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令和8年度答申第4号

更新日:2026年8月21日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

(1) 審査請求書における主張

 審査請求人が留置されたことを理由に生活保護を停止することは、憲法第13条、第14条、第25条及び第99条並びに生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第2条、第5条、第9条、第12条第1項、第25条及び第56条に抵触、矛盾、反する。

 生活保護停止の理由が留置によることは法には明記されていない。

 法第9条に基づき、審査請求人の健康状態や世帯の実際に必要な相違の考慮が必要である。

審査請求人は、経済的に急迫、逼迫している。具体的には、裁判所経費が捻出できないこと、治療途中であり、食について栄養価の面で不安や不満があること、合併症でつらいので市販薬等を購入したいことが挙げられる。

(2) 反論書における主張

 弁明書で昭和38年の通知を記載しているが、令和〇年現在の社会通念や人権意識からはかけ離れていると同時に、審査請求人の主張や当該規定条文に反し、そぐわない。

 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号。以下「刑事収容施設法」という。)第182条における被留置者の処遇の規定は、令和7年現在の社会通念、人権意識並びに憲法及び法の各規定から明らかにかけ離れている。運動は毎日あるが、状況によって時間が削られ、入浴に至っては、石鹸支給は他人の使い残したもの、シャンプーはボトルを1回ワンプッシュ分のみ、歯磨き粉も他人の使い残したものであり、個別の事情等には対応していない。また、時間は15分と短い。

 刑事収容施設法第186条における衣類及び寝具については、シーツ交換は2週間に一度の割合で不衛生である。また、審査請求人には持病があり、強制退院され、再逮捕されたという経緯があるため、体調は不安定であり、現在は再発兆候がある。よって、衛生上問題があると考える。食事及び湯茶については、持病に対して満足できる内容とはいえず、体調管理安定のためには補食や甘味品が不可欠と考える。医療上及び健康上満たされるには生活扶助の支給が絶対的に必要である。

 次に日用品、筆記具その他物品については、必要なノート等、裁判所経費は国選弁護人が給付してくれるのだが、差別されており、何度嘆願しても給付してくれず、全く困り果てている。また、裁判は1件ではなく、外での生活上のものも抱えており、停止解除を願う。また、薬等も当番医師に差別されており、持病の細かい対応もしてくれず、一般薬を購入しなければ、生活上とても耐えられない。

 次に、「生活保護問答集について」(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)とは一体何なのかということ。法的根拠や強制力があるのか。相対的に当該処置の適法特性の根拠としては、審査請求人の主張のとおり、被留置者でも一般市民の延長線上として身分上の扱いをするのが、令和〇年現在の社会通念や人権意識を憲法や法と照らし合わせても合憲的、合理的であり、たとえ刑事行政の一環として措置されるべきとしても同じと考える。

 罪によって嫌疑をかけられた者、逮捕勾留されている者は、その確定判決を受けていないにもかかわらず、保護停止処分というのは、偏見と差別に基づくものであり、重大な人権侵害(幸福追求権や法の下の平等、最低限度の文化的な生活の保障等)である。この処分の決定をした当該者の意識が明らかに、偏見差別に基づいたものであり、この意識で処分庁が当該処分決定したのは明白で疑いようがない。また、弁明書にはどこにも被留置者だからといって、保護の停止、廃止という法的根拠の明示がない。間接的に意味合いを含ませる、解せる条文等はあっても、それらは憲法や法令にしっかりと規定され、基づいたものではない。

 また、法第62条第4項の弁明の機会の付与の規定が、全く適用されておらず、これはこの法律において中立公正かつ無差別平等な処分とはいえない。不適法であり、審理無効、停止処分の解除、支給再開が妥当である。つまり、この処分は明確で絶対的な法的根拠がなく、処分庁、処分決定に関わる者らによる偏見、差別に基づいた違憲、違法な処分とはっきりいえる。よって、保護の再開、扶助の支給、生じた損害の支払を請求する。

(3) 主張書面における主張

 審査請求人は、「入院すれば釈放。再逮捕はない。」と〇〇警察署員の約束の下入院した。しかし、再逮捕により約束は嘘となり、5カ月にも及び違法な監禁、拘束であると判明した。よって、生活保護の受給についても、〇〇、病院、警察の共謀による犯罪がある疑いが大きい。本来、個人情報保護法で守られるはずの受給情報が、本人も〇〇警察署員に話していないのに、照会、回答等があったのは不自然、不可解である。個人情報保護法違反であり、別件で調査し、詳しい経緯を記載した報告書面の提出を至急求める。

 釈放されていない被疑者の身分で入院させられていたと判明したことから、〇〇の対応、生活保護申請、受給に不正があったと考えるのが合理的かつ自然である。よって、このことを全解明、調査し、疑いの無いよう証明を求める。

 本件処分は手続的に尊重されていないことも、人権侵害である。

 本件処分は、明らかに審査請求人の社会的地位、再逮捕、留置により生じた身分による差別意識に基づいた人権侵害である。審査請求人は冤罪を主張し、現在も裁判を続けており、確定判決や実刑執行が出る前に停止するということは、刑事行政の一環として保護が必要ない以前に、審査請求人の人権を著しく侵害する。受給資格、区別化など具体的な法による明文もなく、曖昧な社会通念や犯罪による非難、中傷的感情に基づく判断といえる。

 裁判における自己弁護的費用、訴訟費用というのも、憲法第32条の裁判を受ける権利として保障されているように、日本国における現代社会生活通念上、最低限度の生活を営む権利として内包して然るべきであり、本件処分によりこの権利が著しく侵害されており、違法、違憲である。

 被留置者であることは、刑事行政の一環として最低限度の生活ができているとして他ならないが、実質的には現代日本社会における「健康で文化的な最低限度の生活」を満たしているとは到底いえない。特に主張しているとおり、医療について、また、裁判等訴訟活動費もその限度に内包していることが必然的、合理性をもって当然といえる。違法に逮捕されたり、事故にあったりして、訴訟費、弁護士費用等が保障、受給されないのは限度条件を満たしているとは到底いえない。

 処分庁担当職員らは、地方公務員であるから、生活保護受給者たる審査請求人に対して、(社会的に最も弱者に属する)再逮捕、被留置者による社会的地位、身分の変化への十分な擁護をすべき義務があるはずだが、実質は審査請求人の主張の冤罪や確定判決、実刑執行まで何ら躊躇なく冷酷、冷淡にも本件処分を行った。このことは、憲法第99条に違反する義務責任的不作為、誠実義務違反である。

 本件処分は裁量の逸脱又は法的に無効、意味をなさないし、現に受給している権利に対する重大な侵害である。入院が再逮捕予定の入院だったと判明、つまり、留置場で拘留されていたと変わりないのであれば、再逮捕、留置されたからといって、受給停止にするというのは身勝手極まりない権利濫用といえる。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 法令上、被留置者は、生活維持に必要な衣食住に加え、医療についても公的責任により保障されており、最低限度の生活が制度上確保されていることから、当該期間中は生活保護による扶助を要しない状態、すなわち要保護性を欠くものと評価されるものであって、当該期間は、法第26条にいう「保護を必要としなくなつたとき」に該当し、保護を停止することが相当である。

 弁明書記載の経緯によれば、令和〇年〇月〇日、〇〇警察署留置管理課から処分庁に対して、審査請求人を逮捕及び留置している旨の連絡があり、同日、〇〇警察署長に対して照会書を送付した旨を記載している。当該照会書は、法第29条第1項に基づく官公署への依頼であると推認される。その後、物件として提出された「生活保護法関係事務照会書」のとおり、同月〇日に〇〇警察署長から、審査請求人を同月〇日から留置している旨の書面回答を得ている。これらの記載内容及び物件の内容は具体的であり、かつ法に基づく官公署への照会とそれに対する回答内容の記載であることからすると、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第32条が地方公務員に法令遵守義務を課していることとも併せて、審査請求人が逮捕及び勾留されていたことは事実であると認められるものである。以上より、これら推認される事実を基に処分庁の行った本件処分は、根拠及び前提となる事実の判断に欠けるものではなく、妥当性を有するものである。

 審査請求人は、法第62条第4項が定める弁明の機会の付与を受けていない旨を主張するが、当該定めは、同条第1項に記載のとおり、法第27条を根拠とした福祉事務所から被保護者に対する指導等に違反したこと等を理由とする法第62条第3項に基づく生活保護の変更、停止又は廃止の処分を、福祉事務所が行おうとする際に弁明の機会を義務的に付与する定めである。

 本件処分は、法第26条に基づく生活保護の停止の処分であり、審査請求人の主張は根拠を欠くものである。

 なお、審査請求人は上述のほかにも種々主張するが、これらの主張は、いずれも本件処分の適法性判断に影響を及ぼすものとは認められず、採用することはできない。

 以上のとおり、本件処分に係る審査請求には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。

 令和8年7月10日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受

 令和8年7月17日 調査・審議

 令和8年8月21日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件に係る法令等の規定について

(1) 法第4条第1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定している。

(2) 法第26条は、「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。(後略)」と規定している。

(3) 「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)第10問12において、保護を停止すべき場合は、「(1) 当該世帯における臨時的な収入の増加、最低生活費の減少等により、一時的に保護を必要としなくなった場合であって、以後において見込まれるその世帯の最低生活費及び収入の状況から判断して、おおむね6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想されるとき。」、「(2) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、一応保護を要しなくなったと認められるがその状態が今後継続することについて、なお確実性を欠くため、若干期間その世帯の生活状況の経過を観察する必要があるとき。」と規定されている。

(4) 刑事収容施設法第182条第1項において、「被留置者の処遇(運動、入浴又は面会の場合その他の内閣府令で定める場合における処遇を除く。)は、居室(被留置者が主として休息及び就寝のため使用する場所として留置業務管理者が指定する室をいう。以下この条及び第212条において同じ。)外において行うことが適当と認める場合を除き、昼夜、居室において行う。」と規定している。また、刑事収容施設法第186条第1項では、「被留置者には、次に掲げる物品(書籍等を除く。以下この節において同じ。)であって、留置施設における日常生活に必要なもの(第188条第1項各号に掲げる物品を除く。)を貸与し、又は支給する。一 衣類及び寝具、二 食事及び湯茶、三 日用品、筆記具その他の物品」と規定されている。さらに、刑事収容施設法第199条では、「留置施設においては、被留置者の心身の状況を把握することに努め、被留置者の健康及び留置施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。」と規定されている。

(5) 問答集問7-15において、被保護者が被疑者として警察署に留置、拘束された場合は、刑事行政の一環として措置されるべきものであることから、最低生活費の計上は必要ないとされている。

3 本件処分の妥当性について

 生活保護制度は、法第1条に定めるとおり、「日本国憲法第25条の規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長する」ことを目的とする制度である。国が全国一律に最低生活保障を行う制度であることから、地方自治の固有事務とは異なり、生活保護の実施事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号に規定する法定受託事務として、福祉事務所設置主体が行う。このことから、生活保護事務については、同法第245条の9第1項及び第3項の規定による処理基準、同法第245条の4に規定される技術的な助言等を通じて、国の一定の関与が予定されているものである。

 したがって、生活保護の実施に当たっては、単に法及びこれに基づく政令・省令・告示のみならず、厚生労働大臣が定める処理基準、技術的助言も含めて体系的判断がなされるべきものであり、個別具体的事情に応じて行われる高度に専門的かつ技術的な判断を含むものであることから、福祉事務所に一定の裁量が認められる。当該裁量の行使については、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合や、重要な事実誤認がある場合等でない限り、違法となるものではなく、本件処分もこれらに基づいて、処分時点の事実を基に妥当性を検討する。

 法第4条第1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めており、他の公的制度により最低限度の生活が維持されている場合には、要保護性は否定される。その場合には法第26条が「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。」と定めているとおり、保護の停止又は廃止を検討することとなる。

 これに関し、弁明書に記載のとおり、生活保護法に関する技術的助言である問答集の問7-15は、被保護者が警察署に留置、拘束された場合は刑事行政の一環として措置されるべきものであるから最低生活費の計上は必要ない旨回答している。

 この措置の内容について、刑事収容施設では、留置施設における被留置者の生活について、刑事施設における被収容者の場合と同様、食事、被服及び居住等の生活維持に必要な措置が公的責任により包括的に講じられることとされている(刑事収容施設法第204条において準用する刑事収容施設法第57条から第59条まで及び第186条)。また、医療についても、被留置者の健康の保持及び留置施設内の衛生確保のため必要な措置を講ずべきことが定められ(刑事収容施設法第199条)、健康診断の実施の義務付け(刑事収容施設法第200条)、負傷又は疾病等の場合には医師による診療を受けさせなければならない旨が規定されている(刑事収容施設法第201条)など、被留置者について必要な医療を受けられることが制度上確保されている。

 このように、被留置者は、生活維持に必要な衣食住に加え、医療についても公的責任により保障されており、最低限度の生活が制度上確保されていることから、当該期間中は生活保護による扶助を要しない状態、すなわち要保護性を欠くものと評価されるものであって、当該期間は、法第26条にいう「保護を必要としなくなつたとき」に該当し、保護を停止することが相当である。

 次に、処分庁の判断の基礎となった事実について検討する。弁明書記載の経緯によれば、令和〇年〇月〇日、〇〇警察署留置管理課から処分庁に対して、審査請求人を逮捕及び留置している旨の連絡があり、同日、〇〇警察署長に対して照会書を送付した旨を記載している。当該照会書は、法第29条第1項に基づく官公署への依頼であると推認される。その後、物件として提出された「生活保護法関係事務照会書」のとおり、同月〇日に〇〇警察署長から、審査請求人を同月〇日から留置している旨の書面回答を得ている。これらの記載内容及び物件の内容は具体的であり、かつ法に基づく官公署への照会とそれに対する回答内容の記載であることからすると、地方公務員法第32条が地方公務員に法令遵守義務を課していることとも併せて、審査請求人が逮捕及び勾留されていたことは事実であると認められるものである。以上より、これら推認される事実を基に、処分庁の行った本件処分は、根拠及び前提となる事実の判断に欠けるものではなく、妥当性を有するものである。

 審査請求人は、法第62条第4項が定める弁明の機会の付与を受けていない旨を主張する。同項は「前項の規定により保護の変更、停止又は廃止の処分をする場合には」と規定しており、同条第3項は「前2項の規定による義務に違反したとき」と規定している。

 本件処分は、法第26条の規定によるものであり、法第62条第1項及び第2項の規定による義務に違反したことを理由にするものではないため、同条第4項の弁明の機会の付与は必要ない。したがって、審査請求人の主張は根拠を欠くものである。

 なお、審査請求人は、ほかにも種々主張するが、本答申の結論を左右するものではない。

第6 結論

 以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。

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