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令和6年度答申第2号
第1 審査会の結論
処分庁による令和5年9月19日付け生活保護申請却下処分(リボルビング払い利子分に係るもの。以下「本件処分1」という。)及び同日付生活保護申請却下処分(生涯賃金3億円を支給することを求めるもの。以下「本件処分2」という。)に係る審査請求には理由があるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定により、本件処分1及び本件処分2は取り消されるべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
本件処分1及び本件処分2を取り消し、これらの処分によって生じた損害額を加えて支給することを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
民法704条違反・業務妨害であるため。また却下の理由に具体的な記述がなく、最高裁判例違反であり、原処分は取り消されるべきであるため。また、決定を下さなければならない日数を大幅に超過しており、かつ、決定が遅れる旨の通知もなく、生活保護法違反のため。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件処分1及び本件処分2を取り消すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
本件処分1について、処分庁は「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第7に基づき、処分を行っている。また、本件処分2について、処分庁は生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第12条に基づき、処分を行っている。
処分庁は本件処分1について、令和5年9月19日付け保護申請却下通知書において「生活扶助(リボルビング払いにかかる利子)の申請について、生活保護法の扶助に該当する項目がないため。」と記載しているが、次官通知に基づき却下されたことが記載されていない。審査請求人において当該文書の記載から次官通知に基づき決定されたことを了知することは困難である。本件処分がなされた時点において、審査請求人に対し、次官通知の内容について具体的に提示した上で、次官通知に基づき却下した旨を提示すべきであった。
また、処分庁は、本件処分2について、令和5年9月19日付け保護申請却下通知書において「生活扶助(生涯賃金)の申請について、生活保護法の扶助に該当する項目がないため。」と記載しているが、法第12条に基づき却下されたことが記載されていない。審査請求人において当該文書の記載から法第12条に基づき決定されたことを了知することは困難である。本件処分がなされた時点において、審査請求人に対し、法第12条の内容について具体的に提示した上で、法第12条に基づき却下した旨を提示すべきであった。
以上のとおり、本件審査請求には理由があるから、行政不服審査法第46条第1項の規定により、本件処分1及び本件処分2は取り消されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和6年4月17日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和6年4月26日 調査・審議
令和6年5月24日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 次官通知第7に基づけば、経常的最低生活費とは「要保護者の衣食等月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定するものであり、したがって、被保護者は、経常的最低生活費の範囲内において通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであること。」とされ、臨時的最低生活費とは「次に掲げる特別の需要のある者について、最低生活に必要不可欠な物資を欠いていると認められる場合であって、それらの物資を支給しなければならない緊急やむを得ない場合に限り、別に定めるところにより、臨時的に認定するものであること。なお、被服費等の日常の諸経費は、本来経常的最低生活費の範囲内で、被保護者が、計画的に順次更新していくべきものであるから、一時扶助の認定にあたっては、十分留意すること。(1) 出生、入学、入退院等による臨時的な特別需要(2) 日常生活の用を弁ずることのできない長期療養者について臨時的に生じた特別需要(3) 新たに保護開始する際等に最低生活の基盤となる物資を欠いている場合の特別需要」とされている。
(2) 法第12条において「生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。一 衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの 二 移送」と規定されている。
(3) 法第24条第4項において、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならないと規定されている。また、行政手続法(平成5年法律第88号)第8条第1項及び第2項において、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないと規定されている。これらの理由提示の意義について、最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決、最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決、最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決などにおいて、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解されており、このような趣旨に鑑み、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならないとされている。
3 本件処分1及び本件処分2の処分決定理由について
処分庁は、本件処分1について、令和5年9月19日付け保護申請却下通知書において「生活扶助(リボルビング払いにかかる利子)の申請について、生活保護法の扶助に該当する項目がないため。」と記載しているが、次官通知に基づき却下されたことが記載されていない。審査請求人において当該文書の記載から次官通知に基づき決定されたことを了知することは困難である。本件処分がなされた時点において、審査請求人に対し、次官通知の内容について具体的に提示した上で、次官通知に基づき却下した旨を提示すべきであった。
また、処分庁は、本件処分2について、令和5年9月19日付け保護申請却下通知書において「生活扶助(生涯賃金)の申請について、生活保護法の扶助に該当する項目がないため。」と記載しているが、法第12条に基づき却下されたことが記載されていない。審査請求人において当該文書の記載から法第12条に基づき決定されたことを了知することは困難である。本件処分がなされた時点において、審査請求人に対し、法第12条の内容について具体的に提示した上で、法第12条に基づき却下した旨を提示すべきであった。
4 付言
本件審査請求は、法第24条第4項に基づく処分の理由付記が不十分であるという手続の違法を理由として、本件処分1及び本件処分2は取り消されるべきと考えられるところ、本答申と同様の理由により審査庁が裁決をした場合には、行政不服審査法第52条第1項及び第2項の規定により、処分庁は、裁決に拘束され、裁決の趣旨に従い、改めて令和○年○○月○○日付け生活保護変更申請に対する処分を行うこととなる。行政不服審査法第52条の規定による裁決の拘束力は、「『申請を却下し、若しくは棄却した処分が裁決で取り消された場合』には、裁決の拘束力により、処分庁は、違法または不当とされたのと同一の理由により同一の処分を行うことが禁止される。ただし、裁決の趣旨に反しない限りにおいて、別の理由により再び拒否処分をすることが妨げられるわけではない」と解されている(小早川光郎、高橋滋編著「条解 行政不服審査法」弘文堂(2016)270頁)。したがって、本件審査請求については、処分の理由付記が不十分であったことが手続の違法と考えられる理由であるから、処分庁は、理由付記を十分に行ったうえで、改めて本件処分1及び本件処分2と同様の申請却下処分を行うことは可能と考えられる。令和○年○○月○○日のケース会議において、本件処分1については、次官通知第7を基に検討を行い、本件処分2については、法第12条を基に検討を行ったうえで、生活保護法の扶助に該当する項目がないと判断して却下している。処分庁においては、改めて申請に対する処分を行う際には、こうした検討の過程や処分の理由が申請者に伝わるよう、適用した根拠条項等について、通知に記載されたい。
また、法第24条第5項において、原則として申請のあった日から14日以内に、その他特別な理由がある場合には30日以内に保護の要否、種類、程度及び方法を決定して通知しなければならないとされ、同条第6項において、申請のあった日から14日を超過して当該通知をした場合は、その理由を通知に明示しなければならないとされている。処分庁においては、申請のあった日から14日を超過して当該通知をする場合は、通知に理由を明示することについても留意されたい。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由があるから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。