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令和6年度答申第10号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
処分庁が行った令和6年4月11日付け保護決定処分(以下「本件処分」という。)で支給されなかった生業扶助及び住宅扶助を支給することを求めるもの。また、処分庁は保護申請を受けてから決定を下さなければならない日数を超過しており、生活保護法違反である。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
審査請求人が処分庁へ提出した保護開始申請書及び審査請求人が保護の申請に際して提出した関係書類においても、生業扶助を必要とする記載は確認できなかった。よって、生業扶助を支給しないこととした処分庁の判断に不合理な点は認められない。
保護の開始申請に対する通知は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第24条第3項及び第5項の規定により、申請のあった日から14日以内(特別な理由等がある場合に30日以内)にしなければならないところ、本件処分は審査請求人が申請を行った令和○年○月○日から30日を超過した同年4月19日に通知されており、審査請求人は本件処分の違法性を訴えている。
法第24条第5項の期間の定めは、保護の申請をしてから30日以内に決定の通知が無い場合に、保護を申請した者は保護の実施機関が申請を却下したものとみなすことができるとする同条第7項の規定を設けて、保護を申請した者が不服を申し立てる途を開いていることを踏まえると、法第24条第5項の期間の定めに反してした処分は、そのことをもって直ちに取り消されるものではなく、同項の規定を受けて理由の明示を求める同条第6項の規定に反した場合もまた、そのことをもって直ちに取り消されるべきものではないと考えられる。
本件処分により審査請求人の保護はすでに決定されていることから、このことについて審査請求の利益は失われているものと認められる。
審査請求人が居住する住宅の賃貸人が処分庁に対して提出した調査資料によれば、審査請求人の賃貸借契約は令和○年○月○日をもって終了しており、以降は家賃の支払もなく、賃貸人から審査請求人に対して退去を求めていることが確認されている。法第8条第1項により、保護は、要保護者の需要を基準として、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとされていることから、賃貸借契約が終了し、審査請求人について家賃の負担が生じていない状況において住宅扶助費を認定しないこととする処分庁の判断に不合理な点は認められない。
よって、本件処分は法令に定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。なお、審査請求人のその他の主張については、本件審査請求の結論に影響を及ぼすものではない。
なお、処分庁が法令の定める期間を超過して通知したことについては、処分庁においては適切な時期に本件処分を通知する必要があったと言わざるを得ず、今後、同様のことがないよう留意すべき旨を付言する。
以上のとおり、本件処分には違法又は不当な点はなく、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和7年2月10日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和7年2月18日 調査・審議
令和7年3月21日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 法第8条第1項において、保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行われるものとされている。
(2) 法第14条において、住宅扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、住居及び補修その他住宅の維持のために必要なものの範囲内において行われるものとされている。
(3) 法第17条において、生業扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者又はそのおそれのある者に対して、生業に必要な資金・器具又は資料(生業費)、生業に必要な技能の修得(技能習得費)及び就労のために必要なもの(就職支度費)の範囲内において行われるものとされている。ただし、これによって、その者の収入を増加させ、又はその自立を助長することのできる見込のある場合に限るとされている。
(4) 法第24条第1項において、保護の開始を申請する者は、氏名及び住所又は居所、保護を受けようとする理由、要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む。)及びその他要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な事項として厚生労働省令で定める事項を記載した申請書を保護の実施機関に提出しなければならないものとされている。
(5) 法第24条第3項において、保護の実施機関は、保護の開始の申請があったときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもって、これを通知しなければならないものとされている。
(6) 法第24条第5項において、法第24条第3項の通知は、申請のあった日から14日以内にしなければならず、調査に日時を要する場合等には、これを30日まで延ばすことができるものとされている。
(7) 法第24条第7項において、保護の申請をしてから30日以内に第3項の通知がないときは、申請者は、保護の実施機関が申請を却下したものとみなすことができるものとされている。
(8) 法第29条において、保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決定若しくは実施のために必要があると認めるときは、当該職員に要保護者の関係人に報告を求めることができるものとされている。
3 本件処分の妥当性について
(1) 生業扶助の処分について
審査請求人が処分庁へ提出した令和○年○月○日付け法第24条第1項による保護開始申請書には、保護を申請する理由を記載する箇所が設けられているが、生業扶助を必要とする旨の記載は確認できなかった。また、審査請求人が保護の申請に際して提出した関係書類においても、生業扶助を必要とする記載は確認できなかった。
なお、審査請求人は、「生活保護法による保護(開始・変更)申請書」には、何の保護を受給したいのか記入する欄がないため生業扶助を申請できなかったと主張しているが、処分庁は、厚生省社会・援護局長通知「生活保護法施行細則準則について(平成12年3月31日871号)」で示された様式例を参考に「生活保護法による保護(開始・変更)申請書」(○○生活保護法施行細則(平成○年○○規則第○号)様式第2号)を定めており、標準的な様式を使用しているといえるから、特段不当な点があるとは言えない。
(2) 保護決定処分までの期間について
保護の開始申請に対する通知は、申請のあった日から14日以内(特別な理由等がある場合に30日以内)にしなければならないところ(法第24条第3項及び第5項)、本件処分は審査請求人が申請を行った令和○年○月○日から30日を超過した同年4月19日に通知されており、審査請求人は本件処分の違法性を訴えている。
法第24条第5項の期間の定めは、保護が個人の生活や生存に重大な関係を有するものであることを考慮し、迅速な処理を保護の実施機関に促す趣旨のものと考えられ、保護の申請をしてから30日以内に決定の通知が無い場合に、保護を申請した者は保護の実施機関が申請を却下したものとみなすことができるとする同条第7項の規定を設けて、保護を申請した者が不服を申し立てる途を開いていることから、法第24条第5項の期間の定めに反してした処分は、そのことをもって直ちに取り消されるものではなく、同項の規定を受けて理由の明示を求める同条第6項の規定に反した場合もまた、そのことをもって直ちに取り消されるべきものではないと考えられる。
本件処分により審査請求人の保護はすでに決定されていることから、このことについて審査請求の利益は失われているものと認められる。
(3) 住宅扶助の決定について
審査請求人が居住する住宅の賃貸人が処分庁に対して提出した調査資料によれば、審査請求人の賃貸借契約は令和○年○月○日をもって終了しており、以降は家賃の支払もなく、賃貸人から審査請求人に対して退去を求めていることが確認されている。保護は、要保護者の需要を基準として、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとされていることから(法第8条第1項)、賃貸借契約が終了し、審査請求人について家賃の負担が生じていない状況において住宅扶助費を認定しないこととする処分庁の判断に不合理な点は認められない。
それに対し、審査請求人は反論書において、賃貸人との裁判で家賃等の支払を全額免除することを求める一方、敗訴した場合に備えて処分庁へ住宅扶助の支給を求めると主張している。
厚生省社会・援護局長通知「生活保護法施行細則準則について(平成12年3月31日871号)」第7の4住宅費(1)アにおいて、家賃について「(前略)家賃、間代、地代等は居住する住居が借家若しくは借間であって家賃、間代等を必要とする場合又は居住する住居が自己の所有に属し、かつ住居の所在する土地に地代等を要する場合に認定すること。」と記している。
したがって、審査請求人は裁判に敗訴しない限り支払う意思がない主張をしていることから、現に住宅扶助が必要な状況と認めることはできず、処分庁が「家賃、間代等を必要とする場合」に該当しないと判断したことに、違法又は不当な点は認められない。なお、審査請求人は賃貸人との係争終了後や、別の住宅に居住した際には必要に応じて住宅扶助の申請をなされたい。
また、審査請求人は、処分庁が保有する調査権限とは、審査請求人に対する調査権限であり金融機関や賃貸人といった第三者に行使しても情報を収集する権限はないと主張する。しかし、法第29条の規定により、保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決定若しくは実施のために必要があると認めるときは、当該職員に要保護者の関係人に報告を求めることができることから、審査請求人の主張は理由がない。
(4) その他の主張について
審査請求人から提出された主張書面等におけるその他の主張については、当審査会の判断に影響を及ぼすものではない。
(1)~(4)より、本件処分には、取り消すべき違法又は不当な点はない。
4 付言
(1) 申請理由の記載について
生業扶助は、保護対象者の自立の助長を目的とした扶助であり、審査請求人が生業扶助を必要とするならば、審査請求人は改めて処分庁へ生業扶助の支給を求める理由を明示し、その申請を行うべきである。ただし、保護の申請理由の記載については、保護の実施機関である処分庁が、被保護者の置かれた状況にも配慮しながら受給できる保護を可能な限り明示することが、被保護者による保護申請の便宜の一層の増進に資するものである。
(2) 保護決定処分までの期間について
処分庁は令和○年○月○日に審査請求人から保護申請書の提出を受け、同年4月19日に本件処分の通知を行っている。
法第24条第5項において、原則として申請があった日から14日以内に、その他特別な理由がある場合には30日以内に決定の上通知すること、また、同条第6項において、14日を超過した場合はその理由を明示することとされていることから、処分庁においては、これらの点についても留意されたい。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。