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令和7年度群馬県インクルーシブ教育推進有識者会議(第1回)結果
1 期日
令和7年7月23日(水曜日)午後6時から午後8時
2 場所
県庁24階 教育委員会会議室(対面・オンライン併用)
3 出席者
委員(11名中11名出席)
霜田浩信委員、中邑賢龍委員、滝坂信一委員、是永かな子委員、伊藤駿委員、飯島邦敏委員、藤澤都茂子委員、代田秋子委員、高木沙祐里委員、清田和泉委員、酒井暁彦委員
事務局
(職員18名出席)
4 内容
(1) 開会
開会
(2) あいさつ
平田教育長によるあいさつ
(3) 次年度の活動計画
配付資料により下記3点について、事務局が説明した。
- モデル校の取組
- 調査研究実施予定
- 理解啓発イベントの場所、内容等
(4)協議
- 上記説明への質疑応答
- 群馬県が目指すインクルーシブ教育について説明
- 各委員より意見
- 各委員より情報提供
5 委員の主な意見(要旨)
(事務局説明)
(1)モデル校の取組
ブロックチーム担任制については、今年度も引き続き、学年を超えた、多様な児童同士の関わり、様々な考えをもった大人と関わる機会を増やすということを目的に、複数担任によるチーム担任制を行っていく。児童の見えない学力、非認知能力を高めるという点に重きを置き、「教師が教える授業」(従前の一斉学習)から、「子どもたちが主体的に学ぶ授業」へ推進し、継続及び発展をさせていく。
今年度は、給食は、支援級が合同でということ、また、授業においては各学年ブロックの時間割と照らし合わせ、支援級の枠を取り払った合同の授業に取り組んでいく予定である。
学校経営・運営においては、総合的な学習、STEAM教育、探求的な学習などをとおして、「夢」、「こころ」、「未来」、「生きる力」を育んでいきたい。
上陽小学校の研修については、『インクルーシブ教育の推進を目指す「未来の学校創り」~「関わるからこそ学べる」授業創りを通して』というテーマに沿って、「関わる」という部分について大きなキーワードとして実践を深めていく。
(2)調査研究計画
- 海外調査:昨年9月にデンマークとスウェーデンで実施。今年度は、スウェーデンマルメ市において実施予定。
- 国内調査:令和6年度に文部科学省の「インクルーシブな学校運営モデル事業」を受託した都道府県市を訪問し、調査する予定。すでに一府一県二市を訪問し実施。(広島県福山市、神奈川県横浜市、愛知県名古屋市、京都府舞鶴市、福井県)
(3)理解啓発イベント計画
昨年度は、群馬県庁で行い、4,000人/週の集客であったが、参加者の多くは教育関係者であり、インクルーシブ教育に関心が高くない人々を巻き込んで発信していくことが課題として挙げられた。このことから、今年度は、「ぐんまインクルーシブフェスタ2025~みんなで知ろう みんなで創ろう~」というテーマで、8月上旬に、理解啓発イベントを、商業施設2カ所同時開催、12月に群馬県庁で開催予定である。
○委員からの質疑および意見と事務局からの応答
(A委員)
上陽小学校におけるモデル事業の取組は、「日常的な交流」がされており、保護者への理解啓発も進めることができるという点がよいが、「地域づくり」という視点をもって、市・町教育委員会等がサポートする体制づくりが大事であると考える。
また、小学校の中での交流は、ノンバーバルなコミュニケーションで、互いに知り合ったり、関わり合ったりすることで学ぶということも大切である。
(B委員)
1:上陽小学校での実践に係る説明は、上陽小学校の校長先生からの方がよいのではないか。
2:非認知能力とインクルーシブの関係を整理していくことが必要である。
3:この一年間での取組を言語化し、それを県全域に広げるための資料にしていくことが必要である。
4:「インクルーシブな教育」と「インクルーシブな学校」の概念について整理する必要がある。
5:調査研究で収集した資料・情報、ヒントとなることを、どう事業に活かしていくか。
6:県全体への展開において、県と各自治体をどのようにつないでいくか。
7:「群馬のインクルーシブ教育」について、「障害」だけに焦点を当てるのではない展開が必要であると思われるが、全体の構図をどう描くか。
(事務局)
上陽小学校の校長は、これまで、オブザーバーとして、参加していただいた。今回の会議内容について伝えるとともに、校務多忙な中であるが、次回以降、参加の依頼をしていく。質問2、3、4、5については、今後、整理をしていく。質問2については、これまでの日本の学校において、認知能力や非認知能力の両方を大事にしながら進めてきた。群馬県は非認知能力の育成について力を入れているが、今まで取り組んできたことがつながっていると考える。質問6については、地域にも展開させていくことは重要だと捉えているため、今年度取り組んでいきたいと考えている。また、質問7については、障害の有無にとどまらず、不登校や外国にルーツがある子供たちなど多様な人たちが関わり合い、そのつながりの中で自分の居場所を探し、いずれは自分で居場所を作れるようにしていきたいと考えている。
(C委員)
非認知能力について、果たして将来につながっていくのかということに疑問を感じている。ICTを活用することで、言語能力や認知能力を高めることにつながるのではないかと考える。実際に、群馬県の学校をいくつか訪問する中で小学校段階では、その差がはっきりしないという点でうまくいきやすいが、中学校で教科が分かれてくるとその差が目立ってくると感じている。現在、インクルーシブ教育推進と同時に、通常級の中からエクスプロード(排除)される子供たちが増えてきている。排除されないにしても、2~3割の子供たちは、勉強が分からないまま、中学校卒業、学力的に入学できる高校に行き、十分な学力がついていない状態で卒業し、その時点で初めて福祉に結びつくという実態もふまえて、議論を深めていかなくてはいけないのではないか。そういった意味で、非認知能力だけではなく、ICTを活用しながら、言語能力や認知能力をフォローすることにより、本当の意味でのインクルージョンを図っていくといった視点も検討していただきたい。
(D委員)
非認知能力の検討も重要ではあるが、そもそも子供や教員が学ぶための基本的な力としての言語能力が認知能力ということである。今、上陽小学校の取組の中で、「授業が分かる」というところを重要視していきたいということを義務教育課とともに検討しており、今後、ICTをどのようにからめていくのかも重要な観点であると感じている。
(B委員)
上陽小学校には、校長が忙しくても、教頭や教務主任など、インクルーシブ教育における自校の取組について説明できる力のある教員はいる。どの先生でも話せるということが、インクルーシブな学校開発という点で、一つの指標であると考えている。「インクルーシブな学校」と「インクルーシブ教育」について、障害者権利条約の概念規定と違う部分があるのであれば、群馬県として考え方を説明できるようにしておかなければいけないのではないか。モデル校の取組では、成果や課題だけではなく、実際に起きた事実・エピソードを丁寧に記録し、言語化し、振り返るというプロセスが大切なのではないかと考える。
(A委員)
多様な子供たちは、学びの場や方法はいろいろありながらも統合、包摂されていくというインクルーシブ教育の定義に基づくプロセスも大事であると感じており、上陽小学校では、よりよいものにしていくための工夫がされているという点でよいと感じている(例:ブロック担任制の導入、自由進度学習など)。 多様性の中でも、「貧困」に言及するのであれば、その手立てなども検討することに期待したい。
(E委員)
調査研究を通じて、群馬県(市町も含めて)の特徴など感じたことがあれば、教えていただきたい。また、昨年度の会議の中で、事務局から説明があった「通級」について、インクルーシブ教育におけるポイントであると考えるが、群馬県の通級の進捗について聞かせてもらいたい。
(事務局)
群馬県の特徴は、不登校や外国にルーツのある子供なども含めて考えているということである。群馬県では、「巡回型通級」として、行政区をまたいで子供たちが学んでいる。専門性のある環境が整いにくい中山間地域で、効率的かつ効果的な通級のあり方について検討している。
(D委員)
モデル校である上陽小学校を視察した委員の方々にも、ご意見を頂戴したい。
(F委員)
様々な角度からインクルーシブ教育を捉えていく必要があると感じている。視察の際に、まず、非常に自由で動きがあるという雰囲気を感じた。自分で何かを選択できる環境という意味で自由があるということは意義があると思う一方で、自由度が高くなるほど、「選択する力」が必要になってくると感じている。そのためには、家庭や地域との連携が欠かせないものである。また、コラボレーターが、心の中で困っている子供に声をかけるなど補助的な役割を担っており、様々な家庭環境や背景の子供たちが様々な価値観にふれるための一助となっている。子供たちは人との違いの中で悩み、生きづらくなっている中で、「みんなと違う」と感じさせないためにも、様々な大人と出会い、関わってほしいと感じている。
(G委員)
上陽小学校の臨海学校では、特別支援学級の児童だけではなく、周りもふくめて皆で楽しく行ってくることができたというエピソードを聞いて、保護者の立場では、現在のインクルーシブ教育の取組を非常に嬉しく感じている。
(D委員)
「群馬県が目指すインクルーシブ教育」に係る協議に入るが、まず事務局から説明をお願いしたい。
(事務局)
今年度は、全3回開催される有識者会議の中で、3つの観点・項目を論点としたい。それは、「インクルーシブな学校」、「インクルーシブな学級」、「インクルーシブな授業」である。今後の見通しとすると、次の第2回で、方向性について決定し、第3回で「群馬県が目指すインクルーシブ教育」について、決めていきたいと考えている。有識者委員の皆さんにご意見をいただき、整理していきたい。
(A委員)
県は、「インクルーシブな社会」を目指していくのかと思っていたが、この3つの論点には、その観点はないということか。
(事務局)
この3つの論点の先に、インクルーシブな社会があり、つながっていると捉えている。この概念を入れた方がよければ、論点として整理していきたいと思っている。
(A委員)
「地域社会」、「地域づくり」というのも必要だと思うため、その観点があった方がよいと考える。
(H委員)
議論の中にあった、「日常的」という視点、「保護者への理解」、「地域づくり」というキーワードとも関わって、今の意見と同感である。インクルーシブな学校や学級、授業という部分には、要素として保護者や地域のことも入ってくる。「日常的」という視点については、授業改善が必要であり、それによりインクルーシブな環境ができてくると考える。多様な意見が認められる「心理的風土」をつくるためにも、友達同士で考えを伝え合うということがインクルーシブ教育につながるのではないか。 「人権教育」として、多様な意見を認め合って、そういった社会をつくっていくということを、学校だけではなく、保護者、地域の方々と共有していくことが重要であると考える。
また、前橋市では、子どもの権利条約を基とした「子どもの基本条例」をつくっているところである。「生きる権利」や「守られる権利」、「育つ権利」、「参加する権利」などがあるが、その中でも「参加する権利」や「意見を表明する権利」が、今とても注目されており授業づくりやSOSの出し方にも関わることであって、インクルーシブの考え方にもつながってくると考えている。そういったことから、行政においても、教育委員会だけではなく、部局を超えて考えていく必要があるだろう。
以上のことから、「インクルーシブな学校・学級・授業」という論点はよいと思うが、そこに「保護者」や「地域」、「行政」という視点について、みんなで考えられるようになるとよいと感じている。
(B委員)
昨年度の初回の会議で、「インクルーシブをどのように考えるか」ということについて、きちんと議論していこうという意見が出たが、今回の会議においても、その部分に尽きるように思う。現段階で、インクルーシブに関する「構図」をつくるための議論が必要ではないか。
2030年アジェンダの中に、「インクルーシブな社会」についての記載があるが、群馬県としてどのように考えるのか。その考え方とは別に「群馬県のインクルーシブ教育」という路線で進んでいくのか。有識者会議には、様々な立場の委員がいるため、知見を集約し、整理して構図をつくるべきである。
私の理解では、「インクルーシブな教育」にしても、「インクルーシブな学校」にしても、それは「継続的な開発」であり、「群馬モデル」の構図や内容が不明瞭に感じる。上陽小学校の校長と話した時に、「インクルーシブな」という言葉を使わなくても、「自分たちが取り組んでいる内容や方向性をきちんと自分たちの言葉で説明できることが大切である」という話題になった。
(C委員)
その意見に同感である。「インクルーシブにされること」を迷惑に感じる人もいて、例えば不登校の子どもたちは、自分から集団を抜け出して自分たちで新たなグループを作ったのだから放っておいてほしいと感じているかもしれない。国でも、多様な学びを見て、認めていくために、法律をつくり、合法化していく流れとなっている。マジョリティの中の組織の中に頭を下げて、マイノリティの人たちが入れてもらうという時代ではないように感じており、小集団で生きている人々がいわゆる社会から排除されている意識をもたないという感覚が大切なのではないか。いつも同じことを同じ場所で行うのではなく、流動性の中で、例えば出欠や学習の評価もDX化で対応するなど、世の中が向かっている方向をふまえた議論でなくてよいのだろうかという思いがある。
(E委員)
世の中は、もうインクルーシブな社会ではないのではないか、という思いをもっている。事務局から提案があった群馬県のインクルーシブ教育について、少し内容に踏み込むと、現段階ではきちんと実証できていないことではあるが、「子どもには、居場所が3つあるかどうか」ということが、メンタルヘルスの状態が深刻化しないための大切な視点であると感じている。それは、例えば、「家庭」、「学校」、「習い事」のような旧態依然の家庭像のような想定ではあるが、仮に「家庭」がつらくとも、第2、第3の居場所ということにつながることができれば、深刻化しないこともある。そういった意味で、学校の中に複数の居場所があるということは大切なのではないかと感じている。また、ギフテッドと言われる子どもでも、同一課題ではなく、挑戦的な課題があるなどの手立てがあるとよいかもしれない。子ども達も教師もエージェンシーが発揮できるような授業があったらよいとも思う。
( I 委員)
上陽小学校に関して、昨年度の「失敗例」や、実際一人一人がどのようなリアクション、反応だったのかなどを聞きたい。関わっていない私たちが、この取組について表面的に判断するのはどうなのかという思いはあるが、振り返ることで、取組後の議論というのが大切であると感じている。
また、コラボレーターやインクルーシブ教育アドバイザーも、多様性があってもよいのではないかと感じている。教育の立場だけではなく、福祉や行政の立場などいろいろな視点で取り組みについて考えていけるとよいのではないか。そして、インクルーシブ教育について、大人だけが頑張って授業づくりするのではなく、子ども自身が子ども達同士で、より良い環境や授業づくりをしていくという視点もよいのではないかと思っている。
(J委員)
事務局が示した資料中の「子どもたちが主体的に学ぶ授業」という点に共感・賛同できる部分があると感じている。大人が用意して教えるのではなく、子どもが自主的に考え、気づき、創造していく中で発想力をもって、「どうしたらできるのか」、「そのためには何をすればよいのか」常に子ども達同士で話して考えられる機会を、今よりも増やしていってほしいと感じている。「社会モデル」で障害について考え、インクルーシブについて分かりやすく説明し、推進していく体制づくりが必要である。その考え方を子ども達や保護者に理解啓発していくとよいのではないか。
また、上陽小学校の取組の中で、実際に子ども達がいろいろな子と接してくる中での学びや失敗談など大人が聞き取ってまとめるのではなく、例えば、子ども会議やサミットのような子どもの生の声を拾い上げるような視点も大切なのではないだろうか。今年度開催する理解啓発イベントについても、大人が来年度のことを考えるのではなく、子ども達からアイデアを出してもらい、自主的に中高生につくってもらえるような機会をつくっていけるとよいのではないか。
(K委員)
「社会モデル」の視点でインクルーシブ教育と捉えていくという考え方に同感である。義務の学校に関わる中で、「誰もが参加できるような状況をつくる」ことの重要性は感じているものの、自分の「枠」が非常に狭い教員もいる。指導の三層モデルの中の「ユニバーサルデザイン(以下、UDLという)」という視点の部分から、自分の授業が分かりやすいものになっているのか、という点を見直すことも、インクルーシブを推進する上で重要であると感じている。UDLの視点で分かりやすい授業をするにあたり、それでも支援が必要な子どもには個別な学習、さらには専門的な指導というような意識が浸透していくとよいと感じている。また、スクールカウンセラーとの面談を希望する子ども達が非常に多く「心理的安全性」という視点とは離れてしまっているケースも見受けられることを懸念している。「心理的安全性」という点から考えれば、「幼児教育」のさらなる充実も大切なのではないかとも思う。 事務局より「群馬県のインクルーシブ教育」についての説明があったが、これが実現できたら非常に素晴らしいことではあるが、理想的すぎて実際はついていけない学校もあるかもしれない。だからこそ、特別支援学校も義務の学校も、ユニバーサルデザインや社会モデルの考え方などが浸透していくとよいと感じている。
(D委員)
これまでの一年間の取組を振り返る中で、成功例や失敗例も含めて言語化していくことや取組に係る子どもたちの意見を集約していくことが大事であり、整理した上で、今後提供していかなければならないと感じている。共通してあるのは、群馬としてどのような「構図」をもって、インクルーシブ教育を捉え、推進していくのかということを議論していかなくてはならない。次回以降また検討していけるとよいだろう。
6 その他
事務局から事務連絡を行った。
7 あいさつ
平田教育長によるあいさつ
8 閉会
閉会
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