本文
令和7年度答申第9号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
処分庁が行った令和6年7月12日付け生活保護申請却下処分(4件)を取り消し、これらの処分によって生じた損害額を加えて支給することを求めるものであり、その理由として次のとおり主張している。
民法704条違反・業務妨害及び最高裁判例でいう既判力に抗ったものであるため。また、処分庁の処分の理由は意味不明で、説明義務違反である。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
本件審査請求は、処分庁が令和6年7月12日付けで審査請求人に対して行った、寝室の照明器具の購入費用に係る保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「本件処分1」という。)、自転車の購入費用に係る保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「本件処分2」という。)、リボルビング払いに係る明細書の提出と利子分9,000円の支給を求める保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「本件処分3」という。)及び生涯賃金3億円の支給を求める保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「本件処分4」という。)の4件分の処分の取消しを求めるものである。
本件処分1については、処分庁は「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知。以下「局長通知」という。)第7の2(6)ア(ア)から(オ)までに基づき処分を行っている。本件処分2については、処分庁は「生活保護による保護の実施要領の取扱いについて(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)第7の問12及び第8の問23に基づき処分を行っている。本件処分3については、処分庁は生活保護法(昭和25年法律第144)第12条及び「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第7の1に基づき処分を行っている。本件処分4については、生活保護法第12条に基づき処分を行っている。したがって、本件処分1から本件処分4までについては法令等に定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
また、申請に対する処分を行う際の理由の提示については、生活保護法第24条第4項において、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならないと規定されている。加えて、行政手続法(平成5年法律第88号)第8条第1項及び第2項において、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないと規定されている。これらの理由提示の意義について、最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決、最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決、最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決などにおいて、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解されており、このような趣旨に鑑み、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならないとされている。
本件処分1から本件処分4までについては、4件の原処分(処分庁が令和5年6月16日付けで審査請求人に対して行った、寝室の照明器具の購入費用に係る保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「原処分1」という。)及び自転車の購入費用に係る保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「原処分2」という。)並びに処分庁が令和5年9月19日付けで審査請求人に対して行った、リボルビング払いに係る明細書の提出と利子分9,000円の支給を求める保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「原処分3」という。)及び生涯賃金3億円の支給を求める保護変更申請に対する生活保護申請却下処分(以下「原処分4」という。)をいう。)が、処分の理由付記が不十分であったことを理由として審査庁により行われた令和6年6月10日付け認容裁決によって取り消されたことを受け、処分庁の再検討を経て行われたものであるところ、本件処分1から本件処分4までに係る保護申請却下通知書には、いずれも、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知することが十分に可能な程度の理由の提示が行われていると考えられる。
したがって、本件審査請求には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却すべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和7年10月21日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和7年10月31日 調査・審議
令和7年11月14日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1)次官通知第7の1に基づけば、経常的最低生活費とは「要保護者の衣食等月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定するものであり、したがって、被保護者は経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであること。」とされ、臨時的最低生活費とは「次に掲げる特別の需要のある者について、最低生活に必要不可欠な物資を欠いていると認められる場合であって、それらの物資を支給しなければならない緊急やむを得ない場合に限り、別に定めるところにより、臨時的に認定するものであること。なお、被服費等の日常の諸経費は、本来経常的最低生活費の範囲内で、被保護者が、計画的に順次更新していくべきものであるから、一時扶助の認定にあたっては、十分留意すること。(1) 出生、入学、入退院等による臨時的な特別需要 (2) 日常生活の用を弁ずることのできない長期療養者について臨時的に生じた特別需要 (3) 新たに保護開始する際等に最低生活の基盤となる物資を欠いている場合の特別需要」とされている。
(2)局長通知第7の2(6)アにおいて、「被保護者が次の(ア)から(オ)までのいずれかの場合に該当し、次官通知第7に定めるところによって判断した結果、炊事用具、食器等の家具什器を必要とする状態にあると認められるときは、34,400円の範囲内において特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。なお、真にやむを得ない事情により、この額により難いと認められるときは、54,800円の範囲内において、特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。(ア)保護開始時において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。(イ)単身の被保護世帯であり、当該単身者が長期入院・入所後に退院・退所し、新たに単身で居住を始める場合において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。(ウ)災害にあい、災害救助法第4条の救助が行われない場合において、当該地方公共団体等の救護をもってしては、災害により失った最低生活に直接必要な家具什器をまかなうことができないとき。(エ)転居の場合であって、新旧住居の設備の相異により、現に所有している最低生活に直接必要な家具什器を使用することができず、最低生活に直接必要な家具什器を補填しなければならない事情が認められるとき。(オ)犯罪等により被害を受け、又は同一世帯に属する者から暴力を受け、生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する場合において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。」とされている。
(3)課長通知第7の問12[通学用自転車・ヘルメットの購入]において、「学童が通学に際し、交通機関がなく、遠距離のため自転車を利用する必要がある場合は、自転車の購入費を認めてよいか。また、自転車による通学に伴って、ヘルメットを必要とする場合は、ヘルメット購入費を認めてよいか。(答)その地域のほとんどすべての学童が自転車を利用している場合には、自転車の購入費を教育扶助の交通費の実費として認めて差しつかえない。また、学校の指導により、自転車を利用して通学している学童の全員がヘルメットをかぶっている実態にあると認められる場合には、ヘルメットの購入費を教育扶助の交通費の実費として認めて差しつかえない。なお、通学のため交通費を要する場合には、年間を通じて最も経済的な通学方法をとらせることが適当であるので、他に交通機関がある場合には、それとの比較において考慮すること。」とされている。
(4)課長通知第8の問23[就労に必要な自転車等の購入費]において、「被保護者が就労に必要な自転車又は原動機付自転車を購入する場合、その購入額を月割にして、その収入から必要経費として控除して差しつかえないか。(答)当該職業に必要不可欠な場合であって、社会通念上ふさわしい程度の購入費であり、かつ、その購入によって収入が増加すると認められるときは、通常、交通費、運搬費等として計上されるべき額の範囲内で必要経費として認定して差しつかえない。また、通勤用に使用する場合においても、通常、交通費等として計上される程度の額の範囲内で認定して差しつかえない。」とされている。
(5)生活保護法第12条において、「生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。」と規定され、その範囲として、同条第1号において「衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの」と、同条第2号において「移送」と規定されている。
(6)生活保護法第24条第4項において、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならないと規定されている。また、行政手続法第8条第1項及び第2項において、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないと規定されている。これらの理由提示の意義について、最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決、最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決、最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決などにおいて、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解されており、このような趣旨に鑑み、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならないとされている。
3 本件処分の妥当性について
本件処分1については、処分庁は局長通知第7の2(6)ア(ア)から(オ)までに基づき処分を行っている。本件処分2については、処分庁は課長通知第7の問12及び第8の問23に基づき処分を行っている。本件処分3については、処分庁は生活保護法第12条及び次官通知第7の1に基づき処分を行っている。本件処分4については、生活保護法第12条に基づき処分を行っている。したがって、本件処分1から本件処分4までについては、法令等に定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
4 本件処分1から本件処分4までの手続の妥当性について
(1)2(6)に記載のとおり、生活保護法第24条第4項及び行政手続法第8条第1項に基づき、申請に対する処分を行う際は処分の理由を示さなければならず、その理由の提示の意義や程度については、最高裁判所判例の判示のとおりであると考えられる。
(2)原処分1及び原処分2については令和5年7月10日に、原処分3及び原処分4については同年9月26日に審査請求が提起された。その結果、審査庁により、令和6年6月10日付けで、原処分1及び原処分2並びに原処分3及び原処分4を取り消す認容裁決が行われた。これは、いずれの処分においても、保護申請却下通知書における理由の記載が、審査請求人に当該処分がいかなる法規に基づき決定されたことであるかを了知させるに足る内容でなかったことによる判断である。なお、原処分は処分の理由付記が不十分であるという手続の違法を理由として取り消されるべきと考えられるところ、それぞれの認容裁決においては、「処分庁は、理由付記を十分に行ったうえで、改めて原処分と同様の申請却下処分を行うことは可能と考えられる」との旨が付言されている。
(3)処分庁は、上記の認容裁決を受け、〇〇年〇〇月〇〇日にケース診断会議を行った上で、同月12日に本件処分1から本件処分4までを行った。それぞれの処分の保護申請却下通知書に記載された却下の理由については、次に示すとおりである。
ア 本件処分1の理由
本件処分に当たり、照明器具の購入費用の支給は、生活保護手帳に明確な支給要件についての記載はなく、家具什器費の支給要件に当てはめて判断を行った。
家具什器費の支給は、局長通知第7の2(6)ア(ア)から(オ)までのいずれかに該当する必要があるが、申請人には転居等の事実及び災害等により最低生活に必要な家具什器を失ったという事実はない。
また、申請人は〇〇年〇〇月〇〇日より本市で生活保護を受給しており、保護開始時より照明器具を設置し、使用していることは、保護開始の際の自宅への訪問やその後の定期的な訪問でも担当のケースワーカーが実地にて確認しているところであるため、保護開始時における最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないときにも該当しない。
上記の理由により、局長通知第7の2(6)ア(ア)から(オ)までの支給要件に該当せず、次官通知第7の1に基づく経常的最低生活費でまかなうべきものであるため支給できないと判断し、却下とする。
イ 本件処分2の理由
自転車購入費用の支給は、課長通知第7の問12に該当する必要があるが、申請人は該当しない。
また、課長通知第8の問23の規定により、就労に必要な自転車を購入する場合、その購入額を月額にしてその収入から必要経費として控除して差し支えないとされている。しかし、申請人は〇〇の診断を受け、現在、〇〇〇〇にて通院治療中であり、〇〇、〇〇を受給しているため、〇〇年〇〇月〇〇日付けの稼働能力判定会議においても就労不可の判断をしている。なお、生活保護開始時より就職活動を行っているとの申し出も受けてはいない。
以上のことから、上記課長通知の支給要件には該当せず、次官通知第7の1のとおり、被保護者は経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであるため支給できないと判断し、自転車の購入に係る扶助費の申請はこれを却下とする。
ウ 本件処分3の理由
生活保護法第12条において「生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。」と規定され、その範囲として「1 衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの」、「2 移送」とされている。
次官通知第7により「最低生活費は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別等による一般的な需要に基づくほか、健康状態等によるその個人又は世帯の特別の需要の相違並びにこれらの需要の継続性又は臨時性を考慮して認定すること。」とされ、「経常的最低生活費」と「臨時的最低生活費」が定められている。
生活扶助(リボルビング払いにかかる利子)の申請については、生活保護法第12条及び次官通知第7のどちらにも該当せず、生活保護法の扶助に該当する項目がないため却下とする。
エ 本件処分4の理由
生活保護法第12条において「生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。」と規定され、その範囲として「1 衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの」、「2 移送」とされている。
本件処分に係る大学卒業者の生涯賃金である3億円の支給は、生活保護法第12条で規定する範囲に該当せず、生活保護法の扶助に該当する項目がないため却下とする。
以上のアからエまでについて、いずれも、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知することが十分に可能であると考えられる。したがって、本件処分1から本件処分4までは、生活保護法第24条第4項及び行政手続法第8条第1項に基づく処分の理由の提示が十分に行われたものであり、手続に違法な点はなく、妥当であったと認められる。
5 審査請求人の主張する「既判力」について
審査請求人は、審査請求の理由及び反論書の中で既判力について述べているが、既判力は、民事訴訟法(平成8年法律第109号)第114条第1項の規定により「確定判決」において適用されるものであり、「裁決」においては、行政不服審査法第52条第1項及び第2項の規定が適用され、裁決は、関係行政庁を拘束し、申請を却下した処分が裁決で取り消された場合は、処分庁は、当該裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならないとされている。ただし、「裁決の拘束力は、裁決の主文とその理由となる判断について生じるものであり、例えば、申請拒否処分が取り消された場合には、処分庁は、必ず申請を認容すべき拘束を受けるものではなく、裁決の趣旨に反しない限りにおいて、別の理由により、再び拒否処分をすることが妨げられるものではない。」(平成28年4月総務省行政管理局・逐条解説行政不服審査法)と解されている。
原処分1及び原処分2並びに原処分3及び原処分4についての令和6年6月10日付け認容裁決は、裁決の主文とその理由となる判断において、処分の理由の提示が不十分であるとしてこれらの原処分を取り消したものであるが、前述のとおり理由が提示された以上、本件処分1から本件処分4までは、法令等に定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。








