本文
令和6年度答申第5号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
処分庁が行った令和5年4月10日付け審査請求人に対する精神障害者保健福祉手帳の障害等級の更新決定処分(3級)(以下「本件処分」という。)を2級にすることを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
(1) 審査請求書による主張
発達障害にて障害者認定を受けた日から、自分の中の状態にあまり変化はみられず、自分の等級が下がることへの審査に情報が足りないと感じた。医者の診察以外に、医院が運営しているカウンセリングにかかっているが、そのデータは医者と共有されておらず、そこで自己コントロールをしてもらえることが一番大きい。また、職場に耐えられず、障害に起因した理由で転職予定である。
(2) 口頭意見陳述による主張
自分は、働くことができているから障害等級3級と判定された。前の○○では○○をはたく等、自身の症状(暴力性)は変わっていない。また、症状が変わっていないのに障害等級3級では、職場に対して症状の説明が伝えにくくなる。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態についてみると、本件診断書の病名として、主たる精神障害が「注意欠陥多動性障害」と記載されており、これは、精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(平成7年9月12日健医発第1133号厚生省保健医療局長通知。以下「判定基準」という。)別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)(7)「発達障害」に該当するものであり、精神疾患が存在することが認められる。従たる精神障害及び身体合併症については記載がなく、確認できない。そして、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態については、本件診断書の「(4) 現在の病状及び状態像等」において、「(6)情動及び行動の障害」の「暴力・衝動行為」、「(10)知能・記憶・学習・注意の障害」の「遂行機能障害」、「注意障害」に該当していることが認められるものの、これらの項目以外に該当する項目がないこと、また、これらの具体的程度、症状等についても、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」などの記載からは、審査請求人の発達障害の程度については、「高度のもの」であると認めるに足りる記載は見受けられない。したがって、精神疾患(機能障害)の状態は、障害等級3級に該当すると判断できる。
次に、審査請求人の能力障害(活動制限)の状態についてみると、本件診断書によれば、「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」とされており、精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準の運用に当たって留意すべき事項について(平成7年9月12日付け健医精発第46号厚生省保健医療局精神保健課長通知。以下「留意事項」という。)別紙3(6)の表ではおおむね2級程度の区分となる。また、「(2) 日常生活能力の判定」では、8項目のうち5項目が判定基準において3級相当とされる「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」とされ、他3項目が2級相当とされる「援助があればできる」とされており、これらの判定項目の記載からはおおむね3級程度の区分となる。
審査請求人は、障害福祉等のサービスを利用せずに、通院医療を受けながら家族等と在宅生活をし、障害者雇用による就労をできている状況にあると考えられ、日常生活が著しい制限を受ける状態にあるとまでは認められない。また、「上記(生活能力)の具体的程度、状態等」などの記載からも、日常生活に一定の支障がある状態であることは認められるものの、日常生活が著しい制限を受ける状態にあることをうかがわせる記載は見受けられない。これらのことからすると、審査請求人の能力障害(活動制限)の状態は、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」において2級とされる「日常生活が著しい制限を受ける程度のもの」、「日常生活が困難な程度のもの」に至っているとまではいえず、障害等級3級に該当すると判断できる。
以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断すると、審査請求人は障害等級2級についての要件を満たしておらず、障害等級3級に該当すると認めることができる。
なお、審査請求人は、上記第2の1のとおり主張しているが、障害等級の判定については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)第45条第2項及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則(昭和25年厚生省令第31号。以下「施行規則」という。)第23条第2項に、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等添付)に基づいて審査する旨規定されており、あくまで申請時に提出された診断書に基づく書面審査を行うものであるところ、本件診断書によれば、審査請求人の状態は、障害等級3級に該当すると認められることから、提出された本件診断書に基づく書面審査を行った処分庁の本件処分について、違法又は不当な点があるとは認められない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和6年7月16日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和6年8月21日 調査・審議
令和6年9月27日 調査・審議
令和6年10月25日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 都道府県知事は、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等を添付)があった場合において、当該申請に基づいて審査し、申請者が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号。以下「施行令」という。)第6条に規定する精神障害の状態にあると認めたときは、申請者に精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならず(法第45条第1項及び第2項並びに施行規則第23条第2項)、また、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者は、2年ごとに、施行令第6条に規定する精神障害の状態にあることについて、都道府県知事の認定(申請に当たっては、医師の診断書等を添付)を受けなければならないとされている(法第45条第4項及び施行規則第28条第1項)。
(2) 施行令第6条に規定する精神障害の状態とは、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、障害等級1級の障害の状態として「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」、障害等級2級の障害の状態として「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」、障害等級3級の障害の状態として「日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」とされている(同条第3項)。
(3) 障害等級の判定の具体的な基準については、国から「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について」(平成7年9月12日付け健医発第1132号厚生省保健医療局長通知。以下「実施要領」という。)が発出されており、「障害等級の判定に当たっては、精神疾患(機能障害)の状態とそれに伴う生活能力障害の状態の両面から総合的に判定を行うものとし、その基準については、別に通知するところによる。」とされている(実施要領第2の2(2))。
(4) この実施要領を受けて、判定基準が発出され、また、この判定基準の運用について留意事項が発出されている。
(5) 判定基準によれば、障害等級の判定は、精神疾患の存在の確認、精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認、精神障害の程度の総合判定という順を追って行われることとされ、判定に際しては、診断書に記載された精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態について十分な審査を行い、対応することとされている。
また、留意事項によれば、精神疾患の種類によって、また、精神疾患(機能障害)の状態によって、精神疾患(機能障害)の状態と能力障害(活動制限)の状態の関係は必ずしも同じではないため、一律に論じることはできないが、精神疾患の存在と精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認の上で、精神障害の程度を総合的に判定することとされている。
発達障害による精神疾患(機能障害)の状態については、「その主症状とその他の精神神経症状が高度のもの」は1級と、「その主症状が高度であり、その他の精神神経症状があるもの」は2級と、「その主症状とその他の精神神経症状があるもの」は3級とされている(判定基準別紙の表)。
能力障害(活動制限)の状態については、「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続や公共施設の利用」及び「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目について、「できない」等にいくつか該当するものは1級と、「援助なしにはできない」にいくつか該当するものは2級と、「行うことができるがなお援助を必要とする」等にいくつか該当するものは3級とされている(判定基準別紙の表)。障害の程度の総合判定に、これらの項目にどの程度のレベルがいくつ示されていれば何級であるという基準は示しがたいが、疾患の特性等を考慮して、総合的に判定する必要があるとされている(留意事項別紙3(5))。
また、診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通にできる」である場合は障害等級非該当と、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける」である場合はおおむね3級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする」である場合はおおむね2級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」又は「精神障害を認め、身の回りのことはほとんどできない」である場合はおおむね1級程度とされている(留意事項別紙3(6)の表)が、精神障害の程度の判定については、「診断書のその他の内容も参考にして、総合的に判定するものである」とされている(留意事項別紙3(6)本文)。
そして、障害等級の基本的なとらえ方として、「精神障害が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の援助を受けなければ、ほとんど自分の用を弁ずることができない程度のもの」である場合は1級と、「精神障害の状態が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものである。この日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は困難な程度のもの」である場合は2級と、「精神障害の状態が、日常生活又は社会生活に制限を受けるか、日常生活又は社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である場合は3級とされている(判定基準別添2)。
(6) なお、申請者が施行令第6条に規定する精神障害の状態にあるかどうかの判定は、都道府県に設置されている法第6条第1項に規定する精神保健福祉センターに行わせるものとされ、当該判定を行う者については、原則として、法第18条第1項の精神保健指定医(以下「指定医」という。)を含めるものとされ、群馬県においては、処分庁が精神保健福祉センターの事業を行っている(実施要領第2の3(2))。
3 本件処分の妥当性について
(1)審査請求人の障害等級について
判定基準及び留意事項に従って、以下検討する。
ア 精神疾患の存在の確認
本件診断書の病名から、主たる精神障害として「注意欠陥多動性障害」があり、従たる精神障害及び身体合併症はないことが確認できる。
イ 精神疾患(機能障害)の状態の確認
本件診断書の「(3) 発病から現在までの病歴並びに治療の経過及び内容」では「学童期より不注意性が目立っていた。専門学校卒業後、働くが不注意性のため続かず、○○の家の仕事を手伝うことになったが、そこでもケアレスミスが目立つので継続できなかった。その後訓練を経て障害者雇用で就労した。」との記載がある。
次に、本件診断書の「(4) 現在の病状及び状態像等」では、「(6)情動及び行動の障害」の「暴力・衝動行為」、「(10)知能・記憶・学習・注意の障害」の「遂行機能障害」、「注意障害」に該当していることが確認できる。
また、「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」では「ケアレスミスが目立つ。さらに生活リズムが昼夜逆転で、○○がどれほど声をかけても改善しないので、○○もお手上げの状態という。協調性が乏しい。」との記載がある。
「(6) 現在の障害福祉等のサービスの利用状況」には、「なし」との記載がある。
ウ 能力障害(活動制限)の状態の確認
本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(1) 現在の生活環境」では、「在宅(家族等と同居)」が○で囲まれている。
次に、同記載欄の「(2) 日常生活能力の判定」では、「適切な食事摂取」、「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続や公共施設の利用」の各項目について「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」と判定されている。「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「他人との意思伝達・対人関係」、「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目については「援助があればできる」又は「できない」と判定されている。
また、同記載欄の「(3) 日常生活能力の程度」には、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」と判定されており、「上記の具体的程度、状態等」の欄には「生活リズムが作れず、遅刻が多い。家族が支援しても改善しない。協調性が乏しく、対人関係を築くことが難しい。」との記載がある。
なお、本件診断書は、令和○○年○○月○○日に○○○○の精神科医である○○○○医師により作成された診断書であることが確認できる。
エ 精神障害の程度の総合判定
上記ア及びイを基に、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態についてみると、本件診断書の病名として、主たる精神障害が「注意欠陥多動性障害」と記載されていることから、判定基準別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)(7)「発達障害」に該当するものであり、精神疾患が存在することが認められる。そして、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態については、本件診断書の「(4) 現在の病状及び状態像等」において、「(6)情動及び行動の障害」として「暴力・衝動行為」、「(10)知能・記憶・学習・注意の障害」として「遂行機能障害」、「注意障害」が認められるものの、これらの項目以外に該当する項目がないこと、また、これらの具体的程度、症状等についても、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」などの記載からは、判定基準の2級の7の「その主症状が高度であり、その他の精神神経症状があるもの」であると認めるに足りる記載は見受けられない。したがって、精神疾患(機能障害)の状態は、障害等級3級に該当すると判断できる。
次に、上記ウを基に審査請求人の能力障害(活動制限)の状態についてみると、本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」によれば、「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」とされており、留意事項別紙3(6)の表ではおおむね2級程度の区分となる。また、同記載欄の「(2) 日常生活能力の判定」では、8項目のうち1項目が判定基準において1級相当とされる「できない」と、2項目が判定基準において2級相当とされる「援助があればできる」とされ、他5項目が3級相当とされる「できない」とされており、これらの判定項目の記載からはおおむね3級程度の区分となる。
一方で、本件診断書の「(6) 現在の障害福祉等のサービスの利用状況」、「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(1) 現在の生活環境」等の記載内容から、審査請求人は、障害福祉等のサービスを利用せずに、通院医療を受けながら家族等と在宅生活をし、障害者雇用による就労をできている状況にあると考えられ、日常生活が著しい制限を受ける状態にあるとまでは認められない。また、「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「上記の具体的程度、状態等」などの記載からも、日常生活に一定の支障がある状態であることは認められるものの、日常生活が著しい制限を受ける状態にあることをうかがわせる記載は見受けられない。これらのことからすると、審査請求人の能力障害(活動状態)の状態は、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」において2級とされる「日常生活が著しい制限を受ける程度のもの」、「日常生活が困難な程度のもの」に至っているとまではいえず、障害等級3級に該当すると判断できる。
以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断すると、審査請求人は障害等級2級についての要件を満たしておらず、障害等級3級に該当すると認めることができる。
(2) 判定の手続について
審査請求人は、上記第2の1のとおり主張しているが、障害等級の判定については、法第45条第2項及び施行規則第23条第2項に、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等添付)に基づいて審査する旨規定されており、あくまで申請時に提出された診断書に基づく書面審査を行うものであるとされている。
当審査会では、本件審査請求の調査審議に当たり、処分庁の精神保健福祉センターの事業を行っているこころの健康センターにおける障害等級の判定の手続について、確認を行った。実際の審査体制として、同センターに所属する指定医2名又は3名により書面審査が行われており、申請時に提出された診断書に基づく障害等級の判定が行われていること、判定基準及び留意事項に基づき、診断書の全ての項目を総合して障害等級の判定が行われていること、提出された診断書に疑義が見られるときは、診断内容の確認を行う場合もあること、複数名の指定医による慎重な判定が行われていること等を審査会として確認したところであり、障害等級の判定の手続は適切に行われていることが認められる。そして、本件処分を行う上でも、同センターにおける判定の手続に特段異なる点はなく、通常の手続により処分がなされている。
本件診断書によれば、前記のとおり審査請求人の状態は障害等級3級に該当すると認められることから、処分庁は、提出された本件診断書に対する指定医の医学的知見による審査を尊重した上で本件処分を行っており、これに違法又は不当な点があるとは認められない。
(3) 結論
施行規則第23条第2項の規定に基づき提出された本件診断書を、法第45条第2項の規定に基づき処分庁が審査し、障害等級を判定した本件処分については、適法かつ適正に行われたものであり、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。