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災害対応力強化に関する提言 災害対応力強化に関する特別委員会(令和7年3月14日)
令和6年(2024年)1月1日に石川県能登地方においてマグニチュード7月6日(暫定値)の地震が発生し、最大震度7を観測したほか、能登地方の広い範囲で震度6以上の揺れを観測した。最大震度7を観測した地震は観測史上、阪神・淡路大震災(1995年)で初めて記録され、北海道胆振東部地震(2018年)に次いで、能登半島地震で7回目となる。政府の地震調査研究推進本部による震度6弱以上の確率を示した予測地図とは異なる場所、日本のどこにいても激しい揺れが起きうる可能性があることが痛感された。
また、近年、気候変動の影響等により、日本の気象災害が激甚化、頻発化しており、過去に経験したことのない大型の台風や豪雨が毎年のように発生し、全国各地で甚大な被害が発生している。令和元年東日本台風(2019年、台風第19号)の際には、本県でも県内観測史上最大の雨量を記録し、その結果、水害、土砂災害等で、かけがえのない県民の生命や財産が失われた。日本の気象災害は新たな段階に入ったと言っても過言ではなく、今後は、この規模の気象災害を想定しつつ、あらゆる対策を講じていく必要がある。
本県では、都道府県としては初となる「群馬・気象災害非常事態宣言」を令和元年12月に発出した。また、気象災害の脅威にしっかりと対応できる「災害レジリエンスNo.1」を目指し、その実現に向けた、ハード対策とソフト対策が一体となった防災・減災対策を進めている。実際に本県で大規模地震等の災害が発生した際には、防災・減災に係る取組のほかにも、医療や福祉、食料確保などを含めた様々な対応が必要となる。
県当局におかれては、次の事項に留意され、引き続き災害対応力の強化に関する各種施策の推進に取り組まれるよう、強く要望する。
- 災害時の対応強化に関すること(医療・福祉含む)
(1)危機管理への対応には各部局を横断した総合的かつ細かな取組が必要であるため、各部局で課題を認識し、必要な予算の確保を図ること。
(2)総合防災訓練について、今年度から、従来の劇場型でなく、実際の災害を教訓としてテーマを決めた実践的な訓練に移行しており、今後とも、訓練結果検証を行い、各市町村と協議の上、更に実効性のある訓練としていくこと。
(3)水難救助訓練について、大雨による水害、レジャーによる水難事故等災害が多様化しているため、警察・消防・民間等による合同訓練を一層推進するとともに、各地域の状況にあわせた訓練となるよう取組を進めること。
(4)Dmat訓練などを行う際には、関東各都県との大規模災害発生時の広域連携体制の強化や、傷病者の広域搬送など実効性のあるものとすること。(5)要配慮者や避難行動要支援者のため福祉避難所の体制整備について、市町村との連携を図ること。
(6)高齢や障害などにより避難所へ行けない方、在宅避難や車中泊を選択する方などが必要な支援を受けられるよう取組を進めること。
(7)災害発生時の1次避難所のほか、避難生活が長期に及ぶ場合を想定して、在宅避難やホテル避難等の2次避難所の体制整備をすること。
(8)避難所のトイレ対策として、断水時の対策も検討し、簡易トイレや携帯トイレ等の備蓄を行うこと。また、携帯トイレ備蓄など自助努力の啓発を行うこと。
(9)災害時には、飲料水以外にも、トイレ・風呂・洗濯等生活用水が必須となるため、生活用水の確保対策も図ること。
(10)災害時のトイレ対策として、県内及び県外被災時の派遣なども踏まえて、県及び市町村でのトイレトレーラー、トイレコンテナ等の導入を進めるほか、仮設トイレの準備、トイレ用給水車の確保など、市町村や民間事業者等との調整を行うこと。
(11)群馬県避難ビジョンの実効性を高めていくために、Kpi(重要業績指標)にトイレトレーラー等の市町村導入状況や災害のフェーズに応じたトイレ確保などの追加を検討すること。
(12)災害時に公共サービスが機能しない場合にも民間のリソースやノウハウを生かす官民連携が必須であるので、応急生活物資、ライフライン復旧を含め応急対策業務、輸送交通、宿泊施設利用を含め被災者支援・帰宅困難者支援等、必要な協定締結を更に進めること。
(13)群馬県建設業協会との「災害応急対策業務に関する協定」について、各地域及び広域的な災害対応の調整などを、的確に実施すること。
(14)災害時の応急対応を担う地域の建設業者を維持するため、地域に密着した公共事業量の確保に努めること。
(15)災害応急対応業務中の人身事故等に対し、受注者が労災保険加入などによる適正な補償ができるよう努めること。
(16)災害時にいち早く現場対応ができる建設業者について、防災会議や様々な協定締結の段階からの参入を依頼できる仕組みづくりを更に進めること。(17)県境や交通アクセスが悪い場所にある観光地について、避難経路の確保対策や、バス事業者やタクシー事業者との連携による交通手段の確保対策を図ること。
(18)災害時の外国人の防災力向上のため、外国人住民のための防災訓練の実施、外国人支援ボランティア養成講座の実施、海外からの観光客等への避難表示の多言語化などを実施すること。
(19)AIを活用しSNSから災害情報等を把握するなど防災DXの取組をより一層進めること。
(20)災害時の廃棄物は一般廃棄物に該当し市町村での処理責任が生ずるため、県として、自治体向け研修等の取組、各種団体との協定締結など広域処理支援体制の整備、ボランティアとの連携強化、市町村ごとの災害廃棄物仮置き場の状況把握や確保対策、循環型社会構築のため災害廃棄物の分別による復旧資材への再生利用などの支援を行うこと。
(21)災害廃棄物の仮置き場候補地の選定を平時から進めておくこと。
(22)南海トラフ地震などでの即時応援県として応援職員派遣等の体制の整備を推進すること。また、首都直下地震などの場合の被災者受入れ等の体制の整備を検討すること。
(23)総合防災情報システム等の活用による市町村等の防災情報収集・共有体制を更に推進すること。また、通信障害発生に備え導入される移動式衛星通信システム(スターリンク)の効果を検証し市町村等への情報共有を検討すること。
(24)マイ・タイムライン(個人の避難行動計画)をあらかじめ作成しておくことは、災害時の避難に有用であり、群馬県が配信しているWeb上での作成支援ツールが非常に有効であるので、更なる普及促進を図ること。 - 防災・減災に関すること
(1)災害時の通信手段確保として、災害用伝言ダイヤル171やスマートフォンアプリ活用などを進めるほか、通信事業者との通信途絶時に係る対応を協議し、特設公衆電話の設置増加や県民への周知・啓発や訓練の導入等に取り組むこと。
(2)災害発生時のデマ拡散対策を行い、日頃からデマ情報を拡散しないようにする注意喚起を行うこと。またネットリテラシーの向上について教育委員会と連携すること。さらに、SNS上の災害情報からデマ情報を見破る機能のあるシステム等の活用を推進すること。
(3)災害時の外国人への情報発信について、防災ポータルサイトの活用のほか、テレビ等でやさしい日本語での情報発信を行うなど、危険が分かるような対応をすること。
(4)避難所運営や避難誘導など災害対策において女性の視点が重要であるため、女性消防職員・女性消防団員のより一層の確保について取り組むこと。
(5)群馬県消防学校について、消防職員・団員に対する十分な教育訓練の実施を確保するために、老朽化対策、耐震化対策等を進めること。
(6)災害を体験したりできる施設は子どもの防災教育などに意義深いものがあるので、防災体験施設の設置を将来的に検討していくこと。
(7)大規模災害を未然に防ぐため、山地災害危険地区について、予防治山・復旧治山等の事業を早急に進めること。
(8)台風などの大雨に伴う水害による浸水リスク軽減のために、堤防整備や堆積土除去などの河川改修事業等を進捗させること。 - 災害レジリエンスの強化に関すること
(1)首都直下地震によって本県も被害を受ける恐れがあるため、地震発生時に備え、住民が危機感を持てるよう周知を行うこと。
(2)透析患者など、災害時にも治療継続が必要な方に対する支援体制や近県との連携体制の整備に努めること。また、災害時も医療機関が診療継続できるよう医療機器や、水・電気の確保など体制整備に努めること。
(3)災害時に社会経済を動かすためにはBCP(事業継続計画)の策定が重要であるため、企業及び高齢者施設・障害者施設などでのBCP策定支援を図ること。
(4)孤立集落対策について、孤立危険性の予測調査などに基づき、市町村との連携を図り、道路・橋梁の補強や土砂災害対策など孤立集落発生を予防し、また孤立した場合のドローン活用など物資運搬等対策を推進すること。
(5)災害時の広域的な復旧・復興活動の拠点として位置づけられる道の駅について、市町村との協定締結をより進めて、無停電化設備設置、物資備蓄、防災トイレ整備の推進をすること。
(6)木造住宅耐震改修等補助金の更なる充実を検討するなど、住宅の耐震化を推進すること。 - 県土強靱化に関すること
(1)群馬県国土強靱化地域計画に関して、災害時に実際に動ける自主防災組織の体制づくりを行うとともに、それを推進する地域防災アドバイザーの養成講座やスキルアップ研修の充実、自主防災組織とのマッチングなどの取組を推進すること。
(2)群馬県国土強靱化地域計画について、群馬県としての特徴に留意して、どの地域も取り残されないよう計画を推進していくこと。 - 食料確保に関すること
(1)災害時の断水等に備えて、各市町村・各水道事業者と連携をし、応急給水等の体制整備や水道施設の耐震化等を行い、水の確保に努めること。
以上、提言する。
令和7年3月14日
群馬県議会災害対応力強化に関する特別委員会
群馬県知事 山本 一太 様