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令和8年度答申第1号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
(1) 審査請求人は、令和〇〇年度まで個人の事業税は非課税であったが、開業から現在に至るまで事業内容に全く変更がないにもかかわらず、令和〇〇年度から突然個人の事業税を課税された。
なお、インボイス制度開始以降は支払調書の発行元が増え、報酬の項目が「外交員報酬」から「保険代理報酬」に変更になったが、審査請求人の事業実態や報酬収受方法にはなんら変更ない。
(2) 同じ事業形態で事業を営む個人事業主の中に個人の事業税を課税されていない者が多数存在することから、〇〇が行った令和7年9月10日付け個人事業税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)は公平性・合理性を欠く。
(3) インボイス制度は消費税に関する制度であるが、インボイス制度開始に伴う契約の相手方都合による報酬支払及び支払調書発行元の変更が、個人の事業税の課税に影響するのは税法上の観点からも極めて不当である。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
(1) 審査請求人は、保険会社である〇〇及び〇〇(以下「保険会社」という。)と統括代理店である〇〇(以下「統括代理店」という。)の三者間で代理店委託契約を結び、主に損害保険及び生命保険に係る代理店業務(以下「代理業務」という。)を遂行することで、外交員報酬及び代理報酬の支払を受けていたことが、支払調書及び代理店委託契約書等から認められる。
本件代理業務は、保険会社と代理店契約を締結して、保険会社の利益追求のために行い、営利又は対価の収得を目的として行われるものであることは明らかであるし、年間を通して各月に売上(収入)が計上されていること等から、反復継続して行われているものと判断できる。また、審査請求人は、確定申告書において自らの職業を「保険代理店業」と記載しており、保険募集人の資格を保有した上で、本件代理業務を行っていることから、本件代理業務は、保険契約のための取引を代理又は媒介する業務と認められる。また、契約書から本件代理業務の業務遂行の態様が単なる従業員としての労務の提供に止まらず、独立したものであると認められる。
したがって、各種経費を自らの裁量判断のもとに自ら負担することによって、本件代理業務を遂行して収入を得る結果をもたらした審査請求人の収支の結果は、審査請求人自身に帰属するものと判断でき、審査請求人は事業を行う個人であると認められる。
(2) 審査請求人は、事業所を県内に設置し、事業所の地代家賃、水道光熱費、事業用車両の減価償却費、燃料費などの車両費を計上していることが確定申告書から認められる。代理店委託契約書においても、一部の項目(収入印紙代等)を除き、その名目に関わらず自らの裁量判断のもとに審査請求人が経費を負担している。また審査請求人は、統括代理店と共同で、保険会社との間に代理店委託契約を結び、自己の活動形式と労働時間を概ね自由に決定し、それぞれの代理店業務を営み、その対価として主に代理報酬を得ている。代理報酬は収入保険料を基に、契約書で取り決めをした割合を乗じた金額を代理店手数料として支払を受けている(歩合制)。
(3) また、本件処分に当たって、処分庁は代理業等判定基準を用いて判定を行っており、審査請求人からの聞き取りにより、報酬支払の方法、営業所等の所有(賃借)及び営業費の分担関係、活動形式と労働時間の拘束関係の3要素を網羅し、かつ、判定項目の過半数を占めることを確認し、令和〇〇年所得に係る確定申告書、支払調書及び代理委託契約書等の提出書類からも該当項目を満たすことは明らかである。
以上のことから、審査請求人の行う事業は代理業であると認められる。
(4) したがって、本件処分は、審査請求人が令和〇〇年において行った第一種事業である代理業について、法令等の定めに基づき個人の事業税を課したものであり、違法又は不当な点を認めることはできない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和8年3月6日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和8年3月16日 調査・審議
令和8年4月17日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 地方税法(昭和25年法律第226号。以下「法」という。)第72条の49の11第1項は、個人事業税の課税標準は、当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得による旨を定めている。 課税標準の算定方法として、法第72条の49の12第1項前段では、「前条第1項の当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得又は同条第2項の当該年の1月1日から事業の廃止の日までの個人の事業の所得は、それぞれ当該個人の当該年度の初日の属する年の前年中における事業又は当該年の1月1日から事業の廃止の日までの事業に係る総収入金額から必要な経費を控除した金額によるものとし、この法律又は政令で特別の定めをする場合を除くほか、当該年度の初日の属する年の前年中又は当該年の1月1日から事業の廃止の日までの所得税の課税標準である所得につき適用される所得税法(昭和40年法律第33号)第26条及び第27条(同法第165条第1項の規定によりこれらの規定に準ずる場合を含む。)に規定する不動産所得及び事業所得の計算の例によって算定する。」と規定している。
(2) 法72条の49の14第1項は、「事業を行う個人については、当該個人の事業の所得の計算上290万円を控除する。」と規定している(事業主控除)。
(3) 法第72条の2第3項は、「個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。」とされており、同条第8項第23号において、第一種事業として「代理業」を規定している。
ア 「事業」とは、資本を基礎として、利益を得る目的で、継続的に行う行為の集合体及び一定の技能、知識に基づいて利益を得る目的で継続的に行う業務をいうものとされている(財団法人地方財務協会発行自治省府県税課編「事業税逐条解説」(以下「逐条解説」という。)22頁参照)。
イ 「事業を行う個人」とは、当該事業の収支の結果を自己に帰属せしめている個人をいうものであるとした上で、他の諸法規において雇傭者としての取扱いを受けているということのみの理由で直ちに法上「事業を行う者」に該当しないとはいえないのであるが、その事業を行う形態が契約によって明確に規制されているときは、雇傭関係の有無はその契約内容における事業の収支の結果が自己の負担に帰属するかどうかによって判断するとしている(「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」(平成22年4月1日付け総税都第16号総務大臣通知第3章・第1節・第1・1の5)。
ウ 「第一種事業」とは、原則として商工業等いわゆる営業に属するもので、「営業」とは、継続的集団的に同種の営利行為を行うことをいう(逐条解説35頁)。
(4) 代理業の定義は、法律上で規定されていないが、通常、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のために平常、その営業の部類に属する取引を代理又は媒介する事業をいうものと解釈されている(逐条解説44頁及び商法(明治32年法律第48号)第27条)。
本県では、代理業の判定に当たり、営業所等の所有(賃借)関係、営業費の分担関係、手数料が定額(定率)報酬か、自己の活動形式と労働時間を自由に決定し得るか等を総合して決定されている。
また、昭和36年に自治省より代理業等判定基準案が示されており、昭和40年4月12日付け自治府第34号東京都主税局長あて自治省税務局府県税課長回答により、「当該判定基準案による判定結果が著しく不合理であると認められない限り、これによることとしてもさしつかえない。」とされ、その内容は次のとおりである(7項目以上該当する場合に、代理業と認定)。
ア 報酬支払の方法
・事業報酬は、歩合制となっている(項目1)
・必要経費の割合が概ね30~40%になっている(項目2)
・所得税の支払調書の内訳が代理店報酬となっている(項目3)
・社会保険料を会社が一部負担していない(項目4)
イ 営業所等の所有(賃借)及び営業費の分担関係
・事務所、店舗、自動車等は自己の名義で所有(賃借)している(項目5)
・事業のように供する設備の維持費及び光熱水費、電話料、消耗品費等は、自己負担している(項目6)
・家族専従者若しくは自己が雇用している使用人がいる(項目7)
・自己の業務の一部を自己の権限で他人に肩代わりさせている(項目8)
・会社が正規の社員として認め、雇用者としての責任を負うものとしていない(項目9)
ウ 活動形式と労働時間の拘束関係
・毎日の勤務時間等が拘束されており、例えば休暇等について会社の承認を得る事を要するものとされていない(項目10)
・自己の属する会社の取引を行うかたわら他の事業を行い、又は他の事業のための取引を行うことが許されている(項目11)
・会社が負担すべき費用について自己がその一部を負担し、又は不足額を立て替え、あるいは前途された費用資金の余剰を収受することがある(項目12)
・会社の命令により現在の部署から他の部署に配置転換させられることがある(項目13)
本県では、代理業に該当するか否かについて疑義がある場合には、当該基準を基にして、報酬支払の方法、営業所等の所有(賃貸)及び営業費の分担関係、活動形式と労働時間の拘束関係の3要素を網羅し、かつ、判定項目の過半数を占める場合に、代理業として判定されている。
(5) 外交員に対する課税の可否について、過去に生命保険外交員に関する課税について、関係府県と自治省との間に照復が行われ、代理店等でない限り課税対象外と示された(行政実例「個人事業税(生命保険外交員に対する課税)の疑義について(昭和29年8月14日自庁府発第62号福井県総務部長あて自治庁府県税課長回答))。
本県では、外交員が代理店等を営んでおり、上記(4)の代理業等判定基準を満たすと認められる場合は、当該代理店業務に係る所得を課税対象とされている。
(6) 保険業法(平成7年法律第105号)第275条第1項は、同法第276条の登録を受けた生命保険募集人(特定保険募集人)がその所属保険会社のために行う保険契約の締結の代理又は媒介に係る保険募集を行う場合(1号)等を除くほか、何人も保険募集を行ってはならないとしている。
3 本件処分の妥当性について
(1) 審査請求人は、代理業務を遂行することで、外交員報酬及び代理報酬の支払を受けていたことが、支払調書及び代理店委託契約書等から認められる。
本件代理業務は、保険会社と代理店契約を締結して、保険会社の利益追求のために行い、営利又は対価の収得を目的として行われるものであることは明らかであるし、年間を通して各月に売上(収入)が計上されていること等から、反復継続して行われているものと判断できる。また、審査請求人は、確定申告書において自らの職業を「保険代理店業」と記載しており、保険募集人の資格を保有した上で、本件代理業務を行っていることから、本件代理業務は、保険契約のための取引を代理又は媒介する業務と認められる。また、契約書から本件代理業務の業務遂行の態様が単なる従業員としての労務の提供に止まらず、独立したものであると認められる。
したがって、各種経費を自らの裁量判断のもとに自ら負担することによって、本件代理業務を遂行して収入を得る結果をもたらした審査請求人の収支の結果は、審査請求人自身に帰属するものと判断でき、審査請求人は事業を行う個人であると認められる。
(2) 審査請求人は、事業所を県内に設置し、事業所の地代家賃、水道光熱費、事業用車両の減価償却費、燃料費などの車両費を計上していることが確定申告書から認められる。代理店委託契約書においても、一部の項目(収入印紙代等)を除き、その名目に関わらず自らの裁量判断のもとに審査請求人が経費を負担している。また審査請求人は、統括代理店と共同で、保険会社との間に代理店委託契約を結び、自己の活動形式と労働時間を概ね自由に決定し、それぞれの代理店業務を営み、その対価として主に代理報酬を得ている。代理報酬は収入保険料を基に、契約書で取り決めをした割合を乗じた金額を代理店手数料として支払を受けている(歩合制)。
(3) また、本件処分に当たって、処分庁は代理業等判定基準を用いて判定を行っており、審査請求人からの聞き取りの結果並びに令和〇〇年度所得に係る確定申告書、支払調書及び代理委託契約書等の提出書類から確認した結果は次のとおりである。
ア 報酬支払の方法
審査請求人の代理報酬は収入保険料を基に、契約書で取り決めをした割合を乗じた金額を代理店手数料として支払を受けていることから歩合制になっている(項目1)。また、〇〇の発行した支払調書には「損害保険代理報酬」と記載され、社会保険料は保険会社及び統括代理店が負担している事実はない(項目3、項目4)。
したがって、3項目を満たすことが確認できる。
イ 営業所等の所有(賃借)及び営業費の分担関係
審査請求人は、事業所を県内に設置し、事業所の地代家賃、水道光熱費、事業用車両の減価償却費、燃料費などの車両費を計上していることが確定申告書から認められる(項目5、項目6)。また、契約書の記載内容によれば、審査請求人は、保険会社又は統括代理店から正規の社員として認められておらず、雇用主としての責任を負うものともされていない(項目9)。
したがって、3項目を満たすことが確認できる。
ウ 活動形式と労働時間の拘束関係
審査請求人は、統括代理店と共同で、保険会社との間に代理店委託契約を結び、自己の活動形式と労働時間を概ね自由に決定し、それぞれの代理店業務を営み、その対価として主に代理報酬を得ており、保険会社及び統括代理店から配置転換をさせられることはない(項目10、項目13)。
したがって、2項目を満たすことが確認できる。
以上から、報酬支払の方法、営業所等の所有(賃借)及び営業費の分担関係、活動形式と労働時間の拘束関係の3要素を網羅し、かつ、判定項目の過半数(13項目中8項目該当)を占めることを確認できる。
(4) したがって、本件処分は、審査請求人が令和〇〇年において行った第一種事業である代理業について、法令等の定めに基づき個人の事業税を課したものであり、違法又は不当な点を認めることはできない。
(5) 審査請求人は、開業から現在に至るまで事業内容に全く変更がないこと及び令和〇〇年度まで非課税であったことをもって、本件処分は不当であると主張する。
しかしながら、本件処分は審査請求人の令和〇〇年所得に係る事業内容が代理業に該当しているため、法令等の定めに基づき、適切に個人の事業税が課されたものであり、違法又は不当な点があるとはいえない。
また、処分庁は令和〇〇年所得に対する判定に当たっても、本件処分と同様に代理報酬分の所得については代理業として認定しており、当該年度において審査請求人に個人事業税が課されなかったのは、当該所得の額が事業主控除の額を下回っていたからにすぎないのであるから、公平性を欠くなどの特段の事情も見られない。
(6) また、審査請求人は、審査請求人と同様の事業形態で事業を営む個人の事業主の中に個人の事業税を課税されていない者が多数存在することから、公平性・合理性を欠く処分であると主張する。
しかしながら、上記2(4)に見たように、本県では、代理業に該当するかについて疑義がある場合には、統一的な取扱いとして、代理業等判定基準を用いて判定がなされている。
また、本件処分においても同様の取扱いを行っていることが認められるため、本件処分が公平性・合理性を欠くとはいえない。
(7) さらに、審査請求人は、インボイス制度開始に伴う保険会社並びに統括代理店都合による報酬支払及び支払調書発行元の変更が、個人の事業税の課税に影響することは、税法上の観点からも極めて不当である旨主張する。
しかしながら、代理業に該当するか否かは、上記3(2)、(3)で見たように、複数の観点から総合的に判定がなされており、支払調書のみで判定しているわけではない。
また、審査請求人の主張どおり、実態としては報酬支払の方法に変更がなく、令和〇〇年所得に係る支払調書がインボイス開始前と同様に外交員報酬であったとしても、事業報酬が歩合制となっている点及び会社が社会保険料を負担していない点をもって、代理業等判定基準における報酬支払の方法の要素を満たしているといえる。
したがって、インボイス制度の開始に伴う保険会社並びに統括代理店都合による報酬支払及び支払調書発行元の変更が、本件処分における代理業の判定に影響を与えたとはいえない。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。








