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令和6年度答申第3号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
令和5年7月1日付け審査請求人に対する里親認定登録否決処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
本件処分を受けた理由(否決理由1:親族から関係機関に対し、児童虐待(心理的虐待:宗教の強制)が過去にあった、否決理由2:親族が、関係自治体に対し、住民基本台帳事務における支援措置の申出(以下「住基ブロック手続」という。)を行っている)がとても納得できるものではない。
否決理由1に対して、私たちにとって被害者が誰かも分からない虚偽の内容である。
否決理由2に対して、○○が住基ブロック手続をした理由は、否決理由1ではなく、他に理由がある。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
里親制度は、何らかの事情により家庭での養育が困難または受けられなくなった子ども等に暖かい愛情と正しい理解を持った家庭環境の下での養育を提供する制度であり、適切な家庭での生活を通じて、子どもが成長する上で極めて重要な特定の大人との愛着関係の中で養育を行うことにより、子どもの健全な育成を図る制度である。
審査請求人からは、否決理由1に対し「親族が行った、虐待に関する相談は虚偽」、否決理由2に対し「住基ブロックは虐待のためではない」との主張がなされている。しかし、虐待の有無及び住基ブロック手続の真の目的を立証することは困難であるとしても、親族によって行われた虐待に関する相談及び住基ブロック手続が事実である点を踏まえると、「子どもの保護」を最優先に考えた場合に、里親認定登録に必要な法令等の要件を満たしているとはいえない。また、本件処分を行うに当たっては児童福祉法施行令(昭和23年政令第74号。以下「政令」という。)第29条の規定に基づく群馬県社会福祉審議会児童福祉専門分科会里親等審査専門部会(以下「審議会」という。)への意見聴取を行い「不適とすべき」旨の答申を得ており、手続上適正である。
以上のとおり、本件処分には違法又は不当な点はなく、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和6年4月17日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和6年4月26日 調査・審議
令和6年5月24日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 児童福祉法(昭和22年法律第164号。以下「法」という。)第34条の20第1項において、養育里親の欠格事由として、児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第8号)第2条に規定する「児童虐待又は被措置児童等虐待を行つた者その他児童の福祉に関し著しく不適当な行為をした者」(第3号)は養育里親及び養子縁組里親となることはできないと規定されている。
(2) 児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号。以下「省令」という。)第36条の42第1項において、「都道府県知事は、(中略)当該養育里親希望者が第1条の35に規定する要件(中略)に該当することその他要保護児童を委託する者として適当と認めるものであることを調査して、速やかに、養育里親名簿に登録し、又はしないこと(中略)の決定を行わなければならない」と規定している。また、省令第1条の35第1号及び第36条の42第2項第1号において、養育里親及び養子縁組里親の登録要件として「要保護児童の養育についての理解及び熱意並びに要保護児童に対する豊かな愛情を有していること」と規定している。
(3) 「里親委託ガイドライン」(平成23年3月30日付け雇児発0330第9号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)の「6.里親の認定・登録について」において、「子どもの福祉を理解し、社会的養護の担い手として関係機関等と協力し、子どもを養育することが求められ、その担い手としてふさわしい者が認定、登録される」と定めている。
(4) 政令第29条において「都道府県知事は、法第6条の4第3号の規定により里親の認定をするには、法第8条第2項に規定する都道府県児童福祉審議会(同条第1項ただし書に規定する都道府県にあつては、同項ただし書に規定する地方社会福祉審議会とする。以下「都道府県児童福祉審議会」という。)の意見を聴かなければならない。」と規定されている。
法第6条の4第3号の規定による里親の認定とは、要保護児童の扶養義務者(民法に定める扶養義務者をいう。)及びその配偶者である親族であって、要保護児童の両親その他要保護児童を現に監護する者が死亡、行方不明、拘禁、疾病による入院等の状態となったことにより、これらの者による養育が期待できない要保護児童の養育を希望するもののうち、都道府県知事が児童を委託する者として適当と認めるものをいい、審査請求人が登録申請を行った養育里親とは異なる。
一方で、「里親制度の運営について」(平成14年9月5日厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知。以下「局長通知」という。)別紙の第3「2 里親登録又は認定の要件」において、「都道府県知事は、養育里親(専門里親を含む。)又は養子縁組里親となることを希望する者からの申請に基づき、当該希望する者について養育里親名簿又は養子縁組里親名簿に登録し、又はしないことの決定を行う際には、都道府県児童福祉審議会(法第8条第1項ただし書に規定する都道府県にあっては、地方社会福祉審議会とする。)の意見を聴くこと。」とされている。
局長通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4に規定する技術的助言であって、里親制度の所管省庁である厚生労働省から都道府県等に対する通知として示されたものであり、養育里親登録の適否の判断を適正に行うための基準として、相応の合理性があるものと認められる。本件処分において審議会の意見を聴くことは、局長通知に照らして行ったものであるから、かかる処分庁の判断に不合理な点は認められない。
3 本件処分の妥当性について
処分庁は、平成25年7月及び同年9月に、審査請求人の親族から宗教の強制に関する相談があったことを確認している(以下「事実1」という。)。
処分庁は、審査請求人の親族が住民基本台帳事務における支援措置の申出(いわゆる住基ブロック手続)を行っている事実を確認している(以下「事実2」という。)。
また、本件処分を行うに当たり、審議会において審査請求人の里親としての適格性について諮っており、「不適」という意見を聴取している。
審査請求人によるその親族に対する虐待の有無及び審査請求人の親族による住基ブロック手続の真の目的を立証することは困難であるため、審査請求人が法第34条の20に規定する欠格事由に該当するとはいえない。
しかし、事実1及び2が存在している以上、審査請求人を省令第36条の42第1項における「要保護児童を委託する者として適当」と認めることは困難であると認めざるを得ず、これらの事実をもって審査請求人を「要保護児童を委託する者として適当」と認めなかった処分庁の判断には、一定の合理性があると考えられる。
これらのことから、本件処分は、適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
4 審査請求人による主張書面について
審査請求人は、令和6年5月6日付け主張書面(以下「主張書面」という。)において、虐待は事実無根である旨を主張している。
これについては、3で述べたとおり、処分庁は、虐待の有無ではなく、宗教の強制に関する相談があったこと等の事実をもって、省令第36条の42第1項における「要保護児童を委託する者として適当」でないと判断して本件処分を行っており、上記の審査請求人の主張は、上記3の判断に影響を及ぼすものとは認められない。
また、審査請求人は、主張書面において、処分庁は本件処分について判断する際に、審査請求人と直接の面談を行わなかったと主張している。
これについては、法令等においてそのような義務を定めた規定はないことから、処分庁が審査請求人と直接の面談を行わなかったことをもって、本件処分が違法又は不当であったということはできない。
5 上記以外の違法性又は不当性についての検討
他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。