本文
令和6年度答申第9号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
令和6年2月21日付け審査請求人に対する林地開発許可申請の不許可処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めるものであり、その理由は、開発区域内の法定外道路(赤道)について、○○と係争中のためである。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
審査請求人が主張している開発区域内の法定外道路(赤道)について○○と係争中であることは、関係法令のいずれにも、開発行為区域内における諸々の権利関係が整理できていないことをもって申請に対する処分を行ってはならないとする規定がないことから、本件処分を取り消す理由に該当しない。
審査請求人が作成した申請書を確認したところ、書類の不足が認められ、また、計画書には未記載や数値誤りの箇所があり、補正が必要であると判断できる。未提出書類が複数あることが認められ、軽微な不備として処分庁が職権で補正できる範囲を超えていることから、処分庁が行政手続法(平成5年法律第88号)第7条の規定に基づき、審査請求人に補正を求めたことは妥当である。
また、処分庁は審査請求人に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求めたが、何らの対応も行われなかったことをもって、本件処分を行った旨述べている。審査請求人からの提出書類を確認したところ、補正対応がなされた事実は確認できなかった。
よって、設定された期限までに補正が行われず、申請の不備が解消されなかったことから、処分庁が行政手続法第7条の「申請の形式上の要件に適合しない申請」に該当するものと判断し、本件処分を行ったことは妥当であると判断する。
以上のとおり、本件処分には違法又は不当な点はなく、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和7年2月10日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和7年2月18日 調査・審議
令和7年3月21日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 森林法(昭和26年法律第249号。以下「法」という。)第10条の2第2項において、都道府県知事は、林地開発許可申請があった場合、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならないと規定している。
一 当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
一の二 当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
二 当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
三 当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。
(2) 森林法施行規則(昭和26年農林省令第54号。以下「施行規則」という。)第4条において、林地開発許可を受けようとする者は、申請書に次に掲げる書類を添え、都道府県知事に提出しなければならないと規定されている。
一 開発行為に係る森林の位置図及び区域図
二 開発行為に関する計画書
三 開発行為に係る森林について当該開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類
四 許可を受けようとする者(独立行政法人等登記令(昭和39年政令第28号)第1条に規定する独立行政法人等を除く。)が、法人である場合には当該法人の登記事項証明書(これに準ずるものを含む。)、法人でない団体である場合には代表者の氏名並びに規約その他当該団体の組織及び運営に関する定めを記載した書類、個人の場合にはその住民票の写し若しくは個人番号カード(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)第2条第7項に規定する個人番号カードをいう。以下同じ。)の写し又はこれらに類するものであって氏名及び住所を証する書類
五 開発行為に関し、他の行政庁の免許、許可、認可その他の処分を必要とする場合には、当該処分に係る申請の状況を記載した書類(既に処分があったものについては、当該処分があったことを証する書類)
六 開発行為を行うために必要な資力及び信用があることを証する書類
七 前各号に掲げるもののほか、都道府県知事が必要と認める書類
(3) 群馬県林地開発許可技術指針(平成12年4月1日制定、申請が行われた令和4年度当時のもの。以下「技術指針」という。)は、法の規定による開発行為の許可の取扱いに必要な事項のうち、群馬県林地開発及び保安林の取扱いに関する規則(平成12年群馬県規則第29号)に定めのない開発行為の許可制に関する事務の取扱い及び審査の基準について定めているものである。
技術指針4第4の2において、「「当該開発行為に伴いピーク流量が増加する」か否かの判断は、当該下流のうち当該開発行為に伴うピーク流量の増加率が原則として1%以上の範囲内として、「ピーク流量が安全に流下させることができない地点」とは、当該開発行為をする森林の下流の流下能力からして、30年確率で想定される雨量強度におけるピーク流量を流下させることができない地点のうち、原則として当該開発行為による影響を最も強く受ける地点とする。なお、当該地点の選定に当たっては当該地点の河川等の管理者の同意を得ているものであること。」と規定されている。
(4) 群馬県林地開発許可申請要領(平成12年4月1日制定、申請が行われた令和4年度当時のもの。以下「申請要領」という。)は、施行規則第4条第1項及び技術指針で規定する許可申請に当たり必要な書類の詳細を規定しているものである。
(1) 申請要領「1 申請に必要とする書類」申請書目次5において、申請書の信用及び資力に関する書類として、「自己資金又は借入金の調達が可能であることを証する書類」が規定されている。
(2) 申請要領「1 申請に必要とする書類」申請書目次6において、他法令の許認可申請又は許認可書の写しとして、「開発事業の実施について法令の規定による許可等を必要とするもので、当該許可等がなされているものにあっては、当該許可等を証する書類又は申請中のものにあっては当該申請書の写し」が規定されている。
(3) 申請要領「1 申請に必要とする書類」申請書目次7において、残置森林等の保全に関する協定書が規定されている。
(4) 申請要領「1 申請に必要とする書類」申請書目次8において、当該開発行為により影響を受ける者の同意書として、「当該開発行為により影響を受けることとなる地区代表者の同意を証する書類」及び「当該開発行為により影響を受けることとなる水利権者のいる場合には、その同意を証する書類」が規定されている。
(5) 申請要領「1 申請に必要とする書類」申請書目次9において、土地所有者等関係権利者の同意書として、「開発行為をしようとする森林の区域に含まれる土地又は建築物の権利を有する者の同意を得ていることを証する書類」が規定されている。
(6) 申請要領「2 申請に必要とする図面」申請書目次17において、空中密着ばら写真が規定されている。
(5) 行政手続法第7条において、行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならないと規定されている。
3 本件処分の妥当性について
(1) 審査請求人が主張する開発区域内の法定外道路(赤道)について○○と係争中であることが、本件処分を取り消す理由に該当するか
関係法令のいずれにも、開発行為区域内における権利関係が整理できていないことを理由に、申請に対する処分を待たねばならないとする規定はないから、本件処分を取り消す理由には該当しないと考える。なお、技術指針3第1の1には、施行規則第4条第3号「開発行為に係る森林につき開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類」について、「「相当数の同意」とは、開発行為に係る森林につき開発行為の妨げとなる権利を有する全ての者の3分の2以上の者から同意を得ており、その他の者についても同意を得ることができると認められる場合を指すものとする」と定めている。開発区域内の法定外道路の権利者である○○は、上記開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者に該当するが、この○○と係争中にあってなお、○○からの同意を得ることができると認めることは、特別の事由がない限り、極めて困難であると考える。
審査請求人からは取消しを求める理由のほか特段の主張はないことから、○○との係争中にあっては、少なくとも施行規則第4条第3号の規定に適合する書類を作成し、提出することは困難と判断せざるを得ない。審査請求人の主張は、処分庁の判断の補強にはなっても、本件処分を取り消す理由には該当しない。
(2) 処分庁が行政手続法第7条の「申請の形式上の要件に適合しない申請」に該当するものと判断し、本件処分を行ったことは妥当か
審査請求人が作成した申請書類及び処分庁が提出した申請書類の補正指示書を確認したところ、申請書類において、技術指針及び申請要領で規定する必要書類のうち、以下のとおり書類の不足が認められた。
(1) 申請書の信用及び資力に関する書類(申請要領1 申請書目次5)
銀行の残高証明書及び工事積算書について、審査請求人とは別の法人名(審査請求外:○○○○)名義の書類が提出されており、審査請求人の資力を証明する書類とはいえず、本件申請書の適正な添付書類として認められない。
(2) 他法令の許認可申請又は許認可書の写し(申請要領1 申請書目次6)
全て協議中である旨の回答があるが、申請書又は許認可書の写しが未提出である。
(3) 残置森林等の保全に関する協定書(申請要領1 申請書目次7)
審査請求人は、「残置森林等の保全に関する協定について」という標題で「このことについて、別添(写し)のとおり締結しました。」という旨の通知文のみを提出し、協定書写しについては未提出であるため、書類として不完全なものとなっている。
(4) 当該開発行為により影響を受ける者の同意書(申請要領1 申請書目次8)
開発行為により影響を受ける地区代表者及び水利権者の同意書が未提出である。なお、審査請求人は、事業区域近隣の地域住民へ戸別に訪問した意見結果を提出しているが、施行規則第4条第3号の「開発行為に係る森林について当該開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類」には該当しないと考える。
(5) 隣接土地所有者の同意書(申請要領1 申請書目次9)
開発区域周囲20メートルの範囲内の隣接土地所有者からの同意書が未提出であり、同意が得られない場合に提出する理由書についても未提出である。なお、審査請求人は、「隣接土地所有者の同意書」という標題の書類を提出しているが、隣接地の所有権者の記載はなく、同意を得たことを証する書類には該当しないと考える。また、審査請求人からは、上記以外の隣接土地所有者の同意を得たことを証する書類は提出されていない。
(6) 空中密着ばら写真(申請要領2 申請書目次9)
審査請求人は、空中密着ばら写真を提出していない。
(7) 河川流下能力計算書(技術指針4 第4 2)
ピーク流量計算地点の設定に当たり、河川管理者の同意を得る必要があるが、得ていなかった。
上記の不足書類のほか、審査請求人が作成した申請書には未記載や数値誤りの箇所が散見され、軽微な不備として処分庁が職権で補正できる範囲を超えていることから、処分庁が行政手続法第7条の規定に基づき、審査請求人に補正を求めたことは妥当である。
また、処分庁は、審査請求人に対し、相当の期間を定めて当該申請の補正を求めたが、審査請求人からは何らの対応も行われなかったことをもって、本件処分を行った旨主張している。令和5年1月16日付け林地開発変更許可申請書補正指示書によれば、処分庁は、同年3月10日を期限として補正を求めている。その一方で、期間中に審査請求人から補正が行われた事実は確認できなかった。設定された期限までに補正が行われず、申請の不備が解消されなかったことから、処分庁が行政手続法第7条の「申請の形式上の要件に適合しない申請」に該当するものと判断し、本件処分を行ったことは妥当であると判断できる。
4 付言
本件事案は、許可の申請から不許可処分まで、補正に要する期間を除き1年近く経過している。この期間の大部分は、補正の期限後から本件処分までの期間である。処分庁は、補正の期限以降、審査請求人から何ら連絡がなかった旨主張しているが、一方、処分庁からも進捗状況の確認等の働きかけを行っていない。
処分庁に督促等を行う義務はないとしても、林地開発許可の標準処理期間である80日を大幅に超過しており、適正な事務処理が行われることを望む。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。