本文
群馬県家畜保健衛生業績発表会
目的
家畜保健衛生所等の日常業務に関連した業務・調査等の業績について、発表及び討議を行い、畜産の現況に即した家畜保健衛生事業の改善、向上に資することを目的とする。
開催日時
令和7年12月19日(金曜日)
発表内容
1 牛ボツリヌス症が発生した黒毛和種一貫農場への対応
群馬県中部家保 木村浩紀
令和7年7月15日から23日にかけて黒毛和種一貫農場で肥育牛が計25頭死亡(安楽死を含む)。同15日および16日に剖検するも特筆すべき所見なく診断には至らず。同16日に農場立入。1牛舎の飼槽付近にカラス死体が認められ、その近隣のみに死亡が集中。発症牛は起立不能、流涎および呼吸困難等を呈した。これらの状況から野生鳥獣由来のClostridium botulinum感染症を疑い、アルデヒド系と塩素系消毒薬による消毒、ワクチン接種およびカラス死体の撤去を指導。その後、カラス死体、飼料および死亡牛からD/Cモザイク型ボツリヌス毒素を検出。総合判断により牛ボツリヌス症と診断し、汚染畜舎の清掃消毒を指導。敷料は消石灰で消毒し畑へ搬出。芽胞対策のため水洗は避け、火炎消毒、アルデヒド系と塩素系消毒薬による消毒を指導。現在まで再発は無い。牛ボツリヌス症は変敗自給飼料給与による発生が一般的だが野生鳥獣対策等の適切な飼養衛生管理も重要であり、発生を疑う場合は迅速な対応が必要。
2 豚熱ワクチン適期接種に向けた課題と取組
群馬県利根沼田家保 清水誠之
令和7年に県内養豚場で5例の豚熱が発生。県全体で飼養衛生管理状況と適期接種日齢を再確認。県内で子豚の接種日齢変更が進む中、東北地方から繁殖候補豚を導入する管内一繁殖専門農場では、令和4年度まで繁殖豚の抗体価が高く、ワクチン接種適期は40~50日齢。令和5年7月、繁殖豚の抗体価低下により、40日齢前後に変更。更なる若齢接種は離乳後の下痢、他疾病のワクチンプログラムとの競合が課題。令和7年9月、離乳豚、繁殖豚の抗体価が大幅に低下したため、接種日齢の大幅な前倒しを指導。接種場所を離乳舎から分娩舎へ変更するにあたり、ワクチン接種者不足が課題。接種者確保のため登録飼養衛生管理者を増員し、現在、28日齢前後の接種で経過観察。子豚へのワクチンプログラムの検討、離乳後ストレスによる疾病増加の課題解消に向け、モニタリングを継続。今後もウイルス侵入防止対策とあわせて適期接種による豚熱発生防止対策を推進。
3 野生イノシシ豚熱感染状況と農場発生予防に向けた課題
群馬県吾妻家保 小野塚慎之輔
令和2年3月、管内で豚熱陽性イノシシを初確認。令和4年にかけ陽性事例は減少するが、令和5年以降再び増加、令和7年9月以降は18例の陽性事例。環境中のウイルス濃度は高いが、農場発生はない。A農場は母豚400頭規模の一貫経営、山間地に所在し周辺は野生動物が多い。飼養衛生管理基準を遵守し防疫意識は高いが、肥育豚舎は開放構造。豚熱ワクチン接種を令和6年6月に31~38日齢から18~25日齢に早めたところ、出荷豚の抗体陽性率が令和5年度79%、令和6年度58%、令和7年度40%に低下。母豚の免疫付与率は高く中和反応の中央値64倍で、移行抗体によるワクチンブレイクの可能性。抗体価の低い肥育豚が野外ウイルスに感染するリスクがあるため、ワクチン接種日齢を再検討し、引き続き飼養衛生管理基準の徹底を指導予定。農場の飼養環境はさまざまであり、ワクチン接種方法は子豚の免疫付与状況を踏まえながら総合的に検討し、農場ごとに柔軟な対応が必要。
4 豚熱発生農場における分割管理を活用した再開事例
群馬県中部家保 杉山美紅
令和7年2月21日、繁殖豚約700頭、肥育豚約7,000頭飼養の一貫経営農場にて豚熱が発生。3月10日に防疫措置完了。疫学調査では、特に、農場が公道により複数の飼養衛生管理区域(以下、区域)に区分されることによる複雑な作業動線とピッグフローが指摘。これを受け、経営再開に向け、県アドバイザー事業を活用して飼養衛生管理改善策を指導。既存の豚舎や糞尿処理施設の配置等から農場の分割管理も併せて検討。区域の再設定、従事者の作業ルールの明文化、ピッグフローの見直し、農場内の公道買い上げの協議等を実施。従来の農場を第1農場(繁殖エリア)と第2農場(肥育エリア)に分割することを達成。第1農場においては同年11月に環境検査で陰性を確認、12月に候補豚を導入し経営を再開。第2農場については経営再開のための飼養衛生管理改善の取り組みを実施中。今後、養豚農場だけでなく養鶏農場においても、分割管理を用いた飼養衛生管理の改善指導は活用可能。
5 採卵鶏農場で発生した鶏痘とその対策
群馬県東部家保 野村充希、南部雪江
令和6年11月、採卵鶏6鶏群1,800羽を1鶏舎で飼養する農場において、543日齢の鶏群400羽のうち約20羽で顔面皮膚の丘疹を伴う衰弱、死亡羽数増加を認め、病性鑑定を実施。発症鶏には2回の鶏痘ワクチン接種歴があった。剖検時、発症鶏にワクモ寄生を確認。病変部皮膚を用いた発育鶏卵接種試験と遺伝子検査、病理組織学的検査の結果から皮膚型鶏痘と診断。その後も発症鶏が増加したことから、感染拡大防止のため、発症鶏淘汰と鶏舎の洗浄消毒を指導。農場はドライアイスを用いて最終的に141羽を淘汰、逆性石鹸による消毒を実施。ワクチン接種済鶏群で鶏痘を発症した要因はワクモ寄生によるストレスと推察し、ワクモ対策の強化も指導。それまで使用していた有機リン系およびカーバメイト系殺虫剤に加え、別の有機リン系殺虫剤としてトリクロルホンとハーブ系忌避剤の使用を開始。対策実施後、新規導入群での発生はないが、今後も再発防止のため、衛生管理指導を継続していく。
6 口蹄疫発生に備えたタブレット端末を用いる迅速な情報共有フローの提案
群馬県西部家保 山本孝磨
農林水産省は口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針で家畜防疫員による異常家畜の病変、好発部位のデジタルカメラでの撮影、画像(0.8MP以上)の電子メールでの送付を規定。現在本県はデジタルカメラ、SDカード、SDカードリーダー、タブレット端末を用いたGmailでの送付を想定。本提案はiPadでの動画撮影、スクリーンショット(スクショ)と、送信方法としてクラウドサービスを使用。現場検証を実施し、従来より動画による情報量増加、動く家畜の撮影時に画像の視認性向上を確認。動画撮影に7.7分、スクショに9.3分を要し、PNG形式で3.8MPの画像を取得。農場から動画を5.5分、画像一式を1分で送信可能と算出。本手法は従来より撮影時間4分、送信時間20分の短縮、情報量増加、画像の視認性向上が可能。撮影開始から17分で動画による状況把握が可能。送信時に画質が劣化せず、かつ情報安全性が向上。本提案によるタブレット端末の有用性の周知を期待。
7 Salmonella Dublin県内分離株を用いた培養方法の検討および分子疫学解析
群馬県中部家保 中島翔一
2010年以降の県内分離Salmonella Dublin(SD)5株を用い、培養条件の検討、色素感受性試験、分子疫学的解析を実施。選択培地別では、ESサルモネラ寒天培地2(ES2培地)およびノボビオシン加DHL寒天培地(nDHL培地)において普通寒天培地と同程度の発育をした一方、ブリリアントグリーン(BG)寒天培地では2019年以降分離株で発育が認められず。選択増菌培地別では、テトラチオネート培地(TT培地)で良好に発育した一方、ハーナ・テトラチオン酸塩基礎培地では1/50程度に発育が抑制。選択培地含有色素のBGに対する色素感受性試験では2019年以降分離株で感受性が増加し、全ての菌株がBG含有培地で発育抑制されることを確認。パルスフィールドゲル電気泳動では、2010年分離株と2019年以降分離株間で疫学的関連性が低く流行型が変化したことを確認。SDの効果的な分離には、TT培地で検体を増菌後、ES2培地及びnDHL培地を用いた分離培養の実施を推奨。
備考:機種依存文字を使用しないため、表現を変更してあります。
8 Salmonella Dublinによる牛農場汚染度評価のための間接ELISA法の確立及び実地調査
群馬県中部家保 中島翔一、蜂谷信昭
Salmonella Dublin(SD)は分離培養の感度が低いことが課題。農場のSD汚染度を高感度に把握するため、LPSを抗原とした間接ELISA系(SD-ELISA)を作成。サルモネラワクチン未接種のSD発生農場牛血清(P血清)と未発生農場牛血清(N血清)を300倍、600倍及び1,200倍希釈、二次抗体を5.0×10⁴倍、7.5×10⁴倍及び1.0×10⁵倍希釈に調整し、S/P値を比較。全ての希釈倍率でP血清とN血清のS/P値に有意差があったことから、血清600倍、二次抗体7.5×10⁴倍希釈でSD発生農場のSD-ELISAを用いた実地調査を実施。結果、129頭中48頭でSD-ELISA陽性判定。一方、凝集反応試験、菌分離ではSD-ELISA陽性判定の1頭のみ陽性であり、SD-ELISAはより高感度な検査法と示唆。SD-ELISAの結果と畜舎、月齢間に相関はなく、検査時にはSDが農場内にまん延後の可能性が示唆。しかし、抗体検査では現在健康の牛も陽性と判定されるため、症状等と合わせた総合的な判断が必要。
9 牛呼吸器病関連ウイルスにおけるマルチプレックスリアルタイムPCR法と従来法の比較
群馬県中部家保 江原彰宏
当所では牛呼吸器病の診断において牛パラインフルエンザ3型ウイルス(BPIV3)、牛RSウイルス(BRSV)、牛コロナウイルス(BCV)の3種を対象に、コンベンショナルPCR(従来法)を実施しているが、工程が煩雑で検査時間が長いことが課題。そこで、市販のマルチプレックスリアルタイムPCR法(mrPCR法)キット導入に向け、検出結果、検出限界、検査時間、費用を従来法と比較検証。検出結果は過去2年間の野外材料61検体を用いて、検出限界は10倍段階希釈した保存ウイルス株を用いて比較。検出結果は従来法で陰性とされた検体のうち、mrPCR法でBPIV3:2/59検体、BRSV:1/57検体、BCV:9/50検体を陽性と検出。検出限界はBPIV3・BCVにおいて、mrPCR法で従来法と比較して10分の1のウイルス量まで検出可能、BRSVは同程度。検査時間は従来法485分がmrPCR法83分に短縮。費用はほぼ同額。以上より、mrPCR法は高い検出性能を有し、診断精度改善と迅速化に有効と考察。
10 山羊の線維性骨異栄養症
群馬県中部家保 阿左美有右、山本孝磨
県内の抗体作製用・実験用山羊約170頭を飼養する農場で、年間20~30頭の山羊の下顎が腫脹。本症状の山羊は食欲低下により衰弱し、全て死亡。品種に関係なく、雌に多く発症。牛用飼料を給餌。2025年5月29日に本症状の山羊1頭(日本ザーネン種、2歳、雌)について鑑定殺を実施。剖検では、下顎骨が左右対称に著しく腫脹。腫脹部は弾力があり、ナイフで容易に切断、割面は均質で乳白色~淡赤色。咽頭、咽頭後リンパ節、脾臓に膿瘍。病理組織検査では下顎骨の骨組織の大部分が破骨細胞により吸収され、線維性組織と未熟な骨組織によって置換。膿瘍は化膿性肉芽腫。細菌学的検査では咽頭膿瘍からCorynebacterium pseudotuberculosisを分離。血清生化学検査ではカルシウムが低値、リンが高値。線維性骨異栄養症および仮性結核と診断、前者を低カルシウム・高リン飼料の給餌が原因と推察。飼料を変更するよう農場を指導、飼料変更後は発症なし。
令和7年度群馬県家畜保健衛生業績発表会抄録(PDF:292KB)








