるおそれがあると認められる。
したがって、当該情報は、条例14条第6号に該当する情報と認められるため非開示が相当と考える。
(イ)未買収地の所在、地番、地目、買収地積及び所有者
既に説示したとおり、県が行う用地買収に係る所有権の移転、当該土地の所在、地番、地目及び地積並びに所有者の住所及び氏名は、不動産登記簿に登記されて公示されるものであるため、県に所有権が移転する前の土地所有者に関するこれらの情報は、条例第14条第2号イに該当する情報であると考えられる。
しかし、審査会が実施機関から聴取したところ、当該情報は、本件各画地のうち買収には至らなかった画地に関する情報であり、当該画地については、当然のことながら不動産登記簿上も県の所有地とされていないことであった。
したがって、当該情報のうち、未買収地の地番、買収地積及び所有者については、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とは認められないことから、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示とすべきである。
他方、所在地及び現況地目については、本件工事の名称や本件公文書2の記載状況等から容易に推測できるものと考えられる上、仮にこれらを開示したとしても特定の個人を識別することができるとは認められないことから、条例第15条第2項の規定により開示すべきである。
エ 個別的要因調査表及び算定表(取引事例地分)
本表においては、ア(ア)の比準価格の算出のために、不動産鑑定士により選定された買収対象地域の類似地域における取引事例地と、当該類似地域の標準地とで個別的要因の比較を行い、当該取引事例地の格差率が算出されている。
実施機関は、本表に記載された情報のうち、取引事例地の所在地及び所有者並びに標準地の所在地を条例第14条第2号に該当するとして非開示としている。
(ア)取引事例地の所在地及び所有者名
実施機関が既に取引事例地の取引年月日等を開示していることから、当該情報を開示することにより取引事例地の所有者を識別できるものと認められるが、審査会で見分したところ、取引事例地の所有者が個人である場合、法人である場合が認められたことから、それぞれの場合に分けて非開示情報該当性を検討する。
a 取引事例地の所有者が個人である場合
取引事例地は、県の用地買収により不動産登記簿に登記されて公示されるものとは異なり、民間の土地取引を不動産鑑定士が調査したものであるため、当該取引事例地の所在地及び所有者名は「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とは認められない。
したがって、当該情報は、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。ただし、本件公文書2の不動産鑑定評価において、適切な取引事例の選択が行われたとの信頼性を担保するためには、採用した取引事例の大まかな地域については、特定の個人が識別されない範囲で開示する必要があるものと考えられることから、取引事例地の所在地のうち、市の名称は条例第15条第2項の規定により開示が相当と考える。
b 取引事例地の所有者が法人である場合
実施機関は取引事例地の所有者が法人である場合にも条例第14条第2号を理由に非開示としているが、このような場合の取引事例地の所在地及び所有者名は個人識別情報とは認められないため、条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
(イ)標準地の所在地
本表における標準地は、取引事例地の個別的要因の格差率を算出するために便宜的に設定された想定上の画地であると考えられるため、現実にその所有者等が存在するものとは認められない。しかしながら、比準価格の算出にあたっては、取引事例地と同一地域における標準地とで個別要因を比較することが通例であるため、標準地の所在地を開示することにより、標準地と同一地域に存する取引事例地の所在地が明らかとなり、不動産登記簿から当該取引事例地の所有者を識別できるものと認められる。よって、(ア)と同様に、取引事例地の所有者が個人である場合と、法人である場合のそれぞれの場合に分けて検討する。
a 当該標準地と比較されている取引事例地の所有者が個人である場合
(ア)aと同様の理由により、標準地の所在地のうち、市の名称については開示、それ以外の部分については非開示が相当と考える。
b 当該標準地と比較されている取引事例地の所有者が法人である場合
(ア)bと同様の理由により、条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
オ 個別的要因調査表及び算定表(基準地○○(県)5-○分)
本表においては、ア(ア)の規準価格の算出にあたり、公示されている群馬県地価調査基準地価格の標準化のため、地価調査基準地(以下「基準地」という。)と、基準地と同一地域に属する標準地のそれぞれの個別的要因を比較し、当該基準地の格差率が算出されていることが認められるが、実施機関は、本表のうち標準地の所在地を条例第14条第2号に該当するとして非開示としている。
しかし、国土利用計画法施行令第9条に基づく基準地は、公にされている情報であることに加え、当該基準地の所有者は条例第14条第3号に規定する「事業を営む個人」であることから、標準地の所在地を開示したとしても、公にされていない個人識別情報が開示されることはあり得ず、条例第14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
カ 地域要因調査表及び算定表
本表は、ア(ア)の比準価格の算出のために、標準地の属する地域、取引事例地の属する地域及び基準地の属する地域の地域要因を比較し、取引事例地及び基準地の格差率を算出しているものであるが、実施機関は、本表のうち、標準地の属する地域、取引事例地の属する地域及び基準地の属する地域それぞれの交通・接近条件を条例第14条第2号に該当するとして非開示としている。なお、ここで交通・接近条件として非開示とされている情報は、各地域の最寄り駅までの距離、都市中心部への距離及び公共施設の距離を示す記載であることが認められる。
(ア)標準地の属する地域の交通・接近条件
審査会が見分したところ、本表における標準地は、本件工事の買収対象地域における標準地を示すものと認められるため、標準地の属する地域とは、つまるところ買収対象地域そのものであると考えられる。したがって、当該情報は買収対象地域全体に関する情報であり、個人識別情報とは認められないことから、条例第14条第2号には該当しないため開示が相当と考える。
(イ)取引事例地の属する地域の交通・接近条件
実施機関は、既に取引事例地の取引年月日や個別要因の詳細を開示しているため、仮に当該情報を開示した場合、取引事例地の所在地が明らかとなり、不動産登記簿から取引事例地の所有者を識別できるものと認められる。本表においても、当該取引事例地の所有者が個人である場合と、法人である場合のそれぞれの場合に分けて非開示情報該当性を検討する。
a 取引事例地の所有者が個人である場合
既に述べたとおり取引事例地の所在地や所有者等については、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とは認められないことから、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。
b 取引事例地の所有者が法人である場合
実施機関は取引事例地の所有者が法人である場合にも条例第14条第2号を理由に非開示としているが、このような場合の取引事例地の所在地及び所有者名は個人識別情報とは認められないため、条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
(ウ)基準地の属する地域の交通・接近条件
基準地はオのとおり一般に公にされていることに加え、当該基準地の所有者は条例第14条第3号に規定する「事業を営む個人」であることから、条例第14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
キ 個別的要因調査表及び算定表(本件各画地分)
本表では、ア(イ)に関して、買収対象地域における標準地と本件各画地の個別的要因を比較し、当該画地の格差率を算定している。
実施機関は本表のうち、(ア)を条例第14条第6号に、(イ)を条例第14条第2号に該当するとして非開示としている。
(ア)本件各画地の評価及び格差率
当該情報は、標準地と本件各画地を比較・評価している部分と、その結果算出される本件各画地の格差率であることが認められる。
この格差率については、ウ(ア)の「個別要因格差」と同一の数値であることから、その算出の元となる評価部分も含め、ウ(ア)と同様の理由により、条例第14条第6号に該当するため非開示とすべきである。
(イ)未買収地の所在地及び所有者に関する情報
当該情報は、未買収地の所在地及び所有者氏名であることが認められるが、前記ウ(イ)と同様の理由により、所在地の町名については開示、所在地の町名以外の部分及び所有者については、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。
ク 取引事例カード
取引事例カードは、エの取引事例地に関して、その所在地、所有者、取引価格及び位置を示す図面等、当該取引に関する詳細な情報を特定の様式に記載したものである。実施機関は取引事例カードの全てを条例第14条第2号に該当するとして非開示としているが、この取引事例地については、既に説示したとおり、その所有者が個人である場合、法人である場合が認められたので、それぞれの場合に分けて検討する。
(ア)取引事例地の所有者が個人である場合
a 事例番号、市区町村コード及び調査年月日
当該情報は個人識別情報とは認められず、条例14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
b 取引事例カードを作成した不動産鑑定士氏名
当該情報は、事業を営む個人の当該事業に関する情報であると認められることから、条例第14条第2号には該当しないため開示が相当と考える。
c 所在及び地番、住居表示並びに所有者・居住者・店舗ビル名
当該情報は、当該取引事例地の所有者を特定することができる情報と認められることから、条例第14条第2号に該当し非開示、ただし、所在のうち市の名称については、エ(ア)aと同様の理由により、開示が相当と考える。
d 土地の種別
当該情報は、当該取引事例地の土地の種類についてある程度の類型を示したものであるが、これを開示したとしても、当該取引事例地の所在地等が明らかになるとは解されず、結果として取引事例地の所有者を識別することはできないと認められることから、条例14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
e 類型、現況地目、取引価格及び取引時点
当該情報は、本件公文書2において既に開示されている情報である上、個人識別情報とは認められないことから、条例第14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
f 建物等及び付近の標準地等
仮に当該情報を開示した場合、既に開示されている情報と組み合わせることにより、取引事例地の所在地が明らかとなり、不動産登記簿から取引事例地の所有者を識別できるものと認められることから、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。
g 取引の事情及び事例収集源
当該情報は、当該取引に係る特記事項の有無や当該取引事例の収集源について買主又は売主等の類型が記載されているに過ぎず、個人識別情報とは認められないことから、条例第14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
h 取引当事者の属性
当該情報は、当該取引事例地の買主及び売主について、個人、法人、不動産業者又は公共団体等の別が記載されているに過ぎず、個人識別情報とは認められないことから、条例第14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
i 地域の特性
当該情報は、当該取引事例地の特徴について一定の説明をした記載であることが認められるが、これを開示したとしても、当該取引事例地の所在地等が明らかになるとは解されず、結果として取引事例地の所有者を識別することはできないと認められることから、条例14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
j 街路条件、交通・接近条件、事例地の位置を表示する図面及び事例地の地形を表示する図面
仮に当該情報を開示した場合、既に開示されている情報と組み合わせることにより、取引事例地の所在地が明らかとなり、不動産登記簿から取引事例地の所有者を識別できるものと認められることから、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。
k 環境条件、画地条件、行政的条件
当該情報は、本件公文書2においてその大部分が既に開示されている情報である上、これを開示したとしても、当該取引事例地の所在地等が明らかになるとは解されず、結果として取引事例地の所有者を識別することはできないと認められることから、条例14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
(イ)取引事例地の所有者が法人である場合
取引事例地の所有者が法人である場合には、取引事例カードに記載された情報は個人識別情報とは認められず、実施機関が条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
ケ 収益価格算出表
本表においては、ア(ア)の収益価格の算出のために、収益還元法に基づき、買収対象地域の標準地上に特定の建築面積、構造及び延床面積を有する不動産を想定し、当該不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値が積算されている。実施機関は本表のうち、収益価格算出の根拠となる、最有効使用判定表、総収益算出内訳表、総費用算出内訳表、基本利率等に関する表、建物等に帰属する純利益に関する表及び土地に帰属する純利益に関する表を非開示としている。
当該非開示部分については、既に説示したとおり、非開示理由の付記に不備があったものであるが、実施機関から聴取したところ、これらは全て条例第14条第2号に規定する個人識別情報であることを理由に非開示としたとのことであった。
しかしながら、本表は想定上の不動産の収益価格を積算したものであり、これを開示することで特定の個人を識別できることはあり得ないため、個人識別情報とは認められず、条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
コ 取引事例地調査表
本表は、クと同趣旨の文書であるがより簡便な記載で作られた文書である。
実施機関は、本表に記載された情報のうち、所在地、現況地目、地積、価格、取引年月日、取引の目的事情及び交通接近条件を条例第14条第2号に該当するとして非開示としている。取引事例地については、既に説示したとおり、その所有者が個人である場合、法人である場合が認められたので、それぞれの場合に分けて検討する。
(ア)取引事例地の所有者が個人である場合
a 所在地、地積、価格及び交通接近条件
当該情報は、ク(ア)c及びjと同様の理由により、条例第14条第2号に該当するため非開示とすべきである。ただし、所在地のうち、市の名称については、エ(ア)aと同様の理由により開示が相当と考える。
b 現況地目及び取引事情
当該情報のうち、前者は既に開示されている情報であり、後者はク(ア)gで開示すべきと判断した取引の事情と同趣旨の記載であることが認められる。これに加えて、仮に当該情報を開示したとしても、取引事例地の所有者を識別できるとは認められないため、開示が相当と考える。
c 取引年月日
当該情報は、前記ク(ア)eと同様の理由により、開示が相当と考える。
(イ)取引事例地の所有者が法人である場合
当該情報は個人識別情報とは認められず、条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
サ 位置図
審査会が見分したところ、本件公文書2には、1万分の1の縮尺の図面に基準地と買収対象地域における標準地のおおよその位置が示された位置図(以下「位置図1」という。)と、同じく1万分の1の縮尺の図面に取引事例地の位置が示された位置図(以下「位置図2」という。)が添付されていることが認められる。
実施機関は位置図1及び位置図2の全てを条例第14条第2号に該当するとして非開示にしているが、基準地は公にされていることに加え、当該基準地は条例第14条第3号に規定する「事業を営む個人」の所有地であること、また本件公文書2における標準地は、用地買収単価の決定のために便宜的に設定された想定上の画地であると考えられ、現実にその所有者等が存在するものとは認められないことを考えると、位置図1は、条例第14条第2号に該当しないため開示が相当と考える。
なお、位置図2に関して、取引事例地の位置ないし所在地に関する情報は、その所有者が個人であるか、法人であるかによって、条例第14条第2号該当性の判断が分かれるところ、審査会が本件公文書を見分した限りでは、当該取引事例地の所有者の詳細が確認できなかった。既に説示してきたとおり、実施機関が本件処分において、取引事例地の所有者が個人であるか、法人であるかに関わらず、条例第14条第2号を理由に当該取引事例地の所有者及び所在地に関する情報を非開示にしてきたことからすれば、位置図2に関しても同様の問題が含まれる可能性があることは否めない。したがって、実施機関は再度の決定にあたっては、この点について十分な調査をした上で、位置図2の非開示情報該当性を判断すべきものと考える。
(3)本件公文書3
本件公文書3は、本件工事に伴い実施機関が買収した土地の取得状況や登記状況が記載された台帳である。このうち、実施機関は代替地提供者の住所及び氏名、代替地の所在、地目、地積、単価及び契約金額並びに賃借人の借地権割合を示す金額を非開示としているため、以下それぞれの非開示部分ごとに非開示情報該当性を検討する。
ア 代替地提供者の氏名及び住所
当該情報は、買収対象者に代替地を提供した者の氏名及び住所であり、実施機関は条例第14条第2号に該当することを理由に非開示としている。
代替地の所有権移転に係る情報は、不動産登記簿に登記されて公示されるものであるとはいうものの、やはり県が行う用地買収に係る所有権の移転とは異なり、私有者間で行われる契約であるため、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」と解することはできない。
したがって、当該情報は条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。
イ 代替地の所在、地目、地積、単価及び契約金額
当該情報については、既に説示したとおり、非開示理由の付記に不備があり非開示理由が示されていなかったものであるが、実施機関から聴取したところ、条例第14条第2号に規定する個人識別情報であることを理由に非開示としたとのことであった。
当該情報についても、アと同様に、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とは認められないため、条例第14条第2号に該当し、ただし書イ及びハのいずれにも該当しないため非開示が相当と考える。
ウ 賃借人の借地権割合を示す金額
当該情報は、用地買収に伴い、実施機関が賃借人及び賃貸人に支払った金額であることが認められるが、実施機関は当該情報が賃貸借契約により決定された借地権割合に相当する情報であることを理由に、条例第14条第2号に規定する「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害する情報」に該当すると主張する。
当審査会で本件公文書3を見分したところ、既に賃借人及び賃貸人の氏名は開示され、特定の個人を識別できる情報であることから、「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害する情報」であるとする実施機関の主張は妥当ではない。しかしながら、このように賃借人及び賃貸人の氏名が開示されていることで、当該情報は、全体として特定個人の間の賃貸借契約がどのように行われているかという条例第14条第2号に規定する個人識別情報であると認められる。そして、このような情報は、代替地に関する情報と同様に「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」と解することはできないため、実施機関の主張は必ずしも適当ではないが、結果として同号を理由に非開示としたことは妥当であったと考える。
(4)本件公文書4
本件公文書4は、建物、工作物及び立竹木等の物件の所有者に対する補償金額の算定を行った文書であり、補償の相手方ごとにそれぞれ作成され、当該対象者が所有する各物件の内訳や補償内容についての情報が詳細かつ濃密に記載されていると認められるが、実施機関は本件公文書4の全てを条例第14条第2号及び第3号イに該当するとして非開示としている。
通常、建物、工作物及び立竹木等の概況については、ある程度は土地の外部から観望することができるものの、県の用地買収により不動産登記簿に登記されて公示されるものとは異なり、補償の相手方に関する情報は「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とは認められない上、補償金額の算定の要素となる工作物等の内部の構造、使用資材、施工態様等や立竹木の種別別の本数等の詳細は、一般人が通常の手段をもって知り得るものではなく、また必ずしも公示される情報でもない。
本件公文書4のうち、審査会が実際に見分した文書は、特定の個人を補償の相手方とするものであったが、以上を踏まえれば、当該文書に記載された情報は、公にされていない特定の個人の財産に関する情報と認められることから、条例第14条第2号に該当するため非開示が相当と考える。
一方、本件公文書5の記載によれば、本件公文書4として、特定の法人を補償の相手方とするものも存在すると推察されるところである。審査会が実際に見分したものにはこのような文書は含まれていなかったため、具体的な非開示情報該当性の検討は控えるものとするが、この場合においても、当該文書に記載された情報は補償の相手方である当該法人が保有する資産に関する情報と認められ、さらに当該法人がどのような補償を受けたか、どのような資産を保有しているか等は一般に公開することを予定していない内部管理情報と解されることから、実施機関は条例第21条第1項の規定による意見聴取を行うなどして非開示情報該当性を判断することが適当であると考える。
(5)本件公文書5
本件公文書5は、本件工事の事業年度及び補償の相手方ごとに、補償の対象となった物件の所在地、所在地の地目、補償の種類、補償金額、補償の相手方の住所及び承諾年月日等を特定の様式に記載した台帳であることが認められる。
実施機関は本件公文書5の全てを条例第14条第2号及び第3号イに該当するとして非開示としているが、本件公文書5の様式や本件工事の工事名、事業年度及び所在地については、条例第14条各号に規定する非開示情報とは認められないため開示が相当と考える。
また、実施機関が補償を行ったそれぞれの相手方に係る補償内容等について、本件公文書5は、本件公文書4ほど詳細な情報ではないものの、やはり補償の相手方や補償内容等は「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」と解することはできないから、個人を補償の相手方とする場合の補償の相手方名、補償の対象となった物件の所在地、所在地の地目、補償の種類、補償金額、補償の相手方の住所及び承諾年月日等については、(4)と同様の理由により非開示が相当と考える。ただし、物件の所在地のうち、町名については、本件工事の対象地域から容易に推測でき、またこれを開示したとしても補償の対象となった個人は識別できないことから、条例第15条第2項の規定により開示が相当と考える。
一方、補償の相手方が法人である場合の補償の相手方名、補償の対象となった物件の所在地、所在地の地目、補償の種類、補償金額及び補償の相手方の住所等については、本件公文書4に詳細に記載された算定内容の性質と合わせて、条例第14条第3号イに規定する「公にすることにより、当該法人又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」の有無を検討すべきものと考えられる。
(6)本件公文書6
本件公文書6は、本件工事に係る工事関係の書類であるが、このうち実施機関は、「調査会社、工事施工会社の職員氏名及び個人が特定される部分」を条例第14条第2号を理由に非開示としているため、以下それぞれの非開示部分ごとに非開示情報該当性を検討する。
ア 口座番号等、口座名義人及びカナ表示
当該情報については、既に説示したとおり、非開示理由の付記に不備があり非開示理由が示されていなかったものであるが、実施機関から聴取したところ、条例第14条第2号に規定する個人識別情報であることを理由に非開示としたとのことであった。
しかしながら、当該情報は本件工事を請け負った建設会社が有する銀行口座に関する情報であり、個人識別情報とは認められないことから、実施機関が条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
イ 変更理由の一部
当該情報は、本件工事が一時延期となった経緯についての記載であることが認められるが、審査会で見分したところ、非開示とされた「変更理由(工期延期)」の本文2行目19文字目から5行目26文字目までの記載のうち、2行目19文字目から4行目18文字目は条例第14条第3号に規定する「事業を営む個人の当該事業に関する情報」であり、実施機関が条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
また、「変更理由(工期延期)」の本文4行目19文字目から5行目26文字目には本件工事を部分的に一時中止した事実が記載されているだけであることから、条例第14条第2号に該当しないため開示が相当であると考える。
ウ 平面図の測量会社名
当該情報についても、既に説示したとおり、非開示理由の付記に不備があり非開示理由が示されていなかったものであるが、実施機関から聴取したところ、条例第14条第2号に規定する個人識別情報であることを理由に非開示としたとのことであった。
しかしながら、当該情報は、本平面図を作成した会社名であることから、個人識別情報とは認められないため実施機関が条例第14条第2号を理由に非開示としたことは妥当ではない。
エ 平面図の管理技術者名、施行体制台帳の現場監督員名、現場代理人、主任技術者名、安全衛生責任者名、安全衛生推進者名及び雇用管理責任者名
当該情報は、特定の個人の氏名であることが認められるが、申立人は開示すべきとの主張をしていないことから、具体的な非開示情報該当性の判断は控えるものとする。
(7)条例第14条第2号ただし書ロ該当性
申立人は、本件公文書1~6のうち条例第14条第2号を理由に非開示とされた情報については、条例第14条第2号ただし書ロに規定する「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」として開示すべきであると主張する。
条例第14条第2号ただし書ロの規定により、公にすることが必要であると認められる情報とは、人の生命、健康、生活又は財産の保護の必要性が、公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも上回る場合をいうものであり、開示の必要性も、その公にする必要性と個人の権利利益を比較衡量した上で判断されるものである。
本件事案について、審査会がなお条例第14条第2号により非開示とすることが相当と判断した情報は、公にすることが予定されていない個人の財産等に関する情報と認められるものである。このような情報は一般に高度の秘匿性が求められると解されるところ、当該情報として多数の個人の財産等に関する情報を開示することが、申立人個人の財産等の保護を超えた公益的な目的に資するとまでは認められず、当該情報を開示することにより保護される利益がこれを非開示とすることにより保護される利益に比して、優越するものとは言えないことから、条例第14条第2号ロには該当しないと考える。
4 付言
審査会は、実施機関が新たに再度行う決定に関して、適切な非開示情報該当性の判断がなされるべく、3において、本件公文書1~6で非開示とされた情報の相当程度の類型について非開示情報該当性の判断を示した。
しかしながら、3のうち、「非開示理由が妥当ではない」旨の意見に止まる情報については、審査会はその全てを開示すべきであるという考えを示しているものではない。
特に前記3(2)ケの収益価格算出表や、3(6)アの特定法人の口座番号については、第14条第3号イに規定する「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に、前記3(6)イの変更理由の本文4行目19文字目から5行目26文字目については、条例第14条第6号に規定する「県の機関・・・が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、・・・当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当する可能性があることから、改めてその非開示情報該当性を慎重に判断することが適当である旨を付言する。
5 結論
以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
なお、申立人はその他種々主張するが、本答申の判断を左右するものではない。
第6 審査の経過
審査会の処理経過は、以下のとおりである。
年月日 | 内容 |
---|---|
平成20年5月29日 | 諮問 |
平成20年7月10日 |
実施機関からの理由説明書を受領 |
平成20年8月15日 |
異議申立人からの意見書を受領 |
平成20年11月21日 |
審議(本件事案の概要説明) |
平成21年1月9日 |
審議 |
平成21年2月6日 |
審議(実施機関の口頭説明) |
平成21年3月17日 |
審議 |
平成21年4月24日 |
審議 |
平成21年6月22日 |
審議 |
平成21年7月8日 | 答申 |