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中国・上海市調査概要報告書

 国際戦略対策特別委員会 委員長 久保田 順一郎

 下記の日程で群馬県上海事務所設置予定地及び周辺環境調査を行ったのでその概要を報告する。

調査期日

 平成24年11月6日(火曜日)~8日(木曜日)

調査場所

 中国上海市 群馬県上海事務所設置予定地及び市内周辺地域

調査参加者

 特別委員会委員及び県執行部関係者

調査目的

 群馬県企画部国際戦略課が現地機関として設置を予定している中国・上海市の事務所開設現場および周辺環境を中国の現場に出向き調査を行うこと。

調査理由

 県議会は県行政の各施策が正しく執行されているかを監視する権能を有するものであり、来年4月に開設予定である群馬県にとって初めての海外事務所の設置に向け、その開設が適当と認められるものであるかどうか、現地に出向いてその実態を調査把握する必要がある。
 事前の第三者審査会でも、その必要性を認める結論が出され、国際化が進展する中で、変動の激しいアジア経済状況の下、以下の目的をもって調査を行うものである。

  1. 外国人観光客の群馬県への誘客促進に関すること
  2. 農畜産物等の海外販路拡大に関すること
  3. 県内企業の海外ビジネス展開の支援に関すること

報告

 まず、「群馬県上海事務所の開設する場所」等について報告する。
(関連訪問先)(1)在上海日本国総領事館(2)茨城県上海事務所
 群馬県上海事務所の予定地は、上海市旧市街の中心地(古北新区)にある国際貿易センター(上海国際貿易中心)と呼ばれる高層ビル内で、総領事館の2ブロック隣にある。また、当ビルは97%の入居率で70%は日系企業が入居しているという状況であり、同ビルには15道府県・1市の事務所が既に入居し、近辺は日本関係事務所の集中する地域である。
 訪問当日はまだ内装工事中であり、来年の4月に向けては工期が早いと感じたが、施工者の話では中国資材では信頼性が無く、全部日本からの取り寄せで行うとのことであって、これもやむを得ないことと感じた。床面積は約66平方メートルと少し狭く感じたが、不動産価格の高騰の中、入居費月額30万円であって、大広間の他県事務所雑居状態より効率的であり、価格的にも有利であるとの説明を受けた。窓から望むと総領事館の庭にあるパラボラアンテナがよく見え、地上24階の明るい間取りであり、情報収集も効率的に行える周辺環境が整い、群馬県の事務所設置場所としては有利な適所であると考えられた。
次に、外国人国観光客の群馬県への誘客促進に関して報告する。
 総領事(泉裕泰)のブリーフィングを受けたが、「日本のエキセントリックな報道とは全く異なるが、中国人は基本的に日本に対しては大変友好的であり、健康ブームで温泉が好きであるが、中国国内には沸かし湯の温泉が1カ所しかない。また、日本のものや日本での買い物が好きである。」と説明された。この事は訪問先のほとんど総ての方々がその様に説明しており、国内報道との格差の大きさに驚くものであった。
 また、世界博覧会後の経済の冷え込みや不動産バブルが懸念されるが、総領事によると、今はバブリーだが、長期的なGDPの伸びは将来もっと大きくなるとした。日本の人口の10倍もある国が自由経済圏に参入しているのであるから、当然GDPの伸びも大きくなることは容易に予測できるものである。
 また、上海総領事館での日本へのビザ発行数は世界各国都市でトップの数であり、中国全体の4割を発行(最多)していると言う。その中で、観光誘致に関与する一例を述べているが、その例は注目に値する。中国からの訪日はオーシャンロード航路をクルーズ船で日本へ向かうとのことである。中国旅行者にとっては、秋葉原などで大量の買い物をした家電製品や日本製品の持ち帰りの費用を考えており、船で帰るほうが輸送費がかからなくて済むとのことである。
 また、茨城県上海事務所での説明では、従前からの茨城県特有の中国との関係があり、朱舜水と徳川家との関係による友好関係を推進、茨城県日中友好協会の活動の一環では青少年交流事業として上海での予選会を青年部が行いロックバンド大会(余よう市)を実施、FHC:大規模食品展やWTF:World Travel Fairにユルキャラを活用、観光商談会の支援を行っている。茨城県人会は150~170人が情報交換会や親睦会活動を定期的に行っているとのことである。様々な活動を通じて、進出企業や県人会支援を活発に行っている様子が覗えた。ちなみに事務所設置を行った最も早い県が茨城県である。
 第3日目のJTB上海・中村社長からはこの点、より詳細で具体的な説明を受ける事ができた。
 結論としては、群馬は関東各県同様に東京圏に近く、温泉は豊富である。今後の観光誘致も空港のない県では県同士の地域連携を行い、かつ中国側との粘り強い交流活動により期待できるものとなるが、群馬県が海から遠い県であることは今後の検討材料となる。
 次に、県内企業の海外ビジネス展開の支援に関する点について報告する。
 泉総領事によると、上海進出企業は約8,800社、在住日本人学生約3,000人を含め約56,000人の日本人が上海には在住しているとのことである。また、現地の日本商工クラブ:約2400社/上海 (北京:約700社)であり、隣接省の江蘇州、浙江省、安徽省、江西省を含めると約75,000人、約20,000社の日本の会社が進出しているとのことである。
 ある委員からは「群馬県は中国に人脈は少ないのではないか」との質疑があったが、総領事は、「そんなことはないが、県としては余り知られていない。その点、静岡県は上手くやっておりトップ交流を図っている。」ということである。
 また別の委員からは「中国は一枚岩でないのではないか」との質疑があったが、「今までは第2世代の農民工であったが、今は第3世代の農民工になっている。これらの世代は国内制度で都市部では戸籍がとれないため、格差の温床の1つである。また、職業種で時給に大差がつく。都市が農村を収奪しているといわれている。大学が多すぎて就職や給与体系に差別があり。大学を出ても就職できず、非エリート扱いに対する差別に不満が内在し、“アリ族”や“ネズミ族”を生んでいる。中産階級の特権批判が基本に今回のデモに繋がっている。」との説明を受けた。
 また、訪問した「信泰鹿島電子(上海)有限公司」では、鹿島保宏(会長)、張小妹(副総経理)、石野正倉(経理)他11名+の大勢で対応していただき、製造ラインの見学をすることが出来た。当該企業は、EMS(受託製造サービス)事業やTPS(業務用システム基盤)事業等の受注生産等を行う、群馬県に本社を置く製造会社である。生産ラインには多くの女子社員が従事していたが、基板高密度実装工程が基本であるので、平均年齢20~23歳の若い従業員が必要であり、目がよい世代に限定される中、会社にとって「人力資源が要」であるとの説明を受け、日本に対しては過剰報酬である旨を言われていた。
 今回は日程の関係で1社の訪問が限界であったが、各業界の経営の現場は国内とは全く異なる雇用環境に現地スタッフを採用し、会社が一体となってがんばっている様子がうかがえたのは頼もしい限りであり、群馬県事務所としても早くその機能を果たせる事を期待したい。鹿島会長には感謝したい。

感想

 今回の中国・上海市の調査では、予算的制約により日程をタイトなものにせざるを得ず、ぎりぎりの出発時間と帰路時間を設定した。正味2日間の日程であったが、密度は濃く各委員には予想以上の成果を持ち帰ることが出来たものと思われる。しかし、計画立案から渡航準備までの工数や外交等の相手先要件への配慮など、時間と費用を単純に切り詰めるだけの一元的な考えでは済まないものもあり、その効率性を考えると今後の計画の検討課題となるものが多々見受けられた。いずれにしても現地に出向き、生きた情報を入手することの重要性を再認識するものであった。
 以上の様な観点から国内を振り返る。
 日本は2000年以降、総理府のミレニアム計画により高度情報化社会を目指し、現在はユビキタス社会の到来を迎え、小学生からお年寄りまで携帯電話やスマートフォンが手放せない状況下にあり、一方、メールによる弊害は、従前より小学生のいじめの原因の1つに今も数えられている。また、ツイッターやフェイスブック等の個々人の結びつきの手段や仮想コミュニティの形成、距離を考慮しなくて良い愛好会の形成など、新たな社会グループ化の現象を生み出している。
 その様な中で、操作方法等に偏ったこれまでの情報リテラシーの立ち遅れは、ネット上の情報の氾濫と情報内容の極端なまでの質の低下を生み出してきた。ネットワーカーが主張する「知ることの権利」の乱用は、ウイルスによる社会混乱や子供達への深刻な被害をもたらしていることも事実であろう。電子メールを連絡手段としてだけにこれを考えるならば、ビジネスでも公的社会においても電話・Fax以上の有効性を持つが、文書理解力や表現力の未熟な利用者にとっては両刃の剣であり、不必要な確執を生む原因になる。韓国社会や初期の企業内ネットワークの例に見るように、社会や組織崩壊の一因にもなっていることは否めない。そこで、インターネットの世界が仮想現実の世界にあることは、ICT社会の忘れてはならない基本である。旧来より言われている「百聞は一見にしかず」という言葉は、現在のマスメディア偏重の手を抜きたがる情報化社会の問題点を如実に指摘するものであろう。
 その様な観点から、今回の中国・上海市の訪問は政治的に厳しい状況の下、現場に行っての状況把握の重要性を再認識するに至った。今後の委員会活動で各般に渡る議論を展開したい。