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令和5年度答申第3号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
審査請求人は、令和4年9月21日付け精神障害者保健福祉手帳に係る申請の不承認処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める理由として、次のとおり主張している。
・当初、精神障害手帳3級を受けた時と体が変わっていないため。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態についてみると、主たる精神障害がアルコール依存症であることから、「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」(平成7年9月12日健医発第1133号厚生省保健医療局長通知。以下「判定基準」という。)別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)(5)中毒精神病として判定することとなるが、「中毒精神病」であるかどうか、また高度であるのかについては、断酒した状態でなければ判断できない。従たる精神障害の症候性てんかんについては、判定基準別添1(1)(4)てんかんとして判定することとなるが、審査請求人が令和4年○○月○○日に行った精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)第45条第4項の規定による認定の申請において提出された診断書(以下「本件診断書」という。)の「(3) 発病から現在までの病歴並びに治療の経過及び内容」及び「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」の記載から、「精神障害者保健福祉手帳の障害等級判定基準の運用に当たって留意すべき事項について」(平成7年9月12日付け健医精発第46号厚生省保健医療局精神保健課長通知。以下「留意事項」という。)2(4)(3)(b)において、てんかんの発作症状及び精神神経症状の程度の認定は、長期間の薬物治療下における状態で認定することを原則としていることから、内服コンプライアンス不良による○○○○年○○月○○日以降、発作なく経過しているため症候性てんかんの状態は手帳非該当と認められる。
次に、審査請求人の能力障害(活動制限)の状態についてみると、本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載」欄の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」に該当するとされており、留意事項3(6)の表ではおおむね2級程度の区分となる。また、「(2) 日常生活能力の判定」では、8項目のうち3項目が判定基準の表において3級相当とされる「おおむねできるが援助が必要」とされており、他5項目が判定基準の表において2級相当とされる「援助があればできる」とされていることからおおむね2級程度と判断できる一方で、本件診断書の「身の回りのことは自分でできている」との記載から判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」と照らして、障害等級3級に該当すると判断できる。
以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断し、審査請求人は手帳非該当と認めることができる。
また、法令に基づき、医師により作成された本件診断書を、処分庁が審査及び判定した本件処分について、違法又は不当な点は認められない。
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和5年4月19日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和5年4月28日 調査・審議
令和5年5月26日 調査・審議
令和5年6月30日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件処分に係る法令等の規定について
(1) 都道府県知事は、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等を添付)があった場合において、当該申請に基づいて審査し、申請者が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号。以下「施行令」という。)第6条に規定する精神障害の状態にあると認めたときは、申請者に精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならず(法第45条第1項及び第2項並びに精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則(昭和25年厚生省令第31号。以下「施行規則」という。)第23条第2項)、また、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者は、2年ごとに、施行令第6条に規定する精神障害の状態にあることについて、都道府県知事の認定(申請に当たっては、医師の診断書等を添付)を受けなければならないとされている(法第45条第4項及び施行規則第28条第1項)。
(2) 施行令第6条に規定する精神障害の状態とは、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、障害等級1級の障害の状態として「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」、障害等級2級の障害の状態として「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」、障害等級3級の障害の状態として「日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」とされている(同条第3項)。
(3) 障害等級の判定の具体的な基準については、国から「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について」(平成7年9月12日付け健医発第1132号厚生省保健医療局長通知。以下「実施要領」という。)が発出されており、「障害等級の判定に当たっては、精神疾患(機能障害)の状態とそれに伴う生活能力障害の状態の両面から総合的に判定を行うものとし、その基準については、別に通知するところによる。」とされている(実施要領第2の2(2))。
(4) この実施要領を受けて、判定基準が発出され、また、この判定基準の運用について留意事項が発出されている。
(5) 判定基準によれば、障害等級の判定は、精神疾患の存在の確認、精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認、精神障害の程度の総合判定という順を追って行われることとされ、判定に際しては、診断書に記載された精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態について十分な審査を行い、対応することとされている。
また、留意事項によれば、精神疾患の種類によって、また、精神疾患(機能障害)の状態によって、精神疾患(機能障害)の状態と能力障害(活動制限)の状態の関係は必ずしも同じではないため、一律に論じることはできないが、精神疾患の存在と精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認の上で、精神障害の程度を総合的に判定することとされている。
中毒精神病の精神疾患(機能障害)の状態については、「認知症その他の精神神経症状が高度のもの」は1級と、「認知症その他の精神神経症状があるもの」は2級と、「認知症は著しくはないがその他の精神神経症状があるもの」は3級とされている(判定基準別紙の表)。
てんかんの精神疾患(機能障害)の状態については、「ひんぱんに繰り返す発作又は知能障害その他の精神神経症状が高度であるもの」は1級と、「ひんぱんに繰り返す発作又は知能障害その他の精神神経症状があるもの」は2級と、「発作又は知能障害その他の精神神経症状があるもの」は3級とされている(判定基準別紙の表)。
能力障害(活動制限)の状態については、「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続や公共施設の利用」及び「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目について、「できない」等にいくつか該当するものは1級と、「援助なしにはできない」等にいくつか該当するものは2級と、「行うことができるがなお援助を必要とする」等にいくつか該当するものは3級とされている(判定基準別紙の表)。
また、診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載」欄の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通にできる」である場合は障害等級非該当と、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける」である場合はおおむね3級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする」である場合はおおむね2級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」又は「精神障害を認め、身の回りのことはほとんどできない」である場合はおおむね1級程度とされている(留意事項別紙3(6)の表)。
そして、障害等級の基本的なとらえ方として、「精神障害が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の援助を受けなければ、ほとんど自分の用を弁ずることができない程度のもの」である場合は1級と、「精神障害の状態が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものである。この日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は困難な程度のもの」である場合は2級と、「精神障害の状態が、日常生活又は社会生活に制限を受けるか、日常生活又は社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である場合は3級とされている(判定基準別添2)。
(6) なお、申請者が施行令第6条に規定する精神障害の状態にあるかどうかの判定は、都道府県に設置されている法第6条第1項に規定する精神保健福祉センターに行わせるものとされ、当該判定を行う者については、原則として、法第18条第1項の精神保健指定医(以下「指定医」という。)を含めるものとされ、群馬県においては、処分庁が精神保健福祉センターの事業を行っている(実施要領第2の3(2))。
3 本件処分の妥当性について
(1) 審査請求人の障害等級について、判定基準及び留意事項に従って、以下検討する。
ア 精神疾患の存在の確認
本件診断書の「(1) 病名」から、主たる精神障害として「アルコール依存症」、従たる精神障害として「症候性てんかん」、身体合併症として「アルコール性肝障害」が確認できる。
イ 精神疾患(機能障害)の状態の確認
本件診断書の「(3) 発病から現在までの病歴並びに治療の経過及び内容」では、「(前略)○○歳よりアルコール多飲が始まる。大酒家で梅酒を1リットル/日飲む。○○歳時に、仕事の悩みから鬱状態になり、○○○○に2年通院。痙攣や肝障害、膵炎での入退院を繰り返す。○○○○年○○月○○日に当院精神科受診し、アルコール依存症の診断。(中略)○○○○年○○月○○日(○○歳)より再び精神科に通院中。また、症候性てんかんに対して抗てんかん薬内服中であるが内服コンプライアンス不良であり、度々当院へ救急搬送されている。○○○○年○○月○○日にてんかん発作を起こし当院へ救急搬送。以降発作なく経過し、現在も○○○○に通院している。」と記載がある。
次に、「(4) 現在の病状および状態像等」では、「(1)抑うつ状態」の「1.思考・運動抑制」及び「3.憂うつ気分」、「(8)てんかん発作等(けいれんおよび意識障害)」の「1.てんかん発作 発作型 ハ:意識障害の有無を問わず、転倒する発作」「頻度 年数回」「最終発作 ○○○○年○○月○○日」、「(9)精神作用物質の乱用及び依存等」の「1.アルコール」「イ 依存」「現在の精神作用物質の使用 有」に該当している。
また、「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」では、肝障害があり、月1回通院している。飲酒は続いており、手指振戦がある。以前は痙攣発作が年数回あり、救急搬送されていたが、現在は落ち着いている旨記載がある。「(7) 備考」では、両手の末梢神経障害を認め、神経内科にも受診していると記載がある。
ウ 能力障害(活動制限)の状態の確認
本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載」欄の「(1) 現在の生活環境」では、「在宅(家族等と同居)」に該当している。
次に、「(2) 日常生活能力の判定」では、「金銭管理と買物」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」の3項目について「おおむねできるが援助が必要」と判定されている。「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「通院と服薬」、「社会的手続きや公共施設の利用」、「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の5項目については「援助があればできる」と判定されている。
また、「(3) 日常生活能力の程度」には、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」と判定されており、「上記の具体的程度、状態等」の欄には、「○○と二人暮らし。ビール500ミリリットルを毎日2~3本位飲んでいる。身の回りのことは自分で出来ている。」と記載がある。
エ 精神障害の程度の総合判定
3(1)ア及びイを基に、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態についてみると、主たる精神障害が「アルコール依存症」であることから、判定基準別添1(1)(5)中毒精神病として判定することとなるが、「中毒精神病」であるかどうか、また高度であるのかについては、断酒した状態でなければ判断できない。
従たる精神障害の「症候性てんかん」については、判定基準別添1(1)(4)てんかんとして判定することとなる。診断書の「(3) 発病から現在までの病歴並びに治療の経過及び内容」では「(前略)症候性てんかんに対して抗てんかん薬内服中であるが内服コンプライアンス不良であり、度々当院へ救急搬送されている。○○○○年○○月○○日にてんかん発作を起こし当院へ救急搬送。以降発作なく経過し、現在も○○○○に通院している。」と記載があり、「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」では「(前略)以前は、痙攣発作は年数回あり、時々救急搬送となっていたが現在は落ち着いている。(後略)」と記載があるが、留意事項2(4)(3)(b)において、てんかんの発作症状及び精神神経症状の程度の認定は、長期間の薬物治療下における状態で認定することを原則としていることから、内服コンプライアンス不良による○○○○年○○月○○日以降、発作なく経過しているため症候性てんかんの状態は手帳非該当と認められる。
次に、3(1)ウを基に、能力障害(活動制限)の状態についてみると、診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載」欄の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」に該当するとされており、留意事項3(6)の表ではおおむね2級程度の区分となる。また、「(2) 日常生活能力の判定」では、8項目のうち3項目が判定基準の表において3級相当とされる「おおむねできるが援助が必要」とされており、他5項目が判定基準の表において2級相当とされる「援助があればできる」とされていることからおおむね2級程度と判断できる一方で、診断書の「身の回りのことは自分でできている」との記載から判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」と照らして、障害等級3級に該当すると判断できる。
以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断し、審査請求人は手帳非該当と認めることができる。
(2) 判定の手続について
ア 障害等級の判定の手続については、上記2(6)のとおり、実施要領の取扱いにのっとり指定医による判定が行われており、本件処分を違法又は不当とすべき事実は認められない。
イ 審査請求人は、当初、精神障害手帳3級を受けた時と体が変わっていないと主張するが、障害等級の判定は、法第45条第2項及び施行規則第23条第2項に、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等を添付)に基づいて審査する旨規定されており、また、判定基準及び留意事項によれば、判定に際しては、診断書に記載された精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態について十分な審査を行い、精神疾患の存在と精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認を行った上で、精神障害の程度を総合的に判定することとされていることから、提出された本件診断書に基づく書面審査を行った処分庁の本件処分について、違法又は不当な点は認められない。
(3) 結論
よって、本件処分には、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。