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令和5年度答申第14号

更新日:2024年3月25日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

 処分庁が行った令和5年6月27日付け審査請求人に対する精神障害者保健福祉手帳の障害等級の更新決定処分(3級)(以下「本件処分」という。)を2級にすることを求めるものであり、その理由は次のとおりである。

 (1) 審査請求書による主張

私の状態が障害等級2級なのだから2級にしてもらいたい。勝手に3級にされてしまったことに対する不服である。心の病(強迫性障害)で、不安な気持ちがあると家の中でずっと手洗いがやめられない状態で、手を洗っても、洗えてない感じがして、すごく手を洗い、その状態はひどくなる一方である。よくなっていて3級にされるのなら納得がいくが、そうではない。〇年前より3級にされてしまって、この春更新の申請をしたが又3級にされてしまった。

(2) 反論書による主張

〇年前、医療機関を変更したが、変更後の医師の診断書がきちんと書かれていなかったことが原因で2級から3級になった。今はさらに別の医療機関に月に1度行っているが、医者が診察中に大きな声で怒鳴るので怖くて大量の下痢になり、血便も出て医療機関を受診した。8月も行く日と次の日は救急車の世話になった。過呼吸の大発作に見舞われて、タクシーもバスにも乗るのが怖くて通院が困難になっている。

安定剤(エチゾラム)を飲まないと底なしの不安に襲われ、死にそうになる。

日常生活はほとんど起きている間は手を洗って大量の水とティッシュを消費している。食事をするときも手に何かついているんじゃないかという妄想が出てきて困難になっている。自分の病状がよくなって、3級になったというのであれば納得がいくが、今、こういう状況の中で3級になったことに納得がいかない。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態についてみると、本件診断書の病名として、主たる精神障害が「強迫性障害」、従たる精神障害が「統合失調型パーソナリティ障害」と記載されており、これらはいずれも、精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(平成7年9月12日健医発第1133号厚生省保健医療局長通知。以下「判定基準」という。)別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)(8)「その他の精神疾患」に該当するものであり、精神疾患が存在することが認められる。そして、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態については、本件診断書の「(4) 現在の病状及び状態像等」において、「(1)抑うつ状態」として「憂うつ気分」、「(7)不安及び不穏」として「強度の不安・恐怖感」、「強迫体験」が認められるものの、これらの項目以外に該当する項目がないこと、また、これらの具体的程度、症状等についても、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」などの記載からは、判定基準の2級の1~7に準ずるものであると認めるに足りる記載は見受けられない。したがって、精神疾患(機能障害)の状態は、障害等級3級に該当すると判断できる。

次に、審査請求人の能力障害(活動制限)の状態についてみると、本件診断書によれば、「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする。」とされており、精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準の運用に当たって留意すべき事項について(平成7年9月12日付け健医精発第46号厚生省保健医療局精神保健課長通知。以下「留意事項」という。)別紙3(6)の表ではおおむね1級程度の区分となる。また、「日常生活能力の判定」では、8項目のうち5項目が判定基準において2級相当とされる「援助があればできる」とされ、他3項目が1級相当とされる「できない」とされており、これらの判定項目の記載からはおおむね2級程度の区分となる。

一方で、本件診断書の「(1) 現在の生活環境」、「現在の障害福祉等のサービスの利用状況」等の記載内容から、審査請求人は、障害福祉等のサービスを利用せずに、在宅で単身で生活し、通院や服薬管理も単身で行っている状況にあると考えられ、日常生活が著しい制限を受ける状態にあるとまでは認められない。また、「上記(生活能力)の具体的程度、状態等」などの記載からも、日常生活に一定の支障がある状態であることは認められるものの、日常生活が著しい制限を受ける状態にあることをうかがわせる記載は見受けられない。これらのことからすると、審査請求人の能力障害(活動状態)の状態は、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」において2級とされる「日常生活が著しい制限を受ける程度のもの」、「日常生活が困難な程度のもの」に至っているとまではいえず、障害等級3級に該当すると判断できる。

以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断すると、審査請求人は障害等級2級についての要件を満たしておらず、障害等級3級に該当すると認めることができる。

なお、審査請求人は、上記第2の1のとおり主張しているが、障害等級の判定については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)第45条第2項及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則(昭和25年厚生省令第31号。以下「施行規則」という。)第23条第2項に、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等添付)に基づいて審査する旨規定されており、あくまで申請時に提出された診断書に基づく書面審査を行うものであるところ、本件診断書によれば、審査請求人の状態は、障害等級3級に該当すると認められることから、提出された本件診断書に基づく書面審査を行った処分庁の本件処分について、違法又は不当な点があるとは認められない。

第4 調査審議の経過

当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。

 令和6年2月20日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受

 令和6年2月29日 調査・審議

 令和6年3月18日 調査・審議​

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件に係る法令等の規定について

(1) 都道府県知事は、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等を添付)があった場合において、当該申請に基づいて審査し、申請者が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号。以下「施行令」という。)第6条に規定する精神障害の状態にあると認めたときは、申請者に精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならず(法第45条第1項及び第2項並びに施行規則第23条第2項)、また、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者は、2年ごとに、施行令第6条に規定する精神障害の状態にあることについて、都道府県知事の認定(申請に当たっては、医師の診断書等を添付)を受けなければならないとされている(法第45条第4項及び施行規則第28条第1項)。

(2) 施行令第6条に規定する精神障害の状態とは、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、障害等級1級の障害の状態として「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」、障害等級2級の障害の状態として「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」、障害等級3級の障害の状態として「日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」とされている(同条第3項)。

(3) 障害等級の判定の具体的な基準については、国から「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について」(平成7年9月12日付け健医発第1132号厚生省保健医療局長通知。以下「実施要領」という。)が発出されており、「障害等級の判定に当たっては、精神疾患(機能障害)の状態とそれに伴う生活能力障害の状態の両面から総合的に判定を行うものとし、その基準については、別に通知するところによる。」とされている(実施要領第2の2(2))。

(4) この実施要領を受けて、判定基準が発出され、また、この判定基準の運用について留意事項が発出されている。

(5) 判定基準によれば、障害等級の判定は、精神疾患の存在の確認、精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認、精神障害の程度の総合判定という順を追って行われることとされ、判定に際しては、診断書に記載された精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態について十分な審査を行い、対応することとされている。

また、留意事項によれば、精神疾患の種類によって、また、精神疾患(機能障害)の状態によって、精神疾患(機能障害)の状態と能力障害(活動制限)の状態の関係は必ずしも同じではないため、一律に論じることはできないが、精神疾患の存在と精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認の上で、精神障害の程度を総合的に判定することとされている。

その他の精神疾患の精神疾患(機能障害)の状態については、判定基準別紙の表1級の精神疾患(機能障害)の状態の1から7までに準ずるものは1級と、同表2級の精神疾患(機能障害)の状態の1から7までに準ずるものは2級と、同表3級の精神疾患(機能障害)の状態の1から7までに準ずるものは3級とされている(判定基準別紙の表)。

能力障害(活動制限)の状態については、「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続や公共施設の利用」及び「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目について、「できない」等にいくつか該当するものは1級と、「援助なしにはできない」にいくつか該当するものは2級と、「行うことができるがなお援助を必要とする」等にいくつか該当するものは3級とされている(判定基準別紙の表)。

また、診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通にできる」である場合は障害等級非該当と、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける」である場合はおおむね3級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする」である場合はおおむね2級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」又は「精神障害を認め、身の回りのことはほとんどできない」である場合はおおむね1級程度とされている(留意事項別紙3(6)の表)。

そして、障害等級の基本的なとらえ方として、「精神障害が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の援助を受けなければ、ほとんど自分の用を弁ずることができない程度のもの」である場合は1級と、「精神障害の状態が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものである。この日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は困難な程度のもの」である場合は2級と、「精神障害の状態が、日常生活又は社会生活に制限を受けるか、日常生活又は社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である場合は3級とされている(判定基準別添2)。

(6) なお、申請者が施行令第6条に規定する精神障害の状態にあるかどうかの判定は、都道府県に設置されている法第6条第1項に規定する精神保健福祉センターに行わせるものとされ、当該判定を行う者については、原則として、法第18条第1項の精神保健指定医(以下「指定医」という。)を含めるものとされ、群馬県においては、処分庁が精神保健福祉センターの事業を行っている(実施要領第2の3(2))。

3 本件処分の妥当性について

(1) 審査請求人の障害等級について

ア 精神疾患の存在の確認

本件診断書の病名から、主たる精神障害として「強迫性障害」、従たる精神障害として「統合失調型パーソナリティ障害」が確認できる。

イ 精神疾患(機能障害)の状態の確認

本件診断書の「(3) 発病から現在までの病歴並びに治療の経過及び内容」では「〇〇年頃より不安が強くなり、手洗いも増えていった。〇〇年頃より複数の病院を受診し、〇〇年〇〇月〇〇日に〇〇〇〇初診し、不定期受診を行っていた。〇〇年〇〇月〇〇日〇〇〇〇に転医となる。〇〇年〇〇月〇〇日、当院に転医し、以後当院で通院加療を行っている。」との記載がある。

次に、本件診断書の「(4) 現在の病状及び状態像等」では、「(1)抑うつ状態」の、「憂うつ気分」及び「(7)不安及び不穏」の「強度の不安・恐怖感」、「強迫体験」に該当していることが確認できる。

また、「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」では「手が汚く感じるなどの強迫観念や手洗い、ガスや火の元の確認を行うなどの強迫行為がみられている。また不安やこだわりが強い。疼痛などの身体症状も呈している。」との記載がある。

「(6) 現在の障害福祉等のサービスの利用状況」には、「現在利用していない。」との記載がある。

ウ 能力障害(活動制限)の状態の確認

本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(1) 現在の生活環境」では、「在宅(単身)」が○で囲まれている。

次に、同記載欄の「(2) 日常生活能力の判定」では、「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「通院と服薬」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続や公共施設の利用」の各項目について「援助があればできる」と判定されている。「金銭管理と買物」、「他人との意思伝達・対人関係」、「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目については「できない」と判定されている。

また、同記載欄の「(3) 日常生活能力の程度」には、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする。」と判定されており、「上記の具体的程度、状態等」の欄には「強迫観念や強迫行為、不安などが強く日常生活に支障をきたしている。また、こだわりが強く他罰的にもなりやすい。薬剤へのこだわりも強く治療は難航している。就労は行えていない。」との記載がある。

なお、本件診断書は、〇〇年〇〇月〇〇日に〇〇〇〇の精神科医である〇〇〇〇医師により作成された診断書であることが確認できる。

エ 精神障害の程度の総合判定

上記ア及びイを基に、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態についてみると、本件診断書の病名として、主たる精神障害が「強迫性障害」、従たる精神障害が「統合失調型パーソナリティ障害」と記載されており、これらはいずれも、判定基準別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)(8)「その他の精神疾患」に該当するものであり、精神疾患が存在することが認められる。そして、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態については、本件診断書の「(4) 現在の病状及び状態像等」において、「(1)抑うつ状態」として「憂うつ気分」、「(7)不安及び不穏」として「強度の不安・恐怖感」、「強迫体験」が認められるものの、これらの項目以外に該当する項目がないこと、また、これらの具体的程度、症状等についても、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」などの記載からは、判定基準の2級の1~7に準ずるものであると認めるに足りる記載は見受けられない。したがって、精神疾患(機能障害)の状態は、障害等級3級に該当すると判断できる。

次に、上記ウを基に審査請求人の能力障害(活動制限)の状態についてみると、本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」によれば、「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする。」とされており、留意事項別紙3(6)の表ではおおむね1級程度の区分となる。また、同記載欄の「(2) 日常生活能力の判定」では、8項目のうち5項目が判定基準において2級相当とされる「援助があればできる」とされ、他3項目が1級相当とされる「できない」とされており、これらの判定項目の記載からはおおむね2級程度の区分となる。

一方で、本件診断書の「(6) 現在の障害福祉等のサービスの利用状況」、「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(1) 現在の生活環境」等の記載内容から、審査請求人は、障害福祉等のサービスを利用せずに、在宅で単身で生活し、通院や服薬管理も単身で行っている状況にあると考えられ、日常生活が著しい制限を受ける状態にあるとまでは認められない。また、「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「上記の具体的程度、状態等」などの記載からも、日常生活に一定の支障がある状態であることは認められるものの、日常生活が著しい制限を受ける状態にあることをうかがわせる記載は見受けられない。これらのことからすると、審査請求人の能力障害(活動状態)の状態は、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」において2級とされる「日常生活が著しい制限を受ける程度のもの」、「日常生活が困難な程度のもの」に至っているとまではいえず、障害等級3級に該当すると判断できる。

以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断すると、審査請求人は障害等級2級についての要件を満たしておらず、障害等級3級に該当すると認めることができる。

(2) 判定の手続について

審査請求人は、上記第2の1のとおり主張しているが、障害等級の判定については、法第45条第2項及び施行規則第23条第2項に、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等添付)に基づいて審査する旨規定されており、あくまで申請時に提出された診断書に基づく書面審査を行うものであるところ、本件診断書によれば、審査請求人の状態は、障害等級3級に該当すると認められることから、提出された本件診断書に基づく書面審査を行った処分庁の本件処分について、違法又は不当な点があるとは認められない。

(3) 結論

施行規則第23条第2項の規定に基づき提出された本件診断書を、法第45条第2項の規定に基づき処分庁が審査し、障害等級を判定した本件処分については、適法かつ適正に行われたものであり、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。

第6 結論

 以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。

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