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令和5年度答申第4号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
審査請求人は、令和4年9月2日付け特例給付支給事由消滅処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める理由として、次のとおり主張している。
(1) 日本国憲法第14条第1項では「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定されている。
(2) 児童手当の子育て支援という目的の必要性に所得制限はなじまず、子ども達は等しく経済的支援を受けられるべきである。また、累進課税制度により、税負担の公平性は既に保たれている。
(3) 子育ては世帯単位で行うものであり、児童手当の所得制限の基準を世帯主の所得金額とするのは不合理である。
(4) 働けば働くほど子どもへの支援がなくなるという実態は、子育て世帯の就労意欲を削ぎ、国全体の税収悪化を招く。
(5) 審査請求人が児童手当を受給できる権利は既得権益として保護されるべきであり、本件処分の根拠となった児童手当法の一部を改正する法律は憲法14条に反し、違憲である。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
児童手当は、児童手当法(昭和46年法律第73号。以下「法」という。)第5条第1項の規定により、父母等の前年の所得が児童手当法施行令(昭和46年政令第281号。以下「施行令」という。)第1条に規定する所得制限限度額(以下「所得制限限度額」という。)以上であるときは支給されないが、法附則第2条第1項の規定により、当分の間、当該所得が施行令第7条に規定する所得上限限度額(以下「所得上限限度額」という。)未満であるときは、同項の規定による給付(以下「特例給付」という。)を行うこととされている。
処分庁は、審査請求人について、児童手当法施行規則(昭和46年厚生省令第33号。以下「規則」という。)第4条第3項の規定により、法第26条第1項及び規則第4条第1項で定める届出を省略し、公簿において前年の特例給付対象所得を確認している。当該公募によると、審査請求人の総所得額は○○○○円であり、当該総所得額から控除額を差し引いた所得額は○○○○円である。審査請求人の扶養親族の人数は○人であるため、所得制限限度額は○○○○円、所得上限限度額は○○○○円である。したがって、審査請求人の所得額はいずれの額も超過しており、特例給付の支給要件に該当しない。
法第4条第1項第1号において、児童手当は支給要件児童を監護し、かつこれと生計を同じくするその父又は母に支給するとされ、同条第3項において、同条第1項第1号又は第2号の場合において、父及び母、未成年後見人並びに父母指定者のうちいずれか2以上の者が当該父及び母の子である児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするときは、当該児童は、当該父若しくは母、未成年後見人又は父母指定者のうちいずれか当該児童の生計を維持する程度の高い者によって監護され、かつ、これと生計を同じくするものとみなすとされている。したがって、児童の生計を維持する程度が高い、父又は母のいずれかのみが受給資格を有することとなる。なお、「児童手当法の一部を改正する法律等の施行について」(平成24年3月31日付け雇児発0331第1号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知。以下「局長通知」という。)において、生計の維持する程度の高さを判断するに当たっては、一般的には、家計の主宰者として、社会通念上、妥当と認められる者をもって該当者とすることとなるが、その判断に当たっては、まず父母等の所得の状況を考慮することとされている。審査請求人の配偶者の総所得額は、審査請求人の総所得額を下回っていることから、審査請求人が受給資格を有するものと認められる。
行政不服審査法第1条において、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関して不服申立てをすることができると規定されており、行政不服審査は、審査請求に係る処分が、法令の規定にのっとった適法かつ妥当なものであるか否かを審理判断するものであるから、本件処分の根拠となった法の規定自体が憲法に違反するか否かは、本件審査請求で審理することはできない。
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和5年6月16日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和5年6月30日 調査・審議
令和5年7月21日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件処分に係る法令等の規定について
(1) 児童手当等の支給要件について
ア 法第4条第1項第1号において、児童手当は、支給要件児童を監護し、かつこれと生計を同じくするその父母等であって、日本国内に住所を有するものに支給するとされており、ここでいう支給要件児童とは、中学校修了前の児童及び中学校修了前の児童を含む2人以上の児童とされている。また、同条第3項において、同条第1項第1号又は第2号の場合において、父及び母、未成年後見人並びに父母指定者のうちいずれか2以上の者が当該父及び母の子である児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするときは、当該児童は、当該父若しくは母、未成年後見人又は父母指定者のうちいずれか当該児童の生計を維持する程度の高い者によって監護され、かつ、これと生計を同じくするものとみなすとされている。
イ 児童手当は、法第5条第1項の規定により、父母等の前年の所得が所得制限限度額以上であるときは支給しないとされているが、法附則第2条第1項により、当分の間、所得制限限度額以上であっても、所得上限限度額未満であるものに限り、特例給付を行うとされている。
ウ 所得制限限度額は、施行令第1条において、法第5条第1項に規定する扶養親族等がないときは622万円、扶養親族等があるときは622万円に扶養親族等1人につき38万円を加算した額とされている。また、所得上限限度額は、施行令第7条において、法第5条第1項に規定する扶養親族等がないときは858万円、扶養親族等があるときは858万円に扶養親族等1人につき38万円を加算した額と規定されている。この場合の扶養親族等の有無は、法第5条第1項及び所得税法(昭和40年法律第33号)の規定により、前年12月31日時点での所得税法上の現況によって判定される。
(2) 現況届の提出省略について
法第26条第1項(法附則第2条第4項において準用する場合を含む。以下同じ。)において、児童手当又は特例給付の支給を受けている者は市町村長に対し、前年の所得の状況及びその年の6月1日における被用者又は被用者等でない者の別を届け出なければならないと規定されている。
また、規則第4条第1項(規則第15条において準用する場合を含む。以下同じ。)において、毎年6月1日から同月30日までの間に、その年の6月1日における状況を記載した届書を市町村長に提出しなければならないとされているが、同条第3項(規則第15条において準用する場合を含む。以下同じ。)において、届け出られるべき書類の内容を公簿等によって確認することができるときは、当該届出を省略させることができると規定されている。
(3) 職権による児童手当の支給事由消滅の処理について
「市町村における児童手当関係事務処理について」(平成27年12月18日付け府子本第430号内閣府子ども・子育て本部統括官通知)別添児童手当市町村事務処理ガイドライン(以下「ガイドライン」という。)第22条第1項において、受給事由消滅届の提出がない場合においても、公簿等によって児童手当等(特例給付を含む。)の支給事由が消滅したものと確認したときは、職権に基づいて、受給事由消滅届の提出を受けたときの例により処理するものとされており、同項第7号において、法第5条第1項の所得の額が、児童手当の所得制限限度額(所得上限限度額を含む。)を超過した場合、職権に基づく支給事由消滅の処理ができるとされている。
3 本件処分の妥当性について
(1) 審査請求人の所得及び扶養する親族の状況について
処分庁は、審査請求人について、規則第4条第3項の規定により、法第26条第1項及び規則第4条第1項で定める届出を省略し、公簿において前年の特例給付対象所得を確認している。当該公募によると、審査請求人の総所得額は○○○○円である。また、当該総所得額から控除される控除額は、施行令第3条第1項に規定する一律控除額の80,000円及び同条第2項に規定する小規模企業共済等掛金控除額の○○○○円の計○○○○円である。所得制限限度額及び所得上限限度額と比較をする所得額は、総所得額から控除額を差し引いた○○○○円となる。
審査請求人の所得税法に規定する扶養親族の人数は○人であるため、所得制限限度額は○○○○円、所得上限限度額は○○○○円となる。
したがって、審査請求人の所得額はいずれの額も超過しており、特例給付の支給要件に該当しない。
以上により、処分庁が、法附則第2条及び施行令第7条の規定に基づき審査請求人が特例給付の支給要件に該当しないものと判断し、ガイドライン第22条第1項の規定により職権による支給事由消滅処理を行ったことについては、法令やガイドラインに基づく手続に従い行われたもので、違法又は不当な点は認められない。
(2) 父母いずれかの所得で所得制限を行うことについて
法第4条第1項第1号において、児童手当は支給要件児童を監護し、かつこれと生計を同じくするその父又は母に支給するとある。また、同条第3項において、同条第1項第1号又は第2号の場合において、父及び母、未成年後見人並びに父母指定者のうちいずれか2以上の者が当該父及び母の子である児童を監護し、かつ、これと生計を同じくするときは、当該児童は、当該父若しくは母、未成年後見人又は父母指定者のうちいずれか当該児童の生計を維持する程度の高い者によって監護され、かつ、これと生計を同じくするものとみなすとされている。したがって、児童の生計を維持する程度が高い、父又は母のいずれかのみが受給資格を有することとなる。
なお、局長通知において、生計の維持する程度の高さを判断するに当たっては、一般的には、家計の主宰者として、社会通念上、妥当と認められる者をもって該当者とすることとなるが、その判断に当たっては、まず父母等の所得の状況を考慮することとされている。審査請求人の配偶者の総所得額は、審査請求人の総所得額を下回っていることから、審査請求人が受給資格を有するものと認められる。この点においても、本件処分の手続に違法又は不当な点は認められない。
(3) 児童手当法が憲法14条に違反するかどうかについて
行政不服審査法第1条において、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができる」と規定されている。すなわち、行政不服審査制度は、審査請求に係る処分が違法又は不当なものであるかどうかを審理判断するものであるから、本件処分の根拠となった法の規定自体が憲法に違反するか否かは、本件審査請求で審理することはできず、当審査会の調査審議の対象にならない。
(4) 結論
以上のことから、本件処分には、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。