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令和5年度答申第10号
第1 審査会の結論
本件審査請求のうち、処分庁が行った令和5年2月8日付け生活保護決定処分(以下「本件処分」という。)に係る部分は、理由がないので行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により棄却すべきであり、同月9日付け生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第63条の適用についてと題する書面(以下「63条通知書」という。)で行われた行為(以下「本件行為」という。)及び同日の法第27条第1項の規定による自動車の保有は認めるが使用してはいけない旨の口頭による指導又は指示(以下「本件指導指示」という。)に係る部分は、行政不服審査法第45条第1項の規定により却下すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
(1) 令和5年2月8日付け生活保護決定通知書(以下「保護決定通知書」という。)及び63条通知書に通院時の車の使用について明記を求める。通院時の自動車の使用について、文書に明記しなかったことで不理解や誤解が生じたと考えられるため、明記しておくべきであった。
(2) 口頭での指導では理解や納得が得にくいケースであり、わかりやすく文書で示すべきであった。
(3) バスでの通院が始まってから、○○に自傷行為が始まっている。バス通院と自傷行為に因果関係があるのではと心配している。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求のうち、本件処分に係る部分は理由がないので棄却すべきであり、本件行為及び本件指導指示に係る部分は却下すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
処分庁が審査請求人に手交した令和5年2月8日付け保護決定通知書は、法第24条第3項及び第4項で規定する内容が網羅されていることから、記載に不備はない。また、自動車の使用を含めた資産の使用は「保護の要否、種類、程度及び方法」には含まれないため、保護決定通知書に記載する必要はなく、本件処分に違法性はない。
本件行為は、法第63条の規定により、受けた保護金品に相当する費用返還義務が生じる旨を書面で明らかにしたものにすぎず、保護費の返還を決定したものではないことから、審査請求人の権利・義務、その他法律上の利益に直接影響を及ぼすものではなく、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しないため、処分性がなく、不服申立ての対象とならない。
生活保護問答集について(平成21年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)問11-20は、法第27条第1項に基づく指導指示は、それによって国民の権利・義務、その他法律上の利益に直接影響を及ぼすものではなく、不服申立ての対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しないと規定していることから、本件指導指示には処分性がなく、不服申立ての対象とならない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和5年 9月12日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和5年 9月22日 調査・審議
令和5年10月27日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 法第24条第3項は「保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。」と規定し、また、同条第4項は「前項の書面には、決定の理由を付さなければならない。」と規定する。また、厚生省社会局保護課長 小山進次郎著『改訂増補 生活保護法の解釈と運用(復刻版)』(社会福祉法人全国社会福祉協議会)(以下「生活保護法の解釈と運用」という。)において、保護の「種類」は「(前略)法第11条第1項に規定する7種の扶助のうち最適と認める扶助(後略)」、保護の「程度」は「法第8条第1項に規定する程度の原則に従つて決定されるもの(後略)」、保護の「方法」は「(前略)第30条乃至第37条の規定により、各扶助毎に金銭給付によるか現物給付によるかについて、更に、保護金品の被交付者について、又生活扶助にあつては居宅保護か収容保護かについて決定するものである。」としている。
(2) 法第25条第2項は、「保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とすると認めるときは、(中略)書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。(後略)」と規定する。また、生活保護法の解釈と運用は、保護の「変更」について、「程度或いは方法についてのみでなく、種類の変更も含まれる。」としている。
(3) 行政不服審査法第2条における「処分」とは、「行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷・民集18巻8号1809頁)としている。
(4) 法第27条第1項は「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。」と規定する。また、同条第3項は「第1項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。」と規定する。
(5) 問答集問11-20は、「(前略)法第27条に規定する指導指示は、(中略)行政不服審査法に基づく審査請求の対象となるものであるか。」の問に対して、「(前略)法第27条に規定する指導指示は、被保護者に受忍義務を負わせるものであるが、それによって国民の権利・義務、その他法律上の利益に直接影響を及ぼすものではないので不服申立ての対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であるとはいえず、文書でなされるか否かにかかわりなくこれに対して不服申立てを提起することはできない。不服申立ての対象となるのは、文書でなされた指導、指示に違反したことにより、保護の変更、停止又は廃止の処分がなされた場合の当該保護の変更、停止又は廃止の処分である。」と回答する。
(6) 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日付け社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)第3問12の答は、障害(児)者が通院等のために自動車を必要とする場合の自動車保有について、「(前略)当該者の障害の状況により利用し得る公共交通機関が全くないか又は公共交通機関を利用することが著しく困難であって、(中略)自動車により通院等を行うことが真にやむを得ない状況であることが明らかに認められること。(後略)」としている。
3 本件処分等の妥当性について
(1) 本件処分の妥当性について
法第24条第3項において、「保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつてこれを通知しなければならない。」と規定し、また、同条第4項は「前項の書面には、決定の理由を付さなければならない。」と規定しているが、処分庁が審査請求人に手交した保護決定通知書は、審査請求人の保護開始決定通知であり、法第24条第3項及び第4項で規定する内容が網羅されていることから、記載内容に不備はない。
(2) 保護決定通知書及び63条通知書に自動車の使用について附記しなかったことの妥当性について
自動車の使用を含めた資産の使用は、法第24条第3項の「保護の要否、種類、程度及び方法」には当たらず、保護決定通知書に記載する必要はない。63条通知書は、審査請求人が自動車を売却して収入を得た際には、法第63条の規定により、受けた保護金品に相当する費用返還義務が生じる旨を明記したものであり、自動車の使用について附記する通知ではない。したがって、保護決定通知書及び63条通知書の記載内容に不備はなく、自動車の使用について附記しなかったことに違法性はない。
また、当審査会は、令和○○年○○月○○日の生活保護受給相談の際や同年○○月○○日(処分庁は、弁明書において同月○○日と記載)に処分庁が審査請求人に初回の保護費を渡した際に、処分庁から審査請求人に対して、バスでの通院ができること、移送費の給付が検討できること、障害福祉サービスの利用を助言し、自動車の使用はできないと伝えていることを確認している。さらに、バスでの通院を継続してできていることも処分庁から確認しており、課長通知第3問12の答における「(前略)当該者の障害の状況により利用し得る公共交通機関が全くないか又は公共交通機関を利用することが著しく困難(後略)」であることに当たらない。
4 本件行為、本件指導指示の処分性について
(1) 本件行為の処分性について
処分庁が審査請求人に対し手交した63条通知書は、処分庁が審査請求人に対し、自動車を売却して収入を得た際には、法第63条の規定により、受けた保護金品に相当する費用返還義務が生じる旨を書面で明らかにしたものにすぎず、保護費の返還を決定したものではないことから、審査請求人の権利・義務、その他法律上の利益に直接影響を及ぼすものではなく、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しないため、不服申立ての対象とならないものと解すべきである。
(2) 本件指導指示の処分性について
問答集問11-20(答)は、法第27条第1項に基づく指導指示は、それによって国民の権利・義務、その他法律上の利益に直接影響を及ぼすものではなく、不服申立ての対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しないとしていることから、本件指導指示には処分性がなく、不服申立ての対象とならないものと解すべきである。
5 付言
○○については、反論書によって明らかになったことであるが、バス通院開始後自傷行為が始まっているとのことであり、生活保護は状況に応じた支援が求められていることから、今後処分庁においては、自動車の使用を含めた援助方針や指導指示内容の見直しも検討されたい。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求のうち、本件処分に係る部分は理由がなく、本件行為及び本件指導指示に係る部分は不適法であることから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。