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議第1号議案(平成27年第1回定例会)
群馬県手話言語条例
手話は、物の名前や抽象的な概念等を手指の動きや表情を使って視覚的に表現する言語であり、ろう者の思考や意思疎通の際に用いられている。
わが国の手話は、明治時代に始まり、ろう者の間で大切に受け継がれ、発展してきた。しかし、発音訓練を中心とする口話法の導入により、昭和八年にはろう学校での手話の使用が事実上禁止されるに至った。当時のろう教育は、手話とろう者に対する理解が乏しかったため、結果的に十分に手話を使う権利や、少なからずろう者の尊厳が損なわれてきた。
手話の普及を図るため、戦後間もない昭和二十二年五月に、全国から二百人以上のろう者が群馬県の伊香保温泉に集い、これを出発点に全国各地へ手話の普及活動を展開させ、今に至っている。
現在では、憲法や法律に手話を規定する国も増えており、平成十八年に国際連合総会で採択された障害者の権利に関する条約において、言語には手話その他の非音声言語を含むことが明記された。そして、わが国でも平成二十三年に改正された障害者基本法において言語に手話を含むと規定され、平成二十六年には障害者の権利に関する条約が批准されている。
群馬県では、平成十五年に人にやさしい福祉のまちづくり条例を制定し、障害者への理解と共生を推進してきている。そこで、手話は言語であるとの認識に立ち、県民に広くろう者と手話に対する理解を広め、ろう者の人権を尊重し、日常生活や社会生活を安心して送り、ろう者とろう者以外の者が互いを理解し共生する「まちづくり」の展開を目指し、更に、等しく全ての障害者への理解と共生社会の実現に寄与すべくこの条例を制定する。
目的
第一条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話に関する基本理念を定め、県、市町村、県民及び事業者の責務及び役割等を明らかにするとともに、手話に関する施策の総合的かつ計画的な推進に必要な基本的事項を定め、もってろう者とろう者以外の者が共生し、また、等しく全ての障害者福祉の向上に寄与することのできる地域社会を実現することを目的とする。
手話の意義
第二条 手話は、ろう者が自ら生活を営むために使用している独自の体系を持つ言語であって、豊かな人間性を涵(かん)養し、及び知的かつ心豊かな生活を送るための言語活動の文化的所産であると理解するものとする。
基本理念
第三条 ろう者とろう者以外の者が、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生することを基本として、ろう者の意思疎通を行う権利を尊重し、手話の普及を図るものとする。
県の責務
第四条 県は、市町村その他の関係機関と連携して、ろう者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるようなものの除去について必要かつ合理的な配慮を行い、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に努めるものとする。
2 県は、ろう者及び手話に関わる者の協力を得て、この条例の目的及び基本理念に対する県民の理解を深めるものとする。
市町村との連携及び協力
第五条 県は、この条例の目的及び基本理念に対する県民の理解の促進並びに手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備に当たっては、市町村と連携し、及び協力するよう努めるものとする。
県民の役割
第六条 県民は、この条例の目的及び基本理念を理解するよう努めるものとする。
2 ろう者は、県の施策に協力するとともに、この条例の目的及び基本理念に対する県民の理解の促進並びに手話の普及に努めるものとする。
3 手話に関わる者は、県の施策に協力するとともに、手話に関する技術の向上、この条例の目的及び基本理念に対する県民の理解の促進並びに手話の普及に努めるものとする。
事業者の役割
第七条 事業者は、ろう者が利用しやすいサービスを提供し、ろう者が働きやすい環境を整備するよう努めるものとする。
(計画の策定及び推進)
第八条 県は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第十一条第二項の規定による群馬県障害者計画において、手話が使いやすい環境を整備するために必要な施策について定め、これを総合的かつ計画的に推進するものとする。
手話を学ぶ機会の確保等
第九条 県は、市町村その他の関係機関、ろう者及び手話に関わる者と協力して、県民が手話を学ぶ機会の確保等に努めるものとする。
2 県は、手話に関する学習会を開催する等により、その職員が手話の意義及び基本理念を理解し、手話を学習する取組を推進するものとする。
手話を用いた情報発信等
第十条 県は、ろう者が県政に関する情報を速やかに得ることができるよう、手話を用いた情報発信に努めるものとする。
2 県は、ろう者が手話を使い、手話による情報を入手できる環境を整備するため、手話通訳者の派遣、ろう者等の相談を行う拠点の支援等に努めるものとする。
手話通訳者等の派遣体制の整備
第十一条 県は、手話通訳者等及びその指導者の養成及び研修に努め、市町村と協力して、ろう者が手話通訳者の派遣等による意思疎通支援を受け入れられる体制の整備及び拡充に努めるものとする。
学校における手話の普及
第十二条 聴覚障害のある幼児、児童又は生徒(以下「ろう児等」という。)が通学する学校の設置者は、ろう児等が手話を獲得し、手話で各教科・領域を学び、かつ手話を学ぶことができるよう、乳幼児期からの手話の教育環境を整備し、教職員の手話に関する技術を向上させるために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 ろう児等が通学する学校の設置者は、この条例の目的及び基本理念に対する理解を深めるため、ろう児等及びその保護者に対する手話に関する学習の機会の提供並びに教育に関する相談及び支援に努めるものとする。
3 ろう児等が通学する学校の設置者は、前二項に掲げる事項を推進するため、手話に通じたろう者を含む教員の確保及び教員の専門性の向上に関する研修等に努めるものとする。
事業者への支援
第十三条 県は、ろう者が利用しやすいサービスの提供及びろう者が働きやすい環境の整備のために事業者が行う取組に対して、必要な支援に努めるものとする。
ろう者等による普及等
第十四条 ろう者及びろう者の団体は、この条例の目的及び基本理念に対する理解を広げるため、自主的に普及啓発活動を行うよう努めるものとする。
手話に関する調査研究
第十五条 県は、ろう者及び手話に関わる者が手話の発展に資するために行う手話に関する調査研究の推進及びその成果の普及に協力するものとする。
財政上の措置
第十六条 県は、手話に関する取組を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
附則
この条例は、平成二十七年四月一日から施行する。
提案理由
群馬県手話言語条例の制定を行おうとするものである。