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令和6年度答申第1号

更新日:2024年5月31日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 処分庁による令和5年6月16日付け生活保護申請却下処分(寝室の照明器具購入費用に係るもの。以下「本件処分1」という。)及び同日付生活保護申請却下処分(自転車購入費用に係るもの。以下「本件処分2」という。)に係る審査請求には理由があるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定により、本件処分1及び本件処分2は取り消されるべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

  本件処分1及び本件処分2を取り消し、これらの処分によって生じた損害額を加えて支給することを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 ​民法703条違反・業務妨害であるため。また、却下の理由に引用されている次官・局長通知に具体的な記述がないため。加えて、寝室の照明器具購入費用は局長通知第7の2(6)ア(イ)に該当しており、また、自転車購入費用については、審査請求人は再就職を諦めていないことから厚生労働省社会・援護局通知第8問23に該当しており、いずれも支給されるべきであるため。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件処分1及び本件処分2を取り消すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 本件処分1について、処分庁は「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日厚生省社会局長通知。以下「局長通知」という。)第7の2(6)ア(ア)から(オ)に基づき、処分を行っている。また、本件処分2について、処分庁は「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)第7の問12及び第8の問23に基づき、処分を行っている。
 処分庁は本件処分1について、令和5年6月16日付け保護申請却下通知書において「次官通知第7の1のとおり、被保護者は経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであるため支給できない」と記載しているが、局長通知について記載していない。審査請求人において当該文書の記載から局長通知に該当しない理由を了知することは困難である。本件処分1がなされた時点において、審査請求人に対し、局長通知の内容について具体的に提示すべきであった。
 また、処分庁は、本件処分2について、令和5年6月16日付け保護申請却下通知書において「次官通知第7の1のとおり、被保護者は経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであるため支給できない」と記載しているが、課長通知について記載していない。審査請求人において当該文書の記載から課長通知に該当しない理由を了知することは困難である。本件処分2がなされた時点において、審査請求人に対し、課長通知の内容について具体的に提示すべきであった。
 以上のとおり、本件審査請求には理由があるから、行政不服審査法第46条第1項の規定により、本件処分1及び本件処分2は取り消されるべきである。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
 令和6年4月17日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
 令和6年4月26日 調査・審議
 令和6年5月24日 調査・審議​

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件に係る法令等の規定について

(1) 「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第7の1に基づけば、経常的最低生活費とは「要保護者の衣食等月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定するものであり、したがって、被保護者は、経常的最低生活費の範囲内において通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであること。」とされている。

(2) 局長通知第7の2(6)アにおいて、「被保護世帯が次の(ア)から(オ)までのいずれかの場合に該当し、次官通知第7に定めるところによって判断した結果、炊事用具、食器等の家具什器を必要とする状態にあると認められるときは、3万2300円の範囲内において特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。なお、真にやむを得ない事情により、この額により難いと認められるときは、5万1500円の範囲内において、特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。(ア)保護開始時において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。(イ)単身の被保護世帯であり、当該単身者が長期入院・入所後に退院・退所し、新たに単身で居住を始める場合において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。(ウ)災害にあい、災害救助法第4条の救助が行われない場合において、当該地方公共団体等の救護をもってしては、災害により失った最低生活に直接必要な家具什器をまかなうことができないとき。(エ)転居の場合であって、新旧住居の設備の相異により、現に所有している最低生活に直接必要な家具什器を使用することができず、最低生活に直接必要な家具什器を補填しなければならない事情が認められるとき。(オ)犯罪等により被害を受け、又は同一世帯に属する者から暴力を受け、生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する場合において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。」とされている。

(3) 課長通知第7の問12において、「学童が通学に際し、交通機関がなく、遠距離のため自転車を利用する必要がある場合は、自転車の購入費を認めてよいか。また、自転車による通学に伴って、ヘルメットを必要とする場合は、ヘルメット購入費を認めてよいか。」との問に対する答として、「その地域の殆んどすべての学童が自転車を利用している場合には、自転車の購入費を教育扶助の交通費の実費として認めて差しつかえない。また、学校の指導により、自転車を利用して通学している学童の全員がヘルメットをかぶっている実態にあると認められる場合には、ヘルメットの購入費を教育扶助の交通費の実費として認めて差しつかえない。なお、通学のため交通費を要する場合には、年間を通じて最も経済的な通学方法をとらせることが適当であるので、他に交通機関がある場合には、それとの比較において考慮すること。」とされている。

(4) 課長通知第8の問23において、「被保護者が就労に必要な自転車又は原動機付自転車を購入する場合、その購入額を月割にして、その収入から必要経費として控除してさしつかえないか。」との問に対する答として、「当該職業に必要不可欠な場合であって、社会通念上ふさわしい程度の購入費であり、かつ、その購入によって収入が増加すると認められるときは、通常、交通費、運搬費等として計上されるべき額の範囲内で必要経費として認定してさしつかえない。また、通勤用に使用する場合においても、通常、交通費等として計上される程度の額の範囲内で認定してさしつかえない。」とされている。

(5) 生活保護法(昭和25年法律第144号)第24条第4項において、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならないと規定されている。また、行政手続法(平成5年法律第88号)第8条第1項及び第2項において、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないと規定されている。これらの理由提示の意義について、最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決、最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決、最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決などにおいて、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解されており、このような趣旨に鑑み、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならないとされている。

3 本件処分1及び本件処分2の処分決定理由について

 処分庁は本件処分1について、令和5年6月16日付け保護申請却下通知書において「次官通知第7の1のとおり、被保護者は経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであるため支給できない」と記載しているが、局長通知について記載していない。審査請求人において当該文書の記載から局長通知に該当しない理由を了知することは困難である。本件処分1がなされた時点において、審査請求人に対し、局長通知の内容について具体的に提示すべきであった。
 また、処分庁は、本件処分2について、令和5年6月16日付け保護申請却下通知書において「次官通知第7の1のとおり、被保護者は経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであるため支給できない」と記載しているが、課長通知について記載していない。審査請求人において当該文書の記載から課長通知に該当しない理由を了知することは困難である。本件処分2がなされた時点において、審査請求人に対し、課長通知の内容について具体的に提示すべきであった。

4 付言

 本件審査請求は、法第24条第4項に基づく処分の理由付記が不十分であるという手続の違法を理由として、本件処分1及び本件処分2は取り消されるべきと考えられるところ、本答申と同様の理由により審査庁が裁決をした場合には、行政不服審査法第52条第1項及び第2項の規定により、処分庁は、裁決に拘束され、裁決の趣旨に従い、改めて令和○○年○○月○○日及び同月○○日付け生活保護変更申請に対する処分を行うこととなる。行政不服審査法第52条の規定による裁決の拘束力は、「『申請を却下し、若しくは棄却した処分が裁決で取り消された場合』には、裁決の拘束力により、処分庁は、違法または不当とされたのと同一の理由により同一の処分を行うことが禁止される。ただし、裁決の趣旨に反しない限りにおいて、別の理由により再び拒否処分をすることが妨げられるわけではない」と解されている(小早川光郎、高橋滋編著「条解 行政不服審査法」弘文堂(2016)270頁)。したがって、本件審査請求については、処分の理由付記が不十分であったことが手続の違法と考えられる理由であるから、処分庁は、理由付記を十分に行ったうえで、改めて本件処分1及び本件処分2と同様の申請却下処分を行うことは可能と考えられる。
 しかしながら、処分庁においては、改めて申請に対する処分を行う際には、本件審査請求において審議された事項を踏まえると、次の事項について改めて検討を行う必要があると考えられる。
(1) 本件処分1については、審査請求人の反論書によれば、生活保護開始前から寝室の照明に著しい不具合があり、読書用の電気スタンドで代用していたとある。この主張に基づけば、局長通知第7の2(6)ア(ア)の「保護開始時において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき」に該当する可能性があると考えられることから、処分庁はこの該当性について改めて確認を行うとともに、審査請求人は当該照明器具が生活保護開始前から著しい不具合があったことを証明すべきと考えられる。
(2) 本件処分2については、審査請求人は、反論書により、再就職を諦めていないため自転車購入費用は課長通知第8の問23の答に該当すると主張している。課長通知第8の問23では、「被保護者が就労に必要な自転車(中略)を購入する場合、その購入額を月割にして、その収入から必要経費として控除してさしつかえないか。」との問に対する答として「当該職業に必要不可欠な場合であって、社会通念上ふさわしい程度の購入費であり、かつ、その購入によって収入が増加すると認められるときは、(中略)必要経費として認定してさしつかえない。」とされている。この点について、審査請求人の就労の可否及び就職活動の実施状況に関し、審理員による令和6年1月4日付け処分庁への質問に対し、同月12日付けで処分庁により、審査請求人は就労不可と判断しており、また、審査請求人が就職活動を実施している事実を把握していないことが回答されている。以上のことから、審査請求人は課長通知第8の問23の答に該当していないと判断しうるものの、審査請求人の反論のとおり、審査請求人に再就職の意図があり就職活動を行っている事実があるのであれば、審査請求人はこの事実を証明すべきと考えられる。

第6 結論

 以上のとおり、本件審査請求には理由があるから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。

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